A級32位「青ジャージ」   作:にゃもし。

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A市で起きた惨事と盛大な勘違い

 

 

道路のど真ん中、絶命したワニがいる。

ただし、大型のトラックほどもあり、もはや怪獣とでも呼べそうな大きさだ。 

目撃者の話によれば道路の下からアスファルトをぶち破って出てきたらしいが…下水道にでも潜んでいたんだろう。

一緒に戦った二人のヒーローがワニを見張っている中、その怪生物が動かないことを確認してから協会に報告の連絡を入れる。

 

 

「イナズマックス、スマイルマンと共にA市で発生した怪生物を倒しました。

 ああ、こちらA級ヒーローの「青ジャージ」です。ドーゾ」

 

 

 

 

 

 

 

 

俺の名は「青ジャージ」常に青いジャージを着用していることからつけられた。

過去にジャージを着たヒーローに助けられたことがあり、その人の影響を受けてヒーロー活動をしている。

俺がジャージを着ているのもその人を真似た物だ。

ヒーロー活動の傍ら、その恩人を探しているのだが経過は芳しくない。

協会の名簿には彼の姿はなく、まだ未登録でヒーロー活動をしているのか…? と地道に情報を集めているのだが俺以外でジャージを着たヒーローの話は聞かない。

今もどこかで人知れずにヒーロー活動をしているのか、それとも何かしらの原因でやめているのか、生きているのか死んでいるのか、それすらもわかっていない。

彼は苦戦しながらも災害レベル「虎」の怪人を単独で倒した。

今も素手で怪人を打ち倒した彼の姿が脳裏に焼き付く。

そんなヒーローがそう簡単にやられるとは思えないのだが…………

 

 

暫くして数台の協会の車と人間が到着。分担して死骸の回収に入る。

正直あれをどうするつもりなのか気になるのだが、S級でもないA級、それも底辺に近い俺に親切丁寧に連中が答えるわけがない。

俺は邪魔にならない離れた所から連中の作業する姿をボケーっと眺めていた。

回収し終えるとこちらに向かって一礼して、そのまま立ち去る。

 

 

「なんというか「事務的」というか「マニュアル化」されているというか無駄に「現実感」…」

 

「またいつものコレジャナイ感ってやつか…?」

 

 

俺がボソッと溢した言葉にイナズマックスが聞き返す。

毎回というわけではないが、ことあるごとに俺はこの手の愚痴を溢す。

頭ではわかっているのだが俺を助けてくれたヒーローが見返りも何も求めずに助けてくれたことを考えると…給料と報酬があることに違和感を感じ得ない。

無論、こういうのがあるお陰でヒーローが安心して活動できるのも事実だし納得できるのだが…協会の広告にある「名簿に登録せずにヒーロー活動をする行為は変人です」という言葉が恩人や未登録で活動をやっているヒーローをバカにしているみたいで気に入らない。

まぁ、理由あってのことなのだろうだが……

 

 

頭上にあるスピーカーから警報が鳴り響く。

 

 

「最近、多いな」

 

 

スピーカーを眺めながらイナズマックスが疲れたような声で言い放つ。

警報が鳴るということは――同市にいるヒーローが駆り出されることを意味する。

暫くすれば俺達の元に協会から事件解決の依頼がくるだろう。

だがそれよりも早く……

 

 

 

 

 

 

 

 

 突然の爆発音。

 

 

 

 

反射的に音の聞こえた方角に目を向けるとドーム状の閃光が目について――直後、鼓膜を突き破らんばかりの轟音が耳をつんざく。

少し遅れて爆発で押された空気の壁が台風のような強い風となって体を揺さぶる。

直感と今までの経験から科学による爆発ではないことを本能的に理解する。

 

 

「ガス爆発かな…?」

 

 

爆発と爆風が収まったのを確認してからイナズマックスが冷や汗を足らしながら此方に問いてくる。

その顔からはそうあって欲しいという願望が見てとれる。

俺もそうあって欲しいのだが――――

 

 

 

 

『 緊急避難警報! 災害レベルは「鬼」!

  A市が何者かの手によって破壊されています! 』

 

 

 

 

無情にも頭上のスピーカーからけたたましく警報が鳴り響き、切羽詰まったオペレーターの声が流れてきた。

更に携帯からヒーロー協会からの連絡が入ってくる。

内容はA市で起こっている事件の調査と解決。

 

 

「――今起こっている爆発の調査と解決だとよ。

 んで怪人だったら仕留めろ、無理な場合は可能な限り情報を収集して離脱しろ…だとさ」

 

「俺たちさっき怪人を倒したばっかだぞ…? 他に動ける奴がいなかったのかよ?」

 

 

イナズマックスが不平不満を隠さずに述べる。

 

 

「オペレーターの後ろが騒がしかったから、連中でも想定外だったんだろ…?

 あと一番近いのが俺たちで、人手不足ってのもあるんだろ。文句なら本部に言ってくれ」

 

 

ここA市にはヒーロー協会の本部が置かれている。

ヒーロー協会の人間にとっては重要な場所であり、他の市と比べれば守りは固い。

もっともそれは協会の建物のみだが…

A市で大規模な怪人の襲撃は想定してなかったのだろう。

本部の人間たちは慌てていた。

 

 

今もどこかで怪人が起こしたと思われる爆発と閃光が散発的に発生している。

右手親指で後ろ――爆発音が発生した方角を指しながら…

 

 

「ところでお前らよう、これって単独だと思うか? それとも複数だと思うか…?」

 

「怪人が徒党を組んで行動するとは思えないし…もし複数だったら事前に察知できた筈」

 

 

イナズマックスが顎に手を当てながら答え、スマイルマンも賛同して首を縦に振る。

 

 

「建物一つを破壊するような力を持った怪人か…?

 そうだとしても被害の範囲が広すぎるぜ。単独でできる芸当とは思えねぇ。

 複数犯の可能性も視野に入れた方がいいと思うぜ。

 どちらにしろ、この()()()()で「鬼」…いくらなんでも「竜」はねぇだろ。

 いざとなりゃS級が来るまでの足止めに徹すればいい」

 

 

この時は俺も含めてその場にいた全員が楽観的に物事を考えていた。

他の奴も渋々ながらも本部からの依頼を承諾するようだ。

 

 

「連戦は面倒だがヒーローが行かないわけにもいかないしな…」

 

 

イナズマックスが頷き、爆発のある方角に行こうと向かおうとした瞬間。

視界にあるビル数棟が爆風に晒されて粉々に砕かれ、破片が吹き飛ぶ。

瓦礫の山と化したビルの頂きに立つ()()()が視界に入った。

 

 

頭に触角みたいな物を生やした人間よりも背の高い濃い紫色の肌の怪人。

それがこちらを親の仇でも見るかのように睨んでいた。

 

 

そいつは無言で周辺に十数個のボールほどの光球を発生させると、片腕を前に伸ばして手の平をこちらに向けてきた。

光球が腕の示す方向、つまり――俺たちに向かって飛んでくる。

先ほどからの爆発はこれのせいだろう。

躱わして避けられる速度ではあるが、ビルを崩壊するほどの威力がありそうなものを受けるわけにはいかず、俺は左に二人は右に左右に分かれて跳んで避ける。

 

 

しかしその光球は俺たちの予想に反した動きで急に下へ落下してアスファルトの道路と接触する。

刹那、カメラのフラッシュを焚いたような眩しい光が視界を埋め尽くす。

 

 

「――げっ、やば…」

 

 

白い光の中、声を含めた全ての音が聞こえなくなって…直後に強い衝撃が体を襲い――――

 

 

 

 

 

 

 

 

大の字になって体を半ば瓦礫に埋もれる形で目覚める。

灰色の空が視界に入る。曇っている。

体が痛い。怪人にやられたことを思い出す。

不覚にも気を失ったようだ。

どれくらい寝ていたのか…取り敢えず上半身を起こして周囲の状況を確認する。

 

 

砕かれたビルらしきコンクリートの破片。建物の残骸。

ひっくり返ったフロントガラスのない車。

ひび割れて隆起したアスファルトの道路…

そこはまるで地震と津波が一辺にきた後のような惨害だった。

 

 

――ここはどこだ…?

  爆発で遠くまで吹き飛ばされた…?

  スマイルマンとイナズマックスは…?

  あの怪人は…?

 

 

懐の携帯が鳴る。相手は協会本部。

 

 

『青ジャージか!? 一体何が起きた!?』

 

 

手にした途端、怒鳴り声のような大声が流れてくる。

 

 

「……一体の怪人にやられた。

 スマイルマンとイナズマックスと連絡が取れねぇ…

 A市は今どうなっているんだ?」

 

 

怪人にやられた痛みが思考を鈍らせるが現状を本部から聞き出す。

 

 

『――A市は壊滅した』

 

「……壊滅?」

 

 

周りを見渡す。どこまでも広がる瓦礫の山。

まさか()()がA市…?

 

 

『災害レベルは「竜」に変更された』

 

 

 おせぇよ…

 

 

直接には口にせず愚痴る。

そして納得する。

あれはA級じゃ無理だと、敵う相手じゃないと…足止めすらにもならなかったと…

 

 

『今、S級ヒーローに出動をお願いしているとこだ。

 君は安全なところに避難するんだ』

 

 

そう一方的に言うとそのまま切られた。

 

 

「スマイルマンとイナズマックスを探さねぇと…」

 

 

片足を引き摺るようにして移動する。

どこに向かえばいいのかわからねぇがあの怪人に見つかられる前に離れた方がいいだろう。

そのついでにアイツらも拾っていこう。

 

 

 

 

 

 

 

 

  うえーん、パパー、ママー……

 

 

女、幼い、泣き声が聞こえてきた。

街がこんな有り様でも生存者がいたようだ。

もはや職業病なのか足が自然にそちらへと向かう。

だがそこには女の子だけでなく、あの怪人もいやがった。

 

 

走って間に合う距離じゃない。

小銃を取り出し震える手で怪人に狙いを定める。

怪人が巨大化した手で少女を握り潰す瞬間、横から少女を抱え込んで怪人から離れる奴がいた。

 

 

ヒーローだ。

 

 

ハゲ頭にマントを羽織ったお世辞にも強そうには見えない。

S級、A級にはいない顔だ。B級、C級か…?

 

 

そのヒーローと怪人は短い会話のやり取りをしたあと、怪人が巨大化。

ヒーローに向かってカギ爪のついた両手を伸ばす。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぐっはぁぁぁぁぁっ!!!!!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

攻撃を仕掛けた筈の怪人の体が弾けて、肉片が辺りに散らばる。

 

 

「……………………は?」

 

 

怪人を倒したにも関わらずそのヒーロー悔しそうに叫んでいた。

なるほど、街のこの有り様に対して憤りを感じているのだろう。

あれだけの力を持っているんだ。怪人が本格的に暴れる前に駆けつけることができたなら…被害も減らすことができただろう。

俺が声をかけようと近づくとその男は急ぎの用でもあるのか猛スピードで何処へと去っていった。

 

 

そういや本部がS級に討伐の依頼をすると言っていたな…

S級はいわばヒーロー協会の顔といっても過言ではない。

名簿には一部を除いて彼らの顔写真も掲載されている。

災害レベル「竜」の怪人を一撃で粉砕する顔の知られていないヒーロー。

 

 

 

 

「まさか、あれがS級1位の「ブラスト」…?」

 

 

 

 




 
 (´・ω・)にゃもし。

 久々の連載は「ワンパンマン」
 久々の主人公視点だよ。
 夢で見たものを修正して練って物語にしたよ。
 連載といっとるが深海王の辺りで終わらせる所存。
 
 そして青ジャージは1話でもう目的を達しました。

 ここまで読んでくれて、ありがとうなのです。
 俺、これが終わったら途中で挫折したアノ話の設定を練り直してもう一度書こうと思うんだ…

 文頭の空白を無くしてみた。

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