「問おう。そなたが余のマスターか?」
呼び出したサーヴァントは、見るからに強そうで、迫力に満ちていた。聖杯戦争の記録を見る限り、棄権するマスターというのは少ない。全員が全力で戦い命を落とすことが殆どだった。
なぜ逃げないのか、等に疑問を覚えるも、全てに合点がいった。
サーヴァントとは、これ程までに強大な存在なのだ。誰しもが己が呼んだ英霊が負けると考えず、逃げる機会を自ら潰して戦ってきたのだ。
「そ、そう! ぼぼぼボクが、いやワタシが! オマエのマスターの、う、ウェイバー・ベルベットです! いや、なのだッ! マスターなんだってばッ!!」
カッコよく答えようとした時、考えが纏まらず醜態をさらしてしまう。ライダーは、自分を見下ろしながら顎に手を当て頭を掻く。
「なんじゃ、今一しまらん奴だな。……まぁよい、これにて契約は完了した。余がそなたの盾となり剣となろう……」
ひどく投げやりな態度で契約を結んだマスターとライダー。期待していた展開と違いウェイバーの頭に血が上る。
「なんだよ、その態度は! そりゃ……僕だって噛んだけど」
「坊主これでも、余をこの世に呼び出す大義を成し遂げた傑物には、褒美をやらんとなと思うておったが……出だしからだからな~」
「もういいよ! その事は忘れろ~、忘れろったら」
にやりとウェイバーをからかうようなサーヴァントに、ウェイバーは呼び出す相手を間違えたかもしれないと思った。
「それで、お前の真名と宝具は?」
聖遺物は、間違いなく歴史でも有名なアレキサンダー大王の纏っていたマントの切れ端。それを媒体に英霊を召喚するなら十中八九、アレキサンダー大王に他ならない……はずなのだ。だが目の前の無頼漢は、なんというかイメージと違った。
「ふむ。坊主、先に問うておくことがあるのだが」
「質問してるのは僕だぞ! いいから答えr」
「お前は何者だ? 返答次第では、この場で殺すこともやむなしだ」
「ひっ」
ライダーは、吠えたウェイバーの方向に腰に刺した獅子の意匠の入った剣を抜く。そして、その粗野さと威厳を合わせた顔は、本当に殺されるとウェイバーでも理解できた。切っ先が向けられ、腰は抜けた彼は、地面意尻餅をつく。
(やばい、やばい、まずい。に、逃げなきゃ)
ライダーの眼光に怯み、後ろに少しでも距離をと考えた時。
「……ウェイバー?」
「あ」
自分の真後ろには、アルカが要ることを思い出した。そして、自分の右手には令呪が宿っており、その力も思い出す。
「アルカ! 僕の事はいいから逃げるんだよ!!」
「……」
ぷるぷる震える足で立ち上がり、ライダーを牽制するように右手の令呪を見せつける。膝は生まれたての小鹿のようだろう。
「ふむ」
「早く行けったら……こいつは僕のサーヴァントなんだ、僕が片をつける」
アルカが逃げれば、最悪令呪でライダーを自滅させるくらいは、自分にだってできる。当然、ウェイバーくらいなら俊敏が優れていない目の前のライダーでも、令呪使用を邪魔できる。
物凄く逃げ出したいが、自分が逃げたらアルカが危ないと思うと動けない。情なんて……湧いてるに決まってる。これまでの生活で妹のようだと感じた。自分で呼んだ使い魔に殺されるなんて魔術師として失格だ。
(でも、でも)
奥歯がガチガチと噛み合わない。もしアルカが居なくて、この状況なら意地でも逃げた。確信を持っていえる。
「令呪に告げる-聖杯の規律に従い-この者,我がサーヴァントに---」
令呪に魔力を長し、その命令を下そうとした瞬間。
「待て待て待たんか」「そうだ、勿体ない」と二人の声が彼を止めた。
一人は剣を向けてきたライダーだが、ライダーの目線はウェイバーではなく、彼とアルカの背後に向けられていた。
「う、うわ!?」
予想だにしなかった位置に、それはいた。闇のように黒い髪と夜でも赤く栄える目に灰色の外套を纏ったライダーより小さくも長身の男性。その魔力や気配が、ライダーと同じサーヴァントだと理解する。前門のライダー、後門のサーヴァント。咄嗟にアルカの腕を掴んだのは、奇跡だろう。
「とりあえず落ち着け。ライダー、あんたも剣を降ろしてくれ。俺は降参する」
「なるほどな」
ウェイバーとライダー両方に目配せした後、両手を上げながらあぐらをかく。完全な降伏といった姿勢で、話し合いを要求するサーヴァント。
困ったような顔でサーヴァントが、アルカを見ている。ウェイバーは目線から庇うようにアルカを背中に移動させる。
「あのな、坊主。余が問うたのは坊主じゃなくて、ずっとその小娘の背後に立っておったこいつだ」
「そうだウェイバー君、いやライダーのマスター。ライダーは、君を守ろうとしただけだ」
何故かライダーまで腰を落ち着け、謎のサーヴァントと共同でウェイバーを説得する。ライダーの方は、ウェイバー自身が勘違いしただけだとわかった。
「ライダーが裏切ってないっていうのは、信じても。お前は誰だよ! サーヴァントだろ、さっそく僕らを殺しに来たのか」
「だったら降伏しないって。俺のマスターを必死で守ってくれる人間殺せるかよ」
「マスター?」
謎のサーヴァントの言うマスターが、誰か。考えればわかる、この場に魔術師は二人しかいないのだ。ゆっくりと振り向けば自分の腰に抱きついているアルカがいた。
「……アルカがマスターなのか?」
「あぁ。けど安心してほしい、マスターはお前を騙すつもりなんてなかったからな」
「けど……」
自分が保護した少女は、マスターでサーヴァントも自分より早く召喚している事実による猜疑心とアルカとの生活で得た信頼感がぶつかる。
「マスターは、時計塔の封印指定の魔術師らしいんだがな、なんの因果か俺を召喚して逃げ出したんだ。記憶もなく自分が何かもわからない中、あんたに助けられたんだ」
「だったら……もっと早くに」
裏切られている気がしたのだ。サーヴァントを持ちながら隣でサーヴァントを待ち望む自分はどれだけ滑稽だっただろう。
「坊主、余はお前さんらの関係はよく知らん。だが、今坊主にくっついとる小娘が、坊主を謀るようには見えんがな」
「マスターの令呪を隠蔽したのは俺だ。本当は右腕にあるんだが、あんたに疑われたらコイツは行き場を失う……」
「何となく話は掴めてきた。こやつは、坊主の前に姿を現せなかったんだよ」
「なんでだよ……」
「考えても見ろ。今は余というサーヴァントが要るが、余を呼ぶ前にサーヴァントが現れたら話を聞くか?」
「……逃げてると思う、それでアルカを傷付ける」
「悪い……、人間関係は素人でな」
そこまで説明され、自分のサーヴァントにも諭された。
「……ごめんなさい」
「はぁ、いいよ。お前に驚かされるのも困らされるのも馴れたよ」
アルカの頭を撫でてやると、本の少しだけ表情が和らぐ。それを見ていたサーヴァントとライダーは、どうみても兄妹の様子にほっとした。だが、ライダーの話は今始まったのだ。
「落ち着いたところで、二つ話がある。まずは坊主お前だ」
「ぼ、僕かよ」
胡座をかきながらどっしりと構えたライダー。いったい何を言われるのか、先程の無様に耐え兼ねて契約を破棄などだろうかとマイナス思考に傾く。
だが予想に反して彼のとった行動は、ウェイバーに向けて笑ったのだ。
「がはははは、いや何。初対面は意気地のない弱虫のマスターかと思っておったが、存外骨のある男で余は此度の遠征中々楽しみじゃわい。肉親を守るために勝てぬと分かっていても立ち向かう、これまさしく勇気に他ならん。英雄の道の第一歩を貴様は踏み出しておるのでな。それでこそ、今宵の聖杯戦争にて肩を並べて戦えるというものよ」
「きゅ、きゅうにほめるなよ~」
「まぁ足りんものも多いが、それは聖杯戦争でも学べるものだ。そして今更ながら、マスターの問いに答えておこう」
突然立ち上がったライダーは、両手を天に掲げて叫んだ。
「余は世に名だたる征服王イスカンダルであるぞ! 安心したか?」
「さ、最初からいえってのこの馬鹿」
馬鹿にされつつも、その度量で笑ってやるイスカンダルと怒りっぽウェイバー。二人の関係性は、こうして決定付けられていった。一方でウェイバーに抱きついたアルカは、ライダーを見つめる。
「さて、本題だな。小娘との関係をどうするかだな」
「アルカは、どうしたいんだ? 参加するのか? 」
ライダーとウェイバーがアルカとサーヴァントに質問する。アルカは、首を傾げたまま固まり、仕方ないとサーヴァントが答えた。
「まずマスターは、知っての通り記憶と感情が殆どないのだから、願いなんて持ってるはずがない。だから召喚された俺は、マスターの生きたいという生物的願いを叶えただけだ。俺自身も聖杯に願いはない……。強いて言えば、現代に興味があったという感じだ
」
「聖杯戦争に参加するメリットも目的もないのか。難儀だなぁ、そういえば聖杯戦争は途中放棄できんのか?」
「サーヴァントがやられたり、令呪を破棄した場合、教会で保護される」
ウェイバーは、事前に読んでおい知識から、アルカを守る方法を考えていると、アルカが腕を引く。
「……ウェイバー、あぶない」
「いやお前の方が危ないって」
「サーヴァント、二人の方が……安全」
「お前さんのマスターは、坊主と協力したいらしいな。余としても部下が出来るのは心強い。ましてや、英霊にまで登り詰めた男だからな」
謎のサーヴァントのマスターが、兄である自らのマスターと協力を申し出ている状況をライダーは、面白がっていた。
「そんな」
「俺は、マスターの意向なら従おう。少なくとも他の人間よりはウェイバー・ベルベットを俺は信用する。今宵我は、主の守り手に聖杯を約束しよう」
「うむ。苦労せずして忠臣一人を引き込めるとは、幸先が良い」
「わかった。確かに英霊2人で組めば、アドバンテージを得られる。だけど、僕はあんたのクラスも知らないんだぞ」
ウェイバーがそういうとアルカのサーヴァントは、少し思案し始める。だが、アルカの纏う礼装から考えてキャスターの線が濃いと判断した。
「俺は、破壊者(ブレイカー)のサーヴァントだ」
「ちょ、おま。エクストラクラスのサーヴァントだったのか」
「聖杯の知識にはあったが、存在するのか。やったな坊主、余達の同盟者は大当りかもしれんぞ」
戦場にとって例外とは、強い武器となる。相手は例外に対して後手にしか回れず、正体がわかるまで警戒を解けないからだ。そう考えれば英霊2人で片方が例外は実に有効だ。
しかし、中身がウェイバーにもわからない以上、諸刃の剣でもある。
「お前達、宝具は教えてくれないのか?」
「余は今は出す必要がないからな、楽しみに待っとれ」
「俺も宝具は、威力が高すぎて使い処に悩む」
ライダーとブレイカーは、それぞれ宝具を見せるつもりは今はないという。
(確かに魔力の無駄だし、けど口頭で説明してくれてもいいんじゃないか?)
若干気分がよくないものの、どうにか今日は拠点に戻ろうと決めたウェイバー。その時、ブレイカーに何かを吹き込まれたアルカが、右手を伸ばす。
「……わが、サーヴァントに命じる。ウェイバー・ベルベットとライダーの命令があれば、じがいせよ」
「はぁ!? ちょこのばか!!? 何で令呪使った、何で使わせた‼」「坊主より、小娘の方が大物かもしれんな」
あろうことかアルカは、自分のサーヴァントの生殺与奪の権利を同盟とはいえ別のマスターとサーヴァントに渡したのだ。アルカの右手にあった十字架の一角が消えていた。
「仰せつかったマイマスター。これは、同盟への礼と信頼を得る方法だと思ってほしい。だが、こちらも誓ってほしい、俺は使い捨てろ。だがマスターだけは守ってほしい」
それはあまりに潔く、重い覚悟だった。
「当然だろ」
「ブレイカーのサーヴァントよ。今を持ってソナタは余達の盟友だ。共に戦場を駆け抜け、勝利の美酒を味わおうぞ」
ライダーが手を差し出し、それにブレイカーも答えた。ここに、アサシンとアーチャーの遠坂陣営の他に、ライダーとブレイカーのベルベット陣営が成立した。
「よし、行くか」
「行くって、どこにだよ」
「決まっておろうが、戦の準備だ」
この時、ライダーは覇王の如く傲慢で真っ直ぐな笑みを浮かべていた。それを見たアルカは、笑うという行為に興味を持った。
tobecontinued
『クラス』ブレイカー
『真名』?
『マスター』アルカ
『性別』男性
『身長・体重』183cm 70kg
『属性』秩序・悪
筋力 E~ 魔力 EX
耐久 E~ 幸運 B
敏捷 E~ 宝具 ?
クラス別能力
破壊:A++
発動時は全身に刻印が浮かび上がる。自らの肉体により物質、概念、宝具などありとあらゆる物を破壊することが出来る。破壊された物体は、自然治癒できる場合は回復できるが、不死属性や神霊などの超自然的概念では破壊を修復できない。すなわち概念による優位性を破壊するスキル。
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保有スキル
強化:EX
魔力の限り無制限に自身の体や関係する力を強化する事が出来る。
無我の境地 :C-
ある目的のために迷いを捨てるスキル。精神汚染や精神系統の能力に対しては、完全に無力化する。
概念耐性 :B
血統故に持ち得ている概念に対する耐性。全ての宝具に対して、ある程度の防御補正が適応される。例としては、必殺は必殺たりえず、無敵は無敵足り得ない状態にするスキル
取得:A-
自分の得たいスキルを学ぶことで取得することができる。先天的なスキルは不可能だが、技能系スキルであれば取得可能。さらの錬度をあげればランクも上がっていく
道具作成:B+
魔力を帯びた器具を作成可能。ブレイカーはあり合わせに物に魔力を付与して礼装を作り出す事を得意としている。
単独行動:C
マスター不在・魔力供給なしでも長時間現界していられる能力。マスターがサーヴァントへの魔力供給を気にすることなく自身の戦闘で最大限の魔術行使をする、あるいはマスターが深刻なダメージを被りサーヴァントに満足な魔力供給が行えなくなった場合などに重宝するスキル。反面、サーヴァントがマスターの制御を離れ、独自の行動を取る危険性も孕む。
騎乗:C
乗り物を乗りこなす能力。「乗り物」という概念に対して発揮されるスキルであるため、生物・非生物を問わない。また、英霊の生前には存在しなかった未知の乗り物(例えば古い時代の英雄にとっては見たことも無いはずの、機械仕掛けの車両、果ては飛行機)すらも直感によって自在に乗りこなせる。
『宝具』
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