キャスターにアーチャーを奪われた凛。彼女を逃がす事に成功した士郎。そして、必死に逃げ帰った場所、衛宮邸にて、ルーラーのサーヴァントであるレティシアが居間に座りながら、士郎と向き合っていた。凛は、一人になりたいと風呂に行き、ルーラーと士郎だけが居間で向き合う形になっている。
「ほんとうに、レティシアなのか? こういっちゃなんだが、未だに信じがたいと言うか……」
「この姿ですからね。正しくは私がレティシアさんと言う訳ではありません。詳しくは、彼女が出てからと言うことに。ですが、流石に鎧姿では安心できませんね」
ルーラーはそう言うと、鎧を消し去り士郎の知るレティシアの服装へと着替えていた。そしてサーヴァントの纏う魔力が消え、完全に一般人の様になる。
「これで納得していただけましたか?」
「あ、あぁ」
レティシアは、士郎に差し出されたお茶を飲んで、表情を少しだけ緩める。士郎は、セイバーにも言えることだが一般人だと思っていたレティシアがサーヴァントとして、他のサーヴァントを相手取るとは思ってもいなかった。
そして、少し時間が過ぎた所で風呂から上がった凛が居間に入ってきた。家に帰った当初の落ち込んだ姿はなく、いつもの遠坂凛が其処に居た。だが士郎とルーラーは彼女の目元が少し赤くなっている姿を突っ込みはしなかった。
「お待たせしたかしら? ルーラー」
「問題ありません。この土地のセカンドオーナーである貴方との接触は、聖杯戦争の執行に不可欠です」
「頭に残ってる限り、思い出したんだけど。ルーラーは中立の立場よね? 貴方が私や士郎を助けた理由は、なんなのかしら」
凛は、ルーラーの少ない情報を思い出すも、彼女が自分達を助ける理由は見当たらない。
「まず、お二人はサーヴァントとの契約を解除された元マスターです。扱いで言えば、聖杯戦争を脱落した事になります。だからこそ陣営ではないので、力を貸す事が出来ました。もう一つは、士郎君に行き倒れていた所を救って貰った恩ですね」
そうルーラーが言うと腕を組みながら凛は士郎を睨む。自分が彼を遠ざけた間に彼は、このサーヴァントと楽しい時間を過ごしていたのかと。それに対して士郎は首を激しく振る。士郎の反応を見て、まぁそうだろうとルーラーに向き合う。
「それでルーラーあなたのマスターは誰なのかしら?」
「俺も聞きたかった」
「ルーラーにマスターは存在しません。元々聖杯戦争で聖杯を手にする資格を持って居ないクラスがルーラーですので。なので私にマスターはいません。強いて言うなら、ルーラーの召喚は生身の人間を媒体に行われます、なのでレティシアであるこの身体の持ち主こそがマスターであると言えます」
ルーラーはそう言いながら、自分の胸に手をあてる。それを聞いて凛は納得するが、士郎は困惑する。
「待てよ。それじゃレティシアは、戦いたくもない聖杯戦争に参加させられているのか」
「いいえ。彼女には説明をしたうえで了承を頂いてます。私が強制的に身体を操っている訳ではありません」
「だけど」
「……私。ル-ラーの英霊、真名ジャンヌダルクの名において誓ってもいいでしょう」
突然の真名の啓示。そしてその真名は、日本人のほとんどが知っているような有名な女性の名だった。かつてフランスを独立させる戦争で民衆を率いて勝利を導いた聖女。そして歴史の闇に葬られた、聖女にして魔女である英雄ジャンヌダルク。それがルーラーたる彼女の正体だと言う。
「まずセカンドオーナー……凛さんとお呼びしてもいいでしょうか?」
「いいわ」
「現在発生している聖杯戦争の異変についてお話しましょう」
そして、ルーラーからマスターで無くなりこの土地を管理する遠坂家の当主である凛にルーラーが情報を伝えた。冬木の聖杯は、何者かの手によって変質。それにより様々な混乱が発生している。同じ真名の英霊、同じクラスの英霊、マスターの不自然な増加、サーヴァントがサーヴァントを召喚する、街中の人々が魔力を吸われるなど数えきれない。そして現在行われている聖杯戦争の状況など。
そこには、アルカ達の事も含まれており、凛や士郎は現在がどれだけ危険な状況か再認識した。
「愛歌のほうも、大人しいと思ってたけど、一体どうなってるのよ」
凛は、悔しそうに机を叩く。だがルーラーは主に誓って嘘はないと宣言した。
「私は聖杯に手を加えた存在を排除しなくてはなりません。同時に冬木の住人を犠牲にするキャスターも見逃せない」
「それで、既にマスターではない私達になら、協力すると?」
凛の質問に、レティシアは無言で肯定する。この地を管理する立場の凛なら、ルーラーと問題なく行動が出来る。一時的な関係ではあるが、凛にとってもサーヴァントが自主的に協力してくれる状況は魅力的だ。
「わかった。でも、少しだけ時間をちょうだい」
「はい。続きは明日と言うことで。士郎君」
「な、なんだ」
突然話を振られた士郎は、頬杖を崩す。
「大変申し上げにくいのですが……」
「あ、あぁ。俺は約束をたがえるつもりはないよ。サーヴァントと言っても悪さをする気はないんだろ? それなら泊まってくれるとありがたい」
「感謝します」
人の体に宿っている以上、レティシアの身体は大切にしなくてはいけない。それ故にサーヴァントでありながら食事と睡眠が必須なのだ。さすがに寒空で何日も明かすのは、避けたかったのだ。
こうして、2人のサーヴァントを失った凛と士郎。彼等に運命が味方したのだった。
ルーラーと衛宮陣営、一時的に協力体制結成です。