Fate/make.of.install   作:ドラギオン

99 / 145

 しばらく、場所が違うだけのUBW展開です。


無限の剣製3

 慰霊碑の前の広い空間に入って来た士郎とセイバーの気配を感じアーチャーが声を掛ける。

 

「遅かったな。衛宮士郎」

「あぁ。考える事が多くてな。……アーチャー、遠坂は何処に居る」

「ふ、お前達に探し出せない場所だよ」

「なに?」

 

 アーチャーは凛の居場所を誤魔化す。本当は凛の家の凛の部屋に軟禁している形だが、それを教える義理は無い。

 

「遠坂は無事なんだな」

「あぁ。少なくとも今は無事だ。だがお前は凛の心配よりも自分の事は良いのか?」

「かまわない」

「ほう、覚悟はできているか」

 

 アーチャーと睨み合う士郎。その眼には決意があり、それを曲げる事は無い。そう感じたアーチャーは、彼を憎むような目で見ながら話を続ける。

 

「その様子、自分が何故殺されるか理解しているようだな」

「当たり前だ」

 

 アーチャーの質問に士郎は答える。この対峙は必然であり、アーチャーの望んだ状況。それに対して士郎は逃げる事もせず、受け入れる。むしろ、アーチャーとの対決は、必ずつけなければいけないのだ。本来は二人を見守る立場のセイバーが、2人の話に割り込む形でアーチャーと向き合う。

 

「何かな」 

「アーチャー、何故あなたは士郎を殺そうとするのです」

 

 あらかた予想はついている。しかし、彼の口から聞かねば、真実はわからない。

 

「何故も何もないだろう。そいつが俺を認められないように俺もそいつを認められないだけだよ」

「そんなはずはない。衛宮士郎という人間の理想、未来で英雄としての姿が貴方のはずだ。その理想がなぜ自分を否定するのです」

 

 セイバーの語った言葉こそが真相。アーチャーの正体は、未来にて召喚に応じた存在、衛宮士郎の辿り着いた先。”英霊エミヤ”それこそが彼の真名であり、彼の全てである。元々聖杯戦争に召喚される英霊は、過去の存在だけとは限らない。未来で英霊になったものも召喚される。それは英霊達が座という時間の概念から切り離された場所で保管されるシステム故にだ。

 だが過去の英霊と違い、未来の英霊は召喚されるのは稀だ。何故なら、召喚に使う触媒が過去には存在しないからだ。過去の英霊にゆかりのものは探せても、今現在まで存在しない英霊にゆかりの物を探すのは不可能。それこそが未来の英霊と言う可能性を意識から省く要因。

 

 ならなぜ、英霊エミヤが召喚されたかと言えば、彼は衛宮士郎であり、彼の過去で彼の命を救ったのが遠坂凛だからだ。凛は触媒を用意できず、父親の形見の宝石を用いた。それこそ衛宮士郎(アーチャー)の命を救い、彼が死ぬまで持ち続けた聖遺物の役割を果たしたのだ。

 その宝石は現代でも衛宮士郎を救い、彼が持ち続けている。衛宮士郎と言う存在にとって凛の父親の形見の宝石は、セイバーにとっての聖剣の鞘に匹敵するほど縁が深いものなのだ。

 

 

 

「俺はお前のように自らの光だけで英雄になった者じゃない。死後の自分を売り渡すことで英霊になった守護者にすぎないからな」

 

 セイバーの問いにアーチャーは、過去を思い出すように語り始める。士郎にはアーチャーの言う守護者が何かはわからなかった。しかし、セイバーはそれを知っており更に疑問を重ねる事になる。

 

「なぜだ守護者とは死後、抑止力となって人間を守る者と聞きます。なら経緯は違えど同じ英霊ではないですか」

 

 たしかに英霊ではある。現に聖杯戦争にサーヴァントとして召喚されるのだから、英霊ではある。だが、人間にも悪人と善人のように、種類が存在する。そしてそれを身を持って体感したアーチャーは言葉を続ける。

 

「それが間違いだセイバー。守護者は人間を守る者じゃない。あれはただの掃除屋だ」

 

 自分の思い描いたものとは違う、現実。それが衛宮士郎を現在の英霊エミヤにしたのだ。

 

「アーチャー……」

「そうだな、俺は確かに英雄になった。衛宮士郎という男が望んでいたように、正義の味方になったんだ」

「せいぎの、味方」

 

 その言葉は、話を聞いている士郎の根底であり、アーチャーの絶望。そしてセイバーの脳裏には、10年前のマスターであり、士郎の育て親である衛宮切嗣が浮んだ。

 

「だからそれが理由だよ。俺はその事実が間違いだと知っている。その男の人生には何の価値もないことをな」

「何の価値も……」

 

「あぁ、君ならわかるだろうセイバー? 誰よりも過去を、過去の選定をやり直したいと願っている君なら」

 

 未来の士郎であるアーチャー。彼はおそらく別の次元のセイバーを知っているのだろう。むしろ、現在のように士郎(アーチャー)がセイバーを召喚し、友に戦ったのだろう。そしてセイバーの聖杯への願いを彼は知っているのだ。

 だからこそ、彼の口から出た言葉は真相だ。故国の救済を望み聖杯戦争で戦い、バーサーカーへと変わり果てたかつての部下である湖の騎士。彼を殺した時に聞いた言葉が、セイバーの中でアーサー王の選定であるカリバーンを抜いた過去を改める事による自分のアーサー王への即位を無くす願いに繋げた。

 自分が王でなければ、カムランの戦いは無かったはず。そう信じ聖杯を求めた。

 

「そうですね。確かに私は自分の理想に届かず、聖杯を求めました。私がアーサー王にならなければと言う身勝手な願いで」

「今は違うと言うのか?」

「私の願いは、願うより先に崩れました」

 

 自分が王でなければ、その願いはもう一人のセイバーの登場で打ち砕かれた。女でない男の彼がアーサー王となった所で、ブリテンは滅んでいたのだから。誰が選定の剣を抜いた所で、アーサー王としての結末は変わらない。その現実を受け入れられず、悪夢であるアルトリウスを消し去ろうとした。

 それこそアーチャーが士郎を殺そうとするように。だが、だからこそアーチャーが士郎を殺す理由がわからない。

 

「ですが、あなたは衛宮士郎の理想を正しく叶えた姿ではないですか」

 

 ブリテンの滅びが避けられず、ブリテンの安永を理想とした自分とは違う。衛宮士郎の理想は正義の味方であり、英雄(英霊)となる事のはずだ。なのに英霊となった彼は、過去を否定する。理想に届いた彼が何故、そうなったのかセイバーはわからない。

 

「理想を叶えた……それは違うなセイバー……確かに俺は理想通りの正義の味方とやらになったさ。だがその果てに得たものは後悔だけだった」

 

 己を殺す理由を、理想に殉じて理想に裏切られた事実をアーチャーは話す。それはセイバーではなく、いずれ同じ道を歩むであろう衛宮士郎へと語り聞かせるように。

 

「生前 抑止力と契約し、死後 守護者となった俺は霊長の抑止力として世界のバランスを崩す者と闘った。

 命じられるがままに――殺して、殺して、殺し尽くした。命などどうでもよくなる位殺して、殺した人間の数千倍の人々を救った。それが過ちだと気付きながらもな。

 求められれば何度でも闘った。何度も、何度も、何度もだ……だが終わることなどなかった。何も争いのない世界なんてものを夢見ていたわけじゃない」

 

 争いの無い世界、そんなものは衰退しかない。皆が手を繋ぎ幸せな世界など無い。一度人を殺した段階で、そんな事は百も承知だった。

 

「俺はせめて……自分が知り得る限りの世界では誰にも涙して欲しくなかっただけなのにな」

 

 だからこそ、自分だけが犠牲になる道を選んだ。いや、選んでしまったのだ。 

 

「そこでようやく悟ったよ。衛宮士郎という男が抱いていたものは都合のいい理想論だったのだ」

「それは何故?」

「全ての人間を救うことはできない。全体を救うために少量の人間を見殺しにするしかない。君にも覚えはあるだろうセイバー」

 

 アーチャーの問いにセイバーは無言で返す。かつて蛮族との戦いで、物資の調達のために一つの村を干した事がある。その選択はまさしく小を切り捨て、大を取るための犠牲を強くものだ。

 

「いずれ幸福という席から零れる人間を速やかにこの手で切り落とした。それが英雄とその男が理想と信じる正義の味方の取るべき行動だ。

 多くの人間を救うというのが正義の味方だろう。だから誰も死なせないようにと願ったまま大勢の為に一人には死んでもらった。誰も悲しませなようにと口にして」

 

 衛宮切嗣と同じ、彼に成す事の出来なかった正義の味方。それを体現した方法は、結局の所、彼の避けたかった手段だった。それを避けたくてもそれしか手がないと知り、正義に絶望した男。その理想を継ぎ、その理想に殉じた結果、それ以上の絶望を積み重ねた男。誰かを救いたいと、世界の平和を望み、その結果が正義の味方と言う名の絶望。

 

「その陰で何人かの人間には絶望を抱かせた―――それがこの俺、英霊エミヤの正体だ。そんな男は今のうちに死んだ方が世の為だと思わないか?」

 

 衛宮士郎に意味は無く、それ故に自分を否定するアーチャー。彼は無骨な一本の剣を投影して、士郎の足元に投げた。それを見た士郎が目をアーチャーに戻す。

 

「自害しろ。衛宮士郎。―――どうした。自分の正体を知って何を悩む?」

 

 一切動かない士郎に、アーチャーが自殺を強要する。未来が英霊エミヤである以上、それを否定するなら自殺こそが、衛宮士郎が英霊エミヤとならぬ方法。

 

「アーチャー、貴方は理想に反したのではない。理想を護り、裏切られた。だからこそ、道を見失っただけではないのですか? そうでなければ、自分を殺して償おうなどと思わない筈だ」

「俺が自分の罪を償う? ふふ、ははは、馬鹿なこと言うなよセイバー。

 確かに、俺は何度も裏切られ、欺かれた。他人のために命を捨てる男なんぞ誰に理解されるハズもない。最期には、争いの張本人だと押し付けられて絞首台だ。俺に罪があるというのなら、その時点で償っているだろう」

 

 アーチャーの脳裏に浮かぶのは、絞首台を上って行く景色。他人のために戦った英雄の末路。衛宮士郎と言う人間の最期の瞬間。

 

「初めから感謝をしてほしかったわけじゃない。英雄などともてはやされる気もなかった。ただ誰もが幸福だという結果が欲しかった。

 ただ、それが叶えられたことはない。生前も死後も。守護者というものが受動的な装置であることは知っていた。死後、己が存在を守護者に預けた者は輪廻の枠から外れ人類種を守る道具になるのだと、それでも窮地にある誰かを救えるのならそれでいいと思った。だが実際は違う!」

 

 怒りを交えてアーチャーが話す。

 

「守護者は人など救わない。守護者がすることはただの掃除だ。既に起きてしまった事、出来てしまった業をその力で無に帰すだけ。霊長の世に害を与えるであろう人々を善悪の区別なく処理する殺戮者。馬鹿げた話だ。無力だった頃の俺と何が違う」

「一人でも多くの人間を救う。あなたは結局ただの一度もそれを叶えることがなかったというのですか?」

「そうだ。俺は……俺が救いたかった者をこそ、この手でそぎ落としてきた。正義の味方などというくだらない理想の果てにな。

 人間の後始末などまっぴらだ。だが英霊となった俺はそれを永遠に繰り返す。俺はもとより無。もし俺が消えられるとしたらそれは――」

 

 アーチャーの辿り着いた希望。希望と言うのはまりに黒く深い、そして淡い期待。叶わぬ方がほっとするような夢以下の期待。それに縋ってしまう程、アーチャーは追い詰められていた。

 

「英雄となるはずの人間を殺してしまえば、その英雄は誕生しないとあなたは考えるのですか」

「その機会だけを待ち続けた。永遠とも思える時間を、絶望と言う色に染めてな」

「それは無駄です。あなたは既に守護者として存在している。時間の枠から外れているのです。士郎を消した所で、貴方自身が消えはしない」

 

 英霊の座に入ってしまった以上、時の枠の外側に居る英霊。時間の修正力やタイムパラドックスすら彼等に影響を与えるには値しない。故にアーチャーの望みは叶わない。

 

「そうだな、だが可能性のない話ではあるまい。潰えるものが肉体だけではなく精神を含めるのなら……少なくともこの世界に正義の味方などという間違いは現れまい。

 どうした衛宮士郎。俺が認められないというのならここで自害して果てるがいい!」

 

 黙ったまま動かない士郎にアーチャーが声を掛ければ、士郎はしゃがんで脚元の剣を掴む。まさか本気で自害する気かとセイバーが焦る。だが士郎は冷静な声で話しかける。

「アーチャー。お前、後悔してるのか?」

「無論だ」

「そうか……それじゃやっぱり俺たちは別人だ。俺はどんなことになったって後悔だけはしない」

「何?」

 

黙っていた士郎が此処に来て反論をし始める。何故自分という末路(みらい)を見せられ、何故抗うのか理解できない。

 

「だから絶対にお前のことも認めない。お前が俺の理想だっていうなら、そんな間違った理想は俺自身の手で叩き出す」

「その考えがそもそもの現況だ。お前もいずれ俺に追いつく時がくる」

「来ない。そんなもの絶対に来るもんのか」

「そうか、確かに来ないな。ここで逃げないのならどうあれ貴様に未来はない」

 

 まはや言葉で士郎を折る事は出来ない。そう判断し、アーチャーが一歩づつ迫ってくる。その殺気を感じついセイバーが前に出てしまう。だがそれを止めるのは士郎だった。

 

「セイバー、ありがとう。でも下がっていてくれ、だってこれは俺がするべき闘いだ」

「わかりました。私は貴方達の戦いを見届けましょう」

 

 士郎の覚悟を聞いてセイバーが頷いて彼の後ろへと下がる。そして、士郎もアーチャーへと迫りながら衛宮士郎の魔術回路の起動ワードを口にする。

 

「投影(トレース)――」

「開始(オン)」

 

 アーチャーと士郎は両手に干将莫邪を投影し、今二人の戦いが始まったのだった。

 

「俺の剣製についてこられるか?わずかでも精度を落とせば、それがお前の死に際だ」

 

 そして、2人は互いの持つ剣で斬り合いを始めた。アーチャーという剣と衛宮士郎と言う剣、二振りの剣が、火花を散らす。

 

 

 

 

 

 

 

 





 どうしてUBWの此処はやっておきたくて。
 

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。