紅美鈴が起きてベッドの上からこっちを見て目を丸くしている。本体と顔を見合わせる。すーっと分身をといて本体のもとに戻っていく。
「ええっと、妹様は二人いらっしゃるので?」
まあ、当然の疑問か。
(あれよ、部屋にひきこもるの長すぎて一人二役おままごとのプロフェッショナルになってしまったとか)
(何よ、その寂しい奴!あーでもまあまあ説得力があるか?)
「いや、おままごとよ」
「へ?いや、ままごとってえっ?」
そういって私達のことを上から下までみること二回。
「・・・・・・・・なくもないですか・・・・?」
(きっついわー、百回死んだほうがましかも・・・)
死なないからねー
(毅然とおままごとして何が悪いと開き直れば口を閉じれるよ?)
(うう・・・)
フランドールがおままごとするって周囲に認識されるのは大変遺憾であるし、恥ずかしくもあるけど本体がこんだけ恥ずかしがるともういいかなって感じするのはありがたい。まさに協力プレイ
(あのねぇ・・・)
(師匠が怪訝な目で熱く見つめてきてるよ?)
怪訝な目と熱い目って両立するかって?そんなことより何か言ったほうがいいぞ、相棒。わかってるから疑問は口に出さないみたいだけど。
「暇だったからね、いろいろ身に着くものもあるんだ・・・」
「それが分身による一人二役おままごとですか・・・・?」
「(お前は遠慮ってもんがないのか!?)」
本体も完全に同感らしい。
「ああっ、ええっと、あの、・・・・・・・・・」
(まあ、仕える相手にして拳法の弟子が一人二役おままごとしてたらかなり気まずいよねー)
(あんたどっちの味方なわけ!?)
どうどうどう
(そんなんじゃ、父殺しの吸血鬼の王なんて程遠いんじゃない?)
(言ってくれるわね・・・)
(自分にすら思ったことを全て言えないようじゃダメだから正直に生きてる)
「ああっ、失礼しました!」
そういって美鈴はベッドを飛び出した。
「あら、気絶してたからベッドに運んだんだけど気が付いてなかった?」
うまい話題替えである。
「いえっ、全然気が付いてませんでした!」
(二点。緊張してんのか完全に敬語戻り。ベッドにいたことすら気が付いてないという言が真なら狸寝入りして観察されてた線はない。)
少しはまじめに考えてあげる。
「そんな緊張しないでくださいよ、師匠?」(ありがと)
「そうですね、そう言えばそうでした。手合わせのあの連携は見事なものでした」
「これもそれも師匠の教えのおかげです」
「はい、フランドールも熱心に練度を高めてくれました」
「そうですね、突きの修練はかかしてませんし、いなすのも少しはましになってきたような気がしています」
今日で美鈴に弟子入りして5日ほどか。突きは毎日やっているしいなしの訓練という名の軽い実戦みたいなのは昨日一昨日とやった。そして試しに本格的な実戦形式で、とやってみたときに飛び蹴りを叩き込んだのだ。
「しかしあれほどの動きは私が教えたことはほんの少しの手伝いになっていれば良いほうで、フランドールの天賦の才によってなされたのでしょう」
「このひきこもりにとってはそのほんの少しの教えがどれだけの助けになったか」
「ひきこもり・・・・・・」
一人二役おままごとからのひきこもりと地雷を踏み抜いて相手に精神攻撃を仕掛けていく本体。
(やることがえげつない。怒るようなことあった?)
(間違えたに決まっているでしょう!)
それはそれは
「あー、気にしないでいいわ、めーりん」
(それはどう考えても考えるでしょうよ)
(じゃあ、どうしろってのよ!)
さあ?分かったら教えてる。
(それは信頼してるわ・・・)
感情が分かるがゆえの絶望。何事も善し悪しだな。
「・・・・・・・・・・はい」
ダメだこりゃ。完全に会話が死んでる。
「!!!!!!!!!!構えなさい!紅美鈴!」
師匠は、はっとしたように顔色を変え、臨戦体勢に入る。
(強引だけどいい手じゃない?)
「本気で来なさい、紅美鈴!」
地を蹴って美鈴に突っ込んだ。来なさいといって突っ込んでいく本体。踏み込んで右手で顔目がけて突く。軽くそらされる。それを想定し、軽く打っていたからこその二の矢。左の拳を腹に突きたてにいく。こちらの右の拳を美鈴が左手の甲で外にながしつつ体を開いているからこその一手。
左の拳に右手が添えられる。すっと力が加えられる。美鈴が体ごとこちらに背を向けるように回る。力が加えられたことによるずれ、回ることによって半身になることによるずれ、この二つのずれでこちらの左の拳は空を切る。体が流れる。そのまま美鈴の体は回転をつづけこちらの左手が前に伸びきり上体も前にながれている中、フランドールの左の脇腹あたりに美鈴の背中がつく。
首の後ろあたりがすーっと冷たくなる。本体が反射的に飛行能力で美鈴から距離をとりつつ宝石だらけの羽で美鈴を押す。すぐに悪寒の正体は分かる。
美鈴の右膝と右ひじが一瞬にして接着し、その間にあったフランドールの左肩は粉砕された。かわしてなかったら首が飛んでいただろう。
壊れて修復しようとする左肩の修復をとめて接合部を極力弱める。左腕が美鈴にグッと引かれ、千切れて飛んでいく。千切れた腕をもって硬直する美鈴の首元に手刀を叩き込むべく全力で空中で回転する。その手刀で首元にかすり傷を負いながら全力のバックステップで撤退していく。
「ちょっと待ってください、だいじょっっ、うわっ!」
なんかこちらの心配をするようなたわごとを言い出した気がするが気にしない。飛び蹴りしながら突っ込む。
「うるさい!」
腕とれたくらいでがたがた言うなってな
「すいません、子供はままごとするものです!まずは手当てをっ!」
よっぽどままごとが衝撃的だったのか、紅美鈴の本気モードは一瞬で解けてボケたことをぬかしてくる。右手だけで殴りかかっていなされて蹴っても距離をとられる
「まずは落ち着いてくださいって!」
(これは癇癪をおこした子供って見られてる?)
(やっぱりままごとしてたなんて言い訳するのが間違いじゃない!)
(一人二役でままごとやって見られたら癇癪おこす子供って思われたほうが多重人格の実力ためる狡猾な吸血鬼と思われるよりよっぽどいいと思うけど)
(えっ?ああそうか?)
隙あり。さっきから動揺しまくっている本体からフランドールの体の制御を奪う。動揺が激しくなっているが気にしない。その辺で寝っ転がっていたレーヴァティンを呼び寄せる。するすると空中を泳いできた杖をつかむ。魔の法則に従って世界に干渉するのが魔法で魔の法則にとらわれずに世界に干渉するのが妖術というのなら、妖怪なりの使い方がある。魔の法則を前提に妖力を行使する。
レーヴァティンから破壊の炎を呼び出す。破壊が本質の炎だがその全てを使うわけではない。世界を焼いた火から名をとったのだ、空間を焼くくらい簡単だろう。妖力を注ぐ。杖の先に生まれた炎は巨大な炎の剣になる。後は名を呼び使命を告げる。
「叩き出せ!レーヴァティン!」
空気が焦げるにおいがするとともに、炎の剣にぶつかった紅美鈴が部屋の扉を破って外にすっとんでく。これじゃ、剣というより棒だな。炎の棒をしまい、レーヴァティンはその辺に放す。自分の周りを泳いでいるが放っておく。左手を再生しながら扉に向かって歩く。扉は開けたら閉めなくちゃ。
(さすがにレーヴァティン出すのはまずいんじゃない?殺しちゃうかもという意味と情報秘匿の意味でも)
(大丈夫だって。あのくらいで壊れるようなたまじゃない。秘匿の意味でもレーヴァティンで叩き伏せられた奴が分身のこと覚えていると思う?寝起きにみた分身と今死にかけたレーヴァティンの炎、どっちが印象に残る?)
(それはそうかもしれないけど、どっちも覚えてるんじゃない?)
(ままごとショックでなんとか)
(うーん・・・・)
まだ言い足りない様子。さすがに暴れたいだけで体の制御奪ってレーヴァティンお披露目しちゃったってのバレてるから怒ってる。他の奴なら騙せるくらいにはいい言い訳なんだけどなぁ・・・
(わかってるならやめなさいよ・・・)
(やめないのわかってるなら言うのやめたら?)
(言わずにはいられないのよ・・・)
(やらずにはいられないのよ・・・)
(そういうとこよ!)
(そういうことよ!)
「くくく、ふふふ、アッハッハッハ」
楽しい。笑わずにはいられない。やっぱり相棒は最高だ。
そうして歩いていくと紅美鈴と目が合う。恐ろしいものをみるような顔でこちらを見ている。何がそんなに怖いのか。何が紅美鈴の目に映っているのか考えてみる。スペードのようなものがくっついた黒い棒がどこからともなく泳いできたと思ったらいきなり爆大な炎を呼び出され吹き飛ばされる。炎を収めながら腕をぐちゃぐちゃと修復しつつ高笑いしながらフランドールが歩み寄ってくる。
(結構怖いんじゃない?)
(否定はしない)
何を言ったらいいかわからない様子。こちらから話しかけてやる。
「なあ、師匠」
「はいっ!」
「わたしはお前の弟子でお前はわたしの師なんだろう?」
「はい」
「なあ、いつでも治るような腕がとれたくらいで弟子から癇癪をおこした子供に格下げされるものなのか?それともあの対応が弟子に対する対応なのか?」
「あっ、いえ・・・」
「さては人間と同じ対応をしたか?」
「すみません・・・」
「吸血鬼と人間が同格であると?」
「いえ・・・」
「あまり失望させるなよ?紅美鈴。部屋に戻り頭を冷やせ。一昼夜この部屋に近づくな」
「承知いたしました。失礼しました。」
そういって頭を下げ、立ち去っていった。
(そういうことだったの?)
(何が?)
(吸血鬼と人間を同格に扱うなって意味で焼いたの?)
(まさか、口から出まかせさ。暴れたかっただけ)
(師匠もかわいそうに・・・・)
(そう的外れでもなかったろ?)
(だ!か!ら!気にするんでしょうが!)
(なるほど。そういう考え方もあるか)
壊れた扉なりに扉を閉じる。全開よりかはだいぶましだ。癇癪おこした子供のふり路線だったんだが・・・
(そういえば、火の扱いうまくなったわね)
(ああ、パチュリーの本のおかげ)
(第零章?)
(そう。魔の法則にしたがって魔術をつかって魔法をうつ魔法使いと魔の法則を意識しないで妖力で世界に干渉する妖怪の術、どちらも広義の魔法のうちというならば、わたしが炎を操れるというのは期待でも予想でもない、魔の法則によって裏付けられた事実よ。わたしが炎を操れるという結果が先にあり、その過程は魔術の理解か妖術のどちらか。ならば妖力で炎を操れるというのは必然でしかないわ)
(つまり、炎を操れるという結果が魔の法則によって保証されていたから妖力で炎は操れるに決まっていたと。魔術いらなくない?その理屈が通るなら)
(つまり、魔法で父の再生をフランドールが阻止できるという結果が保証されれば魔術を学ばなくても父殺しは達成されるのではないかということね?)
(まあ、平たくいうとそういうことよ)
(そう。なら言うわ。魔術は必要。魔法によって再生阻止できるって結果が保証されてないから)
(なら、なんで炎は・・・って、ああ!)
(そう、私がフランドールの記憶をみたあの日、フランドールの中にある火が燃えあがってその火を制御して形をなしたのがレーヴァティン。どうやって制御したかなんて覚えてないけど、炎を操れるという結果は保証されている)
(なるほどー)
(ついでに言ってしまえば、この理屈で程度能力は説明できるわ。なぜか知らないけども魔の法則により~ができると確信し、保証された結果、生き物は~する程度の能力を得るし、自分の霊力なり妖力なりで使えるわ。それが失敗することはない。魔の法則によって保証されているから)
(でも、慣れで能力の扱いがうまくなったりできることが増えたりするよ?)
(それは、できることを把握してないという自分の能力への理解不足、そもそも妖力不足といった原因で出来なかったものが原因の解決で解禁されたとか。妖力なりを使って世界に干渉するんだから妖力そのものに慣れてなくて能力の扱いが不安定だったりする。あとは自分の能力を疑ってしまったりね)
(・・・・・・・・・・・・・・!!!!!!!!!!?それって!?)
(そう、パチュリーの語る魔法と魔術の話を聞けば能力持ちは覚醒する可能性があるわ。自分の能力が体系だった法則によって保証され、確定して使えると確信すればね)
(すさまじいことね。人妖のバランスがかわり得る。)
(人間の数が増えていけば能力持ちの数も比例して増えていくから、能力が完璧に扱えてしまえば楽しいことになるわ)
(実に恐ろしきはパチュリーの知恵)
(敵に回したくはないわね)
パチュリーの「こうもりでもわかる魔術入門」を手に取りベッドに寝っ転がって開いた。
第二章「物の移動」
すぐさま読み始めた。
9話でプロット進んだ気がしないんだが。レーヴァティン忘れてたから出したいなって思ってぶっぱなしたらフランに突っ込まれるし。予定外に美鈴に引かれるし。なんか説教もどきフランドールは始めるし。世界の理を説きだすし。魔の法則とか即興で出したのに東方世界語るのに便利だし。
書きあがったのは悪くない出来。謎。無意識信奉者(=理性は信用に値しないと思ってる。こいしちゃんかわいい。)だから無意識が考えてたと言ってもいいんだけど、キャラクターが生きてるって感覚が近いかも。
フランドールが勝手にいろいろやってる。好きにやってくれ、フランドール。そういう君を見ていたくて小説なんて書き始めたんだ。好きなとこまで付き合うよ。