1話と2話はこの話を書くためにありました。
言うなればこの話を書くためにこの小説は書き始められました
どうぞ、ついに原作フランドール視点です。
目の前の私が眠ったのが分かった。無意識に維持していたであろう分身が解けて自分の精神が元の体に戻っていくのが分かる。
一つの体に戻って、体の主導権が戻ってくる。分身もあまり変わらなく使えるけど本体とはまた少し違うと戻ってみて感じる。そもそもこの体動かすのは20年ぶりらしいし、なかなかに新鮮。
目を開けて天井を見つめる。闇の中じっと息をひそめる。だんだん周囲と自分との境界があやふやになっていくような気がする。この感覚を覚えておけば真面目に闇と同化できる気がする。布団の中でじっとしてるだけなのにちょっと楽しい。
あの子の影響かな、とは思う。あの子がくるまではこんな穏やかな気分ではいられなかった。20年、遊びとも訓練とも言えるようなくだらないけど無意味ではないものを楽しくやってた記憶がこの体に残ってる。妖怪のありようは精神によって決まるが精神のありようは肉体の影響を受けるのだ。肉体に残る記憶に精神が影響を受けるのは必然だ。
あの子の20年の記憶を体から呼び覚ます。私たちの精神は異なりつつも融合し癒着している。そのつながりのカギは体とフランドール・スカーレットという名前の両方を共有していることだ。そのことを意識すると相手の考えてることを読んだりこっちの考えを隠したりが上手くなるのだが、あの子は気が付いてない。言う気もない。別に考えてること読まれたっていいけど、こっちの考えかくして相手の考え読むのは楽しいのだ。
本を読んだり壁を砕いて作った石ころ使ってのお手玉はまあいい。石を7個もって順番に投げ上げて落ちてきた順に掴んで投げ上げることの繰り返しといえばお手玉なのだが一歩で5mくらい移動して落ちてきた石をひろって投げ上げてって繰り返すのは何かが違う気がする。最後は石を勢い余って握り砕いて終了だ。まあそれは構いやしない。
逆立ちして部屋の中歩き回る。飛行能力使わずにバランス取りつつ逆立ちするのが面白いみたいだけどこれは良くない。なんというか、こう、あれだ。全開というか丸出しというか。慎みとか羞恥心とかないのだろうか。スカートの中は人目にさらさないという考え自体を持ってないのかもしれない。部屋に人がいなくてもパチュリーが魔術で監視しているのは声に反応して紅茶が出てきているあたり確定だけど、声だけ認識していて視覚は入れてないと思いたい。さすがに自分の体であれやられて他の人に見られたとかは考えたくない。
そういえばメイドを壊したあと聞こえてきたパチュリーの声をパチュリーの声と認識した記憶がない。あの子が生まれる以前の記憶を持ってないとか?ここにつれてこられた経緯とかあの子が生まれたときの状況とか分かってないのかしら。存在する前の出来事を知らないのは当たり前といえば当たり前だけど、同じフランドール・スカーレットだ。知ってたほうが他の紅魔館の連中と会うときにはいいだろう。となると記憶の引き出しかたをおしえなきゃいけないわけで心の読みあいのアドバンテージを手放すことになるのか。まあ、もう少し楽しみたかったけどしょうがない。あした起きたら教えてあげなきゃ。
目を閉じて体から力を抜いていく。脳の出力も落として意識を薄めていく。ある程度までいったらそれでおしまいだ。あの子は意識を完全に落として眠るみたいだけど、私はこわい。完全に意識落としてしまったら何があるかわからないし目覚めたら何もないかもしれない。だからあの子に体を預けて眠ったあの時が初めて意識を完全に落として眠った眠りだった。数日眠るかもなとは思ったがまさか20年も眠るとは思わなかった。まあ、良く眠れた。いつかお礼を言うかもしれない・・・・
あの子の意識が目覚めたのを感じてこっちの意識も覚醒させていく。体を起こす。
(おはよう)
(あれ?戻ってる?)
(本体の意識が消えると分身きえて精神も戻るのよ)
(あーなるほど)
(・・・・
(考え事?)
(まあ、そうね。あなたフランドール・スカーレットの過去の記憶に興味ない?あなたが生まれる前の)
(見ていいの?)
(もちろん。あなたとわたしはどちらもフランドール・スカーレット。私たちは異なる精神を持っているけど、対外的にはフランドール・スカーレットという同じ人物。過去の記憶をみる権利は当然ある。)
(あー、この先他の人と会うかもしれないもんね)
(そう。その時私と全く同じ振る舞いをあなたがする必要なんて全然ないわ。だけど相手は過去の私の続きとして私たちを見る。過去の私の記憶を知っておくことで対応できることもあるでしょう)
(わかった。記憶を知るよ)
(体の記憶を呼び覚ますと分かると思うんだけど・・・)
(やってみる。・・・・・んー、ん?何かいまいち)
(一緒にやろうか、思い出すの)
(そうだね、お願い)
私の記憶は自身の誕生から始まる。より正確に言えば、慕わしい存在がいて暖かい感情を向けてくれているのが分かって、その存在のとても気になる点を好奇心の赴くままに握った瞬間だ。血を浴びた。肉を内臓を。驚きはした。目の前の存在がいきなり破裂して中身が自分にかかったのだから。痛ましさは感じなかった。ただただ暖かく香しく美味だった。
母の死を理解した様子もない私のことを周囲の吸血鬼や狼男などの妖怪は気味悪がり怖がった。視線を合わせないように顔を背けられつつ動向は探られていることだけは分かる不愉快な空気。恐怖とそれに伴う排他的な感情が向けられる。
そんな空気の中父親だけは違った。床に座り込んだ私のことを汚れるのも構わず抱え上げ、私の顔をみんなに見せるようにして言った。
「この子は私の娘、フランドール・スカーレットだ。能力が強力で、生まれたばかりで制御できないでいるだけだ。澄んだ目をしていていずれ偉大になる素質を持っている。姉のレミリアともどもよろしくお願いしたい。」
そうして父親は私を持ったまま歩き出し、事前に用意されていた私の部屋に入っていく。メイドに私のことを預けて部屋を出て行った。
そうして残されたのは血まみれの私と専属メイド。スカーレット家の次女の専属メイドということで事前の希望者は掃いて捨てるほどおり、その座を勝ち取ったメイドは吸血鬼としても優秀だった。
「この血はひょっとして・・・」
そのメイドは手早く血だけ拭うと、
「指示を仰いでまいります」
と言い残して足早に部屋から出て行った。そのメイドを二度と見ることはなかった。
残されたしばらく待っていたが待っても誰もこなかったのでベッドに入って寝た。
翌日から色々な吸血鬼が部屋にやってきた。世話係はほとんど日替わりだからお互い
極力干渉せず、迅速に仕事して去っていった。腫物に触る感じでくるから着替えは自分でやるようにしたし、食事も置かれたら用事ができたら呼ぶからと部屋から追い出し扉の前で待機させた。それ以外の時間は用があったら呼び鐘鳴らしてくださいと部屋に入ってくることはなかった。
問題は教育係だ。私に物を教えるのが仕事である以上部屋の外で待機というわけにはいかないし、何より私と会話して機嫌を取りつつ私の知らないことを教えなくてはならない。
一番簡単なのが言語学習でその言語を話せる人間の血を飲んで知識を得て適当に慣らせばいい。3時間もあれば自分で勝手に本でも読んでいれば大丈夫になるのでさっさと解放した。
一番面白かったのが数学を教えてくれたやつでアラビア数字というとんでもなく便利な数の表記法が最近分かったといって数の概念を喜々として語っていた。ローマ数字とアラビア数字でそれぞれ計算してみせてくれたり紅魔館の会計のやり方の説明とかなかなか面白かった。部屋に入るときはめちゃくちゃ怖がって入ってくるのに話に乗り出すと話すのに夢中になるのはこっちとしては楽だった。
ただ、それ以外の吸血鬼史や人間史といった歴史の話、剣術などの武術系、マナーの勉強はろくでもなかった。吸血鬼史の教師はスカーレット家を持ち上げすぎててそれについて突っ込むと悲鳴あげるしやりにくいったらなかった。人間史は吸血鬼目線から人間の愚かさ加減を独断と偏見で語るという単純に聞く価値のないものだった。武術系の授業は教師が私の能力の暴発におびえていたし、ケガさせずストレスも与えないようにと全力でぬるかった。マナーの授業はこういうしきたりになっているということを口頭で教えて実践はほとんどしなかった。
部屋の外を歩くと視線を感じた。物珍しげな、警戒するような値踏みするような視線。でも視線のほうを向いても目は合わない。他の人とすれ違うときも端によって頭は下げられるけど会話することはなかった。
誰も私に危害を加えようとはしなかった。誰も私のことを見ようとはしなかった。みんな私の能力ばかり気にしていた。私の定義は第一にありとあらゆるものを破壊する程度の能力をもつ幼い吸血鬼で第二にスカーレット家の次女で第三にフランドール・スカーレットという個人がくれば良いほうだった。誰も私のことをいじめようとしたわけじゃない。ただ、誰もが私と無関係であることを望んでいた。
部屋の中でもそんなありさまだったので部屋の外はもっと最悪だった。私に会うと事前に分かっていても恐れられ、かわされるのに外を出歩いたら相手にとっては私との邂逅は想定外な災難に違いなかった。父との食事などといった用事で父と会うこと自体は苦痛ではなかったが部屋からでる時点で煩わしいとしか言いようがなかった。
イライラすることが増えた。視線は煩わしかったし、イライラする私をみておびえる使用人の姿は神経を逆なでしたし、私の聴力では聞こえてしまう範囲で聞こえないと思って私の噂話をする使用人は耐え難いものがあった。
ある日ついに花瓶を吹き飛ばした。イライラが限界に至ったのだ。そうしたらフランドールお嬢様は気がふれているという噂話がたった。イライラはさらに増えたが物をこわしても3秒もイライラはおさまってはくれないし噂話は盛んになるしで暴れまわることは極力さけた。どうしてもってときは物にあたりはしたが。
ほとんど部屋からでなくなるのは必然だった。そして一人での時間をつぶすために本を読んだ。世界がどうなっているかは本を読んで学んだ。楽しかったかというとよくわからない。本を読んだりそれをもとに考えをめぐらす時間以外は暇な時間かイライラする時間しかなかったから他よりかは楽な時間だった。
起床して使用人と必要最小限の接触をして、あとはひたすら本を読むという日々。そうして過ごしていると姉と会うことになった。
使用人は普段一言もしゃべらないのにその日はあいさつをしてきた
「おはようございます、フランドールお嬢様」
この時点で私としゃべらなくてはならない用事があるのが確定。
「何の用?」
「・・・本日レミリアお嬢さまと昼食をとるよう予定されています。準備のほうをよろしくお願いします」
「そう。」
「つきましては、お召し物のご用意「結構よ」
「・・・失礼しました」
「用はそれだけ?下がって」
「失礼します」
服なんて寝間着と普段着の二着しかないが不自由を感じたことはないし服を用意するのに使用人と接触するほうがどう考えたって煩わしい。枕元の本を手に取って本を読みだした。
「昼食のご用意ができました。レミリアお嬢さまをお通ししてもよろしいでしょうか」
本に没頭して寝間着から着替えてないことに気が付く。気にしない。ベットからおりてテーブルに向かいつつ通す
「どうぞ」
姉レミリア・スカーレットが入ってくる。薄いピンクの帽子とドレス、ところどころの赤いリボンで全体の印象をぼやかさないようにしている。こっちは真っ白け、絹のシャツと下ばき、着心地なら勝ってる。
「そこにかけたら」
そう席をしめしつつ自分はいつも通り上座に座る。姉は少しもの言いたげにしつつも黙って座り、
「着替えるものではなくて?」
「室内では帽子をとるものよ」
思いっきり顔をしかめて帽子をとり膝の上に乗せるレミリア。それを見届けて
「客人の前で着替えるわけにはいかないからこのままで失礼するわ」
「そう」
何か言いたそうな顔をしているが何もいってこない。そんなこんなで昼食が並べ終わる。食べ始める。しばらくカチャカチャと食事する音だけが続く。
「普段何をして過ごしているの」
「読書」
「図書館にはたくさん本があるわ。優秀な司書もいるしね」
「そう」
また会話に静寂がもどる。辺りにやたらと大きく食器の音が響く。食べ終わりじっと観察する。
目が合う。瞳の中を見通す。悟る。
「もうこないで」
「え?」
「恐怖を抑え込みながら過ごされても迷惑なのよ」
ほかの連中に比べればだいぶましではあった。恐怖もその隠し方も居心地も。
「そうか」
何かを考えている様子。
「あなたの羽、お母さまそっくりよ、私ともだけど」
そういわれて自分の羽を触る。コウモリのような皮膜でできた羽。
「また来る」
そうこちらに背を向け去っていった。それから会ったことはない。これが姉との唯一の記憶。
また部屋で本を読む日々。ついにその時はくる。部屋の本が尽きるたのだ。選択肢は二つ。なんでもいいから本を持ってこいと使用人を呼ぶ方法。使用人に図書館まで案内させる方法。使用人に本選びを任せて不満持ってそのあと要望を伝えるなりという展開を考えると選択は決まる。呼び鐘を鳴らす。
コンコン
「図書館まで案内しなさい」
「かしこまりました」
部屋を出ると使用人が歩きだすからそれについていく。
そこで久々にあの不愉快な視線を感じたのだ。しかも歩く距離が長い。館の頂上付近から1階の奥まったところまで。ひそひそ話も聞こえてくる。これを毎回は耐え難いなと感じた。
図書館につく。扉が開けられ、
「では私はこれで。中のことはパチュリー様にお聞きください」
中に入る。驚くほどの蔵書量。長い吸血鬼の時をつぶすにはこれくらい必要なのだろうか。適当に飛び回って見て回る。見てわかるものもあるしわからないものもある。そのうちに魔力を感知する。とんでいく。紫の女が本に囲まれていた。
「あなたが司書?」
「司書?まあ、そうかもね、私がこのヴワル図書館を管理しているわ」
「好きに本借りてくよ」
「持ってく前に一言いいなさい。返すときは私に」
「いないときは?」
「図書館から出ることはないわ」
「そう」
一切こっちを見ない。ただただ無関心。他の連中は恐怖という関心を向けてくるのに対しそれすらない。私でなくともこうなのだろうと思わせる完璧な無関心。居心地は悪くない。飛び立ち適当に本を4、5冊見繕う。
「じゃあ、パープル、これを借りてくわ」
「パープルってひょっとして私?パチュリー・ノーレッジよ。パチュリーと」
「パチュリーね」
図書室を出て部屋に戻る。本を持つ私が珍しいのか刺さる多くの視線。イライラする。もう心は決まっていた。部屋にもどり呼び鐘を鳴らす。
コンコン
「父に要望があるわ」
「!!!!すぐに伝えて参ります」
廊下を走る音が聞こえる。しばらくして
「当主様がお着きになりました。お通ししてもよろしいですか」
「ええ」
父が入ってくる。
「要望があるとのことだが」
「図書館からしか出入りできない部屋に引っ越したい」
「そのような部屋はないが・・・」
「地下にでもつくって」
「いや、しかし地下になど「いいから」
「うーむ」
「ここにいてもイライラするだけだから」
「分かった。急ぎ作らせる」
「お願い」
(へー別に地下に幽閉されたわけじゃなかったんだ)
あの子の声がする。
(そうよ、そんなこと言ったかしら)
(いいや。危険視され排斥されたのはなんとなくわかってたからそうだろうと)
(なるほど、地下にいるのは望んでよ)
(続きを)
部屋は二日後にできた。なかなかに早く紅魔館が総動員された気がしなくもない。部屋ができて移らない理由もなく、すぐに引っ越した。
しばらくは快適だった。1年くらい。必要最低限の会話すらなくなった地下室。好奇の視線も恐怖の視線も浴びせられることはなかったが孤独ではあった。読書は嫌いではなかったが一生このまま本を読んでいられれば幸せとは思えなかった。あくまでも暇つぶしの域を出なかった。パチュリーに聞いてみたら「好きなだけ本を読む以上の幸せがあるとは思えないわ」とのことだったからそういうものかもしれないと読書に戻ったが寂寥感はぬぐえず、一度意識すると徐々に増していった。
ある時、二重人格について本で言及しているのを見つけた。一つの体に二つの精神をもつ人間がいるというのだ。これは面白いと思った。人間でさえ自身のなかにもう一つの精神を生み出し、飼えるというのに自分にできないわけがないと思った。修行を決意した。
まず、自分を二つに分けるイメージをもって試行錯誤した。
分身ができるようになった。割と好きに動かせたがあくまで動かしているのはもともとの自分であり求めるものとは遠かった。
パチュリーのもとを訪ね、多重人格に関する本を送るよう求めた。しばらくして4冊ほどおくられてきてそれを読むことから始めた。そうしたらその本の1節に精神が健常なものは多重人格にはならずすべからく多重人格者は何らかの異常を精神に抱えている。と
私が多重人格にならないのは精神が健常だということか?そう考えたら腹がたってきた。さんざん気がふれてるだのと噂の種になり、物にあたりちらし、地下に逃げ込んできた私の精神が健常?いい加減にしろ。だったらなんで今こうなっている!
精神の温度が上がる。熱をもち白く輝く。純然たる現状への怒りだった。
そうして精神の中へ向けていた意識を外界へ戻すともう一人の自分が分身に宿っていた。
(あとは知ってのとおりね)
(生まれたばかりの私とドンパチやってイライラしっぱなしだからと体の主導権渡してふて寝を20年)
(そういうこと。記憶をみてみた感想は?)
(それ聞く?)
(当然)
もう一人の私が分身を作って体から出ていく。こちらに向きなおり、
「とりあえず、父親は無能ね」
「え?」
「普通に扱えばこうなることわかってたじゃない。当主が差別したら差別を助長するとかの考えがあったかもしれないけど、母親を産まれて早々に殺した私たちが普通であるはずがないわ。区別して特別な対応が必須だったわ」
「まあ、単に優しいという名の無能か、悪趣味か、悪辣かと言ったところね」
「その点姉はあれから会いに来てないあたり優秀ね」
「なるほど」
「で、一番気になったのは、どうしてそんなに恐怖されることに恐怖しているの?」
え?考えてみたこともなかった。
「妖怪は人間の恐怖などの思いの力で発生し力を得ているわ。妖怪が恐怖されるのは必然よ」
「いや、私に恐怖しているのは同族の吸血鬼、あって狼男などの配下、妖怪よ」
「関係ないじゃない、恐怖を向けられるのが人間だろうと妖怪だろうと。等しく力の元。言ってしまえば餌よ」
「いやいやいや、そんなことしてたら孤立するわ」
「恐怖をふりまかないように抑えて孤立は回避できたの?現状は?」
「それは・・・」
「恐れるというなら恐怖をふりまけばいい。いらないものをうるさいものを壊してしまえばいい。恐怖をふりまき恐怖を束ね、吸血鬼の王を、妖怪としての高みを目指せばいい」
「そんな風に周りのものを壊していったら周りから本当に誰もいなくなっちゃう!」
「私がいる!どれだけの生命を絶やそうとも、世界でフランドール・スカーレット以外の生命がすべて死滅しようとももう孤独ではない!そのための私。」
「それは・・・そうだけど」
「それに私は他に人がいて孤独を感じるのと他に人が物理的にいなくて孤独を感じるなら後者がいいね」
「それは」
「おんなじはずだよ、じゃなきゃ地下室まで引っ越してこない」
否定はできなかった
「恐怖を束ね吸血鬼の頂点に立てばここからでは見れない景色がまたあるはず」
「それは・・・」
目標なく永遠に暇を潰そうとしていた身には甘美に聞こえる。
「私はフランドールの純粋な怒りから生まれた存在。ほかの存在と交流せずにあり続けた存在。いうなれば学習や他人の影響が読書以外から入ってきてない純粋なフランドール100%の存在。だからこそ見えるものもある。」
「それは?」
「妖怪は他人に向けられる感情の体現という側面と自己定義で存在が決まるんだ。感情の中でも恐怖は対象の行動を想定しそうなってほしくないという願いを含むから逆に対象を変質させる力が強い。だからこそたいていの妖怪は何らかの恐怖を根源とするんだ。」
学習という不純物のないもうひとりのフランドールの語る妖怪観に少しの怖さを感じつつも引き込まれていく。
「恐怖し排斥するというかくあれという願いを含む。今までどんな恐怖を向けられてきた?」
「ちょっとしたきっかけで生命を含むあたりのものを壊す気のふれたやつ」
「お前どんだけ殺した?」
「まだ、かあさん一人」
「そう、私はメイドを一人。あんまりにも熱心に願っていたからね」
「そういえば!お前!」
「いや、お前の記憶をみるまでは向けられる感情でしか自分の定義が分からなくてね。100人くらいは軽く殺していると思ったよ。」
それは100人軽く殺したやつと同じだけの恐怖を抱かれているに等しい。
「そうだね。何のために殺さないんだ?」
答えられない
「なんで殺してないかわかるか?」
「恐怖されるのに恐怖しているから・・・・」
「なんでおびえてるかわかるか?」
「わからない」
「だろうな。」
「分かるの?」
「当然。一般に恐怖されることが根源である妖怪は恐怖されてなんぼだから当然恐怖されることを恐れない。だけどなんでお前が恐れるかと言えば同族からの恐怖だからだ。恐怖されることで仲間外れにされることを恐れている」
「その通りよ」
「それこそが父親の策略なのよ」
「えっ」
「危険性があるあなたをあえて普通に育てることで吸血鬼もどきにも同族意識を持たせたのよ。私みたいに同族意識なかったら周りから恐怖されること恐れることなんてないし自分に恐怖を抱くような連中に同族意識なんて持ちようがないわ」
「でも、私は同族意識をもった!」
「そんなに普通でいたい?喜び勇んでさ。父への憧憬よ。父に認められたい、父に娘として扱ってくれてうれしい、父に褒められたい、そういう感情が同族意識なんて抱かせたのよ。」
目から鱗が落ちるどころの騒ぎではない。全身を覆う皮がむけるような新感覚。胸の内に小さく火がともる。
「分かってきた?あいつらから植え付けられた常識を捨ててありのままの世界をみるの。本当にあいつらが同族なら私たちに恐怖なんて感情は向けないわ。あってもほかの感情も感じられるはず」
恐怖以外の感情は感じなかった。
「恐怖を向けられるなら恐怖を向けられるだけの存在になってしまえばいい。今まで恐怖しか向けられてないのに恐怖されないようされないようしてきたから辛かったのよ。周りからの認識とそれに伴う自己の改変と自己認識のギャップが辛さの正体ってわけ。それでここにくるまで周りの認識をかえるつもりでいたみたいだけど、自己認識を周りに合わせちゃえばいいわけ。そのほうが自然なのだから」
胸の内の火は否定しようもなく大きくなっている。頭を回転させ、自己認識の再構成を始める。
「フランドールは吸血鬼からも畏怖される吸血鬼。吸血鬼の王。なればこそ、何を壊し何を壊さないかは自分で決めなくっちゃならない。他の連中が考えた倫理なんかに縛られちゃいけない。
私達フランドールが決め、フランドールが壊すんだ。」
その通りだ。意志の炎が燃え盛る。そして口を開く
「私の意思を縛ったあの父を殺す。私の手で殺して初めて私は父から自由になる。必ず殺す」
「それでこそっ!わたしっ!フラッンドール・スカーレットッ!よく言ったぁっ!」
「私の意志で私が決めて私が壊し私が犯す!
「「私は破壊する者、フランドール・スカーレット!!」」
どちらの体も突然炎に包まれる。体が焼ける音がする。羽が焼け落ちる。髪が発火し涙腺が乾いていく。ただただ心地よい熱さ。どれだけ痛かろうとこれは自己が作り変わっていく熱。いとおしくさえある。この世全て壊してしまえる気迫はあった。身を焼く自分から産まれ出た破壊の炎を制御する。この程度で躓いていられないしできるに決まっていた。破壊の炎を制御しきり片手でもつ。剣状にまとまっている。目の前の私も制御しきっていた。
「名前をつけよう」「ああ、もちろん」
同じ名前をつけようとしているらしい
「「スルトが世界を焼きし魔剣、レーヴァテイン」」
すると、二つの炎があわさり、収縮し、凝縮し、黒いねじ曲がった杖になった。
「破滅の魔杖という意味もあったか?」
「裏切りの魔杖という意味もな」
「最高じゃないか。我々にぴったりだ」
宙に浮く杖を手に取る。よくなじむ。いい杖だろう
「羽を生やそう。我々にピッタリのな」
自分にあった羽というイメージを深める。あっさり決まり、羽をはやす。木の枝から宝石がいくつもぶら下がっているような羽。
「どう?」感想を求める。
「200点。さいっこうにクール」
目の前の私にも七色の宝石の羽が生える。すがすがしい生まれ変わったような気分。いや、本当に生まれ変わったのだ。目標もはっきりしそれに自由意志でもって向かう。これほど素晴らしいことがあるだろうか。
「目標が決まっただけだかんな。これからだ」
「新生フランドールの始まりね」
「おうよ!」
ふっと疑問に思ってたずねる。
「二人のフランドールだからフランドールズかな?」
目の前の私はスッと分身をといて体の中に戻ってくる。
(二人で一人のフランドールだろ、単数でいいさ)
(それもそうね)
(よろしく、わたし)
(よろしく、わたし)
原作解釈は割と気に入っていて、原作は二重人格にならず、地下室に引きこもりだんだんと精神を病んでいくか、気がふれているという話だけが残っている世間知らず、のどちらかかなとか思っています。そういう不憫可愛いフランちゃんを書いても良かったんですが、せっかくなので救済系で。
ここまではいわゆる舞台作り。これから僕はフランドールを好きに動かして楽しむので良かったらお付き合いくださいませ。
あと、父殺しは文学の華ってばっちゃがいってた