A級32位「青ジャージ」   作:にゃもし。

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海人族、兵隊たちの襲来

 

 

J市、海に近い沿岸部の道路の中央で建物ほどはあろうか巨大な怪人が道路を塞ぐようにして立っていた。ただし人型怪人にあるべき上半身がそれにはない。倒したのはC級ヒーローのサイタマ。通報を受けて現場に駆けつけたがそこに彼の姿はなく、倒された怪人の下半身だけが取り残されていた。放置をするわけにもいかず俺を含めた数人のヒーローと協会の人間が人が入り込まないように周囲をロープで囲って立ち入り禁止にしてから回収作業に入る。

 

 

「すまない、そこを通してくれ!」

 

 

作業を見物してる人垣を掻き分けて一人のヒーローが愛用の自転車を押しながら現れる。周囲の人間が彼の名を囁く。

 

 

「無免ライダーか、久しぶりだな…」

 

 

 

 

 

 

 

 

「以前君が言っていたハゲ頭のヒーローっていうのは「サイタマ」のことじゃないのか?」

 

 

協会の回収作業用の車両、職員がいなくなったのを見計らって無免ライダーが俺と知り合うきっかけとなった人物の名を言う。

 

 

「S級のメタルナイト、ジェノスとともに隕石破壊に貢献したヒーロー…」

 

 

正しくはサイタマが()()で片付けた、だが…

 

 

「――世間一般からは「インチキ」と呼ばれている」

 

 

Z市で起こったサイタマを快く思わない二人のヒーローによる市民を煽った私刑(リンチ)事件。サイタマは二人のヒーローをあっさり返り討ちにしたが、兄貴分の「すいません。嘘ついてました」に対して「嘘じゃねぇ」と返したことが原因なのだろう。事情を知らないものたちの間で兄貴分の言っていることが “ 嘘じゃない ” という意味に捉えられて現在進行形でサイタマは一部ではあるがインチキ呼ばわりされている。

 

 

「俺からは何とも言えん。名簿にはサイタマの住所も記載されている。あとは自分で会いに行くんだな…」

 

 

サイタマを擁護したいところだが彼の味方をすれば、こちらが風評被害を受けかねない。

 

 

「彼の自宅があるのはZ市のゴーストタウンだ」

 

 

そういやそうだった。Z市のゴーストタウンは怪人の発生率が多いホットスポット。ヒーローとはいえC級が気軽に行けるとこではない。はてさて、どうしたものか…

 

 

「ついてきな…」

 

 

有無を言わさず前へと歩き出す。無免ライダーが俺の後を追う。行き先はJ市のヒーロー支部。

 

 

 

 

 

 

 

 

「J市に現れてアッサリと倒された怪人だが、そいつは安心できないセリフを言い残してくれたそうだ」

 

 

ヒーロー支部の一室。そこには俺を含めて数人のヒーローがいる。

 

 

「――地上を()()海人族に明け渡せ、とな…」

 

 

我々。つまり海人族を名乗る怪人が他にも複数いることを意味する。今回現れたのはその尖兵といったところだろう。件の怪人は一撃で倒されるとは思ってもいなかっただろうが…

 

 

「見た目といい『海人族』の名前といい、奴等は沿岸部から上陸するだろうと協会は考えている。俺たちは見回りしつつ待ち伏せして現れたところを…」

 

「――そこを叩く! …ってわけだな?」

 

 

矛先がタケノコという奇妙な槍を手にして爽やか笑顔で問うのはA級のスティンガー。

 

 

「ああ、個体による災害レベルは「狼」…集団で「虎」になるそうだ。最悪、俺たちの手に余るようならS級の「ぷりぷりプリズナー」に出てもらう。幸い、彼が収容されている刑務所との距離は近いしな…」

 

 

S級ヒーローと同時に囚人でもあるぷりぷりプリズナー。彼は男であるが男が好きという困った性癖の持ち主でもある。好みのヒーローがやられたら助けるために脱獄してでも駆けつけることだろう。協会は念のために他のS級にも声をかけてみると言っているが…

 

 

「…とまぁこんなとこか、あとは何かわかり次第、協会から連絡を入れるそうだ」

 

 

ヒーローたちがぞろぞろと出ていき、俺と無免ライダーの二人が部屋に残る。

 

 

「…待たせたな」

 

「いや、無理を言って頼んでるのはこっちだからな。それで今回のこととサイタマは関係あるのか?」

 

「海人族が襲撃してくれば、サイタマが出てくる可能性が高い。少なくともZ市をぶらつくよりも安全だろう」

 

「君が彼のことについて教えてくれればいいんじゃないのか?」

 

「疑問はもっともだが彼に関しては俺が口で説明するよりも自分の目で直接見た方がいい。その方がお前さんも納得するだろ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

やや納得してない顔だったが無免ライダーも部屋を出ていき、俺だけになる。そこに協会の人間が入ってきた。顔見知りのメガネの職員。俺は皮肉めいた物言いで話しかける。

 

 

「推定災害レベル「虎」に、A級数名にS級。今回は大盤振る舞いだな?」

 

「怪人たちが集団で襲撃してくるらしいからね。大袈裟すぎるのが丁度いいのさ」

 

「報道はしないのか?」

 

「余計な混乱を生むだけだよ。まだ確定してるわけじゃないしね。それに協会の中でも懐疑的の声もある」

 

「怪人たちによる集団襲撃だもんな…」

 

 

多少の例外を除いて少なくとも俺たちの知る怪人は我が強く集団行動に不向きで単独行動が基本。そんな中、現れた怪人の「我々…」という複数いることを示唆する発言。

 

 

「とりあえず君はいつも通りに後方からの支援を頼むよ」

 

「ああ、いつも通りにな…」

 

「でも気をつけた方がいいかもしれないね…」

 

「気になることでもあるのか?」

 

「怪人たちを束ねるボスの存在かな…? 我の強い彼らを大人しく従わせるには力で屈服させるのが手っ取り早い。そんな存在が弱いハズがない」

 

「一理あるけど、さすがにS級ヒーローほどは強くはないだろ。いざというときはサイタマにお願いすればいい。うまくいけばインチキ呼ばわりしてるバカどもを黙らせることができる」

 

「…だといいんだけどね」

 

 

 

 

 

 

 

 

それから数日後に海人族たちが襲来してきた。

 

 

「こちらA級青ジャージ。沿岸部から海人族が上陸。()()()()居合わせたスティンガーと交戦。市民どもが暢気に見物してやがるぜ、ドーゾ…」

 

 

シェルターの一角に設けられてるモニタールーム。そこにはJ市のあらゆる場所に設置されている監視カメラの映像を確認することができる。今もスティンガーが数体の海人族を相手に戦闘している場面を映している。負傷しながらも怪人たちの数を減らしていき、遂には単独で海人族たちを打ち倒した。杞憂だったか、と思ったときにソイツは現れた。王冠と豪奢なマントを羽織った巨大な半魚人。ソイツは出現と同時にスティンガーを一撃で倒し、何事もなかったかのようにその場をあとにする。

 

 

「…本部か? たった今スティンガーが一撃で倒された。ああ、海人族たちのボスだ。ぷりぷりプリズナーを…何? もう脱獄した?」

 

 

ほどなくして緊急避難警報が発令される。災害レベル虎から鬼へと。人々は慌ててシェルターへと駆け込んでくる。

疲労困憊とはいえA級上位のスティンガーを苦もなく打ち倒す怪人。とはいえ、さすがにS級のぷりぷりプリズナーなら大丈夫だろう。協会は念のためにS級のジェノスに応援を要請、今現在J市に向かっているそうだが…災害レベル鬼の怪人一体にS級二人は過剰ではなかろうか? どっちにしろA級以下のヒーローは引き上げさせた方がいいだろう。いても邪魔になりかねん。

 

 

「――こちら青ジャージ。S級のぷりぷりプリズナーが怪人たちのボスの討伐に向かった。A級以下のヒーローは引き上げてくれ…」

 

 

だが連絡の取れないヒーローが数名。やられたのか…? そのうちの一人、イナズマックスからも連絡が途絶えている。あの半魚人がヒーローを倒したら次にどこに向かう? 怪人は人に害を与える存在。人に暴力を振るうことを生業にしている。当然、人がいる場所へと向かう。それはすなわち…

 

 

「人がいるところって、ここ(シェルター)以外にあるのか…?」

 

 

脳裏にあの半魚人がシェルター内で暴れる絵を想像する。シェルター内にはヒーローがいるがどれもA級以下。A級上位のスティンガーですら歯が立たなかったのだ勝てるわけがない。是が非でもS級に頑張ってもらわねば…だが現実は非常で怪人と遭遇したぷりぷりプリズナーは連打をモロに受け、最後にハイキックで斜め上空に打ち上げられ退場。ぷりぷりプリズナーの脱獄に便乗してきたのだろう囚人姿の男も最初は優位に立っていたが戦闘の最中に怪人が身体能力を強化、不利になり最終的には逃亡。怪人を止める者がいなくなった。そしてシェルターの壁が外から破壊されて怪人――深海王が市民の前に現れた。

 

 




 
 (´・ω・)にゃもし。

 ここまで読んでくれて、ありがとう。

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