Fate/make.of.install   作:ドラギオン

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 すいません。遅くなりました。


ベルベット陣営

召喚されてすぐに、ライダーが向かったのは近くの図書館だった。霊体化して本屋に忍び込んだライダーは、内部から鉄製のシャッターを蹴破って外に出てくる。

 

「ライダー……馬鹿! シャッター蹴破って出てくるなんて、何考えてるんだ。なんで入る時みたいに霊体化しないんだよ」

「霊体化のままでは、これを持って歩けんではないか。……そううろたえるでない、まるで盗人か何かの様ではないか」

 

 そのあまりの音にウェイバーは、ライダーに文句を述べる。しかしライダーは手に持った本を眺めながら、盗人呼ばわりは心外だという。アルカとブレイカーは、少し離れた場所で目の前の主従を眺めていた。

 

「盗人じゃなくてなんなんだよお前!」

「大いに違う。闇に紛れて逃げさるのなら匹夫の夜盗。凱歌とともに立ち去るならば、それは征服王の略奪だ」

 

 自信満々に言いきるライダー。確かに彼の有名な征服王にとっては、盗むという行為も彼のやり方であれば略奪となるのだろう。かつて地球をすべて征服しようとした男が社会のルールごときに縛れるはずがなかった。

 

「お前、僕だけならまだしも子供もいるんだぞ! アルカの手癖が悪くなったらお前のせいだからな!」

「そっちの心配をしておったのか……。うーむ、では正しき略奪と言うものを小娘に教えてやろうではないか、この征服王たる余が直々に」

 

 ウェイバーを見下ろしながら、そういったライダーに彼の怒りは上り詰めた。眉間にしわを寄せ、自由奔放なサーヴァントへの怒りを言葉に表す。

 

「馬鹿なこと言ってないで、それを渡してすぐ消えろ! 今すぐ消えろ!」

「よかろう。では、荷運びは任せた。くれぐれも落とすなよ」

 

満足げに霊体化したライダーを見届け、ウェイバーはライムとブレイカーに目を向ける。そして人差し指を立てながら、アルカに注意する。

 

「絶対あいつの真似するなよ。現代でやったら碌な事ないからな」

「……りゃくだつ」

「わかったな」

「……ん」

 

 少し頬を膨らませながら、教育するウェイバー。となりで佇んでいるブレイカーは内心。

(鶏盗んだの、見てたんだよな俺。言わない方がこの場合は正解かね)と考えていた。

 

 今のアルカは、なんでも吸収して取り入れる性質があり、取り込んだ情報次第で悪人にも善人にもなる危うさがあった。今現在は、ウェイバーとマッケンジー夫妻のおかげで善に傾いているが、悪に染まるのも一瞬。その点で言えば、ウェイバーの意見を聞いておいた方が正しい。少なからずアルカと太いラインのおかげで彼女の状態を把握できるブレイカーはそう考えた。しかし、これから未来において彼女の手癖が悪くなる結果が、ウェイバーの教育の失敗を意味している事は、今は誰も知らない。

 

「悪いが俺も霊体化させてもらうよマスター」

「あぁ、アルカの魔力は多いみたいだけど、温存しておいて損はないしな」

「……」

 

 ウェイバーの言葉を聞いたアルカが、自分の魔力回路のスイッチを切る。突然ラインからの魔力供給が無くなったブレイカーは霊体化を止めて驚く。

 

「おい、温存するのはいいけど、俺の現界する魔力までカットするのはやめてくれ」

「な、い、今すぐ魔力を供給してやれ」

 

 慌てた様子のブレイカーに吊られてウェイバーも慌てる。言われた通り魔力の温存をしたのに、すぐに流せと言われて理解出来ないアルカが困る。一応2人の意見を聞いて魔力回路を起動して、ブレイカーに魔力が流れていく。ほっとした様子でブレイカーは、その場で霊体化する。

 

(マスターは、ダイエットを始めたら絶食するタイプだな。ダイエットの必要性を感じるかは置いといて)

 

 ブレイカーが消えた後、かなり時間がすぎていた事もあり家に向かうウェイバー。しかし、ライダーが今すぐに図書館から略奪した本を読みたいと告げ、仕方なく人気のない新都と深山を繋ぐ鉄橋の下で、休憩する事にした。

 

 

レンガのタイルの上に本を開いて腰掛けたライダーとその隣で疲れたように立ちつくすウェイバー。

  

「一体なんでこんな本を持って来たんだ?」

「戦の準備をすると言ったであろう。戦に地図は必要不可欠でだからな、おい坊主、マケドニアとペルシャは何処だ」

 

 本のページをめくりながらウェイバーにかつての故郷を訪ねるライダー。いきなりの質問にウェイバーが頭の上に疑問詞を浮かべる。それを見たライダーがつけ加える。

 

「かつての世の領土は何処かと聞いておるのだ」

 

 ライダーがそう言うと、ウェイバーが教えるより先にアルカが動いた。彼女は持つライダーの本に描かれた地図を指さして答えた。

 

「……ここ。現在マケドニア共和国、首都はスコスピ、面積は25.333km2。ペルシャは此処、現在は」

「まてまて、小娘。おぬし、その年で地図が読めるのか」

「アルカは、異常な程物覚えがいいんだ。マッケンジーさんの家の本を勝手に読んで覚えたんだな。たぶん、世界中の地理とかも覚えてるんじゃないのか?」

「……ん」

 

 

 突然流暢に自身の取り込んだデータバンクから情報を取りだした情報を語るアルカ。その情報の多さにライダーは関心し、ウェイバーは何とも言えない気持ちになる。そして、それを肯定したアルカ。

 

「なるほどな、世界全土の地図を網羅した人材か。世の次代にも欲しかったものだ、やはりこ奴らと組んで正解だったな。それにしても」

 

 再び地図に目を落としたライダー、がはははと笑い始め、食い入るように地図を見た。

 

「小さい、あれだけ駆け回った大地がこの程度か。よいよい、胸が高なる」

 

 己が治めた広大な土地が、地図の上では真に小さな面積だというのに、世界の広さを知り、それを制覇する楽しみを見つけたライダー。

 

「それで、小娘。今我々が居るのはこの地図の何処なのだ」

「お前、僕じゃなくてアルカを信頼してるだろ」

「……ここ。場所は日本の」

「アルカ、言わなくていいから」

 

 下手すれば、住所すら言いだしてしまいそうなアルカを止めるウェイバー。一方、ライダーは冬木の場所を見て、何か思いついた様子だった。

 

「うむ、これまた痛快、これで戦の指針はかたまった。まずは、世界を半周する。西へひたすら西へ、通りがかった国は全て落としてゆく。こうやってマケドニアに凱旋し、故国の皆に余の復活を祝賀させる。ふふふ、心が躍るであろう」

「お前何しに来たんだよ。聖杯戦争忘れてないか?」

「あ」

「あ、じゃねぇよ!」

 

 聖杯戦争によばれた彼は、聖杯戦争を忘れて征服に繰り出そうとしてた。ウェイバーのおかげで世界征服は一時的に先延ばしにされたのであった。彼は唇の端をあげる。

 

「じょ、冗談ではないかマスター」

「おまえなー」

 

 どうやら本当に忘れていたらしいライダーは、悪びれもせず掌に拳を乗せて、何かを思いついた様子。すぐにとなりのウェイバーを見て尋ねた。

 

「そうだ聖杯と言えば、問うておく事がある。坊主、貴様はどう聖杯を使う」

「急に真面目になったな……そんな事聞いてどうする」

「小娘やブレイカーには聞いたが、貴様にはまだ聞いていなかったからな。もし、貴様も世界を取る気であれば、余の政敵ではないか、覇王は2人といらんからな」

 

 そう告げたライダーの目は、殺意や敵意はなくとも決意はこもっており、ウェイバーには彼と戦う決意はなかった。嘘をつく必要もないため、答える事にした。このサーヴァントとマスターと言う2人一組のシステムでは、互いの求めるものと言うのは大切だ。相容れない場合など、最初は良くても後々に無理が生じる。そんな関係に亀裂が入ったまま、勝てる程聖杯戦争は甘くないだろう。

 

「ぼ、僕が望むのはな、ひとえに正当な評価だけだ。僕の事を認めなかった時計塔の連中に、考えを改めさせる事だ!」

「小さいわ!」

 

 それこそウェイバーを突き動かしてきた意地。これこそが真の目的。アルカと言う不確定要素があるものの、それは変わっていない。

 しかし、それを聞いたライダーは掌でウェイバーをビンタする。ライダー自身は蚊を潰す程度の力で殴ったものの、ウェイバーの体は大きくきりもみしながら飛ぶ。その勢いよく飛んだ姿に、驚きと言う感情が芽生え、口をだらしなく開けたアルカが居た。

「狭い! 小さい! 阿呆らしい! 戦いに賭ける大望が、おのれの沽券を示すことのみだと? 貴様それでも余のマスターか? まったくもって嘆かわしい!」

「うぅ、いてて」

 

 ぶたれた頬を撫でるウェイバーの頭をアルカが、撫でる。特に意味はなかったが、彼女のこれまで学んだ経験からの行動だった。そしてブッ飛ばしたライダーは立ち上がると、ウェイバーの襟首を持ちあげて、目で睨みつける。

 

「そうまでして、他人に畏敬されたいと言うのなら、貴様はまず聖杯の力で後30センチほど背丈を伸ばして貰え……と先程の雄姿を見るまでは思ったであろうな。だが、願いが小さすぎるのは事実だ。しかたがない、貴様のその小さな価値観を余が、より広大な願いを持てるよう導いてやろう。余と共に戦場を駆け抜ければ、貴様の別な願いも見つかるであろう」

「じゃ、なんでぶったんだよ~」

「喝を入れてやったまでよ」

 

 召喚してすぐに、自分の命を掛けた上で立ち向かった姿を見ていたライダー。本心からウェイバーの願いを「くだらない」と考えつつ、彼の強さも知っている事で周りの環境が悪いのだと見抜いた。

 

「……ウェイバー、大きい」

「いやいや、小娘。坊主はどう考えても、小さい。まぁお前さんは、もっと小さいがな。もっと飯を食って大きくなるがいい、将来はさぞ美しい美姫となろう。余が保証する」

「お前ら……。ええい、離せよ」

 

 いまだに襟首をつままれたウェイバーは身をよじって拘束から逃れる。そして、ライダーを睨み指を突き立てる。

 

「たく、お前随分と自信があるみたいだけど、何か勝算はあるのか?」

「ほう、余の力が見たいと?」

「当然だろ。聖杯戦争なんだ、戦力の確認は必要不可欠だろうが」

「よかろう」

 

 ウェイバーの提案にライダーも文句はないのか、つかつかとアルカとウェイバーから距離を取り腰に刺した剣を抜く。それを空高くに掲げながら、宣言する。

 

「征服王イスカンダルが、この一斬にて覇権を問う。Alaaaaaai!」

 

 彼が剣を振り下ろすと、周囲の空に雷雲が立ち込め激しい稲光が起こる。その稲光はライダーの頭上で渦となり、彼の前に雷として舞い降りる。突然の魔力に実体化したブレイカーがアルカの前に立って余波を防ぐ。

 

「おー……」

「な」

 

 自慢げに驚く2人とブレイカーを見るライダーの前に、巨大な黒くて雄々しい雄牛2匹に繋がれた、チャリオットが存在していた。ライダーのクラスで呼ばれたからには何かに騎乗する英霊なのはわかっていたが、未だに電撃を迸らせ、神々しいオーラを纏う戦車の宝具。

 

「ゴルディアス王がゼウス神にささげた供物でな。余がライダーの座にすえられたのも、きっとこいつの評判のせいであろう。余はいつでもこいつで駆け出せる。なればこそ、敵のサーヴァントの居場所を突き止めるのはお貴様の仕事だ。それまでは、地図でも眺めて無聊の慰めとするが……まぁ文句はあるまい?」

 

 宝具を見せたライダーの姿に、ウェイバーは頷く他なかった。彼がこの聖杯戦争で呼び出した英霊は、間違いなく一級品であり、負ける気がしなかった。

 

tobecontinued




【裏話】

「なんだ、マスター?」
「……」  

 ライダーが宝具を取り出した後、帰り道でジーっとアルカがブレイカーを見つめる。その視線に耐えられなくなった。

「……宝具」
「あー、うん、ごめん。俺、征服王みたいにカッコ良い宝具持ってないです」
「……」
「い、いつか必ず見せるから。でも、カッコよくはない……それにポンコツ……」

 少し落胆したような(当社比2%)ような表情のまま、アルカは視線を前であるくライダーに向ける。

(もしや、リストラの危機?)

end?
 

キャラ紹介

名前:アルカ・ベルベット
読み:あるか・べるべっと
身長:130cm / 体重:27kg
イメージカラー:金と白
特技:記憶、模範
好きなもの:情報、ウェイバー / 苦手なもの:感情、不確定要素
天敵:なし
魔術属性:? 起源:?

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