Fate/make.of.install   作:ドラギオン

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妖精の血

 

 時を遡り10分前。よりによってアインツベルンに向かった凛達を追って、車で向かった綾香と愛歌、そしてサーヴァント二人。アインツベルンの森の結界が強引に突破され、城の方角でサーヴァントのぶつかり合いを感じてサーヴァントに抱きかかえられる形で森を進む。

 

「綾香、舌をかまないようにしていてくれ」

「うん」 

 

 なるべく衝撃を伝えないように森を抜けていく。先人が切り開いた通路を通って罠を全て回避しながら、最短距離を進む中で無気力だったアルカが走るブレイカーにある場所を指さす。その意図を察して、方向転換するブレイカー。それに追従するアルカとセイバー。走って数十秒して辿り着いた場所は、激しい戦闘の余波で木々がなぎ倒され、地面にいくつものクレーターが出来て居る場所だった。

 そのクレーターに辿り着いた途端、アルカは自分の足で立ってクレーターを作ったであろう、地面に突き刺さる魔力を帯びた槍。

 

「マスター、これは……」

「ん……10年前にアーチャーの使っていた宝具。そして、アンの魔力は此処で……」

 

 クレーら―の中に手を当て、魔眼で魔力の痕跡を探れば槍は間違いなくギルガメッシュの魔力を帯びており、少量のアンの魔力と水銀がその場に残っていた。アンの消息不明の理由、それはアンの消滅を色濃く決定づけていた。

 アルカは何も言わずに、首を横に振る。

 アンの死が決定したとあって、綾香は悲しみから涙がこぼれる。アルカが泣かない今、彼女を失った悲しみを涙で現わせるのは綾香だけだった。  

 

「あの金ぴかの人が、アンお姉ちゃんを殺したの? こんなの……こんなのって」

「綾香。落ち着くんだ、此処は既に戦場。君が取り乱したら、彼女の想いを踏みにじる事になる」

 

 ポロポロと眼鏡の奥、七色の瞳から涙を流し、悲しみをこらえられない綾香に付添うセイバー。彼はアンの死を悲しむよりも宝具を雨のように射出するサーヴァント、10年前のアーチャーからマスター達を護る事に神経を向けていた。

 自分と同等か格上を相手に、綾香をいかに護り通すかを既にイメージしていた。予め情報を与えられた事から、綾香を護りながら戦う術を思案する。

 

「でも、でも……アンお姉ちゃんは、私にとっての本当の家族だった。それを殺されて、落ち着けるわけない」

「だが、綾香のこの戦いでの目的は、復讐ではない筈だ」

 

 我武者羅に動いた所で、深みに嵌るだけだとセイバーが宥める。肉親やそれに近い存在を失う悲しみは理解できる。それも痛いほど。復讐が何も生まないとは言わない、だが復讐に囚われるには今は危険すぎる。それを伝えたいセイバーを支援するようにアルカが泣く綾香の頭を撫でる。

 

「セイバーの言う通り、私やアンの目的は綾香を守ること。命を投げ捨てるような真似はしないであげて」

「おねぇえちゃん」

 

 それでも涙が止まらない綾香の流れる涙をハンカチで拭うアルカは、綾香を安心させるように、抱擁する。アンの失って哀しいのは自分も同じ。ここで取り乱す綾香は、彼女が優しいからだ。優しいからこそ、激しく取り乱してしまうのだ。

 だが、英雄王を相手に綾香とセイバーが戦う事は許せない。

 

(……なら、ここで涙一つでない私は何なんだろうか)

 

 怒りはあるが、涙が出ない。在るのはアンの仇を討つ事のみ。一体何処で予定が狂ったのか、後悔をし始めれば、キリがない。ただ、人間として聖杯戦争を勝ち抜こうとしている事が、アンを失った原因の一つである。

 

「アンの仇は、アンのマスターである私が討つから、貴方は生きる事を考えて」

 

 力がないから、アンを死なせ、綾香を危険にさらしてしまった。自分の願いのせいで、家族を護れないなら……人である必要がない。アルカは、自分の首に掛った指輪、10年前にウェイバーと連絡を取るためにブレイカーに渡された礼装を掴む。

 この十年間でその礼装にはもう一つ新たな魔術が施した。

 

「相手が金ぴかの場合、マスターの魔力が足りるかわからないぞ? 俺の魔力でも戦えるが、俺を抑えられないなら全力は出せない」

 

 戦闘自体は、受肉したブレイカーの魔力で可能。だが全力で戦った場合は、自分大き過ぎる力を改めて封印する魔力が必要。ブレイカーの破壊の刻印は、サーヴァントブレイカーを封印するための術式なのだ。普段の破壊力は、刻印から漏れた余剰魔力(この世全ての終わり)が引き起こす現象。もしそれが際限なく溢れだせば、使用者のブレイカーの意識に関わらず世界全土を更地に変える。

 強大な魔力を持ちながら、常に制限を設け戦うしかないブレイカー。しかしギルガメッシュと本気の殺し合いをするなら、この世全ての終わり(ブロークン・ファンタズム)を使用しないのは不可能。

 しかし、現在のアルカは、弱体化した事で魔力量自体が減っている。魔眼を綾香に移植した事、そしてもう一つの要因がある限り、アルカにはブレイカーを制御できないのだ。

 彼の言わんとする事はわかっているアルカは、自分の首に掛った指輪を繋いだネックレスを外す。

 

「おい、マスター! 本気じゃないだろうな? それを壊せば」

 

 ウェイバーとの繋がりであり、拠り所である指輪をアルカは手で握り締める。それは指輪そのものを魔力で破壊するため。

 

「ん。これを壊せば私の妖精の血が、強くなる。寿命は果てしなく長くなり、人として生きる事は難しくなる」

 

 指輪に込められた魔術は、アルカの中に流れる妖精の力を弱めるもの。人間を知り、人間になりたい。愛する家族と共に生きたい、愛する人と一緒に人生を歩みたいと願ったアルカにとって幻獣種の寿命や力は、不要となった。

 ”人として生きたい”という”祈り”が、聖杯戦争時の軌跡と同じ現象となりアルカの進化を止めた。その時からアルカの人間離れは止まり、不思議な力が発現する事は無くなった。常識外れの魔力や解明不可能な力、全てが封じられたのが指輪なのだ。不安定なそれが無くなった事で、人の力を真似し人として戦うことが可能となったアルカは強くなった。

 だが、相手が人間でないなら、自分が人間の皮を被る事に限界が生じる。セレアルトとの接触によって、自分の脆弱さが浮き彫りになった事が躊躇を無くす。掌の中で突然燃え上がった指輪は、やがて全体をガラスのように透明に変え、容易く砕け散る。

 人としての生の終わり、ウェイバーとの繋がりを自分で破壊することで、アルカは後戻りが出来なくなる。拘束具を外し、全身に血が巡るような感覚がアルカに走る。風が吹き抜け、髪を揺らした時、無理矢理せき止めていた魔術回路全てが開く。人間の時とは違う無尽蔵の魔力が快適に流れる感覚、自分は二度と人間の時の窮屈さに戻れないと感じる。

 

 数秒時間が過ぎるだけでも、自分の何かが変わって行くのを感じる。

 

「……後悔は無いのか? また妖精の血が抑え込めるとは限らない」 

「逆、後悔しかないわ。

 綾香、少しだけ良い?」

 

 人間としての生を諦めたアルカは、綾香を呼び寄せて、セイバーとブレイカーに聞かれないよう小さな声で彼女にだけ言葉を伝える。その言葉を紡いだアルカは、綾香から見ても愛する姉から大きく変質しているように感じる。

 そして彼女から告げられた幾つもの言葉に激しく動揺する事になる。しかし、優しい声色で話す姉の、瞳を見れば逆らうことが出来なかった。

 

「……この3つだけは、約束してくれる?」

「本気で言ってるの? 最後のは、どう考えても」

「ん。第二のセレアルトを生み出す訳にはいかない。だから、綾香に頼みたいの。覚悟が決まらないなら、令呪でセイバーに命じなさい」

 

 アルカは話を区切ると、綾香の返事も聞かず出発を決行する。

 

「二人ともお待たせ、戦争を始めましょう」

 

 この場所に居たら、聖杯を奪われる。セレアルトがどう言った理由で聖杯を求めるかは謎だが、先に確保しておく事に間違いはない。すぐにセイバーに綾香を抱き上げさせたアルカは、ブレイカーと共に城へと向かった。 

 

 そして、激しい戦闘を見届け、イリヤと凛と士郎がルーラーに護られている状況で、ブレイカーと共に飛び出した。今狙うは、アンを殺した可能性が一番高い英雄王ギルガメッシュの首。

 それが終われば、アレの始末をつけなくてはいけない。

 

 


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