前代未聞、街のど真ん中に災害レベル「竜」の怪人が出現!! A市を壊滅に追い込む!!
その災害レベル「竜」の怪人をS級ヒーロー「キング」がたった一人で倒す!!!!
「……………………は?」
手に取った号外の見出しにはでかでかとそう書かれていた。
ご丁寧に俺たちA級ヒーロー三人が束になっても敵わなかったことも書かれていやがった。
匿名で書かれたのはこれを書いた連中の優しさだろうか…?
事実だけに否定はできないが気持ちのいいもんでもない。
だが、それよりもあのハゲ頭のヒーローのことが一切書かれていないのが気になる。
それに彼の功績がS級ヒーローの「キング」になっていることもだ。
「どうなってやがるんだ?」
残念ながら俺の疑問に答えてくれる者はその場にはいなかった。
あのヒーローが怪人を倒したあと俺は気を失い…気がつけば病室のベッドの上にいた。
両隣には怪人との戦闘ではぐれたスマイルマン、イナズマックス。
イナズマックスから先程の号外を手渡されて――今に至る、というわけだ。
二人は俺の目の前でキングを褒め称えるが…正直、俺は頭が混乱している。
キングの容姿は髪を無造作に伸ばしていて、長身。何よりも左目にある三本の爪痕が特徴だ。
それに対して俺が見たのは黄色のヒーロースーツに白いマント。中肉中背のハゲ頭。
どこをどう見たって見間違えるハズがない。
俺はてっきり彼がS級1位の「ブラスト」かと思っていたのだが……
協会の人間にA市のことで事情聴取されるだろうし、その時に聞いてみるか…?
場所は変わってA市にあるヒーロー協会本部。
周囲は怪人の攻撃で見るも無惨な姿になっているのにこの建物だけは無傷だった。
俺を含めた三人は協会から召集をかけられ、本部の一室で事件のあらましを話している。
さすがに災害レベル「竜」の怪人の出現に協会も調査する必要性を感じたのだろう。
「――――怪人の攻撃で吹っ飛ばされて、気がついた時にはベッドの上だった…」
イナズマックスが一通り説明をする。
もっとも彼ら二人は出会い頭に光球の爆発を喰らって再起不能に陥ったわけだから話せることなど殆どないだろう。
最後に俺の番がきた……隣にいる同僚たちをチラッと見る。
コイツらがいるところで話してもいいのものか…? 部屋にいる職員の視線が突き刺さる。
「言うのは構わねぇが、人払いをしてほしい」
当然、理由を問われたが俺が一切喋らず口を堅く閉ざしていると……やがて根負けした代表者らしき人物が指示を出して部屋から人を追い出す。
部屋に残ったのは俺と三人の職員、ヒゲとメガネとおっさん。
「君の願い通りに人払いを済ました。
これで君が見たものを此方に話してくれるんだね?」
有無を言わせない、現場で戦っているわけでもないのにそいつらは妙な迫力を持っていた。
俺は「ああ」と短く頷いてから…見たものを聞いたものを手振り羽振りを交えて伝える。
「――キングではない何者かが、災害レベル「竜」の怪人を一撃で倒す、か…
にわかに信じ難いが……」
「俺はそのヒーローが協会から派遣されたS級の「ブラスト」だと思ってるんだが、違うのか?」
喩えそうだとしても何でそのヒーローの功績がキングのものになっているんだ?
そう続けて言いそうになるのを堪える。
連中の誤報は理由あってのこと。下手につついて目をつけられるわけにいかない。今の生活を捨てる可能性のあるものは極力避ける。
俺は職業がヒーローであって、ヒーローじゃない。
ヒーローという名の職業をやっている一般人にしか過ぎない。
うわべだけの情けないヒーロー。
「――――違うのなら、あのヒーローはスカウトするべきだ」
返答はすぐには返ってこず、暫く経ってから「考えておく」そう告げて事情聴取は終わった。
もっとも彼のスカウトは難しいだろう。
自分の功績が別のヒーローの功績になっているのだ。
やられてる方は良い顔をしてるハズがない。
大々的に報道してるみたいだし、彼の耳に届かないハズがない。確実に知っているハズだ。
彼が余程おおらかな、もしくは大雑把な性格をしてることを祈るしかない。
「――中で職員と何を話していたんだ?」
建物の外を出た途端、気になっていたであろうイナズマックスが聞いてきた。
スマイルマンも興味津々なのか顔を近づけてくる。
「悪い、機密事項だから「話すな」って言われてんだよ」
協会からそう言われたら仕方ないな…とそれ以上突っ込んでくることもなく彼らとはそこで別れた。
雄弁は銀、沈黙は金…とは言うがあのヒーローのことは伏せておくべきか…?
「やぁ、少し時間いいかい?」
扉を背にして、いざ帰路に着こうかというときにそう声をかけるのがいた。
スーツ姿の穏やかそうなメガネの青年、本部にいた職員の一人。
「君が見たというハゲ頭のヒーローについてもう少し詳しく聞きたいんだけど、いいかな?」
断る理由がない。
さて、どうしたものか…
「ああ、ここでいいよ。どうせ僕たち以外に人はいないしね」
協会の建物以外はほぼ倒壊している。
危険ということもあってA市を取り囲むようにして人の出入りを制限、一部の人間――協会の人間とヒーローのみが許されている。
「君が本当に言いたかったのはそのヒーローのスカウトではなく、別のことなんじゃないかな?
そう、例えば「何でキングの手柄になっているのか?」とかね?」
そのメガネはニコニコしながら、そうほざきやがった。
「一応、理由があるから言わせてもらうよ。
まあ君が納得するかどうか別だけど……」
自宅ベッドの上で仰向けになりながら頭の中でメガネの言葉を反芻する。
キングは当初、否定していた。
だが協会の人間が「街の人間を安心させるため」と彼を説得。表面上では彼の功績になった。
それでそのヒーローが抗議のために協会に来るならば謝罪して、そのあと勧誘すればいい。
来ないなら放っておけばいい。
キングはS級7位、地上最強の男と言われているヒーロー。
それに抗議する奴がいるのだろうか…
見ず知らずの未登録のヒーローと有名なS級ヒーロー。
世間はどっちの言葉を信じる? んなもん聞かなくてもわかるだろうに…
無論、協会にいる人間全員が賛成したわけじゃない。中には反対したのもいる。本部にいたあのおっさんもその一人らしい。
最終的には数で押しきられ…
「今の協会に疑問を抱き、改善しようとしてる人も少なからずもいる。
それだけは知ってほしい」
「ああ、そうそうA級は協会の主戦力だから君をどうこうしようとなんて考えてないから…
でもできれば他言無用にしてくれると助かるかな?」
「君だって理解しているだろ?」
この世界には『ヒーロー』とそれを纏める組織である『ヒーロー協会』の存在が必要だということを――
――とメガネは言うが、はてさてどこまで信用していいものか…
「納得できるけど、納得できねぇ…」
A市で起きた事件とその時に見たハゲ頭のヒーローを思い出す。
A級が束になっても敵わない本物の化け物。
それを難の苦もなく討ち倒す本物のヒーロー。
それが無理でも過去に助けてもらったジャージ男みたいな無様でもカッコ悪くても、カッコいいヒーローになれると思った。
でも無理だった。
俺はあんなヒーローになれない。
俺はあんなヒーローになりたかった。
俺はヒーローになれなかった。
俺はヒーローなんかじゃなかった。
「俺は何のために『ヒーロー』になったんだっけ…」
ときどき口にして出さなきゃ忘れてしまいそうになる。
いや、心が折れそうになるよ、まったく。
俺はこれからのことを考えながら…寝入った。
(´・ω・)にゃもし。
ここまで読んでくれて、ありがとうなのです。