「デカイな、200メートルはあるんじゃねぇのか、イナズマックス?」
「協会の計測だと約270メートル、体重は不明だそうだ」
「子供の頃に見てた特撮のヒーロー、怪獣よりもデカイな…」
「ああ…」
ビルの屋上から遥か視界の先に特撮で見るような巨大な人型生物が見える。その巨大生物は山から街――D市に向かってゆっくりと行進していた。アレが一歩動くたびに街が甚大な被害を被るのはイヤでも想像がつく。
そいつが現れたのは山奥。山で作業をしている一般人からの通報がことの始まりである。協会は災害レベルを「鬼」に認定。例外を除いてS級なら単独、A級なら数人で討伐可能を意味する。
「いや無理だろアレは…」
イナズマックスが否定する。俺も否定したい。というか逃げたい。
俺たち二人は今、巨大生物の予測進行から離れている隣街から観測している。
「この前みたいに後で災害レベルを引き上げるんだろ――」
仮に始めから災害レベル「竜」と仮定した場合…S級以外のヒーローが動くことはほぼないだろう。
だが仮に「鬼」だったら? S級以外のヒーローが動く可能性は高い。
敵の戦力と情報を得るための尖兵として。合理的ではあるが…
「――ヒーローたちを呼んだのもどっちかというと避難誘導の意味合いが強いしな…」
現にS級以下のヒーローは各地で住民たちの避難を促している。
無論、警察や軍関係も動いているようだが…ヒーローと協会を快く思っていない連中と連携を取れるのか些か心配だが…
「あの巨人を倒すのはS級の役目だろうぜ」
「…となると「キング」とか「タツマキ」か…
そういや青ジャージはキングが怪人と戦っているとこを見てたんじゃないのか?」
「悪いが
「そいつは残念だ。もう少し早く現場に駆けつけることができたら見れたかもな?」
「ああ…」
ハゲ頭が怪人を瞬殺するとこならあるが…あの事件以降ハゲ頭のヒーローは見ていない。
各街の支部にやって来た可能性も考えて問い合わせたが、それらしい者は来ていない。とのこと。
あれだけの力を持った人物が何も行動を起こさないことに不気味さを感じる。
協会に不信感を抱いて関わりたくないのか…
巨人がD市に到着。街がまるでミニチュアみたいに見える。それほどの大きさ、巨大さ。
その巨大生物が腕を大きく振りかぶると、横に薙ぎ払って街を破壊する。
街の建物が発砲スチールでもできているかのようにあっけなく粉々に砕かれる。
その破壊力にイナズマックスは危険性を感じて…
「俺たちも急いで離れた方がよくないか?」
俺も賛同してその場から離れようとしたとき「うおおお!」という叫び声が耳に飛び込む。
声の主は巨大生物。そいつは地面に向かって何度も拳を叩きつけたあと、棒立ちになって立ち尽くしていた。
巨大生物の突然の行動にイナズマックスと俺は困惑する。
「な、なにが起こってんだ?」
「わからん。わからんが今のうちに離れた方がよさそうだぜ…」
建物の中へと通じる扉へと向かう。
気になった俺はもう一度、巨大生物の方に振り返る。
「んなっ!?」
巨人が仰向けで空を飛んでいた。まるで誰かに殴られたかのように…
遠く離れていてよく見えないが宙に浮かぶ白いヒラヒラと黄色の人影が見える。
携帯用の小型の望遠鏡を取り出し、中を覗き込むとハゲ頭のあのヒーローがそこにいた。巨大生物を倒したのは彼のようだ。
「おいっ、B市がやばくねぇか、アレ!?」
イナズマックスが示す先には巨大生物の下敷きになったB市の光景。
暫く観察をしていたが一向に動く気配がない。死んでいるのか、気絶してるだけなのかここからでは確認しようがない。
どうしたものかと悩んでいるときに協会からの連絡が届く。
「巨大生物の死亡確認。B市かD市に向かえとさ、生存者の確認と救出をやれとよ…」
「死亡確認って、いったいどこの誰が…? あのでっかいのはどう処理するつもりなんだ?」
「さぁな、それこそS級がやるんじゃないのか? 方法は知らんが…
とりあえずD市に向かうか、ここから近いし…」
現場に到着した時は酷い状況だった。
前もって避難誘導をしてたこともあって思った以上に被害は少ないが、それでも多数の行方不明者、死傷者を出していた。
因みにB市に落ちた巨大生物はS級のメタルナイトが処理したらしい。
そして…
「またかよ…」
B市とD市を破壊した謎の巨大生物をS級ヒーロー「キング」が倒す!!!!
災害レベル「鬼」の認定に疑問視の声も…
自宅にて、例の如く発行された号外にはそう書かれていた。
さすがに街を二つ壊滅させた怪人の「鬼」認定に対して事細かく書かれている。
それに対して協会は「竜」に引き上げる前に倒された、と弁解。
当然、あのハゲ頭のヒーローのことは一切、書かれていない。
また協会に言ってみるか、とも考えたが…前のような展開になるのはイヤでも想像がつく。今回は静観するか…
協会に対する不信感だけが募る。
協会は以前から他人の手柄――未登録のヒーローの功績を自分たちのものにしてる可能性が高い。
「未登録でのヒーロー活動をする行為は白い目で見られる」
なんてのは協会が作り上げた価値観だろう。
実際、助けられた奴が恩人に対してそんな目で見るものだろうか?
なぜ協会はこんなことをする?
未登録でヒーロー活動をしていた者がこれを見たらどうする?
協会に行って登録しようと思うだろう。これで人材確保ができる。
ヒーロー協会にヒーローが集まれば、他で似たような組織は作りにくい。
ヒーロー協会以外の組織を作らせないためではないのか?
「……俺の考えすぎか?」
だが、もしも、もしもだが…ヒーロー協会以外に組織ができたら、どうなるんだ?
万が一にでもこの事がバレたら?
自警団みたいなものは大小あれど、幾つかはある。
協会の幹部どもが協会の金で遊んでるのも何回か見たことはある。
私利私欲でヒーローに依頼をするのも…何回か受けたことがある。
それを市民に目撃されたことも多々ある。
可能性はゼロじゃない…
「ヒーロー協会が潰れる可能性があるな…」
そうならないためにメガネたちが動いているんだろうが…
もしも、そうなった場合…俺はどうする?
巨大生物が現れて幾日後。
『F市にて「桃源団」を名乗る集団が暴れています!』
画面にしょうもない理由でF市で暴れる若者の集団が映されていた。
F市にはA級のスネックを始めヒーローが少なからずいる。怪人なら兎も角、相手が人間ならわざわざ応援に行く必要もないだろう。協会も応援は不要と判断したのか連絡も来ない。
俺も普段なら気に止めることはなかっただろう……相手が
思わず画面にかじりついて確認する。
あのハゲ頭のヒーローはいないかった。とうとう堪忍袋の緒が切れて暴れた、と一瞬思ったが…
ホッと胸を撫で下ろして安心する。あんなのが敵に回ったら巨大生物以上の被害を受ける。確実に。
そして考える。彼がこれを見たらどう思う…?
「風評被害…」
それを防ぐためには……自分の手で解決する…?
「F市に来る可能性がある?」
ここからF市は遠い。彼の実力を考えれば、今から行っても間に合わない。
着いたときには既に解決してて彼が立ち去ったあとでは意味がない。
仮に彼が解決したら、どうなる?
「彼の手柄が別のヒーローの手柄になるな…」
そのヒーローに会いに行けばいい。
「お前さんがC級の「無免ライダー」でいいのかな?」
F市の騒ぎはC級1位の無免ライダーが解決したことになっている。
地味な色のプロテクターを身につけた自転車乗りの青年。
桃源団とやりあったときに負傷したのだろう、片腕をギブスで固めている。
俺は今、彼の自宅に訪問している。
「君は…?」
「俺はA級の「青ジャージ」…知名度は低いがな…」
「――――なるほど、知らない間に事件が片付けられてて自分がやったことになってる、と…」
「ああ、正直なにがなんだか…」
ハゲ頭のことが聞けるかと思ったが…正直、期待外れだった。
いや、少なくとも無免ライダー以外のヒーローが解決したことがわかっただけでも収穫か…?
「君は今回について何か知っているのか?」
「ああ少しな…というよりもお前さんも気づいてるんじゃないのか?」
他人の手柄が自分のものになってることをな?
一人だけ心当たりがある。
そのヒーローは未登録。黄色のスーツに白いマント。何よりもハゲてるのが特徴だ。
ま、興味があったら調べてみるといいぜ?
俺はそれだけを言うと彼の自宅をあとにした。
(´・ω・)にゃもし。
ここまで読んでくれて、ありがとうです。