Fate/make.of.install   作:ドラギオン

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ちょっと台詞が多くなります。


嵐の前の静けさ・1

 アルカとウェイバーは、家に着くとすぐに着替えて眠りについた。ウェイバーは召喚による魔力の消費と気疲れにて就寝。アルカは、夜中に出かけた事がばれないようにマッケンジー夫人の隣に眠る。そして、マスターたちも完全に眠り静寂が戻る。

 

 そんな中、マッケンジー宅の屋根の上で実体化したブレイカーが周囲を見渡していた。マスターが安心して眠れるように5感全てをフルに強化した上で、周囲の安全に気を配っていた。彼には、一つ気がかりな事があったからだ。

 

(あのアサシン、英霊にしては霊核が弱すぎる気がする。そして、気配すら感じる事は出来ないが、嫌な予感がする)

 

「よぉ、ブレイカー」

「ライダー」

 

 屋根の上で警護を務めるブレイカーの背後で、先程まで大人しくしていたライダーが実体化したまま屋根にのぼって来る。何の用だとブレイカーは振り返ると、彼はブレイカーを見抜くような鋭い眼力で射抜く。

 

「こんな夜更けに如何した征服王」

「なに、主君のために寝ずの番についておる家臣に、労いをと思ってな。どうだ、一杯」

 

 真夜中で寝静まった家で、マッケンジーさんのワインを少しくすねてきたようだ。既にマッケンジー家は、征服王の手によって征服されたようで、略奪される対象らしい。

 

「さすがに、感心できないぞ征服王。マスターに接触禁止だな」 

「そうじゃけんにするでない。少し拝借しただけだ、それに秘蔵のには手を出しておらん。最悪坊主が弁償する」

「また怒ると思うぞ、あの坊ちゃん」

「征服王たる余のマスターが、ケチくさい事を言うのなら、矯正するまでよ」

 

 どうあっても目の前の男は、自分のやりたい事を実行するのだ。ならば従うほかないと、彼の手渡してきたグラスを受け取り、そこに征服王がワインを注ぐ。その後自分のグラスにもワインを注いだ。今日は満月でないものの月が大変綺麗で、ワインに月の光が反射する。

 

「まぁ、この戦争を共に闘う者として、杯を交わすのも余の采配だ」

「別に気を遣わないでいいんですがね。まぁ乾杯」

 

 ライダーとブレイカーの二名は、ワイングラスで乾杯すると一気にワインを飲み干す。ごくごくと喉が鳴り、ワインが食道と胃をアルコールで焼いて行く。それが気持ちよく、飲み終わった後のブドウの豊潤な香りが、後味として残る。

 

「うまいな」

「この時代に、新たな楽しみが増えたわい」

 

 その後、2人でワインを酌み交わしていき、小さなボトルはすぐに空になる。お互いに酔う素振りはなく、互いに酒豪である事が見て取れる。そして、飲み終えたグラスを屋根に落ちないように置いたブレイカーが隣に腰掛けるライダーに問うた。

 

「で、何が聞きたいんだ征服王」

「ふん、他にあるまい? お前さん等の正体だ」

 

 空を眺めながら、ライダーは確信を突いてくる。その質問に、どう考えてもアルカは答えられない。なら、自分の聞くのが正解だ。確かにクラスは告げたが己が真名を、彼は告げて居ないのだ。

 

「正体ね。明かせる部分だけでいいか?」

「かまわんよ。これは尋問ではなく酒に酔った余の興味本位に過ぎぬからな。たとえ失言しようと酒に流されることもあろうな」

「まず、真名は明かせない。明かせるのは、俺が通常の召喚では、絶対に呼び出せぬ存在と言う事だ」

「やはりな、貴様は何処か我ら英霊とは違う……」

 

 話せる事だけ話すブレイカーに、人を見る目はあるライダーが納得して行く。召換と同時にブレイカーに刃を向けた理由はそれだった。だが、ブレイカーの正確な人となりを見た結果、信頼する事に決めたのだ。

 

「俺は反英霊って奴だな。今話せるのはそれだけ。次にマスターの事だが、俺もアイツの事はほとんど知らない」

「まるで産まれたばかりの赤ん坊か人形の様であったな小娘は」

「同意見だ。本来召喚されない俺を呼び出したアイツは、未知の存在だ。俺は、聖杯戦争に参加するのが目的じゃない、マスターの願いを叶えるのが目的だ」

「おかしな話だな。聖杯に望みはなく、本来聖杯に望むべく願いをお主が叶えるのか?」

 

 ライダーの疑問はもっともである。

 

「俺に叶えられるのは、壊す事だけだ。俺と言う破壊しかできない反英霊を呼び出す人間が何を破壊したいのか、尋ねたい。それが俺の望みだ。俺と言う存在の価値を知ることが目的とでも言うのかね」

「……その望みは、小娘相手では無理だろうな」

「其処がネックなんだ。俺を呼び出した存在は、生きてこそいれど中身がない存在。そんなマスターが俺を召喚した理由を見つけられなくてな。正直、何かの間違い何だろうよ。なので、俺はマスターの成長に賭ける事にしたのさ」

 

 

「それじゃ何か? 小娘が完全な自我を手に入れた時、その在り方を見定め、お前の契約は完了すると?」

 

 ライダーは腕を組んで考え込む。彼の問いにブレイカーは概ね正解だと頷く。

 

「マスターが人として、生きた時、破壊を望むのなら壊すまでだ。だが、もし破壊(俺の存在)に意味がないと言うのなら俺は消える。本来英霊というのは、明確な自分を、偉業を、信念を持っているものだ。だが、俺は英霊になりつつも、自分の存在を見つけられていない。そこがアンタとは大きく違うのさ」

「お前さん自身にも中身がないのか。己が望みはあれど、その望みはお前のものではない……生前はさぞ生きずらい事だっただろうな」

 

 ライダーの言葉にブレイカーは苦笑する。その笑みの理由は、過去の己の生き方を思い出したからだ。

 

「まぁね。だからこそ、俺は今生きているマスターに託しているのさ。俺の答えと世の行く末を」

「世の行く末は、余が全てを征服した先であるな」

「決定されてるのか、どうするよ。マスターがアンタの治世を気に入らなかったら、俺が壊す羽目になるぞ」

「がははは、なるほどな、世界を征服した後の事は考えていなかったが、それはそれで面白い」

 

 夜なのに大声で笑うライダー。幸い近所の人間はぐっすり眠っているようで起きる様子はない。

 

「今の所、可能性は薄いがな。だが、もし余裕があればでいい。うちのマスターも気に掛けてやってほしい。アイツには人とふれあう事が大切だ」 

「ほう、だがなんでも取り入れるようでは、征服王ならぬ征服女王になってしまうが?」

「自重してくれ。……とはいえ、坊ちゃんにご執心みたいだからね。中身は空っぽの筈なのに、ウェイバーを気に入ってるのは確かだから、あっちの影響の方が大きいな」

 

 マスターの現状をラインで知る事が出来るブレイカーですら、アルカ考えはわからない。ただ、保護者として彼を求めているのか、それとも利用するつもりなのか、もしや本能的にあの小さい青年を異性として見ていると言う可能性もある。

 

「しかし、小娘を聖杯戦争に参加させるのは、お前としてはどうなのだ。マスターとはいえ、あそこまで小さい子供が参加する行事とは思えぬが」

「かなり悪影響は出るだろうな。だが、マスターは聖杯戦争に参加する事を選んだ。それはウェイバーに連れられてではない。万能の願望機を求める程の人間たちなら、マスターの失った中身を埋めてくれるかもしれない、そういう思惑は俺にもある」

「いささか、荒療治だな」

 

 ライダーの懸念を当然だと言う風に、ブレイカーも同意する。何も心が悪に傾くだけではない、当然死ぬ事もあるのだ。仮にもマスターが戦闘すらできない子供であれば、真っ先に狙われるのは必然。そんなリスクを幼子が背負うことに、ライダーは疑問を持つ。大望があり、全てをなげうつ覚悟があるのなら必要な犠牲かもしれない。しかし、望みはなく流れに乗ってただ辿り着いただけの少女が負うには、重すぎる対価だ。

 

「善も悪も知ってこそマスターの選択には意味がある。俺は、それまでマスターが死なないように護るだけだ。奇しくも、俺の願いとマスターの欲求は同じだ」

「小娘の欲求か、それは一人の人間になると言う事か」

「そうとしか思えない。魔術で英霊や人間を読み取りながら、取り込もうとするマスターだからな」

 

 そういい、ブレイカーは他に話す事はないと話を打ち切った。自分の存在意義をマスターに求める英霊と自分の存在を求めるマスター。両者ともに自我は薄く、それでいながら自我を渇望する主従。聖杯に望みを託すのではなく、求める理由を望むあり方。ライダーは聖杯の知識から、英霊の召喚について思い出した。

 

(触媒を用いない召喚には、マスターに相性がいい英霊が自動で宛がわれるといったか。なるほど、)

 

「随分話しこんでしまったな。俺はずっと見張りをしておくから、好きにしててくれ征服王」

「そうだな。そうさせてもらおうとしよう」

 

 そう言ってライダーは霊体化して、その場から消えた。残ったのは空っぽのボトルと二つのワイングラスだけだった。完全にライダーの気配が消えると、ブレイカーは一人つぶやいた。

 

「マスターを守り、命を狙う英霊と魔術師は壊すだけだ。生前だって散々とやってきた事だ……。

 

全部壊した俺の手に、降って沸いたたった一つの希望。なりふり構わず、守ってやるさ……この希望だけは必ず。

 

 

 

 

 

 

 


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