Fate/make.of.install   作:ドラギオン

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言峰教会 

 凛達の目的であるセイバー(アルトリア)とアーチャーの奪還。それを手伝うことになった綾香とセイバー(アルトリウス)。ルーラーも綾香からもたらされた情報から、共通の敵を見つけた事で例外的にサーヴァントを持つ綾香達と協力することになる。

 

 ルーラーの聖水を用いたサーヴァントの探知によって、キャスターとアーチャーとセイバーが言峰教会に居る事が発覚する。そして侍の姿のアサシンと距離が離れている事を教えられる。

 

「どうして、キャスターはアサシンと別行動しているんだ? あのアサシンなら立派な戦力になると思うんだが」

「彼はキャスターと契約していますが、よりしろは柳洞寺の山門です。彼は其処から離れられないという訳です。士郎くん」

 

 士郎の疑問に丁寧な応答をするルーラー。彼女によって言峰教会に集まったサーヴァントは3騎だと判明。セイバー(アルトリア)とアーチャーが敵対したとしても予定通りキャスターの相手は、凛が努める事が可能。それなら余計に好都合だと作戦は決行する事になった。

 一応、綾香がセイバー(アルトリア)とセイバー(アルトリウス)の関係。明らかにセイバー(アルトリア)が取り乱す可能性があると伝える。だが同じアーサー王である以上、もしセイバー(アルトリア)が取り乱した場合は必ず抑えると告げるセイバー(アルトリウス)。だが基本は、セイバー(アルトリウス)とセイバー(アルトリア)の衝突は避ける方向で話が付いた。

 

 全員の役割を確認して、凛達は言峰教会へと向かう。

 

―――――

 

 ぞろぞろと言峰教会の前に現れた凛や士郎達。彼らの来訪を知っていたのか門番のようにアーチャーが現界する。

 アーチャーは集まったメンツを見まわし、イリヤと綾香とセイバー(アルトリウス)を見て肩をすくめる。

 

「君の事だ来るとは思っていた。だが、これは予想以上だな凛」

「そう、随分と見くびられたものねアーチャー」

 

 全員を代表して凛がアーチャーを会話する。士郎は凛を裏切ったアーチャーを警戒して、木刀に手を伸ばすが隣に居るルーラーがそれを手で制す。

 

「何らかの手段を考え、実行するとは思っていたが……そちらのセイバー(アルトリウス)とマスターを味方に付けたか。それにアインツベルンのマスター。君の人望の評価を見改める必要があるな」

「裏切ったこと、絶対後悔させるって言ったでしょ」

「……とはいえ、私はキャスターに門番を命じられている。生憎だが私は君達を通す訳にはいかない」

 

 凛が凄みながらアーチャーを問い詰めるように言う。アーチャーはその睨みを受けて、やれやれと言ったジェスチャーを取る。だがこの場を素通りさせる気は無いらしく、両手に黒と白の夫婦剣を投影する。その剣を見るたびに、士郎は何か胸騒ぎを感じる。

 そして、戦闘準備を整えたアーチャーに対して、予定通り綾香とセイバー(アルトリウス)が前に出る。

 

「ほう、君達が私の相手か。一つ尋ねるが、別の陣営である君達が何故協力する?」 

「一つは、我々の目的と彼等が分かり合えると判断したからだ」

 

 アーチャーの問いに対して、綾香の横に立つセイバーが騎士鎧を魔力で構築し、鞘に収まった剣を手にする。整った顔立ちで貴公子然としたセイバーだが、アーチャーに向ける表情は、明らかな敵意と嫌悪だった。

 

「それでもう一つは?」 

「それこそ君に理解できるとは思えないな。だが、あえて言うなら同じサーヴァントとして、君の利己的な裏切りを看過する事は出来ない」

 

 セイバーは、自分の主を裏切り敵対するアーチャーの在り方を許せなかった。アーチャーから感じる剣の腕は、自分より下だと感じる。力量でいえば、自分の方が剣では圧倒出来る。だが才能に頼らず磨き上げられた無骨な弓兵と思えぬ技術には、血の滲む努力や決意を感じさせる。それだけ生前は過酷だったのだろう。

 才能を補う血反吐を吐くような努力の結晶が、以前の打ち合いで感じ取れる。故に、才能に絶望せず、唯一の剣技を磨き上げた彼が、平然と主を裏切る不義理だとは思わなかった。

 裏切りはどの時代においても存在する。現代や過去、自分の居た時代にも存在した。自分も集いし同志達の叛逆によって命や国を失った。だからと言って、裏切りが正しいという哀しい現実は、在ってはいけない。   

 

「ほう、優男だと思っていたが、随分と怖い表情をするのだな、もう一人の騎士王。自分も裏切りによって殺されたが故に、私が許せないか」

「少なくとも、誇りを無くしたサーヴァントと言う存在は、許す訳にはいかない」

 

 セイバー(アルトリウス)が透明の剣を構えながら、アーチャーと戦闘する段階に入る。アーチャーも正面から叩きつけられる殺気に軽口を止める。

 

「遠坂さん、行って! 私とセイバーが彼を抑えるから、キャスターを」

「綾香、セイバー……頼んだわよ。行くわよ士郎、イリヤ、ルーラー」

 

 アーチャーを倒すのでは無く抑えると言った綾香。その言葉を聞いて、凛は頷いて他のメンバーを連れて、教会内部へと向かう。自分の真横を素通りする凛達だが、アーチャーは一切意識を向けられない。

 殺気一つでセイバーは、アーチャーから余裕を奪う。視線一つでも逸らせば、首を切りとるという物理的にダメージが発生しそうなほどの殺気。

 それを向けられては、全神経をセイバーに向ける他ない。

 

「綾香、アーチャーは僕に任せて、周囲を警戒してくれ。何かあれば迷いなく令呪を」

「わかってる。セイバー、全力で戦って」

「ご期待に、堪えるとしよう」

「やれやれ」

 

 セイバーがアーチャーに向かって駆け出す。それに合わせてアーチャーも白と黒の夫婦剣、干将莫邪をクロスしながら跳び出す。風を切りながら走る2人は音を置き去りにして、衝突する。体格的にはアーチャーの方が大きいのだが、衝突の衝撃で後ろに飛ばされたのはアーチャーの方だった。

 

「くっ」 

 

 セイバーは、衝突の瞬間に魔力放出による急加速と恵まれたステータスから来る膂力でアーチャーを吹き飛ばす。地面を踏ん張りながら衝撃を殺そうとするアーチャーだが、加減を捨てた騎士王の魔力放出による筋力と俊敏の爆発的増加に、対処が遅れる。

 僅か二合の撃ち合いで干将莫邪が砕け、新たな干将莫邪を投影しつつ防御する。しかし、防御の上から叩きつけられる強烈な一撃に、武器やアーチャーの身体が悲鳴を上げる。

 

「ハァ! フ!」

「く、っ、がっ」

 

 柳洞寺での戦闘でセイバーの戦闘は、把握したつもりだった。だがあれは、魔力放出を控えた動きであり、マスターである沙条綾香の許可の元魔力をふんだんに使うセイバーの動きは知らない。そもそも、教科書通りの剣術かと思えば、明らかに実戦向けの荒々しさを持ちながら、卓越した剣。

 全てが自分を上回り、さらにはステータスの差や魔力放出によるブーストを受けて、紙一重で凌ぐアーチャーに余裕は生まれない。少しづつ傷が増え、血が流れる。

 

 

(すごい)

 その戦いを見る綾香は、セイバーの本気の白兵戦を見て圧倒される。何度か見てきたセイバーの戦い。でも、それは自分のせいで相当無理をさせていたものだった。でも、今マスターとして魔力を供給した後のセイバーは、強い。

 

 セイバーの横凪払いがアーチャーの干将莫邪を粉砕すると、アーチャーがあえて後ろに跳ぶ事で距離を取る。だが、既に肩で息をしており生傷が絶えない。

 

「どうしたアーチャー、君の力は以前見せて貰った。油断を誘っているのかい?」

「本当に、女のセイバーと同じなのかと思ってね。彼女はマスターに恵まれていないとはいえ、本質は別な気がしてね」

「……同じだよ。僕も彼女も、選定の剣を抜き、円卓を集い、ブリテンを守って、最後は息子の剣で死んだアーサー王だ。

何が言いたいかは分からないが、僕と彼女の差異に、興味があるのかな」

 

セイバーが前に出ようとした瞬間、アーチャーが黒い弓と矢を投影。後ろにジャンプしながら連続で矢を射る。

魔力を帯びた矢は、全てセイバーへと向かう。

 

「風王鉄槌(ストライク・エア)!」

 

 剣を隠す風の鞘を解き放ち、前方へと暴風が襲いかかる。その突風に翻弄されたアーチャーの矢が砕かれ爆発する。そして、竜巻の中をセイバーが駆け抜け、アーチャーとの距離を詰めようと迫る。

 

「ん、これは」

 

 セイバーがアーチャーへと距離を詰めた時、アーチャーの口元が上がりセイバーは直感によって、自分が投げられた6本の干将莫邪に囲まれている事に気が付く。干将莫邪は互いに引きつけ合う性質を持ち、それに囲まれたと言う事は、中心に居る自分へと向かってくると言うこと。

 アーチャーは端から、セイバーとの接近戦など行うつもりは無かった。この一瞬に掛けていたのだ。既に四方からの攻撃で囲まれている。

  

(さぁ、どうするかねセイバー) 

 

 アーチャーが更に弓を構えた瞬間、魔力放出による加速で上空へと飛び上がるセイバー。予想以上に速い動きで跳んだセイバーの身体を射ぬくため矢を放つ。

 空中で回避のできないセイバーを4発の矢が襲いかかる。しかし、その四本の矢をセイバーは全て剣で切り裂いた上、風王結界をブースターに、急降下する。

 

 そして、着地したセイバーがアーチャーへと切り掛る。咄嗟に持って居た黒弓で防ごうとするも、最高峰の聖剣とぶつかれば一方的に打ち砕かれるのは必然。だが、武器を出す隙は作れた事で、干将莫邪を手に持ってセイバーと鍔競り合いをする。

 

「まじまじと性能の差を見せつけれるとはな」

「そうかい? 私には君が全力を出していないように感じるが?」

 

 会話しながらもアーチャーと何度も剣と剣を交わし火花を散らすセイバー。決して相手を侮る訳ではないが、アーチャーの動きは何処か戦闘にやる気を感じられない。必要最低限の動きをして、足止めや時間稼ぎをしているように感じた。

 だが、2人は剣を止めない。マスターのために目的を捨てたセイバーと目的のためにマスターを裏切ったアーチャー。2人の戦いはさらに激しさを増したのだった。 

 

 

 


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