Fate/make.of.install   作:ドラギオン

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奇襲

「キャスター! 貴方の指示に従う気は、ない!」

 

 怒りのままに騎士王伝説の根幹であり象徴である約束された勝利の剣の真名解放を目論むセイバー。キャスターの制止も聞かず、この場所が街中だと言うことすら忘れた暴挙。キャスターが言うことを聞かないセイバー(アルトリア)に綾香達を襲わせていた竜牙兵を差し向けるが、魔力の衝撃だけで破壊される。

 流石にブレイカーも立ち止まって、真名解放をこの場所で放とうとする彼女の狙う方角を見た。セイバー(アルトリア)が剣を振りおろせば間違いなく、住宅街を巻き込む。

 

「おいキャスター! 正気か!?」

「お黙り! 私の意図した事ではないわ!」

 

 ただでさえ暴れているブレイカーですら、約束された勝利の剣が住宅街に放たれるのは、容認できない。それはキャスターもであり、人々から魔力を吸い上げてはいるが虐殺がしたい訳ではない。それに宝具で住宅街を消し飛ばせば、聖杯戦争の履行すら不可能になるだろう。

 そして、セイバー(アルトリア)に狙われているセイバー(アルトリウス)自身も、背後を見て引けないと察する。  

 

「セイバー(アルトリウス)!」

「綾香、すまないが魔力を貰うよ。約束された勝利の剣(エクスカリバー)を約束された勝利の剣(エクスカリバー)で相殺してみる」

『綾香、下がろう!』

 

 背後には、罪のない民達がいる。それをアーサー王たる象徴で殺させる訳にはいかない。彼女を止めなければとセイバーも聖剣の真名解放を望むが、制限が2つ程しか解放されない。これでは真名解放できないと、ピンチに追いやられる。

 相手がアーサー王であり、封印を解除する条件に深刻なエラーが起こっているのが原因だった。徐々に制約が解除されていくが相手は既にチャージを完了しており間に合わない。綾香はアンが抱えて射程距離から離れたため、巻き込まれはしないが安全とは言い難い。被害を最低限に喰いとめるには、相手と寸分たがわない威力での相殺しかない。

 

(できるのか、約束された勝利の剣の微調整なんてしたことがないのに)

 

 セイバー(アルトリウス)が決死の覚悟で迎え撃とうとした時、ブレイカーの傍で現界したアルカがキャスターに問いかける。 

 

「制御できない?」

「うるさいわね。出来たらやってるわよ」

「ブレイカー、宝具を使って迎え撃って。キャスター、今日は見逃してあげる。今はセイバーを止める」

 

 反論は許さないと言うアルカの眼力。暗示でも掛けられそうな瞳で見られたキャスターは、奥歯を噛み締めながらも、彼女達が暴走したセイバーを止めてくれるなら令呪を使わないで済む。当然、この後は此方に一切の干渉をするなと言うことなので、休戦となるのだろう。

 だが、元々沙条陣営との衝突は予定外のため、問題ない。

 

「望みは何かしら?」

「綾香の呪いを解く方法を教えなさい。それが分かれば、私達が貴方を狙う理由は無くなる。当然、魔力吸収の件は別」

 

 アルカは、最優先事項の綾香の聖杯戦争からの解放を求める。キャスターの行う冬木の住人からの魔力吸収も見逃せないが、最優先ではない。

 

「―――いいわ。乗ってあげましょう」

「ん。ブレイカー」

 

 マスターとキャスターの一時休戦が纏まったため、ブレイカーはセイバー(アルトリウス)の隣まで一瞬で移動する。それにはセイバー(アルトリウス)も驚くが、いつになく真剣な表情のブレイカー。右腕をセイバー(アルトリア)に向けて真っすぐ伸ばし、眼を瞑る。

 

「どうするきだい?」

「正面から受け止める以外ないだろう。―――今の狙いはお前だから、威力の増大はないか」

 

 セイバー達の持つ神造兵器は、在る理由から星の外敵であるブレイカー相手に威力が爆増する。それを警戒しているブレイカーだったが、セイバー(アルトリア)が狙うのはもう一人のアーサー王。なら、出力は通常のもの。それならと、右腕に刻まれた刻印を解放し、右腕の刻印がほどけると白と黒の膨大な魔力が解放される。

 その出力は隣にいるセイバーすら吹き飛ばされそうになり踏ん張る程だった。

 

「それ、は」

「俺の宝具……くるぞ」

 

 夥しい魔力を溢れさせながら、掌を聖剣を振り下ろしたセイバー(アルトリア)に向きあう。10年前と同じように、宝具に宝具をぶつけるために。

 

「約束された勝利の剣(エクスカリバー)!!!!!」

「今頃ブリテンの民は泣いてるぞ、この世全ての終わり(ブロークン・ファンタズム)!!!」

 

 光の奔流が迫る中、ブレイカーの掌を砲身に破壊の魔力の濁流が正面から衝突する。互いに相手を消し去ろうと相互干渉るが、我武者羅にはなった聖剣の威力が、徐々にブレイカーの触れたすべてを破壊する魔力その物が宝具となった”この世全ての終わり(ブロークン・ファンタズム)”に呑み込まれていく。ブレイカー相手にはなったのなら、状況は変化していただろう。

 しかし、本来の威力でもない約束された勝利の剣の光の奔流は、数十秒の戦いの末に押し負け、その全てを飲みこまれる。そして、真名解放を打ち破ったブレイカーの放った魔力砲は、セイバー(アルトリア)に命中しその身体を撃ちあげる。

 

「ガッ……く」

 

 ふいに打ち上げられた彼女は、言峰教会の天井にある十字架に激突して、落下する。本来なら暴走するセイバー(アルトリア)なら消滅させられた筈。しかし、直撃の寸前に右腕を刻印で封印したブレイカーが攻撃を停止したため、衝撃で吹き飛ばされるだけだった。

 

「ブレイカー、大丈夫なのかい?」

「問題ない。俺の自身魔力を少し使っただけだ。だが、封印にマスターの魔力を使ってる、あっちが先にだめそうだ」

 

 宝具の使用を停止したブレイカーだったが、彼の指さす方向に居るアルカが苦しそうにしていた。数年前に魔力量がごっそり減った彼女には、規格外の宝具を封印するために必要な魔力は激しい負担なのだ。だが、ブレイカーの宝具は封印しなければ、星その物を包みこんで破壊してしまう規模の宝具。発動と威力は申し分ないが、制御が一番難しいのだ。

  

 苦しそうなアルカだが、当然キャスター相手に油断はしない。ブレイカーもキャスターがおかしな行動をすれば、すぐに迎撃する準備が出来ている。

 だが、キャスターはブレイカーの宝具を見て、その恐ろしい威力に酷く警戒していた。

 

「女のセイバーは、一応殺していない。さぁ、情報を吐け」

「ぐ、わかったわ」

 

 セイバー(アルトリア)が完全にダウン。そして相手はセイバー(アルトリウス)とブレイカー。その両者に責められて勝ち目などある筈がない。そして魔術を見ただけで看破するアルカ。背後にはアサシンのアンと魔力量が潤滑なマスターである綾香がいる。

  

「私の宝具”破戒すべき全ての符(ルールブレイカー)”は、あらゆる魔術をリセットするの。それでセイバー(アルトリア)を奪ったと言えば、納得するかしら?」

「それで?」

「私が”破戒すべき全ての符(ルールブレイカー)”で妹さんかサーヴァントを刺せば、その呪いはリセットされる筈よ。貴方達が聖杯を望まないのなら、サーヴァントを失うことがデメリットにはならないのでなくて?」

 

 そういうキャスターだったが、ブレイカーとアルカは暗い表情をし、綾香は心底嫌そうに距離を取る。セイバー(アルトリウス)も複雑な表情でキャスターを見る。

 

「ん。ありがとうキャスター。でもそれじゃ綾香の魂は解放されない。強引な解除なら時間があれば私も可能。だけど、それでは綾香の魂が令呪と同時に消滅する。あれは融合に等しいから」

 

 アルカの言葉にプライドが傷つけられたキャスターだが、その話を聞いてもう一度、綾香の令呪を見る。服越しではあるが彼女の令呪は感じ取れる。そして、アルカの推測通り、魂と令呪が融合している事を知る。

 

「ほんとうに、人の魂を平然と別のものと融合させる事など、今の魔術では不可能な筈」

「ん。それには同意。最初はあなたが犯人だと思ってた。けれど、違う」

 

 アルカは、キャスターこそが犯人だと予想していたが彼女の魔術系統を視る限り、綾香に施されたものとは違う。それ以前に令呪を作れるのなら、アサシンを山門に縛る意味はないし、もっとサーヴァントを召喚できたはずなのだ。

 

「今日はもう帰る」

 

 キャスターに綾香を助けるすべがない以上、生かしておくメリットはない。だが、また綾香の救出が遠退いたことが酷く悲しかった。魔力も大幅に失い、魔眼の使用も限界時間が迫っている。無理やりブレイカーとセイバーで制圧することも可能だが、言峰教会の前で全力で戦い、英雄王が帰ってきたらと考えると、悪夢でしかない。

 キャスター自身も今更戦う気もなく、気絶したセイバーの元まで浮遊し、彼女と共に転移する。全員が気を抜いてしまったとき、突然アンの背後に人影が現れる。

 

「え、キャッ」

『何!?』

 

 突然現れた人影は、アサシンであるアンに気配を悟らせず、一撃で綾香の意識を奪い彼女の体を脇に抱える。その姿を見たアンが両腕を刃に変えて襲い掛かる。しかし、相手が発動した巨大な魔力の盾に阻まれて弾かれる。綾香とアンの声に反応したセイバーがその人物を見て「ライダー!」と叫ぶ。

 その言葉を着た瞬間、ブレイカーが走り出し、アルカがキャリコを精製する。

 

「動かないでくれ。動けば彼女の命はない」

「貴様」  

 

 綾香を気絶させたのは、姿を消せるマントを着たペルセウスだった。彼は、盾を消して鎌剣を取り出して綾香に向ける。その武器は決して癒すことのできない神すら殺す傷をつける宝具。それは小さな傷ですら致命傷になる。一瞬セイバーやブレイカーたちの動きが止まると、ライダーはマントを消した上で、ペガサスと黄金の手綱を召還する。その行動からライダーの宝具は複数だが、同時に扱えるのは二つ。それがわかったところで、ペガサスに乗せられた綾香がどんどん遠ざかっていく。

 

「綾香をどこに連れて行くつもりだ!?」

「明日の0時に、この場所に来るがいい」

 

 空高く飛び上がった天馬に跨るペルセウスは、手紙のようなものをアルカに投擲した。ソレを受け取ったアルカは、浮遊魔術を行使し高度を上げる。

 

「たかが英霊風情が、よくも。綾香を返せ!!!」

「勇敢だな。だが、あまりに無謀だ」

 

 空を飛行していたアルカ。使用しているのは、キャスターと同じ系統の魔術であり怒りによって瞬時にコピーを成功させていた。空中まで綾香を取り返しに来たアルカに一時は驚くライダー。だが、英霊たる彼にマスターの奇襲は恐ろしくもない。

 綾香に当たってはいけないため、黒鍵を構えるも天馬の体当たりによって黒鍵が砕け、アルカの体が吹っ飛ばされる。そして、ペルセウスが通り過ぎた瞬間、彼の影から這い出た蛇のような物体がアルカの首に噛み付いた。その瞬間彼女の循環魔力が大きく乱れる。そして即死とはいかなくとも、宝具を受けてしまった彼女は血を吐きながら気を失う。

 

 飛行魔術が消え落下するアルカの体を地上からジャンプしたブレイカーが受け止め、綺麗に着地する。アンは慌ててアルカに駆け寄り、傷の具合を確認する。その間にセイバーとブレイカーはライダーをにらみつけるがマントを身に纏い天馬ごと消えた彼を追うとは不可能。

 今すぐにでも飛び出しそうになるセイバーの肩をつかみ、押しとどめる。

 

「セイバー、今はこらえろ。アイツは来いと言っている。なら少なからず綾香の命は無事だろう。お前とのラインがつながっている以上、不用意なことは出来ない」 

「だが、僕は綾香を守るために参戦したというのに、彼女を守れないなんて」

「それは俺も同じだ。家族を誘拐した上に、俺のマスターをボロボロにしやがった--落とし前は付けさせる。だから堪えろ!」

 

 今彼が行動しても何も出来ない。戦闘力だけ高い二人であっても空中にいる相手を殺せても人質の救出は難しい。なら、どうであれ相手の挑戦を受けるしかないのだ。

 

 セイバーを押し留めているブレイカーだが、彼本人が飛び出したくて仕方なかった。

 

「俺もマスターが回復してからでなくては、戦えない」

「く」

『アルカ……』

 

 ぐったりとしたアルカを抱えるアンは、一刻も早く彼女の治療をしなくてはと、ブレイカー達を急かす。一番悔しいのは、すぐ傍にいて綾香を護れなかった自分、アルカを護れなかった自分なアン。今にも泣きだしそうになりながらも、包帯でアルカの体に応救措置を施す。幸い治療道具は車のトランクに積んでいたため、車内でも彼女の傷口を消毒することが出来た。

 

「はっ……は……」

 

 アンの膝の上で、傷から来る発熱に魘されるようなアルカ。彼女と攫われた綾香の身を案じながら、沙条家へと引き返したのだった。車で移動する最中、セイバー(アルトリウス)は投げ渡された手紙に記された場所を睨んでいた。

 その場所はアインツベルンの森から少し離れたエリアだった。

 

 

 

 

 




 次回は、明後日投稿予定です。

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