Fate/make.of.install   作:ドラギオン

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言峰教会2 

 セイバーと綾香にアーチャーを頼んだ凛達は、言峰教会の通路にて最終確認をしていた。

 

「3人とも、綾香と彼女のセイバーが時間を稼いでくれている間に、全部終わらせるわよ」

「本当に、キャスターを遠坂一人に任せていいのか?」

 

 木刀を持ちながら、キャスターの相手を一人引き受けた凛を心配する士郎。ルーラーもサーヴァントの相手を人間が行うことに疑念は尽きぬが、勝算のない事をする女性ではないと少しの間でも接してきた彼女は理解している。

 

「えぇお願い。かなり追い込まれるけど、助けには来ないで。士郎は前で、イリヤが使い魔で葛木先生をお願い」

「わかった」

「仕方ないわね。お兄ちゃんのためだもの」

 

 士郎とイリヤは役割に頷いて、了承する。そして残るはレティシアの姿のルーラーに目を向ける。

 

「ルーラーは、セイバーの相手をお願い。一番大変な役割だけど、信じてるわ」

「了解しました。ルーラーの名に掛けて、囚われの彼女を救いだしましょう」

 

 すぐに鎧姿になり、彼女の代名詞とも言える旗を取り出す。ステータスでいえば彼女なら、最優のサーヴァントであるセイバー(アルトリア)を長時間相手出来る。一時はどうなるかと思ったが、戦力で言えば自分達は恵まれている。 

 

「綾香の言っていた脅威が、どれほどかはわからないけれど。キャスターからセイバーとアーチャーを取り戻せば、必ず勝てる。そして、聖杯戦争は終わる。……行きましょう」

 

 凛が言いながら教会の地下室へと向かう。4人が地下に辿り着くと、其処には葛木とキャスター、そしてセイバーが立って居た。

 キャスターは中に入ってきた人数を見て、実に面倒な事になったと溜息を吐く。

 

「随分と仲間が増えた様ね。まさか、ルーラー以外にもセイバー(アルトリウス)まで連れてくるとは思わなかったわ」

「御生憎様、悪運だけは強いのよ私。やられたら倍にしてやり返す、それが私のやり方よ」

「そう。でも、どうする気かしら、ルーラーを連れているとはいえこちらはセイバー(アルトリア)と私の二人。どう考えてもこちらが優位よ」

 

 キャスターはそう言いながら、手に浮かび上がったセイバー(アルトリア)の令呪を見せる。そして、キャスターの傍に立つセイバーは、哀しげな表情で士郎達を見る。

 

「セイバー、すぐに助け出してやるからな」

 

 士郎が操られているセイバー(アルトリア)にそう言うと、彼女は剣を握りながら「逃げてください、お願いです士郎に凛、既に私は、令呪を使われています。このままでは、貴方達を」

 

 現在も必死に抑えているようだが、キャスターが彼等の侵入前に使った令呪によって、侵入者を殺すように命じられてしまった。抗い続けるにも限界があり、また士郎を傷付けてしまうことを恐れる。

 

「セイバー(アルトリウス)とルーラーを手懐けたのは褒めてあげる。だけど、駒が一つ足りないわ。肝心な計算が出来ないようでは、三流以下よお譲さん」

「前から思ってたんだけど、その格好がアレなのよね。今どき紫のローブなんて何処の田舎者よって感じでさ。それに、この魔術工房は何? 懐古趣味丸出しで笑っちゃうわ」

 

 明らかな挑発を孕んだキャスターの言葉。それを受けた凛は肩をすくめながら、目で相手を見下し、あえて挑発し返す。挑発の応酬、隣で聞いている士郎は女同士の戦いに若干以上に引いており、イリヤも年は取りたくないものねと感想を頭の中で呟く。

 

「まぁやだ、この時代の魔術師はみんなイノシシ頭なのかしら。これではアーチャーが見限るのも当然ね」

 

 そう言いながら、攻撃用の魔術を展開した段階で、キャスターの煽り耐性の無さが露見する。戦闘態勢を整えたキャスターの横で葛木も一歩前に出る。それに合わせて士郎も両手に投影魔術で干将莫邪を用意し、イリヤも髪を利用した使い魔を3羽用意する。

 

「本気で私に勝つつもりなの?」

「勝てるに決まってるじゃない。あなた見たいな三流魔術師に一流である私が負けるはずないんだもの」

 

 そう言いながら凛は宝石を指で掴んで構える。

 

「では、厳しくしつけてあげましょう。おいきなさいセイバー」

「く、逃げて!」

 

 キャスターに命じられ、魔力放出による加速と同時に飛び出すセイバー(アルトリア)。

 

「貴方の相手は私が努めましょう、英霊アルトリア」

 

 真っすぐ凛を狙って振り下ろされた聖剣を横から飛び出したルーラーの旗が受け止め、強引な力技で起動を逸らされる。それによりルーラーとセイバー(アルトリア)が一対一で戦う形となる。令呪による命令は、侵入者の排除。必然的にルーラーも含まれる。

 

「ルーラー、貴方は……」

「事情は察します。貴方を救いたいとこの場に来た彼等を信じてあげてください」

 

 会話しながらも令呪に縛られたセイバー(アルトリア)が、聖剣を巧みに扱ってルーラーを斬り裂こうとする。ルーラーも旗で受け止めながら、起動を逸らして対抗する。セイバーの回転の乗った強烈な一撃が繰り出され、旗から持ち替えた細剣で下から持ちあげるようにセイバーの攻撃の軌道を変更する。

 彼女にはセイバーを攻撃する意識は薄く、防戦に徹する構えが見られた。

 

「……すいません」

「頼みますよ、凛さん」

 

 

―――――――

 セイバーがルーラーと相手している間、士郎とイリヤは葛木。キャスターは凛が相手することで、戦闘を開始していた。どちらも自分達より格上の存在であり、セイバーを圧倒した格闘技術を持つ葛木相手に士郎が出来る事は時間稼ぎだった。

 凛の勝機を掴む瞬間を待ち続けるしかなかった。

 

「ぐあ」

「お兄ちゃん!」

 

 強化された腕から繰り出される打撃を何度も干将莫邪で受け止める士郎。しかし、自分の手元にある武器は、葛木によって何度も砕かれ、何発か打撃がもろに入る。そのたびに激痛に苛まれるが、すぐさま投影して新たな武器を持たねば、ならない。

 幸いなのが背後に居るイリヤの鳥型の遣い魔による援護射撃だろう。何度も士郎の窮地を救い、致命傷を与える隙を与えない。イリヤ自身への攻撃に葛木が切りかえれば、防御と攻撃を同時に行う針金のような鳥は、振るわれた葛木の拳に絡みつき、動きを封じようとするため彼も手をこまねいている。

 

(遠坂の方は……)

 

 とはいえ、劣勢なのは此方だろう。凛を見れば、キャスターの魔術に宝石魔術で迎撃しながら激しい魔術戦を繰り広げているが、討ち漏らした攻撃で傷を負っているのは凛だ。

 

「中々にしぶといわねお譲さん」

「……」

「疲労と恐怖で、減らず口も叩けなくなったようね」

 

 凛の手には既に宝石は無く、キャスターの魔術に対抗する手段は無いに等しい。

 

「では、この場で引導を渡してあげるわ。でも、誇っていいわ貴方。この私と魔術戦をして、今生き残っているんだもの」

 

 キャスターは、人間であり現代の魔術師である凛が自分と戦えた事を褒めた。だが、邪魔になることが分かった以上、生かしておく必要は無く。これで終いだとキャスターが凛に魔術による砲撃を用意する。

 

(その余裕、待ってたのよ)

「stark Gros zwei」

 

 キャスターが勝利を確信した瞬間、凛は何度も攻防によって投げた中で一つだけ発動していない宝石。キャスターの足元にある宝石を激しく発光させる。その光によって怯んだキャスター相手に凛の選んだ手段。

 それは、魔術で勝てないのなら魔術師らしい魔術師の苦手とする接近戦だった。

 

 魔力で自分を強化し、距離を詰めた凛は、彼女の師である言峰綺礼から習った、八極拳をもちいて強烈な掌打を叩きこむ。人体、その内臓を破壊する打撃を受けたキャスター。サーヴァントとは言え元は魔術を扱える以外は、ただの女性。

 生身の戦闘など経験した事の無い彼女は、攻撃を受けた事で吐血しダメージを受ける。

 

「あなた魔術師のくせに、殴り合いなんて」

 

 打撃のダメージが残りふら付くキャスター。しかし、凛はこの好機を逃す訳にはいかない。

 

「お生憎様! 今時の魔術師ってのは護身術も、必須科目よ」

「キャァ」

 

 足払いで、キャスターの耐性を見出し、一発二発と掌底を繰り出した後に、回転と震脚の合わさった強烈な突きがキャスターに突き刺さり、彼女の体を柱まで吹き飛ばす。その様を見て士郎は驚き、イリヤは(どんな魔術師よ)と心の中で突っ込みを入れていた。

 それでも一人の魔術師が神代の魔術師であり英霊であるキャスターを圧倒したのは事実だった。脳震盪を起こしたのか動かない。そこで止めを刺そうと凛が拳を構える。

 

「そこまでだ」

「凛!」

 

 先程まで士郎の相手をしていた葛木が凛へと矛先を変える。イリヤがそれを阻もうと使い魔で攻撃するも、それらを回避し凛に拳を振るう葛木。凛は咄嗟にガードの体勢に入り致命傷は避けるが、キャスターに止めを刺す事が出来なくなる。

 

「勝機を逃したな。体勢を立てなおすぞキャスター。油断して良い相手ではなさそうだ」

 

 葛木に護られるキャスターは、柱に凭れながらも起き上り、自分の治癒を始める。其処を狙ってイリヤが、鳥の形の使い魔を剣状に変え、射出する。しかし、反応した葛木の拳によって見事に破壊され、真に倒すべきは葛木だと思い知らされる。

 

「感謝しますマスター。貴方がいなければ、危ない所でした」

「世事は良い、想定外が起こったのだ。余裕など無いぞキャスター」

「えぇ、すぐに」

 

 葛木の言葉を聞き油断なく確実に凛達を殺そうと、回復を始めた瞬間。

 

「賢明な判断だ。だが、数秒早ければだが―――トレース、オン――」

 

 何処からともなく聞き覚えのある男の声、そして突然上空に現れた10本もの剣が葛木を狙って射出される。それを見たキャスターは、防御用の魔術を展開する隙も無く「宗一郎!?」と葛木の名を呼び、彼を庇う様に剣の雨をそのぜい弱な身体で受け止めた。

 か弱いと言える身体で、何本もの剣を受けたキャスターは、血塗れになりながら振りかえる。そして、葛木の顔をフードの外れた素顔で見た後、力無くふら付く。それを駆け寄った葛木が支える。

 

「無事ですか、マスター」

「あぁ」

 

 キャスターの問いに静かに答える葛木。彼の無事を知ったキャスターは心の底から安心していた。

「よかった――あなたに死なれては困ります」

 

 この時代に召喚され、前のマスターには裏切られ、それを殺した後に死にかけていたキャスター。彼女を救い、彼女のために戦うと決めた朽ち果てた殺人鬼。彼等の間には互いに言葉にしないが、確かな愛が芽生えていた。愛する男の胸で、裏切りの魔女と呼ばれたキャスター、真名メディアは、裏切ることなく彼を守れて良かったと感じる。

 

「でも残念です、やっと望みが見つかったのに……」

「悲観する事は無い。お前の望みは私がかわりに果たすだけだ」

 

 心残りはあった。いやむしろ生まれてしまった。それを葛木は叶えると消滅を始めたメディアに告げる。メディアは葛木の頬に触れ、愛しい彼に伝えた。

 

「それは駄目でしょうね――だって私の望みは……さっきまで叶っていたんですから」

 

 そう言い残しキャスターは本当に消滅した。葛木と共に生きる事、それこそが彼女の願いだったのだと、彼自身失ってから気が付いた。無言で立つ尽くす葛木に誰も言葉を掛けられない。敵であった筈なのに、凛達は彼に攻撃をする事が出来なかった。

 そしてキャスターが討たれた事で、令呪から解放されたセイバーは、ルーラーとの戦闘を止めた。

 

「終わったのですか?」

「えぇ、そのようですね」

「肩を貸します。貴方には返しきれない恩がある」

 

 セイバーと戦い、終始防衛に徹したルーラーは、身体の至る個所に切り傷があるものの重症は負っていなかった。ただ、防戦一方で神経と体力をセイバー以上に使い消耗しているのは当然だった。セイバーが剣を振るのを止めると、旗に凭れながら肩で息をしている。

 そんな彼女に肩を貸すようにするセイバー。だが、キャスターからの魔力供給も無く、魔力を膨大に使用したため彼女も実質満身創痍だった。早くマスターを見つけなければ、消滅してしまう程に。

 

 そして、静まり返った地下室に何箇所か大きな傷跡のあるアーチャーが現れる。

 

「アーチャー、もしかしたらって思っていたけど――そういうこと?」

 

 突然現れ、キャスターを狙撃したのはアーチャーだった。

 

(投影、開始(トレース・オン)。たしかに奴は口にした。寸分違わず俺と同じ言葉を)

 

 アーチャーが剣を呼び出すときに口にしたのは、士郎が魔術回路を起動するワード。それをアーチャーが口にする事の意味。士郎は、アーチャーの正体に心当たりがあった。

 

「獅子身中の虫か。初めからこれを狙っていたなアーチャー」

「あぁ、ただどちらかと言えばトロイの木馬であろうよ。倒されたのはギリシャの英霊なのだから」

「そうか、お前のような男を引きこんだキャスターの落ち度だったな」

 

 葛木の言葉にアーチャーは皮肉を交えて答える。それに足して葛木の返答は冷めたものだった。だが、静かな声と裏腹に葛木はアーチャーに殺気を向け歩み寄って行く。自らの間合いにアーチャーを引きこみ、殺す為に。

 

「続けると言うのなら止めはしない」

 

 干将莫邪を投影し、それで葛木を迎え撃とうとするアーチャー。それを見てルーラーが葛木を止める。

 

「貴方はもうマスターではない、サーヴァント相手に魔術の援護も無しで戦えば、死ぬだけです。彼女は貴方を護るために」

「そうだな。確かに、お前の言う通りだ」

 

 ルーラーの言葉を肯定しながらも、葛木は歩みを止めない。処刑台に自ら進んで歩く彼の姿に、士郎達は言葉が出ない。

 

「だが、これは私が始めたことだ。それを途中でやめることはできない」

 

 葛木はもう止まらない。独自の暗殺拳の構えを取り、アーチャーへと殴りかかる。だが、彼は強化を受けず、サーヴァントに対する攻撃力は皆無に等しい。さらにセイバーすら倒した技も傍で見ていたアーチャーの前では、無意味だった。

 またたく間に両腕を切られ、無力化されたのち。腹を刺され血を流しながら倒れる。一方的で勝ち負けの分かった戦い。それでもキャスターのために戦った殺人鬼は、沈黙した。

 

 

 


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