Fate/make.of.install   作:ドラギオン

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 次回は明後日の予定です。


魔の手

 ぼんやりと意識が浮上する。だが体は溶けてしまったようで自分の輪郭すら認識できない。ただ、広い海の一部になった様に水の流れに従うだけ。私と言う意識があるのに、それは本当は存在しないのではないかとすら感じる。

 

 

 

「■■■■■、僕等の娘だ。僕等の天使だ。□□□□□□、ありがとう」

「この子は、一杯愛を与えて育てましょう」

 

――――この人達が、お父様とお母様と言うのね。私を愛してくれるのね。根源が愛はいいものだと教えてくれたもの。私も大好きよ。

 

「笑ったよ」

「言葉が分かるのかしらね」

 

――――えぇ。わかるのよ。少し頭が痛いのだけれど、分かるのよ。

 

「■■行ってくるね。たの■■■■■れ」

 

―――――――――――寂しいわ。最近会いに来てくれる回数が減った。根源で見れば忙しいのは分かった。我慢する。

――――あれ? どうして会いに来てくれないのかしら? 調べなきゃ。あれ? さっきも調べていたの?

 

 水に溶ける感覚の中で自分の声と女性と男性の声が聞こえる。最初は幸せそうだったのに、徐々に雲行きが怪しくなっていく。何故か数々の擦れ違いがありながらも時は流れる。

 

 

「セレ■■、ト。ア■ト。今日も■■■■■ね」

 

(誰? 誰が私を呼んでる?)

 

―――どうして、私の事を見てくれないの? 

 

(?)

 

「また、お■か■■しょう」

 

――――お母様も、お父様も、どうして私に会ってくれないのかしら。もう顔も忘れてしまったわ。私を愛してくれるって言ったのに。

 

(どういうこと?)

 

 先程から、聞き覚えのない男性と女性の声が響く、酷くノイズが入って聞き取れない。そして、声を聞くたびに私の声が聞こえる。私の声が聞こえるたびに、深い何かに引き込まれそうになる。

 

「■■■■■■、■■■貴方の妹よ」

 

――――どうして、どうして妹なんて作ったの? 私の事すら愛してくれなかったくせに。嘘つき、嘘つき。

(胸が苦しい)

 

「明後日は、■■■だから、早く■■■ね」

「私も、■■しいケー■■■」

 

――――――目の前に居るのは誰? え、お父様? お母様? それは何? あ、そうね。わかった。 

――――もう何年も二人に会ってない。どうして? 声も顔も、ぬくもりすら思い出せない。全部、アイツのせいだ。

 

 

「キャアアア!」

「■■■、■■■■■!」

―――――どうして、私を地下に閉じ込めるの? 私が何をしたの? どうして私はこんな場所に居るの? それにさっきの声は誰なの?

 

 突然、女性と男性の悲鳴のような声が聞こえ、掌に血の感触が発生する。けれど周囲は真っ暗で何も見ることが出来ない。そして再び自分が何かに汚染される、混ざるような不快感。そして次には、ぱっと明るくなる。

 そして見える光景は、見知らぬ部屋で落ち込んでいる自分。そして部屋に入ってきた医者様な人間達。そして、気がつけばいろんな医者が自分を見に来る。彼等の言葉は全てノイズが掛っており、聞こえない。むしろ自分は彼等を人として認識していない。

 だんだんと汚らわしいと感じるようになり、白衣を着た人間達を部屋でバラバラに解体した。手を振るうだけで、根源から得た魔術を発動する。部屋中が白衣を着た虫達の体液で汚れる。けれど、お母様とお父様が会いに来てくれるのを待った。

 

 

―――私は誰を待って居るのかしら。

 

(これは、私の記憶? 私の消された筈の記憶?)

 

 私は少しづつ覚醒していく意識で、現状を把握する。この映像の意味を理解し始める。そして、次の場面は部屋に魔術師らしき集団が入ってくる。

 

――――なにかしらこのゴミ達は。魔術師? 時計塔? 執行者? 

 

 彼女は、根源への接続によって相手の情報を引き出す。そんな彼女に魔術師達は「御両親から君の保護を依頼された」と言う。その言葉を聞いた時、激しい動揺が発生する。

 

――――嘘よ。お父様とお母様が私を封印しようと言うの? 何故? 私は何もしてないのに? ただ、お母様達に会いたくて待って居ただけじゃない!! 

 

 突然暴れる彼女を止めようと腕利きの魔術師達が応戦するが、10秒も立たないうちに殺戮される。そして耐えきれなくなった少女は、何処かわからない場所を飛び出した。道が分からずとも、根源から情報を収集し続け、ようやく母と父の居る部屋の前に辿り着く。全身帰り血で汚れながらも、屋敷中を走り回った彼女は扉を開けた。

 きっと何かの間違いだ、きっと理由があるのだと。

(いったい、何があったの?)

 

 しかし、扉を開いた直後。頭と胸に激しい痛みが襲い視界がブラックアウトする。そして気がついた時、自分の周りには男性と女性の無残に引き裂かれた死体が転がっていた。

 

――――うふふ、もういいわ。こんな世界いらない。全部全部、呑み込んで捻じ曲げて、消し去ってしまいましょう。憎いわ。全てが、この世界の何もかもが憎くて仕方ない!!

 

 次に気がつけば、自分の前には冬木の大災害とは比べ物にならない地獄が広がっていた。生きながらに腐敗していく男達。虫達に貪られる女性達、消えない炎に焼かれる子供達、津波の如き水で全てが流される街。あらん限りの災害を引き起こしていた。

 

 其処で意識が完全に覚醒する。最後に見たのは、その光景を見て楽しそうな自分だった。その瞬間、深い闇の底へと引き摺りこまれる。必死に足掻くが逆らえない。

 

{アルカ、私の手を取って}

 引き摺り込まれそうになる私は、突然上からこちらに手を伸ばす、沙条愛歌の手を掴んだ。そして、精神の愛歌と一体化した時、周囲の闇が私達を包みこんだ。

 

 

―――――

 

「いやあああああああ!」

『アルカ、落ち着いて。大丈夫だから、落ち着いて』

 

 悪夢から解放されたアルカは、血相を変えて叫びだす。それを見た看病していたアンが、抱きしめて泣きはじめる彼女の背中を優しくさする。

 

「うぅううう、ああああああん」 

『もう大丈夫、私が傍にいるから』

 

 アンは昨日の夜から、今日の夕方まで悪夢に魘されながら苦しむアルカを看病し続けていた。もしかしたら目を覚まさないのではないかと考えた。しかし目覚めた事で、アンも瞳から雫を零す。10分程泣き続ける彼女を宥めながら、汗をかいた彼女の体をタオルでふく。

 夢から覚めたアルカは、何処か意識が気薄だったが、会話は可能だった。おそらく何らかの呪いで精神が疲弊しているのではと推察する。

 

「……」

『ずっと寝てたから、お腹すいたんじゃない?』

「……綾香は?」

『今夜、取り返しに行く。セイバーさんが言うには、送られる魔力に異変はないって』

「……そう。……わかった、あのライダーも間桐も全て殺す」

『アルカ?』

 

 目が完全に据わっており、妙な魔力の波長を感じさせるアルカ。10年前に出会った頃の様な不安定さが、今のアルカには感じられる。体に巻かれた包帯を解いて、立ち上がろうとするアルカを押しとどめ、ベッドに抑えつけるアン。

 アルカは、ボーっとアンを眺めながら、抑える手を退かそうとする。

 

「……アン、どういうつもり?」

『今のアルカは、何か怖い。悩みがあるなら、言って欲しい。―――私は絶対にアルカの味方だから』 

 

 そう言ってアルカの体に覆いかぶさるアン。水銀の身体とは思えない温もりが、アルカの心を解かしていく。悪夢によって一時的に混乱していた彼女の心が少しづつ、落ち着いて行く。夢を見ている間に愛歌と融合していた魂が分離、再び結合した結果、混乱していた。

 徐々に思考がハッキリしてきたアルカは、自分に覆いかぶさるアンの頭を撫でた。その瞬間、アンは自分の欲と想いを彼女に打ち明けそうになる。しかし、今彼女を惑わす事はしてはいけない。彼女は既に愛する人間が居り、それを見届けると自分は決めたのだから。

 名残惜しいが、アンはアルカの体から降りて『ごめんね』と告げる。

 

「お腹が、すいた。何か作って貰っていい?」

『うん! 準備を整えて、必ず綾香を助け出そう。私達はお姉ちゃんなんだから、必ず』

 

 そう言ってリビングまで来たアンは、テーブルで時計を見ながら沈んだ空気になっていた。

 

「マスターは目を覚ましたんだな」

『はい。今夜は無事に決行出来そうです。お二人も今のうちに準備しておいてください』

 

 アンがそう言いながらアルカのご飯を作り始めると、ブレイカーやセイバーもライダーの誘いに乗る以上、何かしらの用意をして行かねばと作業に入る。ライダーと慎二は、自分達が優位な場所で戦うつもりなのだろうが、オフェンスに入れば沙条陣営は冬木でも最強。そして彼等の戦う理由を誘拐したとなれば、未来は明るくはないだろう。

 

―――――――

 

 間桐邸の客室のシングルベットの上で、セレアルトは眠そうな顔をしたまま、ボーっとしていた。そこにエプロン姿の桜が入ってくる。

 

「目が覚めたんですか?」

「……ん。やっぱり愛歌が邪魔をしてきたわ。後少しで同化できそうだったのに、折角繋いだラインが、斬られてしまったわ」

「そうですか。……アルトちゃん、私またお腹がすいて来たので、そろそろお食事に行きたいんです。それに、先輩を何時になったら私にくれるんですか?」

  

 桜は陰から謎の触手を発生させる。攻撃の意思はないが、何時までも待つ気はないと意思表示していた。それに対してセレアルトはアクションを示さない。悪性と善性の間で揺れ動いている桜は、ふと正気に戻り、顔の紅いセレアルトの様子を見る。

 

「どうかしたんですか? 熱があるみたいですが」

「……んラインを利用して、呪いをありったけ送られたの。この世全ての悪を呪い殺そうとするなんて、この体の元住人は、恐ろしい限りね」

 

 桜は、一応風邪薬を持ってくると、部屋を出る。そして残されたセレアルトは、自分の掌を開閉しながら呟く。

 

「うふふ、後少しね」

 

 

 




 この小説で、アルカと融合してる愛歌は、善性に傾いてますね。プロトの愛歌とこの小説の愛歌には、大きな違いがあります。それが登場するのはもっと後かな。

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