じわりと汗をかく。少しでも気をぬけば体が吹き飛ぶ緊張感。体が壊れてもどうってことはないけど、この遊びには敗北する。かといって能力ぶっぱがいいならこんなにらみ合いにはならない。なんでかっていうと能力くるとわかっているなら体を霧にしてかわせるからだ。そして能力を行使しようとして、かわされると能力中断することになり、その隙は能力行使されうるもの。気軽に能力行使には踏み切れず、しかし能力行使する隙をお互いうかがいつつ隙を作らせるよう動こうかといった展開になっているのだ。
隙かといわれると怪しい。でもわずかに見えた光明に迷わず突進した。余計な力は入れない。脱力こそが臨機応変な対応を生み出すということで二人の結論は一致していた。ここで予想される対応は三つ。能力行使と接近しての肉弾戦での応酬。そしてもう一つが、、って来た!
妖力爆発。自分の周囲1メートルくらいの範囲でなら妖力を送り指向性を持たせた爆発を素早く起こせるのだ。距離が離れても使えなくもないが起爆までのタイムラグがひどく実用に耐えない。何より遠距離なら能力使えばいい。爆発で目潰し(時々物理)してからの能力行使が現状の必殺技だったりする。この爆発を耐えなければ即負け。
顔を腕で覆って突っ切る。視覚は閉ざされているがもう一人の自分の妖力感じられないはずもなく、移動されても追える。できれば爆発の食らい際に能力でカウンターしてしまいたいが視界に入ってないと目を見つけられない。能力行使の気配。霧になりタイミングをずらす。戻って相手の目を引き寄せて壊そうとしたら壊される。五感が消失するなれつつある感覚。すぐさま再生して相手をみやる。はめられたっぽい
「最初のあれ、フェイント?」
「そうよ、能力使うとみせかけて霧にさせて戻り際を狙ってた」
「むー」
「やっぱ受けさせる側になるとフェイントとかやりたい放題ね」
「最初の隙っぽいのもわざと?」
「当然」
言ってしまえば、突進に妖力爆発あわされた時点でかなり不利な読み合いになっていたわけだ。こういう読み合いっぽくなると親から生まれたほうのフランドールがやたら強い。少し前までなら泥臭く打ち合えれば、結構いい勝負になってたのに妖力爆発が戦闘要素に入ってから負けまくっている。
「で、感覚つかめた?」
「いや、全然だめ」
そういいつつどちらも妖力爆発開発のきっかけになった本を眺めた。
パチュリーのもとに魔術の教えを請いにいって数日後。本が転送されてきた。タイトルは「こうもりでもわかる魔術入門」。かなり複雑な気分になったのを覚えている。動物で一番シンパシーを感じるのはこうもりであるが、一緒にされるとさすがに嫌である。こんなタイトルつけるやつは見つけたら壊すか、と思って著者を見たらパチュリー・ノーレッジ。悩ましい。会って数日で本を一冊書いてくれたとすると感謝しなければならないし、かといってこのタイトルをスルーしていいものだろうか。脳内会議の結果とりあえず魔術を覚えてから結論をだすべきという結論。
そうして読み始めた本の第一章、「魔力の扱い」、の第一節「魔力の感じ方」でつまずいた。体の中にたゆたう不思議な力を感じましょうとのこと。妖力と魔力の説明は妖怪が能力行使に使っているのは妖力で魔力は違う。体の外に出しやすいのが魔力で妖力は体内での運用が基本。そう言われて、体の外に妖力だか魔力だかを出そうとしてみればわかるか、と試行錯誤して、できたのが妖力爆発。
第三回フランドール・スカーレットが魔術を使えるようにする方法を考える会議での結論である、妖力で体の表面をおおうくらいは前からやっていたので体から離して出せればいいだろうという理論からあれこれと唸ってみるもうんともすんとも言わず。向こうは向こうで飽きたらしく、本の続きを読もうとして第一章第一節しか読めなくていろんな角度から本を眺めては天井に向かって放り投げたり指の先でくるくるとまわしてみたりと遊んでいた。
そこでふと思い至り、右手をばっさり落とす。切り口を空中に向けて血を散布しそこ目がけて力を放出してみた。そうしたら血を媒介に妖力が大爆発。そのときの感覚から二人で完成させたのが妖力爆発。かなり発動が早くて便利ではあり進歩ではあったが、魔力の扱いはまだまだ遠い。
来るべきときの父との対峙の際、父の再生能力を封じるほどの魔術を扱えなければ再生を防げず、倒せないというのがのちに第一回フラン魔術会議と言われる脳内会議の議題だ。負けないかもしれないが勝てないのでは勝負は終わらない。高位吸血鬼の再生を封じる方法など現状では思いつかないので魔術という新しいジャンルに挑戦することにしたわけだが、魔力を扱う段階でここまで苦労するとは。ほかの方策を考えつつも魔術への挑戦は続行だ。遊びの中でふとした拍子に魔力の感じつかめないかと期待しているがまだコツはつかめていない。
第五回フ魔会をやっているときだ、ノックとともに声が聞こえた。
「本日よりフランドール様専属になりました紅美鈴でございます、中に入ってもよろしいでしょうか」
とりあえず分身をといて本体と合流する。
(どうするよ?なぜいきなり使用人があらわれるし)
(監視かな?)
(同感、様子見?)
(賛成)
返事をせずベッドに潜る。居留守を決め込む。
「うーん、外にでてないのはパチュリー様に聞いているから中にいらっしゃるはずなんだけどなぁ」
一瞬で居留守がばれる。ひきこもりが裏目にでる貴重な瞬間である。
(私たち以上にひきこもりマスターなパチュリーに居留守破られるなんて・・・)
(あれだ、なんもかんも父親が悪いってやつ)
(許すまじ、ギタギタにして食ってやろう)
(お腹こわしそう)
(煮ても焼いても壊しても食えないやつか)
「お休みしてらっしゃるのかしら」
そうだ、帰りたまえ。
「失礼します」ガチャリ
そうじゃない
布団の中から探った感じ妖力自体はそこまででもない。だがこちらに歩いてくるときの足音、気配、存在の揺らぎがかなり静か。相当な手練れの予感。
(やる?)
(やる)
ベッドから布団を被ったまま飛び出す。本体が布団を跳ね上げつつ飛翔している間に右手に妖力を収束しておいて炸裂させる権限を作り、本体に移行。本体の目が相手を視界にとらえ、共有。緑の服の赤毛のでかい女。そうしつつ妖力爆発の準備。本体がなぐりつけて床を妖力の余波で壊すのをすれ違うように相手が跳躍してかわすのを妖力爆発で吹き飛ばした。壁にむかって飛んでいく相手がどう動いてもいいように観察をしつつ本体は飛翔して追いつつ変化に対応する準備。わたしは再び妖力爆発の準備。相手が何も対応せず頭から壁に突っ込んで崩れ落ちて本体は停止。観察。後ろで布団が地面に落ちる音がする。
(これは・・・)
気絶してます。
(そうよね、やっちゃったかしら)
(まあ、寝ぼけておそっちゃったってことで)
(そうしましょ)
(ベッドに入れておいて恩を押し付けるのはどう?)
(賛成)
抱えてみようとしてまずは膝裏と背中に手をまわして抱えあげようとして上半身が長すぎて頭がどんどん下がっていきまずい感じになりとりやめ。背中側にまわってみてわきから手をいれて抱え上げる。これはこれででかいからそのままでは下半身が地についたままだが飛んでしまえばいい。
(大きいね)
(そうね、大きいしやわらかい)
確かに胸回りも背中のあたりも、どこかにおいも柔らかい。緑の帽子をながめつつここまで他人が近づいたのは記憶の限りでは初めてかなとか考える。本体のは生まれたときに父に抱えあげられていたか。
(・・・)
いや、ごめん。
(謝んな)
そう言われるとねぇ。
(じゃあ、どう見た?)
(完全に不意を打たれたって感じだったね)
(そのわりには初手の反応は良かった)
(かなり戦いなれているよね)
ベッドについたので上半身をベッドに寝かせ下半身に回り足をもって全身をのせて地面に落ちていた布団を回収しかける。
(父親の部下だし、戦いなれているし、警戒は必要なんだけどさ、)
そういうと本体も同じ感想のようで
((悪意はなさそうだよね))
紅美鈴の幸せいっぱいみたいな寝顔をみて意見の一致をみた。
4話投稿時点でめーりんの出番構想になかったんだぜ、信じられるか?