Fate/make.of.install   作:ドラギオン

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ルーラーの英霊

 駐車場で待っていた愛歌(アルカ)とブレイカーに合流した綾香達。約束通り男達の話はせず、何事も無いように振る舞った。アルカだけは何かあったのではと勘繰るが、必死に誤魔化す事に成功。まだまだ時間が余っているため、冷蔵庫の中身を思い出して買いだしに向かった。

 

 それからもサーヴァント同伴で久しぶりの休日らしい休日を謳歌していれば、自然に時は流れる。既に下校時間となり日も暮れはじめる。其処でようやく聖杯戦争に参加する魔術師としての時間が始まるのだ。楽しい息抜きを終えた4人。サーヴァントに抱えられる様にして、姉妹は新都の高層ビルの屋上に立つ。

 そして、アルカが10年前と同じように冬木で一番高い位置に立ったアルカは、全身の魔術回路を起動する。

 

「install。魔力属性解析、使用魔術の解析、性質の把握と理解」

 

 魔眼を最大活用するアルカは、現在冬木に広がりマナの所在を確認。そして、間桐家の方角と柳洞寺に魔力の流れが集中している事に気が付く。そして言峰教会の方角にも、強大な英霊の魔力を目視で来た。それは10年前の英雄王だと分かっているため、排除する。

 現在冬木市で大きな動きを見せているのは、間桐と柳洞寺のキャスターだと理解できる。他にも衛宮邸にも残留魔力の痕跡が見える。あの家には英霊が2人も出入りしているのだから当然である。目を使用しながら、現在居場所が不明なランサーの位置を割り出そうとするも、どれだけ目を凝らしても姿を捉える事が出来ない。

 

 別段変った様子がなさそうな冬木の街だったが、アルカが目を凝らして言った時、冬木が謎の魔力に少しづつ汚染されている光景が目に入った。

 

「なにこれ」

 

 その少しづつ汚染していく靄の様な魔力の出所が一切つかめない。徐々に脳が情報過多でショートしそうになるのをこらえながら必死に冬木で起こってい異変を探る。

 

(うふふ)

「クッ」

 

 魔眼に魔力を流し続けて、深層を探ろうとすれば何かの声と共に目に激痛が走る。両目を抑えて、綾香達の傍に飛び下りるアルカ。着地は綺麗に済ませたため怪我はないが、両目にひどい痛みが残る。声が何か分からないが魔眼の使いすぎによる、視神経の損傷だと理解した。

 目を抑える彼女を心配する一同だが、アルカは「平気」と言いながら無事を知らせる。

 

「眼が痛いの?」 

「街一つを把握しようとするとね。30分程眼を休ませる必要があるの」 

 

アルカは、この症状を自覚していた。自覚したからこそ、ブレイカーとセイバーに護衛を依頼したのだ。綾香に魔眼を移植した事で、アルカは偽物の魔眼を使うしかなかった。それ故に過剰の使用は、アルカに移植された”綾香の目”が悲鳴を上げるのだ。元々魔眼の機能を持って居ない綾香の目と自分の目を、5年前の倫敦で入れ替えた日から、自分に残る魔眼の残痕を魔術で利用しているにすぎない。

 たったの30分間だが、アルカは使いなれた魔眼を使用できず大幅に弱体化することを余儀なくされる。

 

「周辺にサーヴァントの魔力は見えなかった。けれど、何らかの策を講じている可能性がある。特に間桐邸だけど、鏡の様な結界が展開されていて魔眼の解析を妨害されてる」

「ペルセウスの青銅鏡だね」  

「魔眼に対して優位な宝具だからな。案外マスターにとっては天敵とも言える英霊だ」

 

 魔眼特化の魔術師に対して、魔眼を退けた英霊。相性で見れな圧倒的不利なのはアルカなのだ。下手に魔眼の魔術を使用すれば跳ね返される可能性がある分、性質が悪い。

 

 

 情報収集を終え、在る程度他の陣営の所在を掴んだ事で一先ず満足したアルカ達だった。しかし、階段を降りようとした時、セイバーとブレイカーが戦闘用の姿に変わって、在る方向を凝視する。

 

「どうしたのセイバーにアルゴ?」

「綾香達は下がっていてくれ、サーヴァントの気配だ」

 

 セイバーが視線でサーヴァントの位置を知らせれば、高層ビルの金網に立って居る一人の女性が見えた。その女性は、黒と白のよりを身に纏い巨大な旗を持った女性だった。何処か神聖な雰囲気を感じさせる女性は、セイバーに姿を見られた事で、アルカ達の前に舞い降りる。

 

「貴様は何者だ? サーヴァントとはお見受けするが」

「えぇ。私は紛れもないサーヴァントです。そして、貴方達とは違う目的を持ってこの地に召喚された英霊」

 

 セイバーが此方と向かい合う女性のサーヴァントに話しかければ、彼女は凛々しい表情を崩すことなく答える。だが、彼女の言葉を遮るように珍しく手にナイフを持ったブレイカーが駆け出し、刃物を振るう。女性のサーヴァントは、不意打ち気味に繰り出されたブレイカーのナイフを、腰に刺した剣で受け止め、力任せに弾いた。弾かれたブレイカーだが、瞬時にナイフを別の手に持ち替えたブレイカーが連続で切りつける。

 

「あなたは」 

 

 珍しく敵意むき出しなブレイカーに戸惑う一同。アルカですら、有無を言わさない攻勢に出るブレイカーの姿には唖然とする他なかった。そして、ナイフと剣で鍔競り合いが起こり、ブレイカーと女性は互いに向き合う。見た目は華奢な女性だが、英霊としてのステータスが高く。筋力で強化段階のブレイカーと互角の勝負を繰り広げていた。

 

「お前は俺を知らないだろう。だが、俺はお前達のような存在を知っている」

「貴方が反則者ですね」

「あぁ。実質的に言えば俺は反則者だろうよ。なぁルーラーの英霊よ」 

 

 綾香達は、ルーラーと呼ばれた女性を見て全く心当たりのないクラス名に頭を悩ませる。アルカですらその存在は聞いた事がなく、セイバーだけは聖杯の知識で思い辺りがあった。

 

「ルーラーは、聖杯戦争の正常な行使が不可能になった時聖杯から召喚される英霊だよ。ルーラーは己の基準に従って聖杯戦争の成就を遂行する。既に英霊の数が7騎を超えている段階で、彼女が出てくるのは必然だ」

「敵なの?」

「わからない。だが、ルール違反という意味では僕も該当する筈だ」

「ブレイカー……どうしたの」

 

 前方で激しい切り合いを続けるブレイカーとルーラー。まるで光と闇、火と氷、水と油のように対局の存在が激しい火花を散らせる。それほどまでに相性の悪い相手だと言うことが全員に見てとれる。

 

「彼女が貴方をブレイカーと呼びましたか、成程。エクストラクラスで召喚された英霊ですか」

「お前らは、真名を暴けるんだろ? 名乗る必要はないな」

 

 生前からルーラーを知っているような発言をするブレイカー。一先ず互いに距離を取って仕切り直す形になる。

 

「そうですね。貴方の真名も看破は出来ています。

 私はこの冬木の聖杯戦争の状況を修正するために現界しました。そして、この混乱の渦の中心に貴方が居る事を知っています。貴方方の行おうとした聖杯の破壊は重大なルール違反です。ルーラーの権限を持ってペナルティを与えます!」

 

 ルーラーと名乗る女性は、正規の七騎でないブレイカーとセイバーに対してルール違反によるペナルティをかせると宣言する。だが、聖杯戦争で無駄なペナルティなどブレイカーが許容しない。

 

「お前のルールに従う義理はないな」

「では、ルーラーである私に敵対すると? では、令呪での強硬手段を行使する事に―――何?」

 

 ルーラーは聖杯戦争に参加する英霊達に絶大なアドバンテージを持っている。それは、それぞれ一騎につき、2画の令呪を持つという破格の権限を与えられているのだ。そして、ルーラーはブレイカーに対しての令呪を使用する事を決定する。まずは動きを抑えるために、背中に刻まれた令珠を起動する。

 だが、それを見越していたブレイカーは、全身の破壊の刻印を起動し、概念破壊のスキルを発動する。スキルを発動したブレイカーは、令呪の発動する隙を与えない。

 

「ノストラダムスの予言集、百詩篇第10巻72番。―-――恐怖の大王(アンゴルモア)!」

 

 ブレイカーは、ルーラーに徹底的な攻勢を繰り広げながら手に持ったナイフ(宝具)を解放する。ナイフの刃先から、ブレイカー自身の魔力と同じ白と黒の渦が発生する。それは10年前、槍の英霊ディルムッドを撃破した正体不明の宝具である。その開放に伴い、ルーラーも自分の宝具である旗を取りだそうとするが、ブレイカーの手数の多い攻撃がそれを阻害する。

 

「お前には、これが何に見えるかな?」

「なにを」

 

 ブレイカーが白と黒の魔力の渦をルーラーへと向けた瞬間、ルーラーの視界は一変した。白と黒の渦に視界を追われたと思った直後、彼女にとっては看過できない光景が広がる。それは、磔にされた自分と自分を罵る民衆と兵士や審問官。そして、身動きが出来ない状況で、足元から火が起こる。その火は自分を裁く断罪の炎。それらは瞬く間に燃え上がり、足元からチリチリと焼いて行き、煙が視界と呼吸を乱す。

 幻覚ではなく、本当に体を焼かれる感覚が彼女を襲う。その瞬間は、1秒程だったが、生前の彼女の逸話から言えば、まさに必殺とも言える宝具だった。だが、ルーラーもただの英霊にやられる訳にもいかず、己の宝具である旗を召喚して、真名を解放する。

 

「我が神はここにありて(リュミノジテ・エテルネッル)」

 

 旗を磔にされた手で掲げながら、真名解放された宝具は、自分を拘束していた磔や炎、周囲の民衆すらもかき消し、ブレイカーの宝具たる『恐怖の大王(アンゴルモア)』の正体不明の効果を退けた。

 

「何処に?」

 

 しかし、白と黒の渦が消滅するや否や、ルーラーの前に居たブレイカーは存在せず、完全に見失ってしまう。人間相手なら、その隙すら問題ないが相手は英霊。一瞬の隙が命取りになってしまったのだ。宝具で時間を稼いだ後、背後に回り込んでいたブレイカーが、現在発動しかけているルーラーの令呪に目掛けて破壊スキル込みの掌底を叩きこむ。それはルーラーを殺すのではなく、狙って令呪だけに攻撃を加えた。

 

「ガハッ」

「俺は、マスター以外の命令は聞くつもりはない。調停者風情が俺を操るなんぞ、許すわけがないだろ」

「貴方、私の令呪だけを」

 

 背後から衝撃を受けたルーラーは、前方の金網まで飛ばされるが、両足で踏ん張る事で衝撃を殺す。そして、旗を掲げながら、ダメージを貰った個所の令呪が破壊されている事に気が付く。ブレイカーは、どう言った訳か事前にルーラーの存在を認知しており、その能力は不明でも共通スキルは把握。それ故に自分への命令権だけを破棄させるために、手を打ったのだった。

 

(なんて、サーヴァントでしょうか。ルーラーである私の対処法を心得ているなんて)

 

「すまないがルーラー。私達が貴方の基準に沿わなくとも、戦いを放棄する事は出来ない」

「少し遅かったんじゃないかセイバー。しかし、俺の宝具が無効化されるとは思ってなかった」

「ブレイカー、僕の分の令呪は破壊出来たのかい?」

「どれがお前のかわからない。発動しようとした部分を幾つか破壊したが、どうだろうな。最悪綾香に令呪によるキャンセルをしてもらえ」

 

 

 ブレイカーの意図をようやく察したセイバーが、見えない剣を構えながらマスター達を護る。そして、確かな手応えと令呪を破壊した事でルーラーに制御不可能になったブレイカーは、この場でルーラーを倒す算段を立てていた。

 敵のマスターよりもそれらを先導出来るルーラーの存在は、マスター達の不利益となると判断したからだ。10年前から今回まで介入している時点で、ルール違反を罰する英霊などと相容れない。

 

「裁定者(ルーラー)を、舐めるな。アンゴルモア……! 貴方の存在は啓示で、倒さねばならないとあります」

「可愛い顔して、おっかないな。完全に怒らせてしまったみたいだな」

「どう考えても君のせいだろうブレイカー。というか、君の真名に驚きを隠せない」

 

 セイバー、そして綾香もブレイカーの真名を知って驚く他ない。アンゴルモア、通称恐怖の大王。ノストラダムスの予言で知られ、その存在が世界を滅亡させるとされている架空の人物。いろんな解釈や説が存在したが、現在まで世界が滅亡していないことから存在しない存在とされている。

 だが、眼の前に居る英霊はアンゴルモアだという矛盾。それは英霊の座のシステムによる並行世界と過去と未来の同期に原因がある。ブレイカーは、もしかしたら存在した世界を破滅させた存在が英霊として座に召し上げられた可能性があるのだ。当然反英霊としてだろうが、アンゴルモアを真名に持つ彼が、どれほどの存在かは想像もつかない。

 

「安心しろよ。俺はまだ、世界を滅亡なんてさせる気はないからな」

「まだ……か」

「セイバーであるお前が剣を振るうのと同じように、ブレイカーである俺は世界を滅ぼすんだよ」

 

 至極当然のように語るブレイカー。その真意は測りかねるが、数日間暮らしているセイバーは彼が悪人には感じられなかった。むしろ、悪とは無縁の日常に憧れすら抱いている様な、そんな印象を受けていた。戦闘時は苛烈で容赦のない人物だが、戦闘時まで穏やかな人間などどうかしている。

 その点でいえば、ブレイカーの真名が何であろうとも信じるに値する人物なのだ。自分が現界するよりも前から、彼は一つの家族を護り続けた英雄なのだから。

 

「滅ぼす際には僕が君を倒そう。だが、今は君を信じると誓う。君は信じるに値する男だ」

「騎士王に信頼されるとなると、易々と裏切れないな」

 

 ルーラーと敵対する道を選んだセイバーとブレイカー。彼等の尊重するのはマスターであり、聖杯戦争ではないのだから当然ともいえる。

 

「さて、どうするんだいルーラー。僕等は君が敵対するなら、当然相手をする」

「委員長タイプと、俺は相容れないな」

「貴方達は、一体どう言った理由で戦うのですか?」

 

 ルーラーは、頑なに抵抗する2人にそう問いただす。自分と敵対すると言う事は、ペナルティ以上に窮地に立たされると言うこと。他の英霊の令呪を持って居ると言う事は、それらを利用して他の戦力で潰されても文句を言えないのだ。本格的に聖杯戦争の遂行に邪魔となれば、排除されるのは当然の流れなのである。たとえ強力な英霊でもそれだけの戦力を投じられれば、マスターを護る事など不可能。其処までする理由が彼女には測りかねていた。

 

「マスターを護るためだ」

「綾香のためだよ」

 

 マスター達の前に立ち、一切の迷いも無く発言する彼等にルーラーも考える所があった。そして、彼女は剣を腰に仕舞い、旗を消す。明らかな武装解除の動きに、ブレイカーとセイバーも剣を治める。

 

「わかりました。貴方達の事は保留にしましょう。実質聖杯の破壊は未遂で終わっていますし、他者に被害を出す陣営よりは優先度は低い。ですが、今度また聖杯戦争完結前に、聖杯の破壊を行おうとした場合、再び私は舞戻るでしょう」

「へぇ、ルーラーは基本的に俺を殺しに来るサーヴァントだからな。見逃して貰えると思ってなかった」

「そうですね。啓示でも貴方を殺す事こそが必須だと感じます。ですが、もう一つ気になる事案がありますので。それでは」

 

 そう言ってルーラーは高層ビルから飛び降りた。そして、ビルの壁を蹴りながら街へと消えていく。その様子をかな見から眺める綾香とアルカ。綾香は純粋にルーラーという女性の表情が、妙に気になった。

 

「ブレイカー……すごく吃驚した」

「悪い悪い。別のルーラーを知っててな、説明するより先に体が動いた」

「……ブレイカーはいつもこう」

「お互い様だ。だが安心しろよ。俺は令呪をいくつ使われようが、お前以外をマスターとは認めない」

 

 ブレイカーは、疑いの目で見つめてくるマスターに苦笑しながらも笑いかける。それは間違いなく彼の決意だった。たとえルーラーの令呪が発動しようとも、ブレイカーはアルカの願いを叶えるまで誰も従う気がなかった。自分で彼女をマスターにすると決めた時から、令呪があろうが無かろうが、彼にとってのマスターはアルカだけ。

 それは、生前の彼が、誰よりも絆を求めたが故である。彼の脳裏には、何もかもが破壊される灰となった広大な地平線、命の音はなく、あるのは自然すら失われて広がる人工的ともいえない破壊の残痕。そして、自分を殺す為に既に役目を果たせていない抑止力が送り込んだ英霊、神霊の軍勢。全てが意識を剥奪され、彼を殺す機械となった人型の装置達。

 

(何故、俺は一人なんだろう)

 

 それがブレイカーの生前の疑問だった。無数の英霊達が日夜殺しに来る以外、変化の訪れない毎日。何故生きているのかもわからず、殺し(壊し)、潰し(壊し)、引き裂く(壊し)、ただ壊し続ける自分の存在が滑稽だと感じても変えられなかった。何度も英霊達に話しかけても、返答はなく、在るのは明確な殺意と攻撃のみ。それ故に、生前の彼は繋がりを求めたのだ。

 

「俺を呼び出したお前を、俺は裏切らない」

「ん。後は、アンの報告を聞くだけだから家に帰ろ」

 

 ルーラーというサーヴァントの存在を目的をある程度知れただけでも大きな成果である。どうやらイリヤスフィールを狙った事が大きな原因らしい。

 どうにも聖杯の器を狙うのは障害が多いらしい。

 

「セイバー、綾香。帰るぞ」

 

二人を呼びながら、ブレイカーは私服に着替えてアルカの手を取りながら、階段を下る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 





 もしかしたら、次の投稿は番外編になるかもしれません。空白の十年間のストーリーを入れる可能性があります。

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