Fate/make.of.install   作:ドラギオン

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ルーラー見参

 衛宮士郎は、凛とアーチャー、そしてキャスターに奪われたセイバーを助けるため、心当たりのある場所を手当たり次第にめぐっていた。

 

 そして日が暮れかけた時、言峰教会にて漏れ出す魔力を感じ取った士郎。身を潜めて、教会の地下に入り、先に入り込んでいた凛とアーチャー。そして向かいあうキャスターと葛木。その背後には、何故かドレス姿のセイバーが苦しそうな表情で魔術による拘束を受けていた。

 飛び出して助けたい気持ちになるが、凛の邪魔にしかならない事は頭で理解している。

 

 凛は、後ろのアーチャーを控えさせたまま、キャスターに話しかける。

 

「それで、あいつの死体は確認した?」

「それはどういう意味かしら」

 

 凛の言うアイツとは、この教会の主である言峰綺礼のことであり、先日キャスターは彼を襲撃し、致命傷を負わせたのだ。だが、凛は言峰がその程度っでくたばるとは考えてない。

 

「べつに死体を確認していないんじゃ、しぶとく生き延びてるって思っただけよ。まぁいいわ、早めに終わらせましょ。今回は人質もいないし気持ちよく戦える」

「魔術戦で私に勝つつもり?」

「やりようによってはね。セイバーの制御もまだ見たいだし、葛木先生の事もわかってる。私のアーチャーの敵じゃないわ」 

 

 凛は、葛木に警戒を向けながらもパートナーであるアーチャーを信頼した。彼であれば葛木ですらも敵ではないと。そして指に赤い魔力の籠った宝石を構える。準備は万端、後は勝つだけ。

 

「行くわよ、アーチャー」

「了解した。手はず通りだな、凛」

「出し惜しみなし 全財産ぶちまけるわ」

 

 その声を合図に、キャスターが浮遊し背後に魔法陣を形成する。それらが全て凛に向かって照準を合わせる。

「あなた、忘れているのではなくて? 私には令呪があるのよ。命じさえすれば、セイバーを人形にするくらい容易い事よ」

「わかってるわ。けれど、セイバーなら耐えられるもの。それが一分か二分かわからないけれど、それだけあれば、貴方をし止めるのには十分よ!」

 

 凛が両手の宝石を投擲。それらは魔力弾へと変わりキャスターへ。キャスターもそれに応戦する形で魔力砲を発射する。教会の地下で激しい魔術戦が開幕した。凛は、ホーミングする魔力弾を投げつけながら、一つだけ輝きの違う宝石を投げた。

 他とは違うそれにキャスターも反応し、どんな手で来るかと観察してしまう。だがそれが悪かった。相手は格下、故に出方を見ようとする発想こそが狙われていた。キャスターの眼前で輝きの違う宝石は、威力を持たないが強い光放つ。それは目潰しだった。油断を突かれたキャスターに凛はガンドを構える。今なら迎撃される事はない。

 

 だが、キャスター以上に警戒するべき葛木が、光に引っ掛からず爆煙を走破して迫る。 

 

「アーチャー!」

 

 凛は、頼みの綱であるアーチャーを呼ぶ。アーチャーは瞬時に葛木と凛の間に入る。完璧だとほくそ笑んだ凛だが、次の瞬間アーチャーの手は、凛を弾き飛ばした。

 教会の木椅子に叩きつけられた凛は、痛みを感じるよりアーチャーの行動が不可解だった。それでも目的を見失わず、足の止まった葛木にガンドを発射する。

 だが、またしてもアーチャーが投影した白い短剣でガンドを弾く。

 

「ちょ…アーチャー! ……どう言うつもりアーチャー」

 

 明らかに凛を邪魔するアーチャーに、彼女も怒りを表情と声に浮かべる。だがアーチャーは澄ました顔で凛に向き合いながら、語り始める。

 

「彼女をここで倒すのは理想論だと思ってね。逃げるだけならば彼女は当代一だ。なにしろ逃亡の為に実の弟すら八つ裂きにする女だからな」

「知ったような口を利くのね。貴方には私の正体がわかっていて?」

「龍の歯を依代とした使い魔はコルキス王の魔術と聞く。その娘、王女メディアは稀代の魔女と謳われたそうだが?」

 

 アーチャーの魔女という言葉に、キャスターは心底腹立たしそうに口元を歪める。そして、その光景を見ていた士郎は、アーチャーの表情から嫌な予感が頭をよぎる。

 

 

「まさかあいつ……」

 

 士郎の予感は悪い方向で的中した。キャスターの傍にまで歩み寄った。

 

「さてキャスター、一つ尋ねるがお前の許容量にまだ空きはあるのだろうな?」

「あはは、ふふふ。当然よ。一人と言わず全てのサーヴァントを扱えるだけの貯蔵はあるわ」

 

 アーチャーの言葉の意図を察したのか、笑いはじめる。キャスターの返答を受け。アーチャーは凛の前で信じられない言葉を口にした。

 

「ならば話は早い。以前の話、受けることにするよ、キャスター」

「どういった心境の変化かしら?」

「あの時断った理由は知っているだろう。セイバーが君に従う以上、勝てる方に突くのは当然だろう」

 

 キャスターは、懐から七色の刃で構成された宝具、魔術をキャンセルする破戒すべき全ての符を取りだす。

「私は裏切り者を信用しない。」

「結構だ。私は私のためにお前に下るだけだ。そこに信頼も忠誠もない。だがサーヴァントとはもとからそういうものではないか?」

 

 アーチャーの返答。それはキャスターにとっては、好機とも言える。

 

「いいわ。あなたの思惑に嵌ってあげましょう」

 

 そう言いながらキャスターは無抵抗に自分を差し出したアーチャーの胸に破戒すべき全ての符を突き刺した。その瞬間、魔術による契約が破棄され、凛の腕の令呪がはじけ飛ぶ。これで凛はサーヴァントを失い、マスターではなくなる。

 完全に敗北をきした凛に、葛木がゆっくりと近寄る。既に凛に抵抗する手段はなく、殺されるのを待つだけ。

 

「遠坂!!」

 

 咄嗟に体が動いた士郎は、家から持って来た木刀を強化しながら、地下室に飛び下り、凛に向かって来た葛木相手に木刀を振るう。突然の士郎の登場に凛は驚くが、葛木は眉一つ動かさずに木刀を回避。振り返しの木刀を素手でつかんだ後、握力で粉砕する。

 武器を失う士郎だが、彼にとって木刀だけが武器では無かった。

 

 

「――投影開始(トレースオン)!」

 

 己の中で、武器を作る事の出来る投影魔術。それによってアーチャーの双剣を投影した士郎は、葛木を仕留めるよりも遠ざける意味で剣を振るう。葛木も剣の威力は先日の一県で体験済み。警戒して後ろに下がることを余儀なくされる。

 

「ぐ……」

「馬鹿士郎! なんだって」

 

 葛木が下がった後、士郎に投影の反動が襲いかかる。自分の魔術とは言え、宝具を投影するなど人間には本来不可能。それを可能とする代償が痛みだけと言うのは、むしろ幸運なのかもしれない。だが痛みで蹲る士郎に凛が駆け寄ると、周囲にキャスターの操る竜牙兵が現れる。

 

 

「ここまでのようね。貴方の乱入には驚いたけれど、ここでお仕舞いにしてあげる」

「おい、キャスター」

 

 キャスターが士郎と凛を殺そうと、竜牙兵をけしかける。アーチャーはそれを止めようとしたが、既にアルカ達に煮え湯を飲まされているキャスターは、マスターだけとは言え手加減をしない。咄嗟に双剣を取りだすアーチャーとそれに反応した葛木。

 だがキャスターは士郎達を攻撃した。何かの思惑が外れたアーチャーが、どう動くべきか考えた時、教会の地下室に暴風と共に旗を持った女性が駆けこんでくる。

 

 強力な魔力と共に、地下室に舞い込んだ人物。黒と白の鎧を身に纏った金髪の女性は、その美しい容姿からは想像できない力によって、士郎と凛を襲う竜牙兵達を剣で粉砕する。そして竜牙兵を切り伏せると共に、キャスター目掛けて駆け出す。

 キャスターも突然の乱入者に、驚き魔術の発動が遅れる。そこで動けたのは、アーチャーだけだった。双剣を構えたまま、鎧姿の女性を迎撃しに前に出る。そして女性の振るう剣を黒い短剣で弾き、もう片方の短剣を振るう。だが、女性は何処からともなく取り出した旗でそれを受け止め、膂力に任せてアーチャーを後退させる。

 吹き飛ばされたアーチャーは、短剣を地面に突き刺して勢いを殺し、女性と睨み合う。

 

「っまた、新手か」

「何者です!」

 

 キャスターが現れた女性。その身に纏う魔力は、サーヴァントに違いない。だがキャスターですら把握していない12騎目の登場には、驚かされている。そして、女性のサーヴァントは、士郎達を護るように前に立ちながら、旗と剣を構える。

 その堂々たる姿は、見るものを畏れさせ、引き付ける何かがある。アーチャーやキャスターが警戒し、葛木はまたサーヴァントかと呆れる。キャスターの話では、聖杯戦争はおかしいと聞いているが、例外だらけで、通常の方が少ないと魔術師でない彼ですら感じる。

 

 

「嘘、また新しいサーヴァント……状況はよくわからないけど、キャスターの敵みたいね。――どうしたのよ士郎」

「レ、レティシアなのか」 

 

 士郎は、自分の前に立ちながら旗を振りまわし、竜牙兵を次から次に粉砕して行くサーヴァントの顔が、昨日助けた留学生の女性のものだと知る。だが纏う気や表情がレティシアとは違う。何よりも人間ではない魔力を纏い、サーヴァントを押し返す力を持つ彼女を財布を無くして行き倒れていた女性と結び付けるのは難しい。 

 

「士郎君、貴方が聖杯戦争の参加者だとは知りませんでした。本来、私は陣営に協力はできません。ですが、サーヴァントを持たない貴方達を保護するのもルーラーたる私の責務です」

「ルーラー? 何を言ってるんだ」

「士郎、あいつと知り合いなの?」

 

 士郎は聞いた事のないクラス名に困惑。凛も士郎を置きあがらせながら、少しでも出口に向かう。だが士郎がレティシアと呼ばれた英霊と知り合いだと言うことに疑問を感じる。だがサーヴァントが居ない今、別のサーヴァントが介入して来たのは幸福かも知れない。

 

「話は、後でしましょう。……キャスター。私は貴方のルール違反を裁くために此処に来ました……と言えばお分かりですね?」

「くっ。ルーラーですって? 聖杯の知識では概要だけだと思っていたのに、存在したのね」

「えぇ。この聖杯戦争は、お世辞にも正常とは言えませんので」

 

 レティシアは、旗を構えてアーチャーとキャスターに向き合う。

 

「そう。それでルーラーが今更出てきて、どうするつもりかしら?」

「本来であれば、私に配布された令呪による制裁を行うつもりでしたが、貴方の宝具によってルーラーとの契約も解除されるとは想定外でした」 

「ふふ、そうでしょうね。では、なおさら……サーヴァントが3人も敵の状況をどうするのかしら」

「他の陣営に貴方方の排除を頼もうにも、戦力が過剰ですからね。私が貴方を脱落させるしかありません魔女メディア」

「……私を魔女と呼んだこと、後悔しなさい」

「私が相手しよう。撃つのは勝手だが、当てないでもらいたいなキャスター」

「ちっ」

 

 キャスターは浮遊しながら、魔術による砲撃の準備をする。アーチャーも双剣を構えなおし、ルーラーに向かって駆け出す。そして接近するアーチャー相手に振るわれる旗を剣で受け止めながら、短剣を振るう。ルーラーは、その攻撃を見切りながら、剣と旗で相手の二刀流に抵抗する。

  二人の英霊の衝突によって、教会の地下が激しい暴風と衝撃に見舞われる。

 

「君は、あの小僧や凛を救いに来たのか」

「結果的にはですが、彼には恩があります」

 

 ルーラーとアーチャーの人間離れした激しい剣戟。達筋は既にキャスターにすら目視が難しい。互いに重さではなく手数で斬り合いながら、会話する2人。

 

「そういう貴方こそ、驚きを隠せません」

「何?」

 

 刃をクロスさせた強烈な一撃を、旗を床に突き刺して柄で受け止め、衝撃をそのまま剣の刺突に帰る。眉間を狙った鋭い突きを、身体を逸らして回避するアーチャー。だが脚を蹴られた事で体勢を崩す。アーチャーは、(この女、できる)と感じた。

 

「ルーラーは、真名を看破するスキルを持っています。これで、わかりますね」

「……そうか」

 

 ルーラーがアーチャーにそう告げた瞬間、アーチャーの殺気が一気に強くなる。そして、双剣を投擲して、後ろに飛ぶ。ルーラーは投げられた剣を旗を振るいながら、叩き落し。もう一本の短剣を掴んでアーチャーに投げる。

 

「――――I am the bone of my sword.(我が骨子は捻じれ狂う)」

 

 投げられた白い刃は、アーチャーに当る前に消滅。そしてアーチャーの手には黒い弓とドリルのような形状の剣。それは、柳洞寺でキャスター相手に使用された剣であり矢。

 

「――偽・螺旋剣(カラドボルグ)」

 

 あの夜と同じ剣を矢に変えるアーチャー。その眼は間違いなくルーラーを殺そうとしていた。限界まで引いた弓が、ルーラーを狙ったまま静止する。発射が止ったのは、彼女の背後に凛や士郎が居るからか。

 

「レティシア!」

「馬鹿、士郎!」

 

 その矢を見た事のある士郎は、レティシア(ルーラー)の身体が削り取られる姿を想像し、凛から離れて彼女を救おうと駆け出す。だが、ルーラーは手でそれを制止。剣を腰にさし、旗を両手で掲げる。

 

「士郎君に貴方、私の背中に」

「ほう、大した自身だなルーラー。その貧弱な旗で、何をするつもりだ」

「我が旗は、今の誇りなき貴方では、汚す事は出来ない。そして、私の背後に居る彼等も害す事はさせません」

 

 自分達を護ると言うルーラーの言葉に、凛は士郎を抑え込みながら彼女の背に伏せる。それを見たルーラーのはたから優しい光がこぼれ出す。そしてアーチャーが弓を放った。空間を食い千切る程の魔弓は、キャスターの竜牙兵を余波で粉砕。キャスター自身も葛木を護るために、彼の傍で結界を張る。 

 

「我が神はここにありて(リュミノジテ・エテルネッル)」

 

 ルーラーの宝具の真名解放に伴い、優しい光の防御が発動する。それは必殺の一撃であるアーチャーのカラドボルグと消滅すると、削られることなく、真後ろで伏せる二人にも危害を加えられない。電と鎌鼬がルーラーの防御を襲うが、それはまるで焼け石に水。

 空間すら食いちぎる魔弓は、ルーラーの宝具によって完全に防御される。そして、カラドボルグは、護りに受け流される形で方向転換。天井を貫いたのだった。

 

 当然宝具が命中した天井は崩れ出す。ガラガラと崩れ始める教会の地下。キャスターは魔術で崩落を防いでいる。それは葛木を護るためだ。アーチャーは、自分の攻撃を無傷で受け流したルーラーに苦い顔をするが、彼女の背後で自分を睨む凛を見て、目を逸らす。

 天井が落ちた事で、土煙が舞った時、士郎は凛とレティシアの手を掴んで、出口に向かった。キャスターが動けない今しか、にげられない。

 

「士郎君?」

 

 手を引かれた凛とルーラーは、抵抗する前に彼の勢いに負けて引っ張られる。

 

「御待ちなさい!」

「待てキャスター。相手は、私の攻撃を受け流した宝具を持っている。それに魔術ではダメージを与えるのは難しいだろう。相手が逃げるなら、深追いは危険だ。他にどんなサーヴァントが構えているかもわからない」

 

 背を見せるルーラー達にキャスターが魔力弾を放つ。だが、ルーラーが気まぐれに手を払うだけで、セイバーよりも強力な対魔力によって弾かれてしまった。それを見てアーチャーが魔力の無駄遣いを止める。相手は白兵戦でアーチャーを翻弄、魔術は通用せず宝具による一点特化すら無効化するのだ。策も無しに戦えば、不利なのは自分たちなのだ。 

 

「……今回は見逃しましょう。けれど、次は」

「了解だ。私もルーラーを打倒する術を考えておくさ」

 

 かつて自分が防げなかった攻撃を防がれたインパクトはキャスターを躊躇させるに十分だった。その会話を聞いていた凛は、教会の地下室の出口でアーチャーを睨む。

 

「アーチャー、きっと後悔するわよ。私は絶対に諦めない! キャスターを倒してアンタを取り戻す。その時になって謝っても許さないんだから」

 

 信じた彼に裏切られた屈辱。自分では彼に勝利をもたらせないと見限られた未熟さ。それらの感情を噛み締めなら、凛は宣言した。それを聞いたアーチャーは、肩を竦める事しかできない。

 

 そして士郎に腕を引かれながら、凛とルーラーは、言峰教会を脱出したのだった。




 次回は来週かな。最初の方は主にアニメと同じです。

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