大予言者シババワ死亡。ヒーロー協会の災害対策委員にすぐさまその悲報が届けられた。老衰による死亡か? …と思ったが飴玉を喉に詰まらせ、呼吸困難による窒息死という何とも情けない最後だったという。
「これも報道規制の賜物ってやつか…」
騒いでるのは協会の一部、市民には一言も知らせていない。日を改めてから報道するとのことだが問題は彼女が残した予言。災害対策委員のシッチはその予言と今後の対策のためにS級ヒーローたちを緊急召集した。もっとも居場所がわからず来ないのもいるが…それでもブラスト、メタルナイトを除いたS級ヒーローたちは応じてくれた。その中にはB級のサイタマの姿も…
「久しぶりだな、それとB級昇格おめでとう」
「お前は……」
「A級32位の青ジャージです先生。以前の深海王の騒ぎに居合わせたヒーローの一人です」
会議室へと続く通路の途中、俺はサイタマに声をかけた。もっともサイタマは覚えておらずジェノスが耳打ちしながら説明してくれたが…
「J市の海人族襲来は覚えているよな? 何故あの時、嘘をついた? 何故敗れたヒーローを庇うような真似をした?」
そのせいでサイタマは彼の戦いを見ていた市民から嫌われている。ヒーローらしかぬヒーローと…
「ヒーローがバカにされてるのが気に入らないから言っただけだよ」
何ともないと言わんばかりに答える。
「俺は別に評価が欲しくて戦ってる訳じゃないからな」
「クビにされても困るわけじゃないし」
「クビにされたらされたでフリーで続けていけばいい」
「それに――」
それに…?
「お前だって怪人から人間を庇ってただろ? ならヒーローがヒーローを庇ってもいいんじゃないのか?」
そう言うと俺の脇を抜けて目的地の場所へと向かう。
「それが言えるのはお前が強いからだよサイタマ。ヒーロー全員が全員とも単独で怪人を倒せるほど強くはねぇんだよ。ごく一部、ごく一部の選ばれた奴にしかできねぇんだよ。お前はその選ばれたうちの一人なんだよ」
俺の呟きが耳に入ったのか背後で立ち止まるサイタマたち。俺はサイタマの方に振り向き遠ざかっていくその背中に言葉をぶつける。
「俺は努力したつもりだ。体を鍛えるためにトレーニングをした。協会の作る薬品、実験にも参加した。でもダメだった。S級は神に選ばれた奴にしかなれない。俺ではS級にはなれねぇんだよ…」
「それじゃどうする? このまま立ち止まって諦めるのか? それとも少しでも前に進むために歩くのか? それは他人の俺が決めることじゃない、お前が決めることだろ。少なくとも俺は立ち止まってる暇があったら少しでも前に進んだぜ」
ジェノスは去り際にチラッとこちらを振り向いたがサイタマは振り返ることなく去っていった。
暫くして建物が轟音とともに揺れた。原因は「天空王」を名乗る怪人とその一味。頭を切り換えて怪人たちの対処に回るべくモニタールームに移動する。
「よりによってヒーロー協会本部。それもS級が集結してる日に襲撃してくるなんて、何を考えてるんだアイツらは?」
画面には天狗のような出で立ちの一団が空中に浮遊しながらこの建物に向かって攻撃を仕掛けている。一際大きな体躯を持っているのが「王」を名乗っているところから以前の深海王並の実力を持っているのだろうか…?
「――だとしたら災害レベル鬼、といったところか…どちらにしろS級にお出まし願っておしまいだな…」
S級にお願いすべく彼らがいる部屋に使いを出そうとしたときに、天空王の配下が一人残らず地面へと落ちていった。続いてA市上空を覆うように巨大な建造物が現れる。
「なんだありゃ? 巨大な飛行機? いや、宇宙船か?」
過去にだが宇宙人がやって来て暴れたことがあったらしい。もっとも現場に駆けつけたときには既に何者かに倒されていたが…
上空に浮かぶ宇宙船の船底部分に光が灯されたと思った瞬間――――先ほどよりもさらに強い揺れに襲われた。次に画面に映ったのは倒壊した建物の残骸と、体を左右に分断されて絶命した天空王の映像。そして頭が五つある異形の者、どうやらコイツが天空王を殺ったらしい。だがそれよりも……
「損傷率99.8%…おい、まさかこの瓦礫の山がA市とでもいうんじゃねぇだろうな? しかも一瞬で? 目的は何なんだ? ふざけやがってクソがっ…B市、D市、Z市、J市とどんだけ災害に遭わせれば気がすむんだよ。どんだけ金がかかるのかわかってんのか連中はよ」
協会に言われるまでもなく四人のS級が地上に降りた五つ頭と戦闘を開始していた。最初に遭遇したA級のイアイアンが片腕を失ったが命に別状はなさそうだ。
「災害レベル鬼をぶちのめす怪人か、さしずめ災害レベル竜といったところか…?」
五つ頭は肉体を何度斬られても破損されても失った部分を再生させてS級たちと死闘を繰り広げている。宇宙船の外にいるコイツがボスとは考えられない。そして五つ頭のボスがコイツより弱いとは考えられない。
「まさか、この宇宙船の主がシババワの予言か?」
復興はほぼ不可能と意味する損傷率99.8%の絶望的な数字。その日、A市が地図上から姿を消した。
地上に降りた五つ頭は四人のS級が相手をし、頭上の宇宙船はタツマキが瓦礫をぶつけている。それ以外のS級たちは何をするわけでもなく待機をし、うち数名が去っていった。
「瓦礫の下から生体反応が検出、僅かながら生存者がいます」
オペレーターの女性が告げる。幸か不幸かあの宇宙船の砲撃から生き延びてる者がいるようだ。
「――周辺の市から生存者の救出の応援要請を出しておいた。暫くしたらA級以下のヒーローが駆けつけてくる。君も手伝いに行ってくれ」
職員の一人、メガネに促されて俺は「ああ」と二つ返事で建物を出ていく。
「S級サイボーグ、ジェノス。他にもいるな。暇ならちょっと手伝ってくれないか?」
タツマキが浮かせた瓦礫を宇宙船にぶつけてる様を驚愕した表情で傍観しているところに声をかける。声に気づいたジェノスがこちらに振り向く。遅れて他のS級も振り向く。
「青ジャージか、何の用だ?」
「瓦礫の下に生存者がいる。手伝ってくれ」
無表情で宇宙船を眺めていたが…
「わかった」
短い返事でジェノスは了承、S級たちが行動を移す。
「お前の師匠――サイタマはどうした?」
「宇宙船に殴り込みに行っている」
「そうか、サイタマが行ったなら問題はないな…だがサイタマでも倒せないなら人類に未来はないな」
瓦礫の下からまた一人生存者を救出する。救出した人間が全員が全員とも生きてるとは限らなかった。中には息を引き取るのも少なからず存在する。
「他のS級――戦闘に参加してない連中は?」
「用事があるといって帰っていった」
「そうか」
「それだけか? 他のヒーローと比べてお前は協会との関わりが深い。俺たちに何か言いたいことがあるんじゃないのか?」
「ない。ヒーローが命懸けだということは俺が一番知っている。俺の実力では大して役に立たないことも知っている。自分ができないことを代わりにやってくれてるんだ。それを声高々に非難するのはお門違いってもんだ。だが…」
応援要請に応じたヒーローが現場に到着。作業が進んでいく。
「本来、災害というのは人の手に余るものだからこそ災害っていうんだ。それを理解してない。忘れている市民が多い。もしくは慣れてしまったのかもな…」
「……………………」
「これで全員かな…?」
「ああ、生体反応がない。残念だが…」
「わかっている。負傷した市民たちは責任持って搬送する。あんたらもあれが落ちる前に避難した方がいい」
A市上空にある宇宙船は内部から煙を出して、船底部分も激しく形を歪ませている。決着は近いことだろう。
「後日でいい。ジェノス、あんたの師匠から宇宙船にあった出来事を聞かしてくれ」
専用の車両に負傷者を乗せて俺たちはA市を出ていった。俺たちが去ったあとに宇宙船が落ちて事件は終わった。
(´・ω・)にゃもし。
ここまで読んでくれて、ありがとー。
とりあえず次で終わらす予定。このあともいろいろ考えてるが…