アーチャーに気絶させられた凛は、夢を見ていた。アーチャーの固有結界の光景から流れる、あの荒野の生れた歴史を。
自分よりも他人のために戦い続けた男の末路と絶望を。誰かのためにと血の滲むような努力をし、その生涯を追えるまで誰かのために戦い、死んでいった報酬があの荒野。自分の幸せを望まず。むしろ幸せすら避けながら、他者を幸福を望んだ。そして救った人間に裏切られ、殺された後は永遠に抜け出す事の出来ない現実と言う地獄だった。
その男は、守護者と言う星の抑止力に身を差し出した。それは生前と同じ人々を救えると信じたから。人間の枠から外れれば、叶わなかった全人々を救う事も出来る。そう勘違いしていた。誰よりも他人を救いたい男に与えられたのは、裏切りだった。人に裏切られ、世界に裏切られ、最後は自分の理想に裏切られた。そんな男の夢を見た。
そこで目が覚めると、凛は椅子に縛られた体勢だった。そして彼女を見るのはソファーに座ったアーチャー。
「アーチャー……説明して貰おうかしら」
「君がアイツの傍に居ては都合が悪くてね」
「……どうあっても士郎を殺すつもりなのね」
「当然だ」
凛の問いに対しアーチャーは即答する。それこそが正解であり揺るぎない事実だと言わんばかりに。
「あのような甘い男はいまのうちに消えた方がいい」
「士郎が甘いっていうのは言われなくてもわかっているけど、それでも私はあいつの甘いところが愛しいって思う。あいつはああじゃなくちゃいけないって……ああいう奴がいてもいいんだって救われてる」
「けどあんたはどうなの? そこまでやっておいて身勝手な理想論を振りかざすのは間違ってるって思ったわけ?」
員は黙りこむアーチャーにたたみかけるように語る。
「何度も何度も他人のために戦って、何度も何度も裏切られて、何度も何度もつまらない後始末をさせられて、それで、それで人間ってものに愛想が尽きたっていうの? アーチャー!?」
夢で見て、彼を見て、アイツを見ていた凛。彼女だからこそアーチャーの心の内を語ることが出来る。その言葉に何も言い返さない。何かあればすぐに皮肉を言い返すアーチャーが黙るしかなくなる。
「体は剣で出来ている、それが英霊になったあとアンタに与えられた呪文なんでしょう……何よそれ、呪いにもほどがある」
凛は、アーチャーの代わりに悲しむ。
「アンタの人生、何一つだって納得できない。アンタの馬鹿な生き方も、正さなかったアンタの周りも、もうどうしようもないくらい――納得できない」
誰かのために、なんて本気で言いながら本気で実行してしまった男。自分の人生を他者に与え使い尽くした彼。そんな生き方は人間ではない。凛の言葉はアーチャーの胸に届いた。しかし、アーチャーは止まらない。今更考えなそう事など出来ず、自分にはこのチャンスしかないのだから。
黙って立ち上がったアーチャーは、部屋の扉を開ける。落ち着いて凛が回りを見れば、其処は遠坂邸の見慣れた部屋だったのだ。
「なんで、ここに」
「この場所はお前が私を召喚した部屋だ。袂を分かつには、此処がぴったりだと思ってね」
「アーチャー!」
「まさか、君が遠坂邸に捕まっているとは思わないだろう。君は此処で全てが終わるのを待つがいい。縄は私の消滅と共に消える。では、私は行く」
そして、アーチャーは部屋を出て、遠坂邸を飛び出した。
今回は短め。