Fate/make.of.install   作:ドラギオン

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忠告

 

昨晩の荒事とは無縁の夜を過ごした綾香達。すっかり気が抜けた3人は、翌日が土曜日という事も相余り、昼前まで熟睡していた。

 サーヴァントであるブレイカーとセイバーは、眠る必要性がないため徹夜でセイバーは沙条家とブレイカーはマッケンジー家の護衛に出掛けたが、何も起こらなかった。

 

 唯一起こった事と言えば、朝が来た事でマッケンジー家から近くの駐車場に止めた車(タクシー)で帰ろうとキーを回した時だ。

 

「また、小娘共の遣いか、恐怖王よ」

「……そうだ。というか、いきなり後ろに乗るなよギルガメッシュ」

 

 車のキーを回したブレイカーの背後、後部座席に突然と現れたのは黒のライダージャケットを身に纏う金髪と赤目の至高の存在。世界最古の英雄王その人だった。突然の来訪者にブレイカーも戸惑うが、彼が気を使う人間でない事は付き合いで知っているため、車をそのまま走らせる。

 その事には、ギルガメッシュも文句はないらしく、口を挟まない。

 

「それで、このタイミングで接触して来たってことは、関係あるんだよな」

「聖杯戦争か? あるともさ。いよいよ、我と貴様の決着も近いと言うものだぞ恐怖王?」

「わざわざ、宣戦布告に来てくれたのか」

「まぁそれはついでだ。お前も理解しているだろう? 今回の聖杯戦争に明確な齟齬が起こっている事に」

 

 ブレイカーは、安全運転しながらもバックミラーを見る。後部座席でふんぞり返っているギルガメッシュは、蔵から取り出したワインを嗜みながら、怪しげに語る。そのワインを零されるのも癪なので、比較的安全な運転を心掛ける。

 

「俺はお前か、神父の仕業だと考えていたんだが」

「確かに言峰を知っているお前なら、その考えが自然よな。だが今回は違う、むしろ言峰は巻き込まれた側だ」

「聞きたくなかったなその事実は。……で、それを伝えに来てくれただけじゃないよな」

 

 ブレイカーの問いに、ギルガメッシュは沈黙で答える。後部座席の男は、基本的に面倒だが言葉には重みと意味がある。王である故に、決して覆せぬ言葉の重みが。

 

「今回の黒幕は、どうにも形容しがたい汚物だ。この世全ての悪ですら、純粋に思える程の悪辣な存在であった」

「遭遇してるのか」

「我の庭で、腐臭をばらまくのでな。我自ら消し去ってやろうと思えば、右腕を食い千切って逃げ、た」

 

 ブレイカーは、そう言いのけるギルガメッシュの腕を見るが完全に再生している。だが、他の体より明らかに魔力の密度が薄く、食い千切ったと言う意味が理解出来た。

 

「強かったのか?」

「たわけ、貴様の尺度で測るでない。あれは強さとは無縁のものだ。沼に武器を振り下ろし、はねる泥で汚れた服を負傷というか?」

「わるかったな」

「――――だが、あれは我と貴様、人類の未来と終わり両方にとって天敵だ。我とお前の争う理由は、性質が真逆だからこそだ、両方が共存する事は出来ぬ」

 

 ワインを口に含みながら、手元のグラスを揺らすギルガメッシュ。その行動は、食い千切られた右腕の動作を確認するようだった。

 

「黒幕は、俺とアンタの両方にとって有害な物体ってことか」

「そうだろうよ。未だにアレが我の庭に潜んでいると思うと、腹立たしい事この上ない」

 

 だったら、殺せばいいだろうとブレイカーは口に出さない。そんなこと言われる前にギルガメッシュなら相手を殺しているだろう。故に彼には黒幕を殺しきれない理由があるとしか思えない。だが、ギルガメッシュに手傷を負わせ、逃げる事の出来た怪物が気になるブレイカー。

 その正体を知っているのなら教えろと言いたくなる彼を見てギルガメッシュは話を続ける。

 

「気をつけろよブレイカー。奴は虎視眈々とお前を狙っているぞ」

「本気で忠告だったか。俺を狙っている―――ね」

 

 ギルガメッシュは、相手の狙いがブレイカーである事に気がついていた。彼のマスターである少女、万能の願望機すら霞む奇跡の体現者と同じ眼をした怪物。そして怪物の言う邪魔ものという存在が、ブレイカーへとギルガメッシュは繋げた。

 あの怪物は、間違いなくブレイカーのマスターと同じ性質であり、彼女よりも劣悪で強大。その彼女が邪魔ものとする存在、この冬木で彼女が恐れる存在など、数えるほどしかない。

 

「着いたぞ」

「ふん。精々我と相見える前に死なぬ事だな恐怖王」

「安心しろ。俺がお前を殺すのは決定事項だ。慢心は勝手だが、つまらない戦いにしたら、俺はお前を許さんぞ英雄王」

 

 言峰教会前で車を止めたブレイカー。後部扉を開いて、ギルガメッシュが下車する。そして、運転席に座るブレイカーとギルガメッシュは互いに相手を殺すと宣言しながらも、車を走らせる。別に惜しいとも思わず、来るべき時が近づいていると言う感覚が両者に走る。

 だが、それを邪魔する存在が居るのなら、それは潰さなくてはいけない。

 

「……よかろう。貴様には最初から手加減慢心一切なく葬ってやる」

「感謝しよう。例え散ろうとも俺は誇れる」

 

そう言ってブレイカーは、車を走らせた。ブレイカーの車が見えなくなると、ギルガメッシュは教会の扉をくぐろうとして、教会から出てきた金髪の女性とすれ違う。女性は、長い金髪をみつ編みにして黒いトレンチコートを着ていた。

 

「あ、ごめんなさい」

 

 とぶつかりそうになったギルガメッシュに謝って、何処へともなく走っていく。見覚えのない姿とその身に纏う不思議な魔力に興味を引かれるが、食指は働かず、見逃す。何より今日は惰眠を貪ろうと、教会へと入って行く。その時、足元に財布が落ちている事気が付く。それを拾い上げたギルガメッシュだが、下らんと教会の花壇へ投げ捨てる。

 

ーーーーーー

 

一方間桐邸では、桜が作った朝食をセレアルトと慎二が食していた。一昨日の臓硯を食ったことで沈静化した桜は、危ういバランスを保ちながらも、平常を保っていた。

 

セレアルトは、慎二とは別の部屋で食べており慎二は不満げだった。

そして、慎二の傍にはライダー(ペルセウス)が控えており、セレアルトの相手をしに行くと桜が部屋を出た段階で話しかけてきた。

 

「慎二、少しいいかい?」

「なんだよ。僕が食事中だってわからないのか?」

「それを承知の上でだね。君の妹、いつもあんな感じなのかい?」

 

 ライダーは、セレアルトと慎二の妹である桜の異質さを感じ取っていた。特に、落ち着いた様子で慎二の世話を焼いていた桜は、その内面に強大な悪を感じ取れる。嘗て彼が殺してメドゥーサ以上の脅威をこの英霊は、肌で感じ取っている。

 それを指摘された慎二もグラスに入った飲料水を飲みながら考える。

 

「確かに、桜は僕に正面から向き合う性格じゃなかったよ」

「明らかに、何かの影響を受けていると言う様子だ」

「アルト様が僕に力をくれたように、どんくさい桜にも慈悲を与えてくれたんだよきっと」

「本当にそう思っているのかい?」

 

 ライダーの質問に慎二はバツの悪そうな顔をする。

「なんだよサーヴァントのくせに、僕に逆らう気?」

「必要があれば。だがマスターである君が危険な場合に限る。私の願いは、君の成功だからね」

 

 自分と似た部分のある慎二。彼によって召喚された時、マスターである彼を過去の自分が重なった。メドゥーサを倒し幸せな人生を歩んだ自分、だが目の前の慎二はその前段階だった。自分だって一人で英雄になったのではない。誰かの助けがありチャンスを貰ったからこそ、英雄となった。

 ならば、過去の自分を思わせる慎二にチャンスを授けてみたいと思ったのだ。故に彼と協力関係にある2人は、ライダーにとっては警戒対象なのだ。

 

「変な奴だなお前」

「鏡を見て言うが良いさ。ただ、君の妹が暴走した時、ワタシは彼女を殺さなくてはならない」

「なんでだよ」

「君は魔術師だ。君の求めるのは魔術師としての成功だろ? なら、彼女が呑まれればそれは叶わない。サーヴァントである以上、君の方針には従う。だが、冬木全てが地獄に変わるのを君は認めるか?」

 

 桜が見せた力。全てを溶かして消化してしまう影の魔術。その力はサーヴァントであっても致命傷になり、人間には抵抗すらできない。もし彼女から闇が漏れ出した場合、聖杯戦争など関係ない世界規模の災害となる。善人であるペルセウスには、そんな滅びは許せない。

 慎二も食事の手を止め、魔術師になった事で桜の危険性を肌で感じていた。そして自分の世話を焼きながらも、その心の奥底にあるナニカを感じ取っていた。

 

「君に妹を殺す覚悟はあるのか?」

「うるさい! お前は黙って僕に従ってろよ!」

 

 慎二がペルセウスの言葉に腹を立て、テーブルの上の皿をひっくり返す。桜を虐げるのは、自分の権利だと慎二は思っている。だからライダーが桜を害すると聞けば、黙っていられない。何故自分は桜のためなんかに怒りを覚えているのかわからない。だが、許せないものは許せない。 

 ライダーは、慎二の態度を見て説得は不可能と悟る。

 

「兄さん? 凄い声と音が……もしかして気に入りませんでしたか?」

 

 皿の割れる音を聞いて桜が部屋に帰ってくる。そして、皿を拾おうとするが慎二がライダーにやらせろと言って、それを止める。

 

「けど」

「そいつが僕を怒らせるからだ。だから、お前は自分の部屋に行ってろ!」 

「――はい」

 

 一瞬だけ、桜の体中を黒い影が覆い尽くさんとしたが、慎二の叱責を聞いて我に帰る桜。ペルセウスに悪いと思いながらも兄を怒らせる訳にいかず、部屋から退出する。その間、ライダーが割れた皿を回収する。

 

「ライダー、沙条を殺した後、アルト様に桜を止めるようにお願いするさ」

「彼女もワタシは、信じられない。君は彼女に操られているんじゃないのか?」

 

 アルトと名乗る少女。サーヴァントすら殺す怪物をあしらう幼子の殻を被った何か。マスターである慎二は、アルトを心酔している。何者かわからないが、英霊である彼にとっては許容できない存在だと本能から察しる。

 

「ライダー、黙れ!」

「……」

 

 流石に慎二に言い過ぎた事で、慎二は令呪を使うと脅す。くだらない事に令呪を使われる訳にいかず、ライダーも黙るしかない。

 

「あの人は僕の願いを叶えてくれた。間違いなく僕の神だ。それを貶すならゆるさないぞ」

「わかった」

 

 慎二を怒らせ過ぎた。彼とは友好関係を保っておきたいペルセウスは、霊体化して消える。ライダーが消えた後、慎二は何度も床を足で強く蹴った。腹立たしさと、言い表せない複雑な感情を床にぶつけるように。 

 

 

------

 

間桐邸を霊体化しながら歩いていると、ペルセウスの前にアルトが闇から現れる。霊体である筈のライダーを明らかに視界で捉えているアルト。

 

「何か用でも?」

「うふふ、ライダー。あなた慎二に振り回されてかわいそうね。可哀想だから、いいこと教えてあげる」

 

 実体化したペルセウスの周りを、上目使いで回りながら、空中に浮遊するアルト。彼女は、ペルセウスの耳にとっておきの情報を耳打ちする。

 

「なんだと?」

「うふふ、じゃ私眠いから寝るわ」

 

 聞かされた内容に驚愕するライダー。そして、こっそりとアルトは掌に忍ばせた黒い魔力をライダーの影に落した。それに気がつかなかったライダーは、闇に溶けて行くアルトの姿を見送り、頭を抱える。

 





 次回投稿は明後日予定です。

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