Fate/make.of.install   作:ドラギオン

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協力体制

 

 アインツベルンの森から脱した6人は、無事衛宮家へと辿り着いていた。車庫がないため路上駐車になったが、車の通りが少ないので一日くらいなら問題ないと士郎が言う。

 

 全員を落ち着かせるため、士郎はお茶を淹れて座っているイリヤ、凛、綾香に湯呑を渡す。ルーラーとセイバー達は、見張りのため、屋根と庭に出ていた。

 だんまりで時間を潰すほど、余裕はない。今夜にでもセイバー(アルトリア)とアーチャーを取り戻さなければいけない。そのためにイリヤに協力を申し出に行ったのだが、結果は混乱を呼んだだけ。ルーラー方の前知識でギルガメッシュの事は知っていたが、バーサーカーを一方的に撃破する英霊だとは思わなかった。

 今回の騒動でのメリットは、御三家であり聖杯であるイリヤの確保と沙条陣営との合流。なによりセイバー(アルトリウス)を連れた綾香との合流は大きい。

 

「沙条さん……めんどうね、綾香って呼ばせてもらうわ」

「うん」

「まず、その眼の色の事とかは聞かないわ。魔術師だもの、その家系に伝わる秘術かなんかなんでしょ」

 

 凛は初めに気になっていた綾香の瞳。愛歌の持って居た厄介な魔眼が綾香にも表れている事が魔術師として気になったが、相手の手の内を下手に暴いて反感を買ってはいけない。

 

「それは……ありがとう。私も説明は出来ないから」

「こっちは、綾香に協力を頼まなきゃいけない立場だしね。先に私達の現状を話すわ。イリヤも聞いていてくれるかしら?」

「えぇ」

 

 サーヴァントを失っていても、御三家の一人として現在の状況と聖杯戦争の今後について話さなくてはいけない。イリヤもバーサーカーを失ったショックから脱してはいないが、貴族としての矜持と自尊心が彼女を支える。

 

 凛の話す内容は、キャスターによってセイバー(アルトリア)が奪われアーチャーが寝返った事。そしてルーラーによって齎された聖杯戦争の異常、ルール違反などにより聖杯戦争が機能していない事などである。 

 

「そうね、私もおかしいと思っていたわ凛。聖杯戦争によって現界する筈の聖杯の器、そこには倒されたサーヴァントの魂が注がれるのが常よ。けど、聖杯の器にはバーサーカーの魂が注がれてないの」

 

 凛の話を聞いて、アインツベルンのホムンクルスであるイリヤは、感じていた違和感を語る。自分の目の前で消滅した筈のバーサーカーの魂は、イリヤの心臓へと注がれる。だが実際バーサーカーの魂は、イリヤの心臓ではなく別の器へと流れて行った。

 それゆえに通常の英霊よりも容量のあるバーサーカーの魂を受け入れていない事が、本来ホムンクルスである自分にもたらす悪影響を防ぐのは不幸か幸いか。

 

「私達の情報はこんな所ね。綾香、話して貰えるかしら?」

「まず、私やお姉ちゃんが参加する事になったのは………」

 

 凛に話を振られて綾香が自分の令呪が、命を奪う代物であることセイバー(アルトリウス)を召喚した経緯、これまでの戦いなどを話した。それを聞いて凛とイリヤは、本当に参加する意思がなく何が何でも聖杯戦争を無効にしようとしていたのだと改めて感じる。

 出来る限り説明する綾香だったが、流石にブレイカーやアルカの詳細な情報は語れないし、知らない事も多い。さらに、聖杯戦争にはセレアルトというアルカや自分と同じ魔眼を持った怪物が居る事、そして姉が変わってしまったのは、アンの死が原因だと伝える。

 

 アサシンのサーヴァントである彼女が死んだことが、愛歌の琴線に触れたのだと知り、凛は納得した。イリヤもギルガメッシュと戦う原因となったのはリズとセラを殺されたからだ。

 士郎は、同じ学校に通う同級生としての認識が濃かったアンが死んだと聞いて、素直にショックを受けた。拡大して行く犠牲者に、はやく何とかしなければいけないと感じる。

 

「アンタ達、ほんとう、もう」

「御三家としては、参加者の半数が勝利を望んでいないなんて、何か情けない話ね」

 

 士郎と綾香、そして愛歌などを思い浮かべて彼女達は戦いに巻き込まれただけの犠牲者だと知ると冬木のセカンドオーナーたる凛は、余計に自分の不甲斐なさが浮き彫りになる。令呪で棄権する事も出来ず、戦うことを余儀なくされた陣営など、被害者以外の何ものでもない。

 そもそもとして聖杯戦争は破たんしていたのだ。

 

「私達が立てなければいけないのは、愛歌ですら敗走するセレアルトの対処ね。ある意味倒してしまえば、正常に戻るかもしれないわね」

「けど、お姉ちゃんは絶対に手を出してはいけないって」

「気持ちは分かるは。正直話を聞いてる限り、勝てる気が微塵もしないもの。けど冬木を管理する遠坂としては、そんな第一級危険人物を放置しておける訳ないのよ」

 

 だからこそ、と凛は机を軽くたたいて士郎とイリヤと綾香の目を見る。

 

「私達の目的は変わらないわ。私達の知るセイバー(アルトリア)とあのニヒルな馬鹿(アーチャー)をキャスターから取り戻さなきゃいけない。何をするにしたって戦力は必要だもの」 

 

 凛の結論は変わらない。冬木に根を張るキャスターを倒し、2人のサーヴァントを取り戻す。結果は変わらないのだ。彼等を連れ戻さない限り、脅威(セレアルト)と戦える筈がない。幸い、こちらにはルーラーとセイバー(アルトリウス)が居る。話によればセイバー(アルトリウス)の実力は高く、セイバー(アルトリア)とアーチャーとの交戦経験もあることから自分がキャスターを相手する時間を稼いで貰える。

 綾香も魔術師としては、実力が不明だが葛木の相手を士郎が請け負うとして、援護射撃くらいは期待できる。

 

「愛歌はきっと負けない。負けたってただで負ける奴じゃないわ。だからこそ、愛歌が稼ぐ時間を無駄にしては駄目よ」

「随分とあの女を信頼するのね」

「少なくとも100回近く苦汁をなめさせられてるからね。アナタも似た口でしょ?」

「ふん」

 

 図星のためイリヤは、少し拗ねる。だが、その隣で綾香は難しい表情をする。

 

 

「遠坂さん……」

 

 凛の言葉と自分の見た姉の死。それが綾香の表情を曇らせる。しかし、凛はその顔を見て、溜息を吐く。

 

「良い事綾香。アイツがずっと護ってきた貴方が、アイツを信頼してあげなくてどうするのよ。愛歌が負ける事より、帰ってきた愛歌に好物でも食べさせる事でも考えてなさい」

 

 きっとだらしない表情で喜ぶから。と付け加えた。

 

ーーーきゅぅうう。

 

 決行するなら、ギルガメッシュを愛歌が抑えてくれている今なのだ。だが、決行を決意した時、凛のお腹が鳴り始める。ばっちり決めた所でお腹の蟲がなってしまい、一気に顔が赤くなる。 

 それを見て士郎と綾香は緊張を解かれて笑い、イリヤは馬鹿にするような表情で彼女を見る。

 

「まずは、腹ごしらえだな。腹が減っては戦は出来ない」

「お兄ちゃんの言う通りね。戦う時になって、腹の音が気になってたら戦えないわ」

「わ、私もお腹が空いたかな」

「アンタ達、余計なフォローはいらない! 後イリヤ、アンタはただの嫌味でしょ」

 

 立ち上がった士郎は、台所へと向かった。転機とは今日なのだ。故に如何に動くかによって未来が大きく変わるのだ。絶望よりも希望を求め、彼等は戦いに赴くのだった。

 

 

 

 




 

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