A級32位「青ジャージ」   作:にゃもし。

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ヒーロー認定試験

   

 

久しぶりに協会から連絡がきた。相手はあのメガネの兄ちゃん。

 

 

()()()のヒーロー認定試験受験者だと…?」

 

 

A市でハゲ頭のヒーローと出会って以降、俺は「ハゲ」という単語に敏感になっている。

メガネの言うハゲが俺の知っているハゲとは限らない。確認のためと送ってもらった顔写真には彼が写っていた。

よく似た別人の可能性もあるが…仮に本人だとしても何故? ダメだ、理由が思いつかん。本人かどうか確かめるためにも一度行って見るか…

 

 

「――場所は第6特設会場。わかった、今から向かう…」

 

 

 

 

 

 

 

 

「一応、君の言う特徴と一致してるから連絡したけど…彼が君の言う未登録のヒーローなのかい?」

 

 

階下、ガラス越しに広がるグラウンドには体力テストのための設備が設置されている。

受験者に交じって、ヒーロースーツこそ着ていないもののあのハゲ頭のヒーローがいた。

名はサイタマ。俺はこのとき初めて彼の名を知った。Z市に住んでいることも…Z市と言えば屈指の怪人発生件数の多い場所だ。んな危険な場所によくまぁ住めるもんだなぁ、と思ったが彼の実力を考えれば竜以下の怪人など苦にもならんだろう。

 

 

「凄いな彼は…」

 

 

目の前で体力テストの記録が塗り替えられていく。

反復横跳びから始まり、1500メートル走、重量上げ、垂直跳び…

そのどれもがヒーロー協会の新記録を大幅に更新した。

 

 

「身体能力だけなら間違いなくA級、S級に匹敵するね」

 

 

当然だ。災害レベル「鬼」「竜」を一撃で倒す男だ。弱いハズがない。

超能力、もしくはサイボーグのような力を持っている可能性もあるが…見たところ単純に肉体能力が凶悪なまでに高いってことぐらいしかわからない。

 

 

「――ところで、さっきからいる若いサイボーグは誰なんだ?」

 

 

ハゲ――サイタマの知り合いなのか二人でいるところをよく見かける。

首から下が機械剥き出しの金髪の若い男。

 

 

「彼は「ジェノス」君。「進化の家」を壊滅させた例のサイボーグだよ」

 

「あの宗教団体か…随分前に姿を消したって話なんだが…」

 

「山奥でひっそりと拠点を構えていたよ。ジェノス君を追っていたら…破壊された進化の家の拠点に辿り着いたのさ」

 

「なるほど…」

 

 

協会が探していたという若いサイボーグってのはジェノスのことなんだろう。

サイタマと同じ未登録のヒーロー。未登録者同士で何か繋がりでもあるのか…?

 

 

「筆記、体力テストともにこれで終了。彼ら二人なら問題なく合格するだろう。

 あとはスネック君のセミナーを受けて…明日以降からヒーローとして活動することになる」

 

 

体力テストは問題ない。筆記テストもよほどのバカか非常識でもない限り落ちることはあるまい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ジェノス、100点

 

 

サイボーグだけあって頭の出来も良いらしく体力、筆記ともに満点。

次にサイタマ、体力テストは満点で問題なかったのだが…

 

 

 サイタマ、71点

 

 

「ギリギリじゃねぇか…」

 

 

彼の筆記の点数はすこぶる悪かった。

 

 

「彼は凡人と比べると常識というものが欠如していてね。結果その点数になったんだ。他の職員から不合格にすべきでは? という声もあがってるぐらいだよ…」

 

 

口にこそ出さないがメガネが裏でいろいろ手を回していたんだろう。その声から疲れが滲み出ている。

 

 

「…サイタマは単独で「鬼」「竜」の怪人を倒すほどの実力がある。それで何でC級スタートなんだ?」

 

「忘れたのかい? 彼が倒したというA市の怪人も、B市D市を壊滅した巨大生物もキング君の功績になっているんだよ。サイタマ君にはS級に推薦するための公式の実績がない…」

 

 

S級をS級たらしめるのは――単独で災害レベル「鬼」の怪人を倒せるか、否か…である。

複数いれば話は別だが、現時点で目撃者と呼べるのは俺しかいない。A級一人じゃ、周囲を納得させることができない。

 

 

「現役のS級の中には、C級からスタートしたのもいる。喩え彼がC級からのスタートでも遅かれ早かれ昇格してA級、或いはS級ヒーローになるだろう、何しろ……」

 

 

 彼の肉体には神が宿っているからね…?

 

 

「……………………」 

 

 

それを言われちゃ俺は何も言えない。

だが、B級には「フブキ」…A級には「アマイマスク」がいる。

彼――サイタマの実力を考えれば、そいつらが立ち塞がっても簡単に蹴散らせそうだが……なぜか漠然とした不安が心の片隅に引っ掛かる。

セミナーを終えたのか窓の外、建物から出て二人が並んで歩いているのが見える。

 

 

「あの二人…というよりサイタマ君に会いに行くのかい?」

 

「ああ、今逃すといつ会えるのかわからんからな…それにサイタマの人となりを知るにはちょうどいい機会だ…」

 

 

 

 

 

 

 

 

サイタマとジェノスの二人組を見つけるのはそう難しくはなかった。

片や金髪のイケメンサイボーグ、もう一方はハゲ頭だ。否応なしに目立つ、のだが…

 

 

「C級ヒーローのサイタマ……だよな?」

 

 

確認したくなるほどにサイタマには覇気というか、やる気というものが感じられなかった。本当にこの人物があの時のヒーローと同一なのか? と疑いたくなるほどに…いや、体力テストのときの身体能力は神がかってるほどに優秀だったのは確かだ。見た目と実力が一致しないタイプなんだろう。うん。

俺がそう尋ねるとジェノスがすうっと前に出てきて、警戒心を露にして問いかけてくる。

 

 

「先生に何のようだ?」

 

「先生? お前たち二人は師匠と弟子の関係なのか?」

 

 

ヒーローの中にはアトミック侍やシルバーファングのように弟子を取るのも少なからず存在している。サイタマほどの強者ならばいても不思議ではない。師匠よりも弟子の方のランクが上だが…

 

 

「質問に答えろ」

 

 

ジェノスが怒気を含んだ強い口調で問い詰めてくる。慌ててサイタマが宥めるが、セミナーでスネックから何か言われたのか、C級スタートの件か、両方か…

 

 

「俺の名は「青ジャージ」こんな格好をしているがA級ヒーローをやっている」

 

「……? その青ジャージが先生に何のようだ?」

 

 

怪訝に問いただしてくる。協会に対していい印象はないのか…まぁ、自分の師匠が正当に評価されない組織だ。当然と言えば当然か…

 

 

「俺は以前サイタマに助けてもらったことがある。それの礼を言いに来ただけだ」

 

 

目の前の御仁は公式に認められていないもののS級ヒーロー、それ以上の実力を持っている。ちょっとした言動でぶちギレていきなり暴れる可能性はない、という保障はどこにもない。

 

 

 

 

「そうか、悪いけど覚えてねぇ」

 

 

 

 

予想通りの返答。大多数のヒーローがいちいち助けた人物の顔など覚えていない。ましてや同性など眼中にない。

 

 

「用件はそれだけなのか?」

 

「いや、まだだ。お前たち二人は今まで未登録でヒーロー活動をしてきた。それがなぜ今になって登録しに来たんだ?」

 

 

何かしら深い理由があってのことだろう。ヒーロー協会が設立してから3年以上が経過している。ヒーロー活動をしているものがヒーロー協会を知らないハズがない。

 

 

「先生への弟子入り条件がヒーロー名簿に登録することだったからだ」

 

 

答えたのはジェノス。そんな理由で登録するわけがない。隣にいたサイタマが「え?」みたいな顔をしていることがその場かぎりのウソだということ物語っている。

 

 

「先生、気をつけてください。こいつは俺たちがヒーロー名簿に登録する以前からヒーロー活動をしていることを知っています」

 

「え? 別にいいんじゃねぇの?」

 

 

さらに警戒心を増してこちらを見つめるサイボーグ。基本、メディアに報道されるのはヒーロー名簿に登録されたヒーローのみ。未登録のヒーローは一切報道されない。おそらく未登録によるデメリットを増やすために…

 

 

「そこのサイボーグは知らんが、そっちのサイタマは過去に災害レベル「鬼」「竜」を単独で討伐している優秀なヒーローだ。当然、身辺調査が行われる。知っているのはごく一部だがな…」

 

「当然だ」

 

「いや、何でお前が答えてんの?」

 

 

自分の師匠、サイタマが誉められて気分がいいのか「うんうん」と頷くジェノス。

 

 

「それよりも、まだ話が続くのか? 正直、帰りたいんだけど?」

 

 

ここいらが潮時か…あんまし長引かせて不機嫌にさせるのはよくない。

 

 

「いや、ない。忙しいところを時間を取らせてすまないな…また機会があったら話をしよう」

 

 

 

 

遠ざかる二つの背中を見送る。彼らがなぜ登録しに来たのかわからなかった。見た目と実力がかみ合わないおかしなヒーロー。サイタマはなぜあそこまで強いのか…どうやってあそこまでの強さを手に入れたのか…それを知ることができれば…

 

 

「俺も今よりは強くなれるのかな…?」

 

 

そのためにはサイタマのことを知らなければ…

 

 

 

 

 

 

 

 

自宅へと帰る途中、川の土手にある藪に上半身を突っ込ませたスネックを発見する。携帯が鳴る、通話の相手はメガネ。

 

 

「――スネックがサイタマのところに行った…? 新人潰し? ああ、それなら俺の目の前にいるよ」

 

 

嫌がらせに関してはあの二人に心配する必要はないだろう。問題は……精神的な、間接的な嫌がらせ。例えば市民を敵に回すような回りくどい方法とか…万が一にでもそれで彼が去ってしまったら…

 

 

「サイタマがいなくなる方が協会の損失になる」

 

 

そのことを理解できるやつがヒーロー協会に多数いれば…もしくは他のS級ヒーローが彼の味方につければ…

 

 




 
 (´・ω・)にゃもし。

 ここまで読んでくれて、ありがとう。

「悪いけど覚えてないわ」→「そうか、悪いけど覚えてねぇ」に変えてみた。

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