Fate/make.of.install   作:ドラギオン

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次回投稿は未定です。


不意打ち

「……と言った感じに、間桐慎二は考えてるんだと思う。魔術師らしい魔術師であるのなら、私の敵じゃない」 

『それはいいんだけど、この先袋小路だよ?』

 

 蟲から逃げるように走った彼女達だが、水銀の触手によるマッピングで追い詰められた事を知ったアンが苦言を零す。そして案の定壁に辿り着き、行き止まりを叩く。逃げる最中、アルカは慎二の行動を読んで、それに。対抗すると告げる

 

「……上の方はブレイカー達が担当。なら、私達が慎二を倒すだけ。手段は考えて在る」

『わかった』

 

 アルカは、そう言うと腰に結んでいた布を外し、それを体に巻きつける。その布は、10年前にアルカが多用していた魔術礼装。それを纏ったアンは、アルカに念話で作戦を耳打ちして、アンは両腕を刃へと変えた。

 

―――――――

 

 地上でライダーの攻撃を回避し続けるブレイカーとセイバー。大ざっぱな攻撃だが、高速で飛来する宝具の一撃。碌に反撃も出来ない状況では一撃で消滅する。余波だけで地上を抉り、回避した筈のセイバー達に傷を刻んでいく。

 2人は、傷から血を流しながらも木の陰に隠れる。

 

「なぁ、さっきからライダーの手にある袋は」 

「ゴーゴンの首が入っている革袋だろうね。それを使わないのに、ずっと持ってるなんて違和感があるね」

 

 2人は回避するだけではなく、ライダーの様子を確認していた。セイバーは、相手の攻撃が何処か大ざっぱだと感じていた。以前は何らかの方法で森の中で自分達の位置をピンポイントで襲ってきたが、今は大まかな位置を丸ごと吹き飛ばすような宝具に使用。以前の戦闘で宝具は二つまでしか使えないという仮定から、位置を確認する宝具の使用をせず、石化能力のある袋を発動もせず持ち続ける意味が分からない。

 

「あの袋に秘密があるんだろう」

「そのようだ。幾らライダーでも宝具を何十回も真名解放は出来ないはず。なら、あの袋には」

「魔力源にされた綾香が入ってるのか? だが、中に入るのか?」

「特殊な結界でもあるんだろうか。ゴーゴンの首をずっと保管できるだから、可能性はあるね」

 

 其処まで考え、ライダーの魔力の連打を許しているのが綾香の魔力なら納得がいく。おかしな令呪のせいで魔力が増大している彼女を供給源にすれば、宝具の真名解放を何度も使えるだろう。

 しかし、それは綾香の妖精化、しいては彼女の消滅の可能性すらあるのだ。

 

「あまり時間はないな。マスターがライダーのマスターを倒す前に、ライダーを止めるしかない」

「しかし、綾香が」

「お前は風王鉄槌を使え、それで少しでも威力を押さえろ。俺は全魔力を強化にまわして、アレを受け止める」

 

 とんでもない発想を実現しようとするブレイカー。セイバーが却下するより前に、あえて居場所を教えるようにブレイカーが魔力を迸らせ、自分のステータスを向上していく。そんな事をすればライダーが真っすぐ向かってくるに決まっているのだ。

 セイバーも腹をくくるしかなくなる。

 

「あえて言わせてくれ、君は馬鹿だと思う」

「馬鹿じゃなきゃ、破壊者なんてやってねぇよ」

 

 周囲の木々が、ブレイカーの魔力で倒れ、彼の姿を上空のライダーに視認させる。ライダー自身も何か企んでいるかと勘繰るが、人質が居る以上は、光の聖剣や魔力砲も来ない。ならば、相手の企みごと潰してやろうと騎英の手綱で天馬と共に落下する。

 慎二からな魔力供給と革袋の中に収納した綾香の魔力により、強化されたライダーが落下する。

 

「いくよ」

「おうよ(余計な事は考えるな。全ての神経を、集中しろ)」

 

 全神経をライダーの攻撃を受け止める事に集中し、両足を地面に踏ん張る。両腕を開いてライダーの天馬を受け止めようとする。セイバーが先に向かってくる天馬に風王鉄槌を放つ。だが眼の前の物を全て切り刻む風圧すらものともしない騎英の手綱が、ブレイカーへと襲いかかる。

 

「やはり、駄目か」

 

 

「ハァアアアア!!!!」

 

 迫りくる膨大な魔力の塊。それに両手を伸ばしたブレイカーが、ライダーの攻撃を受け止める。だが、威力が凄まじいため、一瞬でブレイカーの前進をズタズタにし、全身の骨は軋み、内臓は破裂しないのが不思議な程ダメージをおう。激しく吐血し、鼓膜は破れる。筋肉は何本の断裂し、指はひしゃげる。

 だが、ブレイカーは死んでおらず、ボロボロになりながらも攻撃を受け止めた。現在進行で天馬に押されるも、最初の衝撃を受け止めたブレイカーは踏ん張る事で真名解放の加速を殺す。もう一度真名解放すれば、ボロボロのブレイカーなら倒せる。

 だが、それを理解してるブレイカーは、死んでも天馬を離すつもりはなかった。

 

「受け止めただと?」

 

 徐々に勢いを殺される天馬の上で、ライダーは驚いていた。宝具の使用すらせずに受け止めたブレイカーに得体の知れない恐怖を感じる。だが、負けるわけにはいかないとブレイカーに掴まった状態でも更に真名解放を行使しようとする。

 そして、勢いの止まったライダーを捉え、剣を構えたセイバーが白兵戦を挑む。宝具の開放より早い彼の斬撃は、判断の余裕をライダーに与えない。

 

「く」

「綾香を返して貰おうライダー!」

 

 綾香を人質にした袋を消す事が出来ず、必然的にガードするために天馬を消したライダー。瞬時に持ち替えた宝具はハルペーであり、真名解放を受け止めていたブレイカーが天馬の消滅と同時に膝をついて、倒れる。

 

「ハァ!」

(この素早い剣、他の宝具を取り出す余裕がない)

 

 ブレイカーは役割を果たしたのなら、セイバーは人質に手を出せないようにライダーに余裕を与えない激しい攻撃を繰り返す。ライダーはその攻撃を捌く事に意識を向けるしかない。マスターを奪われてご立腹のセイバーは、王子様の様な風貌に似合わぬ、修羅の如き猛攻を続ける。剣技では劣るライダーが、徐々に押されるのは必須だった。 

 

――――――

 

「ライダーの奴、なにやってるんだ!」

 

 慎二は、地下通路の中でライダーの不利を察し苛立つ。今ライダーに持ち直せと言うのは不可能であると判断して、早く愛歌をし止めようと早歩きで進む。彼は周囲に虫達を徘徊させ、軍勢を駆使しながら袋小路に追い詰めた愛歌を倒すと決める。

 そして、彼が行き止まりに辿り着いた時。其処に誰もいない事に驚く。

 

「は? なんでだよ。沙条の奴は何処行ったんだ!? 他に逃げ場なんて無い筈だ! お前ら、ちゃんと探して来い!!」

 

 蟲の軍勢を連れ、それを消しかければいいと判断した彼だが、追い詰めた筈の獲物が居ない事で、調子を崩す。感情的になり、行き止まりの壁を殴打しながら虫達を来た道を戻って得物を探せと命令する。数千の虫達は、彼の指示に従って道を戻っていく。何処にも抜け穴など無く、こじ開けた様子すら無いのに雲隠れした愛歌に苛立ちが募る。

 虫達は、慎二の指示に従ってトンネルを逆走し、索敵を始める。地上のライダーが気になる慎二は、令呪で一度連れ戻すかと考え、来た道を戻って歩き出した時だ。

 

 慎二の背後、行き止まりだった壁の一部が、水銀へと変わり、その擬態の奥に人と一人が収まる程度の空洞があった。出口ではなく、人一人が収まるだけの空洞に入っていたのは、コンテンダーを右手に持ち、左腕に銃身を乗せる構えをしたアルカだった。

 水銀の擬態は、アルカの視界と銃身だけが露出する小さな穴を開け、其処からアルカは標的を覗く。彼女の作戦は、逃げるのではなく待ち伏せ。アンに自分がひそめる空洞を掘らせ、其処に身体を隠しアンに壁に擬態して自分を覆い隠す。そしてアンはアサシンの気配遮断を使い、アルカは10年前に浸かっていた気配遮断礼装を使い2人そろって気配と魔力の波長を消す。

 追い詰めた慎二は、自分達が居ないと勘違いすれば、必ず虫達を使って来た道を戻る筈。そこで蟲の数が減った瞬間を狙って息を潜めていたのだ。固有時制御の停滞で呼吸や心臓の鼓動すら極小にした彼女の隠密は、虫達ですら見つけられなかった。

 

「くっそ、イライラするな!!!」

「終わりよ間桐の魔術師」

「え!? グ、グアアアアアアア!!!!!」

 

 背後からの声に振り返った瞬間、アルカは容赦なくコンテンダーの引き金を引いた。その瞬間、コンテンダーから30-06スプリングフィールド弾が発射され、慎二の右肩に命中すると同時に彼の肩を吹き飛ばす。肩を飛ばされた痛みが、慎二に走った瞬間、彼は吹き飛んだ肩を抑え地面を転がる。

 こんな痛みを体験する事など無かった慎二は、ただ痛みに翻弄される。その瞬間には虫達の制御も失い、ただ痛みを感じて通路で呻くだけだった。

 

「ガアア、ガアアアアアア、うでが……ぼくのうでが!!!!!」

「黙りなさい」

「ウガアアアアアアア、あああああ、やめろ、やめてえええええ」

 

 地べたで這う様にして苦しむ慎二を、隠れるのを止めたアルカが足で踏みつけ、右足をコンテンダーから持ち替えたキャリコで撃ち抜く。慎二の肩口と右足から血が流れ、狭い通路の床を流れる。痛みに叫び続ける慎二を仰向けにしたうえで、しゃがみながら銃口を彼の口に突っ込む。

 そのまま撃ってしまいたい欲に駆られるが、綾香を助けなければいけない。

 

「私の言った事を全て実行しなさい。嫌だとか待ってと言えば、顔を吹き飛ばす」

「ウゥウ、ウンウン」

 

 慎二は口に銃口を押しこまれ、喋れないまでも頷こうとする。それを見たアルカが銃口を引き抜く。だが慎二はその瞬間、令呪でライダーを呼ぼうとする。しかしそれを見逃すアルカではなく、拳を彼の鼻に叩きこむ。その瞬間、鼻から血が溢れ激痛で言葉を発せなくなる。女の拳とは言え、真上から全力で振り下ろされれば悶絶物なのだ。

 痛みで戦意損失する彼を見下しながら、アルカは続ける。先程までと違い、酷く優しい声色で語り始める。 

 

「今のあなたは、虫達をコントロールできていない。それは私達を探しに行った虫達に魔力を与えられてないと言うこと。でも虫達はいずれここに戻ってくるの」

「?」

「お腹を空かせた肉食の蟲達の群れが、豊富な魔力を含んだ血を垂れ流す貴方を見たら、きっと御馳走と思って群がるわね」

 

 そこまで言われて慎二は凍りつく。あの数の蟲達がコントロールを失い、慎二と言う肉と貪りに帰ってくるのだ。その光景をイメージし、慎二は恐怖から暴れる。だが、どれだけ暴れようが、彼はもう逃げる事は出来ない。

 

「理解出来た? ―――私の命令は、綾香を解放すること。令呪を使う事は許さない。念話で命じなさい。綾香の開放を確認しだい、”地下から連れ出してあげる”」

 

 綾香の救出と引き換えに条件を出すアルカ。慎二はどうせ助けたら殺すつもりなんだろと目で伝える。だがアルカは微笑みながら、立ち上がる。それに対して何故?と思った時、右足に激痛が走る。慌てて脚を見れば、刻印蟲の一匹が慎二の傷口にしゃぶりついていた。生理的嫌悪と痛みから脚を振り払う慎二。だが、壁にぶつかった刻印中は、地面に流れる慎二の血を吸いながら再び慎二に向かってくる。

 

「わかった? 時間を掛けるのは勝手。けど、残された時間はない。向こう側から虫達が這う音が聞こえるもの」

 

 慎二に選択肢はなかった。背後に控えるアンを見ても、助けてくれる気はない。どう足掻いても詰んでいる状況で慎二は綾香の開放に踏み切った。蟲達に喰い殺されるなんてまっぴらだった。

 

 

―――――

 

「待て」 

「悪いが、待つ気はない!」

「……いや止めろセイバー。マスターがそいつのマスターを卸したらしい」

 

 敗北した慎二から念話を受けたライダーが、綾香の開放をしようとするがセイバーの攻撃が止まない。このままでは、不味いが経緯が経緯だけに説得もままならない。だが倒れているブレイカーが少しだけ回復したのか、セイバーに静止を掛ける。

 其処でようやく止まったセイバー。彼が動き出す前に、ライダーはゴーゴンを封じた革袋の口を開ける。そうすれば、袋の口から質量を超越して綾香の身体が飛び出す。

 

「綾香! あやか、こんなことになって、すまない」

 

 セイバーが綾香の身体が地面に落ちる前に受け止める。セイバーの腕の中に居る綾香は、髪の色の8割が金色になり、酷く疲れたように気絶している。ようやくマスターである彼女を取り返したセイバーは、腕の中に居る少女に謝罪をした。

 

「……」

 

 綾香を解放したライダーは、ハルペーを地面に突き刺し、人質を解放した後、どのようにして慎二を取り戻すか考えていた。どう考えても手詰まりであり、本来なら自分の消滅を条件に温情を得るのが、サーヴァントとして正しい行いだ。だが、彼にはできない理由がある。ライダーには願いはない、この世に未練も無い。だが、自分の消滅が意味するのは……慎二の死なのだ。

 彼がそれを知ったのは、間桐邸でセレアルトに遭遇した時、彼女に告げられた言葉。

 

【慎二には内緒だけど、あの子の令呪は特別製なの。あれは慎二の魂を令呪にしたもの、だから3つ目の令呪を使ったり、サーヴァントが消滅すれば、彼は死ぬの】 

 

 その言葉が真実かどうかはわからない。だが、あの時のセレアルトが嘘をつくとは思えなかった。

 

(どうするのが正解だ?)

 

――――――――――

 

 ブレイカーから綾香の開放を聞いたアルカは、立てない間桐慎二に肩を貸しながら、蟲達から逃げるべくアンに屋根に穴を開けて貰っていた。時間さえあれば、脱出は簡単なのだ。一分程で地上までの穴を水銀の刃でこじ開けたアンは、地上に上がると同時に、下に居る慎二とアルカを水銀の触手でリフトアップする。

 

 既に地上に上って行く彼女達の足元には、逃げる慎二の血液に群がる刻印虫が集まっている。既に吹き飛んだ右腕は蟲達に食されている。もし、落ちれば叫び声をあげる前に喰い殺される。体中が死ぬほど痛む慎二だが、助かった事に喜ぶ。すでに月の光が差し込む空が、見えている。

 

(助かった、けどアルト様になんて言えば)

 

 アンに持ち上げられ、慎二とアルカが地上に辿り着いた時、アルカは奇妙な行動を取った。慎二より先に前に出ると、彼の左腕を掴みながら指先で慎二の額を押す。そんな、事をされればバランスを、崩した慎二の身体が地下への穴へ落ちる。

 だが、落ちる寸前で掴まれた左腕が唯一体を支える。

 

「!?」

「地上には連れて来て上げた。だから、約束は果たした」 

「そ、んな」

 

 それは、アルカが慎二に行う処刑だった。アルカの逆鱗に触れた彼に、救いなど在る筈がなかったのだ。魔眼封じで青い目になったアルカの目は、凍えるような殺気を持って慎二を見ていた。 


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