Fate/make.of.install   作:ドラギオン

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侍と聖処女

 レティシアと名乗る同年代の女性を家に泊めた士郎。彼女が悪人に見えない事やセイバー(アルトリア)に何処か似た雰囲気を持つからこそな部分もある。そして、一晩過ごして落ち着いた士郎だが、彼の憧れる”正義の味方”は、黙って凛が全てを解決するのを待てるような性質ではない。

 たとえ、勝てなくとも何かをしなくてはという気持ちが湧きおこり、御昼前に士郎は道場にあった木刀を背負い出掛ける準備をした。レティシアには、書き置きを置いて、静かに出掛けようとした時、目覚めていた彼女が現れる。

 

「何処かに行くのですか? その、なんていうんでしたか」

「木刀かな」

「そうです、そんなものを背負ってどこに行くのですか?」

 

 朝っぱらから木刀を持って出掛ける人間は稀だろう。剣道部ならありそうだが、士郎はフランス人の彼女にどう説明しようか悩む。

 

「何か事情があるのなら、聞きません。貴方は決して悪い人じゃないです。だから、聞きません」

「――そう言って貰えると助かる。昼と夜は、もう作っておいたからレンジで温めて食べてくれ」

「シロウ君はどうするんですか?」

「俺は、ちょっと用事で遅くまで戻れない。あまり漁られると困るけど、家の中でくつろいでくれていい。出掛けるなら、予備の鍵を此処に置いとくから鍵を掛けてくれ……後、夜は出歩かない方がいい」

 

 そう言い残し、士郎は家の玄関から外に出た。何処に行けばいいかわからないが、一先ず虱潰しに探す事にしたのだ。置いて行かれたレティシアは、彼の用意した昼食を食べた後に天井を見上げながら、独り言をつぶやいていた。

 

「聖女様、この後はどうするんです?」

 

 問いに答える物はいないが、何やらレティシアは誰かの声を聞いたように頷いて、台所でお皿をかたずける。そして、士郎に教えられた鍵を持って戸締りをして出歩くことになった。目指すのは、柳洞寺だった。

 

 

ーーーーー

 

 衛宮邸を出て長い時間を歩いて、柳洞寺の長い階段を上っている時。レティシアは、境内の門に気配を感じて立ち止まる。だが、その場には誰もおらず無人。急に立ち止まったレティシアは、眼を閉じる。そして次に開いた時には、雰囲気が変わる。

 先程まで一般人の気配しかしない彼女から、澄んだ魔力があふれ出す。

 

「居る事はわかっています。戦闘に来た訳ではないので、姿を現しなさい」

「おや、見抜かれていたか」

 

 急に雰囲気の変わったレティシアの声に反応して、陣羽織を身に纏い、通常よりはるかに長い刀を背負う侍の様な英霊、アサシンの佐々木小次郎が現界する。腕を組みながら、門に凭れる彼を見たレティシアは、その姿と彼の情報に驚く。

 

「貴方はアサシンなのですね? ですが佐々木小次郎など言うアサシンは存在しません」

「ほう、そなたに名乗ってはいない筈だが、それが貴様の能力という訳か」

「えぇ。私はルーラーのサーヴァント。この冬木の聖杯戦争を見定める裁定者です」

 

 これは珍しい客人だと、小次郎がレティシアを見る。先程まで不安そうな顔が一変、カリスマ性を感じさせる堂々とした態度や言動、そして自分の存在を見極める彼女の目。どう考えてもサーヴァントにちがいないと笑う。そして、背中の刀に手を伸ばすが、その挑発に乗らないルーラー。

 

「裁定者? 聞き覚えのない役職だな。それで戦いではないと聞いたが、それならばこの境内に何用で参った?」

「この街全体に影響する程の魔術を発動するキャスターの裁定です。最初は目を瞑りましたが、日々増加していく摂取量を見逃す事は出来ない。そして、サーヴァントがサーヴァントを召喚するルール違反が判明した以上、キャスターは早急に対処しなければなりません」

「ほう、あの女狐を裁きに来たと言う訳か。あの女の悪行も遂には極まったと言う事か、それで戦いに来た訳ではないと言うが、女狐を打ち倒したくば、門を越えるしかないぞ。そうなれば門番たる私が相手せざるを得ないが」

 

 物干し竿という刀を抜き、その抜き身の刃をルーラーに向けるアサシン。その刃を向けられたルーラーは、踝を翻して階段を降りはじめる。それには呆気にとられるアサシン。

 

「その手には乗りません。残念ながら貴方の嘘はわかっています。仮に貴方を倒したとしても、境内がもぬけの殻なのはルーラーの特権で把握しています」

「――それはそうよな。いや、ゆるせ。なにぶん客を迎えるのは久方ぶりでな。ついもてなしたくなってしまったのだ」

 

 アサシンは、以前のキャスターのマスター誘拐以来、誰も訪れない門を守り続けていた。そして、眼の前に強いと感じる英霊がいるため、戦おうとしただけ。だが嘘を見破られ、相手に戦う気がないのなら興醒めなのだ。去ろうとする女の背中を斬る趣味も無ければ、理由も無い。

 

「真に残念だが、仕方あるまい」

「あなたは、此処から動けないのですか?」 

「あぁ。イレギュラーな召喚の代償らしい。私の媒介はこの山門。故に離れる事は叶うまい」

「それは……」

「なに、そなたが気に病む事はない。その用に顔を伏せていては、雅な顔が陰に埋もれてしまう。そなたの様な美しい花は、空を見上げると良い。さすれば天も輝こうというものよ」

 

 ルーラーを見送るアサシンは、美しくも儚い印象を受ける少女の後姿を見おさめて、霊体化する。キャスターが柳洞寺を離れた以上、自分に残された時間はあまり多くはないだろう。それまでに他のサーヴァントが来る確率は低い。それでも現界した目的は果たさねば、消えることすらできないとただ待つ事にした。

 

 この時は彼も思いもしなかっただろう。ただ、待って朽ちるしかない己の運命を変える存在が現れるなどと。

 

 

 


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