Fate/make.of.install   作:ドラギオン

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 ちょっと長めです。次回は明後日の投稿を予定しております。


幕間・3

 ライネスとの邂逅は、部屋の一つが半壊する被害で済んだ。その後も何かと絡んでくるライネスにアルカが応戦し、周りから見れば仲が良さそうだった。そして、眠くなったライネスがトリマウムに抱っこされ寝室に連れて行かれる。

 部屋の客である綾香達もライネスの持ちこんだチェスなどの相手をしていたが、時間が時間のため眠気が訪れる。それを見かねたアンが綾香を寝かしつけていた。そして、旅の疲れが出たのかぐっすり眠る綾香を寝かせたまま、未だに起きているアルカの元に行く。

 

『ねむれないの?』

「ん。眼を瞑ったら、あの暗い場所に容れられそう」

 

 根深いアルカの橋の底でのトラウマ。時計塔という場所はアルカにとって鬼門なのだ。何処で産まれたかはわからないが、確かにアルカは時計塔に封印されていたのだ。

 

「……愛歌の魂と記憶を受け入れてから、自分の境遇を理解した」

『怖いんだね』

「……とても怖い。アン、一緒にいて」

 

 隣に座るアンの手を掴んで、心細い声を出すアルカ。アンはそのお願いに無言で答えた。彼女がマスターだからではない、彼女が彼女だから自分は護るし、大切にするというのがアンの矜持だった。

 アンに促されるまま、アルカもベッドで眠りにつく、明日の観光を楽しみにしながら。

 

ーーーーーー

 

 そして、次の日は一日休暇を取ったウェイバーの案内の元、倫敦の観光に出かけた。ウェイバーは非常に分かりやすい説明を交えながら、子供達を先導する。美術館ではアルカが、作品に対してよりも、その過程をinstallした事で感銘を受けていた。独特の愉しみ方をする奴だなと、ウェイバーは呆れるが喜んでいるのは同じなので口出しはしない。

 そして、かつては霧の倫敦と呼ばれた某殺人鬼の出没エリアを脅かし半分で訪れた時、アンが無償に張り切っていた。怖がる綾香と困惑するアルカを勇気付けていた。

 

『大丈夫、私が暗殺しかえすから』とシャレにならない発言をする暗殺者の英霊。アサシンとしての矜持からか、主人が暗殺されるなど許せないし、自分の方が優秀だと興奮していた。珍しいアンの反応に、子供達は笑っていた。

 綾香も観光地を巡るたびに喜んでいた。特にミュージカルには、酷く感銘を受けて目を輝かせていた。

 

 

 

「さて、だいぶ楽しんだことだし、家に帰るぞ」

「ん。楽しかった」

「連れてきてくれて、ありがとうございます」

『旅行は、楽しいですね』

 

 ウェイバーのエスコートは、上手くいったらしく観光を終えた4人は、帰りのリムジンで再びアーチボルト家に向かう。車内では遊び疲れた子供達が、寝息を立てており、運転手にゆっくり帰るようお願いしたウェイバーだった。

 

ーーーー

 

 それから気がつけばアーチボルト家の屋敷にいた少女達は、メイドに招かれ夕飯を全員で食べに行った。そこでは、一人置いて行かれたライネスが拗ねていた。だが、彼女は今日は習い事があり、抜けだせない。更に全て彼女を連れて行った事のある場所のため彼女が拒否したのだ。

 

「今度は私も連れて行け」

「わかったよ。アルカ達もいいか?」

『私はいいですよ。綾香、明日からはライネスさんも一緒で良いかってさ』

「あ、はい」

「……うん」

 

 アルカだけは、少し詰まるが綾香達が許可しているのに自分だけ嫌だとは言えない。それに一人置いて行かれる悲しみはアルカが一番理解できているのだ。そして、夕食を終えた3人が部屋に戻ると、再びボードゲームを持ってライネスが尋ねてくる。

 なんやかんや言った所で、彼女も同い年の子供と遊ぶ事は、悪くないらしい。そうして、全員でチェスをしていた。綾香はあまりなれていないゲームで、苦手の様子。アルカは、内包した人間達の記憶で知識はあるが平均的、ライネスは自分から挑むあたり優秀だった。

 アンは、綾香にルールの説明を交えながら、アルカは愚かライネスすら圧倒して見せた。本気で来いと言われたため、アサシンの仮面を出した彼女は100人分の思考を持っているのだ。最終的にアルカとライネスで組んで挑むが、アンには終始勝てない。

 

「ライネス、アンはゲーム強いの」

「く、とんだ伏兵だ」

『ふふ、チェックメイト』

 

 

 

ーーーーー

 

 子供達は仲良く遊び、ウェイバーとケイネスは工房で研究をしている最中。アーチボルト家のチャイムを鳴らした存在が居た。チャイムを聞いた使用人が誰かと扉を開けて、確認する。

 

「どちらさまでしょうか?」

「くふふ、姉様。なんてせつめいする?」

 

 執事姿の男性とメイドが見たのは、フードを被った2人の少女だった。彼女達は、流れるような動きで執事とメイドの前に掌を向ける。すると、彼女達から漏れる魔力が、使用人達の意識を狩り取る。強力な痺れと睡魔に襲われた彼らはバタバタ倒れて行く。そして、姉様と呼ばれた少女が、自分の持つ矛を地面に突き刺せば、使用人達を無力化した毒の煙が入口から、風に乗って屋敷中を襲う。 

 

「説明なんて不要よ。それにしても厄介な結界だったわね」

「そうだね。私達の毒でも溶かすのに時間が掛るなんて」

 

 2人の少女達は毒が蔓延するロビーをそれぞれの背丈を越える得物を持ちながら、堂々と闊歩する。その侵入を邸内部に設置された結界が反応。部屋中にある呼び出し用のベルが勝手に鳴り始める。それは、ウェイバーが仕込んだ警戒用の警報だった。

 ケイネスは迎撃に重きを置くが、彼は相手の正体がわからない以上、逃げるための策を用意していたのだ。

 

ーーーーー

 突然なり始めた警報に、遊んでいた子供達と工房に籠っていたウェイバーが気が付く。慌てて工房を飛び出したウェイバーは、使用人達が気絶している状況と邸に充満する魔力を感じる。

 

「これは」

「結界が突破されたようだ」

 

 車椅子を押しながら、きな臭い空気にケイネスも顔をしかめる。この屋敷には護衛の魔術師も雇い入れているが、現在戦闘中らしい。

 

「子供達を、狙いは君か子供達だ」

「わかっています。ケイネス先生は、先に脱出を」

 

 ケイネスは、魔力に耐性のある執事に連れられ、屋敷の外への非難を始める。ウェイバーは子供達を迎えに行くべく、走り出した。だが、防衛用の使い魔や、魔術師の魔力が次々に消えていくのを感じ、焦る。屋敷の進行速度から、相当の手練だとウェイバーにも分かる。戦闘向けでないウェイバーでも、聖杯戦争に参加した時の勘が残っているのだ。

 そして、子供達の部屋に通じる通路に入った時、足を止めざるを得なかった。曲がり角を曲がった時、強烈な毒素を帯びた魔力が風に乗って彼を包みこんだからだ。

 

「お前達が……狙いはなんだ?」

「くふふ」

「くふふん」

 

 ローブを身に纏い、その中に囚人服の様なものを着せられた小柄の少女達。首には魔力の宿った首輪をつけられ、両手には巨大なハンマーと矛が握られていた。2人は見る限り双子のようでそっくりな容姿をしていた。だが、彼女達が放つ魔力の濃度は、大変凶悪で魔術師であるウェイバーすら、近距離では特殊な魔力の帯びる毒に神経をやられる。

 

「御兄さん、エルメロイね」

「そうだそうだ、姉様。あの人写真に乗ってたね、ご主人様が殺せって言ってた人だよ」

「やはり、ぼ、私を狙って来ていたのか。なら絶好の好機だと思うけど?」

 

 2人の少女が発する魔毒ともいえるそれは、徐々にウェイバーの自由を奪って行く。すぐ傍の扉には、子供達の部屋があり、密閉されているため、毒は届きにくいだろう。今できる事は襲撃者を引き離す事だ。ウェイバーは彼女達は、ウェイバーの立案した教室や理論、そして封印指定の解放などに反発する派閥が差し向けた刺客だと。最近は誰も手出しして来ない事から、様子見されているのかと思ったが最悪のタイミングで襲撃である。

 

「御兄さん、さっきからこの扉を見てどうしたの?」

「姉様、この扉結界が貼ってあるよ」

 

 ウェイバーの視線が子供部屋の扉を刺客に気付かれる。妹らしき少女は、扉に触れると結界に阻まれたため、何かあると感づいている。

 そして、少女が触れた扉が結界ごと、煙をあげて溶け始める。

 

「な」

「私達の毒は、魔力ですら溶かしてしまうの」

「姉様と私は、封印指定の魔術師であり執行者。毒で溶かして、確保するのがお仕事なの」

「お仕事しないとお仕置きされちゃうの。だから、お仕事を無くされるのは悲しいわ」

「哀しいね姉様。だから、ご主人様にエルメロイの人間を殺せと言われて嬉しかった」

「そうね。私、ドンドン意識が溶けて絶望して行く人間が大好きなの。だから、御兄さんを殺すわ」

 

 明らかに狂気に染まった思考だ。アルカと変わらない年齢の少女が見せていい心の闇ではない。そして、この幼さの少女が封印指定の執行者ということは、どれだけ惨い生活を強いたのかと、ウェイバーは見えない敵に対する怒りが芽生える。 

 彼女達の首輪がどう言ったものかわからないが、あれが彼女達を従わせている何かだろうと言う事はわかった。そして、彼女達こそアルカの可能性の一つ。この毒の魔術は封印指定クラスの特殊なもの、それ故に彼女達は人生を狂わされているのだ。

 

「やめるんだ。殺すなら私だけにしろ。無為に罪を重ねるな」

「御兄さん、凄く優しい人」

「本当、姉様と私の見てきた大人達は自分のことばっかり。……けど、もう壊しちゃった」

 

 掌かは発する毒を含んだ魔力は、扉を溶かして破壊。てにもつハンマーで強引に扉を破壊した。砕けた扉の奥には、不安そうに隅に集まるアルカ達と脇に控えるトリムマウ。

 

「エルメロイの姫様見っけ」

「もう隠すなんて酷いわ」

 

 彼女達は、アルカとライネスを見てどちらかがターゲットだと認識した様子。そして、扉が開いた事で毒素が部屋中に充満し始める。

 

「何だ貴様等は」

『ライネス、綾香、アルカ、口をハンカチで塞いで』

 

 アンは、部屋に充満する魔力に触れた瞬間、それが毒だと感じ取り、吸わないように言いつける。綾香達はそれに従いハンカチを口に当てる。

 

「窓を開けます」

 

 トリムマウも己の皮膚が毒素によって変色したため、窓を開けての換気を図る。しかし、屋敷の窓を開けても風邪が一切起こらない。そして、密閉されたように部屋に満ちて行く毒。

 

「窓を開けたのは正解。けれど既にこの屋敷には、風の結界が張ってあるの。時間がくれば濃度が上がりきった怒毒が屋敷に充満するわ。くふふん」

「安心して、皆仲良く殺してあげるから! くふふ」

 

 ハンマーを持った妹の方が、部屋に侵入する。それを止めるためにアンが前に立ちはだかる。トリマウムは、ライネスやアルカ達を毒から護るために、水銀の膜になって体を覆い尽くす。それによって毒との接触は避けられた子供達。

 

「やめろ!」

 

 思わず飛び出してしまったウェイバーに対して、矛を持った姉は、子供とは思えない卓越した技術で矛の先から鎌鼬を発生させる。その刃は、ウェイバーの肩を切り裂き鮮血が舞う。そして、仰向けに倒れたウェイバーは傷口を抑えながら、少女を見る。

 それを恐怖だと感じた姉の方は、凄くうれしそうにほほ笑む。そして、徐々に顔色が悪くなるウェイバーを見てゆえつに浸る。

 

「苦しい? 私達の毒は、傷口からの侵入が一番辛いのよ」

 

 彼女の言う通り、傷口から毒が入ってきたため、ウェイバーの体長は急変していく。だが、ウェイバーは強く意識を保ちながら怒鳴った。

 

 

「逃げろ!」

「逃がさないわ」

「違う、お前達だ!」

 

 方から血を流すウェイバーは、侵入者の子供達の事を心配していた。アンと対峙する猛毒の少女と鎌鼬を使う少女だった。ハンマーを持つ少女は、軽快な動きでハンマーを振るうが、英霊であるアンは本気で彼女を殺しに掛っている。両手両足を刃に変えながら、踊るようにしなやかな連撃が、少女を襲う。少女の方も伊達に殺し合いをしていないため、反応して武器を振るう。

 魔術による改造を施された少女の力は、戦闘用ホムンクルスにも匹敵する。そして、彼女の発する毒を至近距離で浴び続けるアンの体は徐々に錆始めている。それを見れば優位なのは、少女達だった。

 

「すごいすごい、この女の子不思議な体してる!」

「御兄さん、何を言っているのかしら?」

 

 既に体が言うことを聞かないウェイバーだったが、彼は知っているのだ。自分が傷付けば、たちまち怒りに身を任せる存在を。そして、その人物は水銀の膜の中で、七色の瞳を激しく光らせ、全身から魔力が噴き出す。その魔力が長い髪を物理的な干渉で舞上げ、トリマウムの護りを内側から魔力だけで突き破る。

 

「おねえちゃん!」

「これは一体」

 

 トリマウムの檻から飛び出したアルカは、魔力を際限なく迸らせ、ウェイバーを傷付けた少女を睨む。其の手は強く握りしめられ、怒りで震えている。その様子にライネスと綾香は驚き、アンとハンマーの少女は動きを止める。

 睨まれた少女は、狂気の笑みを浮かべていたがアルカの目を見た途端、寒気に襲われる。

 

「install。  ……ゆるさない。ウェイバーを怪我させた、絶対許さない!!」

 

 少女目掛けて手を伸ばしたアルカは、周囲に舞う毒を大量に吸い込みながらも、一切揺るがない。それは彼女の体質と魔術によるところが大きい。聖杯の泥すら呑み込んで見せたアルカの体は、並大抵の毒や呪いなど、受け付けなくなっていたのだ。そして、周囲への被害を無くすため周囲の毒を自分に内包し始める。毒が外に漏れないなら、全て喰らい尽くさんとするアルカ。

 

「姉様、何コイツ」

「わからないわ。ただ、やってしまいましょ? え?」

 

 姉の方が、自分の手に持った矛で攻撃しようとした時、アルカが姉の方に掌を伸ばす。その瞬間、彼女の首に付けられた眷属の首輪が作動する。それは令呪に近いもので彼女達の魔術回路を遠隔操作し、その身体を操る……彼女達の主人が封印指定の魔術師をコントロールするための礼装。それが、何故かアルカの魔力に反応したのだ。

 アルカの怒りによって作動したそれは姉の腕を動かし、手に持った矛の刃を自分の肩に何度も突き刺させる。

 

「あ、いた、いや。ああぁあああ、やめ、とめて!!」

 

 何度も自分の肩を突き刺す姉は、肩の肉と血が抉れ、激痛に苦しむがアルカはその行為を止めない。何度も肩を刺した後、今度は膝を自分で突き刺すようにアルカが操る。

 

「姉様! お前!」

『行かせない!』

 

 姉を苦しめるアルカに、ハンマーを握りしめた少女が襲いかかろうとするが、アンが割り込んで彼女を蹴り飛ばす。蹴り飛ばされた少女は受け身を取るとすぐに姉の暴走を止めようと駆け寄る。だが、怒りに呑まれたアルカは、その少女の体すら、眷属の首輪をジャックして操りはじめる。

 途端に体の自由を奪われた少女は、姉を助ける事も出来ず、手に持ったハンマーを振り上げる形になる。

 

「な、おい、やめろ!」

「……ゆるさない。貴方達は、絶対に許さない!」

 

 そして、アルカの操作でハンマーが振り下ろされ、少女は愛する姉の無事な脚を圧し折ってしまう。それにより姉が口から出した悲鳴は、聞くに堪えるものではなかった。姉の足をハンマーで砕いた事で、少女は後悔の涙を流す。それは、自分達はとんでもない怪物を敵に回した事、そして自分達の未来がない事にだ。

 命じられそれしか知らない彼女達、同情されるべき彼女達だが、アルカにはそんな事関係がなかった。

 

「やめろ、こんどはなにを」

 

 再びハンマーを振り上げる少女。魔術を解析し乗っ取れるアルカにとって、彼女達はすでに刺客ではなく、恨みと怒りをぶつけるサンドバックだった。マッケンジー家で暮らしていたアルカが長い事、解放する事のなかった殺意が、牙を剥いている。

 制御できない黒い感情が、アルカという兵器を暴走させる。振り上げたハンマーは、四肢がボロボロで仰向けになったまま泣くしかできない姉の頭部に向けられる。これが振り下ろされれば彼女の頭は豆腐のようにはじけ飛ぶだろう。 

 

「おい、やり過ぎじゃないか」

『アルカ、もういい。もうこの子たちはないも出来ない』

 

 あまりの惨さにライネスが、止めようとする。だが、アルカは一切彼女を見ない。既に聞こえて居ないのだ。アンも良心の啖呵に耐えられなくなり、アルカを止めようとするが、アルカは首を振る。そして、両足が使い物にならない姉の方に近寄ると、彼女の頭部に手を当て「インストール」と呟く。そして泣きじゃくる彼女の記憶を読みとる。

 

「うふふ、ほらやっぱり。此処で逃がしてもまた来るつもり」

「もう、こない、もうこないからアガ」

 

 もう二度と来ないから、殺さないでくれという姉。だが、アルカは子供特有の残酷さを発揮し、唯一動く姉の腕で自分の首を絞めさせる。幾らなんでもアルカが暴走し過ぎている事に気がついた、アンが駆け寄ろうとする。才覚の場合、気絶させる覚悟で動いた。そうしなければ、アルカは怒りに任せて人を、立場は違えど同胞を殺してしまう。

 

「さような」

「おねえちゃん!!!」

 

 アンより早く動いたのは、綾香だった。毒がアルカに集まったことでトリマウムの壁が消えた隙に、姉に駆け寄った。

そして有無を言わさず怒りに飲まれた姉にタックルした。背中から衝撃を受けたアルカと当事者の綾香は、カーペットの上を転がる。集中状態から抜けたことで、襲撃者姉妹の首輪が止まる。

解放されたことで二人は、ぺたりとこしを抜かす。姉の方は、大量に出血し意識が朦朧としていた。トリマウムが少女の止血と拘束を担当。

 

そして、彼女達の主人よりも恐ろしいアルカの恐怖で泣き出す少女。アンとライネスは、ウェイバーの容態を確認しに行くが、魔術刻印が彼を生かそうと活動していた。そのため毒と出血による意識の喪失だった。

 

 

だがそんな彼女の鳴き声を背景に、アルカの上に馬乗りになった綾香がアルカと向き合う。

「おねえちゃん、もうやめて」

「どいて。あの二人は……」

「だめだよ……ぜったいだめ」

 

綾香が頑なに退かないため、アルカの怒りが綾香に向いてしまう。

 

「退け‼」

「キャッ」

 

アルカは、ほんの少し魔力で威圧するつもりだった。だが、アルカに内包された毒が高密度で吹き出してしまう。冷静なら気がついた筈なのに、頭に血が登った事で、失念した。

吹き出した高密度の毒は、綾香の目にふりかかり、彼女は両目を押さえて悶え苦しむ。

 

「綾、綾香?」

「いたいよ、目がいたいよ~。おねえちゃん、目がいたいよ」

 

我に帰ったアルカが、綾香を見れば目の痛みを訴え泣きわめく。自分がとんでもない事をしてしまったと後悔で固まる。異変を感じたアンとライネスが駆け寄り、目の痛みを訴える綾香の容態確認をする。

 

『綾香、綾香』

「アンおねえちゃん、目がいたい。何も見えないの」

「毒を目に浴びたのか」

 

すぐに洗うために、水を持ってきたアンだが、それで目にかかった毒を洗い流すが、綾香は目が見えないと言う。

 

『アルカ』

「……」

『アルカ!!』

 

呆然と立ち尽くすアルカに、アンは張り手を食らわせる。大人が動けず魔術による毒を浴びせたのはアルカだ。そして病院では魔術の毒は治療できない。なのにアルカが呆然としているとは何事かと、本気で殴ったのだ。

頬を押さえながら、意識を取り戻したアルカ。

 

「私が綾香を……ウェイバーのことで頭が一杯で」

「義兄は無事だ。今は妹を助けろ。お前の責任だ、後悔は後にしろ」

『罪悪感があるなら、後でいくらでも殴るから』

 

アルカは二人に急かされ迷いを捨てた。そして、目に治癒魔術を施すが、毒が治癒魔術を妨害する。

 

「治癒できない」

『ならさっきみたいに内包は?』

「綾香の目に浸透しきってるから出来ない。このままじゃ綾香が死んじゃう」

 

目を摘出すれば死ぬことはないが、綾香から視力を奪うなど絶対にしたくなかった。そこでアルカは膨大な数の内包した記憶や知識を引き出し初める。

そして、アルカの中でひとつの結論が出た。

 

「私の目と綾香の目を入れ換える」

 

それが綾香を救う方法であり、アルカの答えだった。すぐに綾香の目に手を当て、自分の目にも手を当てながら、高度な置換魔術の行使と治癒魔術を同時に行った。

視神経を無理矢理繋ぐ行為は、綾香とアルカに苦痛を与えるが、固有時制御を使ったアルカは、急速に手術を終えた。

 

そして、魔眼の宿る目を移植したことによる魔力切れで倒れる。

 

 

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そして、双子の姉妹が魔力を封じられ無力化された事で、毒が薄まっていく。そして、意識を取り戻した使用人達、そしてウェイバーも意識を取り戻した。傷口は既に修復され、毒も抜けていたため意識を取り戻した彼は、子供部屋に居る子供達がどうなったのかを慌てて確認した。

 そして子供部屋では重症の少女と恐怖でおびえる少女がトリマウムに拘束されており、ライネスとアンが見張る傍で、アルカと綾香が眠っていた。

 

「なにがあった?」

『色々ありました。アルカが彼女達を制圧、でも事故で綾香が毒を浴びてしまって』

「まずい、なら解毒をしないと」

 

 子供とは言え封印指定の執行者を、あそこまでボロボロにしたうえで制圧するアルカの力に驚きと、綾香の容体が危険な事を知る。大人のウェイバーですら動けなくなる毒を、子供が受けたらどうなるかなど分かり切っている。

 

「問題ないぞ兄よ。アルカが綾香の毒に汚染された眼を、自分に移植した。そして、自分の目を綾香に移植することで視力にも問題ないらしい」

 

 ウェイバーは理解出来なかった。ライネス自身あまり理解できていたとは言えない。眼の前でアルカが行ったのは、最先端医療すら凌駕がする奇跡の施術だったのだ。その後、アンに説明を受けたウェイバーは、自分が傷を負った事でアルカの感情のリミッターが外れてしまった事をしり、後悔した。

 

 アンの説明で保管された部分は、綾香の毒に犯された眼は、アルカの体内に繋がった事で呪いや毒に対する耐性が無力化する。そして、アルカの魔眼を移植された綾香は、魔力の問題から魔眼の行使が出来ないものの、普通以上の視力を手に入れる形となっていた。それによって両者共に視力は失わず、アルカの治癒術によって拒絶反応もないとのこと。

 だが、アルカは魔眼を失った形になり、魔力量が減少したことが告げられた。 

 

ーーーーーー

 

 そして、一晩が明け朝日が上ると同時にアルカと綾香は眼を覚ました。綾香は、眼が覚めた後、昨日の事を思い出して眼を触るが、全く問題がない。昨日は気絶するほどの激痛を感じていたのに、いつもより視界が良好ですらある。

 そして、綾香の眼覚めに反応したアルカも目を覚まし、綾香と向き合う。その時、綾香の目には姉の目が、綾香と同じ青眼だと気がついた。だが、アルカの意識がはっきりするなり青眼が七色の彼女の目へと変わる。

 

「おねえちゃん、その眼、どうしたの? それに昨日私」

「ごめんね、ごめんね綾香」

 

 アルカは目覚めるなり、綾香に抱きついて、何度も謝罪する。護ると誓ったのに、怒りに呑まれて彼女を傷付けてしまった。それはアルカという人間が許容できる事ではなく、すぐにでも死んでしまいたい程だった。自分の存在意義を、自分の生きる理由を自分で破壊してしまい掛けたのだから。泣きながら謝り続ける姉を、綾香は抱っこし返しながら「私は大丈夫」と伝え、彼女の気が済むまで自由にさせた。

 少し短気な所がある姉だが、昨日の姿は綾香でも恐ろしかった。放っておけば姉が姉で無くなってしまうような恐怖が彼女を動かしたのだ。

 

「おねえちゃんが治してくれたんでしょ? なら大丈夫だよ」 

 

 アンが迎えに来るまで、綾香とアルカはそのままの体勢で過ごした。アルカの目が再び魔眼の効果を持ったのは、彼女に内包された魔眼の残痕が、綾香の目を変化させたことが原因だった。

 

ーーーーー

 

 その後、安全を確保した事で屋敷に戻ってきたケイネスとウェイバーは、捕獲した少女達を尋問することになった。ただ、姉の方は瀕死だったため治療を施しているため無傷だった妹の方に質問をする事になった。そして、恐怖に支配された彼女は、誰に命じられ誰に囚われ、誰に育てられたかをハッキリと説明した。

 ウェイバーの予想通り、時計塔の保守派に属する人物の名があげられる。彼女達は赤ん坊のころからその人物によって調整を受けていたらしい。そして、ウェイバーの目指す目的を邪魔だと感じたソイツが、ウェイバーの事を消そうと強硬手段に出たらしい。

 彼女らの処遇は、大変頭を悩ませるものだった。

 

ーーーー

 

 そして、襲撃から2日間の間は、アーチボルト家で療養した綾香とアルカ。しかし、アルカの施術の精度が高かったためか2人の体に異変は起こらず、3日目からは外出も可能となった。別の襲撃者を考慮して、護衛が付く事になったが、2日前の恐怖を感じさせない程度には、息抜き出来ていた。

 綾香は、襲撃してきた2人がどうなったかをウェイバーに尋ねるも、ウェイバーは悪いようにはしないとだけ言い残した。実際、ウェイバーは彼女達に同情するし、姉の方はアルカによって手痛い罰を受けている。ウェイバーが悪いようにはしないと言うのだから、本当に何とかするのだろうと綾香も信じた。

 アルカは彼女達の事はどうでもよく、むしろウェイバーを煩わせることが許せない。だが、綾香を傷付けてしまった彼女に文句を言う権利はない。

 

 

ーーーー

 

 一応の平穏を取り戻したアルカ達は、イギリスで過ごす最後の日になりアルカ達は、ウェイバーやライネス達と別れする事になった。色々あり衝撃的な体験もあったが、綾香にとっては思い出になる旅行だった。アンも襲撃以外は、警戒しつつも何事も起きなかったために、楽しめていた。アルカも最初は落ち込んでいたが、ライネスが執拗に絡んだため、次第に調子を取り戻していった。

 

「一週間の間ありがとう、ございました」

 

 綾香達は、ケイネスやウェイバー達に旅行の間世話になったお礼を言う。

「あぁ、今度は僕が帰るからな」

「また来てくれたまえ、ライネスも喜ぶだろう」 

 

「また来るのなら、精々遊んでやろう」

 

 大人達の後にライネスはそう言って綾香達に別れを告げる。頭の中では、ウェイバーについて行こうという考えを持ちながらではあるが。それはまだ誰も知らない。

 

「うん、またね」

『お世話になりました』 

「……ライネス、ありがとう」

 

 

 

 アルカも彼女のおかげで、調子を取り戻せた事に感謝していた。そして、ライネスが伸ばした手を今度は普通の力で握手した。そして、ウェイバーがリムジンに同乗して空港に向かう途中、アルカが話しかけた。

 

「ウェイバー」

「ん? どうした? 忘れ物か?」

「違う。いつも狙われてるの?」 

「……嘘ついても仕方ないか。そうだよ、偶にだけどな。襲撃だけじゃない、時計塔から無理難題を言い渡される事も少なくない」

 

 そういうウェイバーは、自分の戦う敵の大きさを想像していた。自分の居ない所で戦う彼の事を思ったアルカは、ウェイバーの手を握る。手を握られたウェイバーは、彼女が言葉を発するのを待っていた。

 

「私も、ウェイバーを手伝いに来るから」

「手伝うってお前」

「絶対、強くなってウェイバーを護ってあげるから」

「僕、凄く情けないぞそれ」

 

 アルカは、その時に今より強くなることを誓ったのだった。それは、ウェイバーや家族を護るため、何よりも彼等の夢を護るために。強くなろうとしたアルカは、日本に帰国した後、自室にある小さな工房で自分の内包世界の情報をもっと早く引き出す方法、疑似的な固有結界を体内に形成する『深層心理の世界』を構築し、魔力の減退を感じさせない独自の魔術を編み出した。それは魔術師達から見れば脅威である魔術師殺しや代行者の戦闘スキルに、時計塔のロードの記憶など、彼女の性質を大きく飛躍させた。

 

 それから2年後、逞しくも成長した彼女は、日本にいる封印指定との接触などを経て、倫敦へと渡りウェイバーやライネスを陥れようとする勢力に対して、武力に武力で撃退する魔術師狩りとして地位を得ることになった。数々の無理難題を乗り越え、ロード・エルメロイのためだけに動く彼女は、エルメロイ派にとって切り札となり、敵勢力にとっては悪夢のような存在となった。ウェイバー自身は、自分の影になろうとする彼女の姿勢を良しとはしなかった。だが、自分の幸せも同時に探求する彼女を避ける事は出来なかった。

 

 

 

ーーーーー

 

 第四次聖杯戦争から8年たった頃。既に倫敦を離れたのどかな街で暮らしていたケイネスは、ロードエルメロイ二世となり、家督をライネスに譲ったことで、別宅を持つウェイバーを訪ねていた。恩師であり、現在も世話になっている人物の訪問にウェイバーはキチンと時間をやりくりし、彼を迎え入れる時間を作ったウェイバー。

 リハビリの成果から、杖を突けば歩けるようになったケイネスを椅子に案内する。そうすれば、彼の世話を焼いているフードを被った少女、グレイが客人である彼と師であるウェイバーに紅茶を差し出す。そして、すぐに部屋から出て行く彼女を見届けたウェイバーがケイネスと対談する。

 

「それで、今日はどう言った要件でしょうか?」

「ふむ。実はね。私の所に、アルカ君との婚約要請や養子縁組の話が舞い込んで来ていてね。どうしたものかと君に相談しに来たのだよ」

 

 そう言って懐から取り出した、無数の手紙。それらを拝見したウェイバーは、自分の派閥の人間の家はもちろん、敵対する家系からもアルカとの政略結婚の申し込みが寄せられていた。一度権威が失墜しかけた家を、ウェイバーが持ち上げ時計塔でも有数の巨大派閥の一角にした。数々のもめ事や暗殺なども行われたが、ウェイバーの手腕と周囲の協力が反対勢力の考えを変えさせるまでになったのだ。

 

 下手に敵対すれば、7年前に彼によって取り潰された封印指定の執行者を数多く違法な方法で配下にしていた魔術師のようになると。当然、殆どの派閥は彼に好意的でないが、打算的な派閥は鞍替えも早いのだ。そして、ガードの固い彼以外に狙われるのが、エルメロイの姫ライネスと魔術師狩りアルカであった。政略結婚によって彼女達と繋がれば、ロードエルメロイに大きなパイプが出来るのだ。

 そして、アルカは特異な体質と強力な魔術をいくつも使える上、魔眼を持つ極上の母体となれる存在。そんな彼女の血が自分の一族に交われば、繁栄は約束されるとの同じだった。

 

「多いですね」

「なにせ、功績が功績だからね。それに見目も素晴らしく整っているのだ。女性に不慣れな少年達からすれば、一目惚れもされるのだろう」

「経験者は語りますね」

「ふん。---だが、彼女の身の振り方は考えなくてはならないぞ?」

 

 紅茶を口に含み、味を楽しんだ後、ケイネスは真面目な話に切り替えた。

「婚約などを私が決める権利はありません」

「そうは言うが、彼女は既に魔術師社会に深く食い込んでいる。せめて、嘘でも相手を決めておいた方がいい。断る理由となるだろう」

「なら、それでお願いしますよ」 

「……彼女は君の事を好いているじゃないか、それなのに君は彼女に形だけとは言え婚約者が出来る可能性を認めるのかね?」

 

 ケイネスの言いたい事はウェイバーにもよくわかった。8年以上純真な感情を向けられ続けて、何も感じない人間ではない。はじめは兄に対する様なものが思春期を迎えてから、アルカは女性の顔するようになった。熱に魘されそれが愛しい、そんな表情を。

 

「アルカは、刷り込みで私をそういう対象に見ているだけですよ」

「報われんな。あの子も」

「あの子の人生を、私が奪ってしまうのだけは我慢ならない。……婚約者の件ですが、必ず彼女に許可を取ってください」

「わかった」

 

 ウェイバーは、アルカに自分に対する感情は雛鳥が初めに見た物を親だと思う本能にたとえた。彼女は橋の底で抜けだし、自分という人間にあったからこそ自分なのではないかと。故に彼は彼女の感情を受け入れる覚悟がなかった。

 

「おや、どうやら。聞かれてしまったようだね」

「え? あ」

 

 ウェイバーの部屋から出て、自分の家に帰ろうとした時、扉の影で話を盗み聞きしていたアルカを見て、ケイネスはそう呟いた。成長し立派なレディになっていたアルカは、ケイネスに微笑みかける。

 

「先生、お断りしてくださいね」

「わかった。そうするよ。では、失礼するよ……あ、そうだ。ソラウがまた今度会いに来てほしいと言っていたよ」

「ん。必ず窺います」

 

 ケイネスがアルカと別れて家を後にした。そして、残されたのは気不味いウェイバーと慈愛に満ちた笑みを浮かべるアルカだった。彼女は仕事の後のようで、黒いコートを身に纏っていた。そして、ウェイバーが意識を逸らす為に煙草火をつけようとした時、ずいっと彼に迫り指先から炎を出す。

 それに火をつけさせて貰った彼は、一服する。

 

「……」

「……何か言いたい事があるのか?」

「ん。私、刷り込みじゃない。私は私が好きだから、ウェイバーの事が好きなの。そんな理由で断るんなら、ゆるさない」

 

 恐ろしい殺気を放つようになったものだと、ウェイバーは恐怖なのか呆れかもわからない感情を抱く。女の子の成長は早いものだとマッケンジー夫人から聞いていたが、まさにその通りだと体感する。少女と女性の中間の様な魅力のある彼女は。妖しく微笑みながら、頬杖を机で突きながら彼を見つめる。

 

「ウェイバー、何か言う事はある?」

 

 それは、自分の問いに答えろと言おうことであろうか。それとも何度も彼女がしてきた告白に対する答えを出せと言う事か。しばらく考えたウェイバーの発した言葉は一つだった。

 

「----おかえり」

「……ただいま」

 

 そんな言葉しか出てこなかった。時計塔の連中より、彼女に対する正しい対処の方が何倍も難易度が高いものだと、自分の置かれた立場に苦笑するしかない。そして、アルカは仕事の成果や、日本での綾香との生活などを彼に報告した。

 それを聞きながら、彼女の生活を知ることが彼にも嬉しい事だった。そして10分程話していると、グレイがっ部屋の扉をノックする。

 

「師匠、お客様ですよ」

「誰だ?」

 

 今日はもう訪問者は居ない筈と思った時、ライネスの後ろから高そうな服を身に纏ったお嬢様であるライネスだった。背後にはメイド姿のトリムマウと別のメイド二名を連れている。

 

「私だ」

「お前じゃなければ良かったんだがな」

「何と酷い義兄だ。あれだけ、愛をささやいて禁断の関係にまで行ったというのに……」

 

 酷くショックを受けたと言う顔をするがウェイバーは無視する。それが面白くないのか、アルカに標的をチェンジした。

 

「久しいなアルカ。手紙を何度も送ったのに返してくれないとは、つれないじゃないか」

「久しぶりライネス。不幸の手紙は、普通送り返さない」

 

 2人は笑顔で対面しながらも、明らかに悪意が交差している。

 

「お譲さま、用件を伝えなくて良いのですか?」

「姉様、これはいつもの事だから、放っておいてもいいんじゃ」

 

 2人がすぐにでも喧嘩しそうだったため、背後に控えていた赤髪のメイドの方割れが、声を掛ける。だが、その妹の方は、これは止めない方がいいと告げる。

 

「そうだったな。ルージュ、スカーレット、お前達も自由にしていいぞ」

 

 主であるライネスに楽にして良いと言われた2人は顔を見合わせ、アルカとウェイバーに一礼して部屋のソファーに座ってテレビを眺めていた。彼女達は、7年前の襲撃事件の犯人であり、アルカに殺されかけた姉妹だった。名前のない彼女達の処遇に困ったウェイバーにライネスが彼女達の主になると告げ、それを実行したのが今なのだ。姉がルージュで妹がスカーレット、彼女達は首輪を外された後も、ライネスに仕え、その毒の魔術を用いて彼女の近辺警護もこなすメイドなのだ。

 

「胃が痛くなってきた」

「師匠、胃薬です」

 

 圧倒的女子率の高い部屋、そして問題児が多い事に、ストレスを感じた彼の胃がキリキリ痛み始める。それを察知していたのかグレイが胃薬を持ってきており、アルカもコップに水を注いで持って来た。

 

 そして、予想通りアルカとライネスは、予定調和のようにその後もウェイバーを困らせたのだった。

 

 

 


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