「応援要請? Z市? 出した奴はバネヒゲ?」
Z市は怪人発生件数が多く、中でもゴーストタウンと呼ばれている所は桁違いに多い。
もっともZ市にはサイタマがいる。彼は「竜」クラスの怪人すらも一撃で葬る実力を持っている。奴に倒せない怪人などいない。あいつに任せれば大概の事件は解決する。放っても問題ないのだが…
「今回は大人数だな…」
ゴーストタウンに向かったヒーローから連絡が途絶え、S級以外のヒーローが召集され討伐兼救出隊を組まされた。その中には俺と見知った顔のヒーローも含まれていて、そのうちの一人にイナズマックスがいる。
「A級二人で相手にならなかったなら、S級を呼んだ方がいいんじゃないのか?」
「Z市には新人だがS級のジェノスがいる。いざとなればそいつに応援要請を出すんだろ。俺たちは討伐というよりも負傷したヒーロー、バネヒゲと黄金ボールの救出目的で組ませたんだろ…」
Z市ゴーストタウン、サイタマのプロフィールではそこに住んでいることになっているのだが……巨大な爪で裂かれたような一軒家、地面に空いた大穴、大きく抉られた建物…サイタマと何者か――怪人と戦ったであろう痕跡が至る所に残されていた。もっともサイタマの存在を知らなければ……
「怪人同士の争いがあったのかもしれないな…」
怪人の身体の一部を手に取ったイナズマックスがそう憶測を立てる。そう思うのも無理もない。
「バネヒゲも黄金ボールは見つけたが、怪人は見つからねぇ…二人の治療のために一度、戻った方がいいかもな?」
二人は負傷した姿で見つかった。特にバネヒゲのは酷く、すぐに緊急車両の手配が必要と判断されゴーストタウンを後にした。怪人のついては放置。Z市にはサイタマがいる。彼に任せれば問題はない。
A級ヒーロー2名、謎の怪人に敗北。ゴーストタウンの怪物、実在か?
白昼、街で暴れる変態忍者男を御用。パニック容疑者(25)
後日、ヒーロー日報と書かれた新聞にはどこから嗅ぎつけてきたのかZ市のことが書かれていた。上のはZ市のゴーストタウンのことだが、下のはサイタマの活動内容。どうやら地道にヒーロー活動をしているようだ。
「Z市に巨大隕石。大きさは200メートル。災害レベルは竜…」
そしてヒーローによる隕石の破壊。直撃こそは免れたものの、砕け散った破片がZ市に降り注ぎ、甚大な被害をもたらせた。協会はこれをS級であるメタルナイトとジェノス…サイタマが協力して破壊したと発表。中でも大々的にサイタマが活躍したことを報道した。
「――――にも関わらずC級5位…」
災害レベル「鬼」以上の「竜」ならばC級どころかB、A級になってもおかしくないのだが、その理由は怪人ではなく自然災害、それにS級ヒーロー2名が協力したからか? Z市壊滅とまではいかないがかなりの数の建物が倒壊していた。多くの人間が今も瓦礫の撤去等で復旧活動をしている。軍や警察、手の空いているヒーローたちも駆り出されている。かくいう俺もその一人。
Z市が半壊したのはC級ヒーローが原因
何も考えないバカはかならず存在する。世間の一部ではあるがサイタマがZ市を半壊した原因にされている。協会の方からの擁護はなく放置。いや、もしかしたら協会の方から意図的に噂を流してる可能性もある。自分たちに火の粉が降りかからないように一人のヒーローを悪人に仕立てることで……S級二人とC級一人、協会にとってどっちを擁護すべきかなぞ言わなくてもわかる。200メートルの隕石が落ちて街一つで済んだのだ。寧ろそのことを指摘して褒め称えるべきだが……
「お前かぁ――!? この街を破壊した張本人は――――!?」
バカはヒーローの中にもいた。タンクトップ姿の筋肉の塊が二人。全員が全員ではないが素性の悪さで知られるS級タンクトップマスターの舎弟たち。親分は人格者なのだが…今回はサイタマの急激なランクアップが気に入らずにわざわざZ市まで来たんだろうが……大声で市民を呼び寄せ、さもZ市を半壊したのをサイタマが原因と煽る。そして――――
「すいません! 嘘ついてましたぁぁぁ――――っ!!!!」
最後に自慢の握力で屈伏させ心をへし折るつもりだったのだろうが、逆に返り討ちに遭い自分から悪事をバラしている。相手が悪すぎたな…あの連中は自分たちの行動でタンクトップマスターの評判が悪くなるとは考えもしないのか? どちらにしろ、これでサイタマにケンカを売るようなバカはいなくなるし、市民たちも理解するだろう。感情では納得しなくとも…
「嘘じゃねぇ!」
サイタマがあのまま黙っていれば問題は解決していた。
あの隕石は俺が砕いた。文句があるなら俺に言え。市民に対してサイタマはそう言い放った。
「なぜだ…? 理解できん。あんなことをして何の意味があるんだ…? 市民に嫌われたらヒーローを続けることなんて出来るのか?」
知りたいのなら本人に聞いてみたらどうだ?
後方からの年老いた声。聞こえたと同時に前へと跳びつつ体を捻らせて振り返る。
そこには逆立った髪型と立派な口髭。鋭い目付きの強面の老人。S級ヒーローのシルバーファングが立っていた。
「――で、おぬしは何者かな? 見た目こそジャージを着た兄ちゃんにしか見えんが…」
「復旧活動を手伝っているヒーローの一人でA級ヒーローの青ジャージだ。あそこに平然と立っていられるほど強くないからな、機会を改めるよ」
今も遠巻きに囲まれながらもサイタマは反論している。タンクトップの二人をいとも簡単に倒したこともあって市民たちも先ほどと比べたら大人しい。
「常に誰かと行動を共にする、後方支援主体の「毒」を使うヒーローだったかな?」
「A級以下のヒーローはあんたらS級みたいに単独で怪人に勝てるほど強くはない。徒党を組んで活動するのも仕方のないことだし、別に珍しくもないが…?」
「死んだ魚のような目をしたヒーローはそうはおらんからな…」
「ほっとけ」
「だが自分の欲のために他人を蹴落とす輩と比べたら幾分マシじゃろうよ…」
「それでも幾分かよ…」
言いたいことを言い終えたのかガニ股、怒り肩でその場から離れていくサイタマ。
「どうやら終わったようじゃが、行かんのか?」
「生憎、あの中を突っ切るほどの鋼の精神を持ち合わせてないからな。それよりも何でS級のあんたがここにいるんだ? いや、それ以前に何で市民の前に出なかったんだ? S級のあんたなら場を収めることもできたんじゃなかったのか? ヘタすりゃサイタマがヒーローやめる可能性もあったんじゃないのか?」
「彼は強い。ワシが出会ったきた中でもな…彼がこの業界で腐っていく姿などを見たくない。故に静観した。やめるのも一つの道じゃ、とな…」
業界。腐っていく。今のヒーロー協会のことを示唆してやがる。S級にもこんなことを思われちゃ組織としてはヤバいだろうが、どうするつもりなんだメガネたちは? だが……
「――あんたの方で変えようとは思わないのか?」
「老い先短い老人よりも、活気ある若者がやるべきじゃろ。それにワシはワシの都合で登録してるに過ぎんよ」
「ガンバれ、若いの…」そう言い残して立ち去っていくシルバーファング。俺はその背中を見届けたあと瓦礫の撤去作業を再開した。S級の実力者がサイタマの強さを認めている。今はそれだけで十分だろう。あとはひたすら黙々と何も考えないようにして瓦礫を退かしていた。
(´・ω・)にゃもし。
ここまで読んでくれて、ありがとうー。