Fate/make.of.install   作:ドラギオン

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沙条家2

 

 セイバーの折檻を終えたアルカとアンは、何処かスッキリした表情で朝食を取っていた。その隣では、ブレイカーの慰められているセイバーが人生について考え直していた。

 筆舌に尽くしがたい精神攻撃を受けたセイバーは、己の人生を真剣に考え直していた。目に光はなく、何処か年を取った様なセイバーにブレイカーが掛ける言葉は、殆どなかった。むしろ、掛ける言葉さえ見つからず、ブレイカーですらセイバーのマイナスオーラに飲まれてブルーになりかけていた。

 

 そんな男性陣にお構いなしで、本日の予定を立てる女性陣。だが、綾香が昨日会った事の報告を済ませると、アルカの顔が曇る。慎二の魔術師化と新たなライダー(ペルセウス)の謎、そして綾香のアルカ化の現象。それらを耳に入れたアルカは、自室の机に仕舞い込んでいた箱から、在る眼鏡を取り出す。それを大切に握りしめ、リビングで待って居る綾香に手渡す。

 

「お姉ちゃんこれどうしたの?」

「それは、3年前に魔術師のお姉さんに作って貰った魔眼殺しの眼鏡。それを掛けておけば、能力が制限される」

 

 アルカは、応急措置として魔眼殺しの礼装を手渡す。冬木の龍脈と令呪で繋がった事、サーヴァントを召喚した事、アルカとの本気での魔術戦などが綾香の中に移植された自分の魔眼が猛威を振るっているのだ。なら、封じておくしか手段はない。

 眼鏡をしていれば綾香の妖精化は、抑制できる。

 

「そっか。じゃこれ借りるね。極力あの不思議な目は使わないようにすればいいんだよね?」

「ん。どうしても使わなければいけない時以外は使っちゃダメ。それで、他に何か情報はある?」

 

 既に和解した綾香とアルカは、食後にテーブルの上に冬木の地図を並べる。そして、アルカが書いたサーヴァントやマスターのスケッチをもとに冬木の現状を考察していく。アルカの質問に、綾香は一つ伝え忘れていた事があると告げる。

 手元に珈琲を置きながら、色々相談する2人。

 

「間桐君が、魔術回路を貰った相手の名前を言ってたの」

「……何て名前か聞いた?」

「確か---アルト様って呼んでたよ」

 

 綾香が慎二の言っていた名前を思い出し、それを口にした瞬間、アルカは手に持って居たコーヒーの入ったカップを落とした。そして、自分の両足に熱いコーヒーが掛り、綾香が驚く。

 

「お姉ちゃん!? 早く冷やさないと。アンの姉ちゃん! タオルと氷!」

『どうしたの綾香? アルカ!?』

 

 火傷していると思い、台所のアンに声を掛ければ、アンも下半身が熱いコーヒーで濡れたアルカを見て慌てて氷とタオルを持って駆け寄る。だが、当の本人は火傷にも一切表情を崩さず、呆然と額を抑えながら最悪の事態を想定する。一応、珈琲を拭き取った上で、冷やされるアルカだが、火傷などにかまっている暇はなかった。

 それほどまでに綾香の口から出てきた人物の名前が、ショックだった。頭ではそんな筈はないと否定しているが、動揺はどうやっても隠せない。

 

「……アルトって言ったのね?」

「う、うん。もしかして知ってる人なの?」

「……ん。けれど既に死んでる人……たぶん、何かの間違いね。同姓同名の移植魔術の使い手とかそんな感じだと思う」

 

 綾香の前で強がるアルカだが、綾香に目には今にも折れそうな姉の姿があった。けれど、これ以上突っ込んでも姉も何も知らなそうなので、追及はやめた。

 

「今日出来る事は、キャスターの陣営との接触、凛との情報交換くらいかな? 余裕があれば、新都のタワーに上って全体をスキャンしたいけれど」

「キャスターとの接触は……私は嫌。あの人は、私達の日常を壊す側の人だもの」

「ん。確かにキャスター陣営の行いは、いずれ大きな悲劇を招く気がする。でも私よりも優れた魔術師なら、綾香の呪いを解除できる可能性もあるのよ?」

 

 アルカとしても信用できない。だが、セイバーや綾香の話を聞いた限り、魔法の真似ごとすら可能とする魔術師の腕は本物だ。たとえ罠でも、賭ける価値は確かにある。しかし綾香が否定する手段を強要すれば昨日と同じ。

 

「あのキャスターは、セイバーを狙ってたの。私はセイバーを犠牲に、命を救って貰うつもりはないよ」

「え、あれのために?」

「いやうん、今のセイバーは無視して」

 

 部屋の隅で小さく纏まっている最優のサーヴァントを指さすアルカ。それを見た綾香が、あれのために命を掛けるのはと悩む。戦闘時などは非常に頼りになり、綾香をドギマギさせるセイバーだが姉との相性は悪いらしい。どうもアルカが絡むと残念系に変貌する。セイバーの幸運は、平均以上の筈だが実に運がない。ある意味、ラッキスケベと言えば運がいいのかもしれないが、その後の折檻を考えれば納得がいく。4

 

(たぶん、お姉ちゃん達が居なかったらセイバーのペースに押されてる自信がある)

 

 悪い人ではない。それだけは保証できる程度には、綾香とセイバーの信頼関係は築かれていた。さすがにブレイカーとアルカの絆には追いついていない。

 

「間桐慎二の行動も気になる。第一に綾香をターゲットに選んでいる事が謎。今度来た場合、ブレイカーで確実に撃破するわ」

「凄く厄介な相手みたいだよ?」

「英霊なんて誰でも厄介だから。けれど、最強はブレイカーなの」

 

 英霊ペルセウスの攻略を既に考えていたアルカ。そう言う所を見れば、非常に戦いなれているアルカは聖杯戦争に最も適合しているマスターと言える。内包した前回のマスター達の情報もそうだが、10年間の間に彼女の詰んできたキャリアは、生半可な魔術師のそれではない。

 研究ではなく戦闘をメインにした経験は、可憐な少女の見た目に相応しくない程の殺傷能力と戦闘思考を与えている。部屋の隅で落ち込むセイバーを慰めていたブレイカーも会話を聞いていたのか、手を少しだけ振って「まかせとけ」とジェスチャーする。 

 

「少し情報収集に時間を裂こうと思う。アン、今日からアサシンの能力をフル活動して貰ってもいい?」

『うん。私は誰を尾行すれば良い?』

「凛にお願い。状況次第で助けてあげてもいい」

 

 基本的に凛は争わない方向をえらぶアルカ。其処までいって、綾香はある事を彼女に切りだしたのだった。

 

「やっぱり疑問に思ってたんだけど、衛宮君とはどうしても組めないの?」

 

 綾香としては、柳洞寺で衛宮士郎の戦う理由が、聖杯戦争での被害を許さない事だと知っており、彼と協力すればいいのではないかと思う。彼なら裏切る可能性はないと言える上に、セイバーのマスターなのだから組むメリットはあると思う。

 当然ながら、姉の衛宮士郎に対する感情は知っているから、無理強いは出来ない。

 

「……嫌」

「あんまり深く聞きたくはなかったんだけど、お姉ちゃん衛宮君に何かされたことあるの?」

「ない。でも、衛宮士郎の生き方が、私は嫌い。彼と私は相容れない……本質的には似ているけれど、私は彼の在り方を良しとしない、少なくとも誰かの人生を代わりをするなんて、絶対に嫌」

 

 綾香には、姉の言っている事がよくわからなかった。誰かのために戦う衛宮士郎と自分や家族のために聖杯戦争に参戦した姉。どちらも誰かのために戦っている筈なのに、姉は違うと言う。肉親を護る姉と街の皆を守りたい衛宮士郎。確かに規模は違うが、本質は同じだと感じた。

 だけど、衛宮士郎の何かを知っている姉は、彼を理解する事は出来ないと否定する。それはまるで、同族嫌悪のようにも感じる拒否の仕方であった。

 

「けれど、人を裏切らないという面では同意。私は彼と話し合うのは嫌。けど、綾香が交渉してくれるなら、いいよ」

 

 最低限譲れない部分は主張するが、譲歩も考えるアルカ。衛宮士郎のサーヴァントの実力は十年前から知っている。彼女が真っ当な英霊であり、正義を重んじる性質なのも知っている。ならば、障害はアルカの嫌悪だけなのだ。其処まで意地を張って敵を増やす事は、得策じゃない。

 今優先すべきはアルカの感情ではない。綾香の安全なのだ。自分を犠牲にするつもりはないが、ウェイバーならどう言った手段を取るか思案した。

 

「綾香、今日は日が暮れたら新都のタワーに向かうわ。私の魔眼で冬木市全体の魔力の流れを読みとる。10年前にやった方法を使う」

「そんなこと出来るの?」

「ん。魔力をかなり使うけれど、可能。ただ情報処理の段階で無防備になるから、セイバーとブレイカーに護衛をお願い」 

「セイバーには頼んでおくけれど、私もお姉ちゃんと同じ目を使えるなら協力したほうがいい?」

 

「絶対だめ。私の魔眼、”七色の魔眼”は、使用しないで。混血の私以外が使えば、妖精化が始まる。それに私のインストールは、人間の脳が焼き切れてしまうから」   

「そんなに危険なの?」

「昨日は、魔術の解析と私の内包した魔術の使用、それが妖精化の引き金だと思う。けれど、本来の目の力は別にある。それは綾香が使っては駄目。二度とこの世界に返ってこれなくなる」

 

 真剣な目で綾香の肩をつかみながら忠告するアルカ。戦闘時に非常に有用な魔眼だと感じていたが、本来の使い手であるアルカは、危険性を熟知している。綾香は、真剣な姉の訴えを無碍には出来ない。その目は、綾香が5年前に彼女の目を移植された時と同じだった。

 

「基本的に動くのは夜だから、自由にしていていい。何処かに行くなら私もいく。アンは隠密行動をお願いね」

『了解。遠坂さんの周囲に張り付いておくね』

 

アンだけは別行動をとるため、私服姿からアサシンの黒装束へと着替え、宝具である仮面を装着する。仮面を被った瞬間に、その存在感が急激に薄まる。そしてその場から姿を消したアンを知覚できる存在は、マスターのアルカだけとなる。アサシン本来の性能を発揮したアンは、だれにも見つかることなく冬木の街を駆け抜けていく。既に学校に投稿しているであろう凛の元に向かうアン。

 アルカが凛の彼女の監視を頼んだのは、凛のアーチャーが何処か不気味な印象を抱かせていたからだ。凛の監視というよりもアーチャーの監視と言った方が正解である。どうにも好きになれないアーチャーの存在と彼の行動は、聖杯戦争で不利益となりえる可能性があると彼女の勘が告げるのだ。

 

「アンの姉ちゃん行っちゃったね」

「ん。アンは結構アグレッシブだから、今まで動けなくて可哀想だった」

 

 大人しい性格のアン。だが、サーヴァントである彼女は、行動的な面が多いのだ。それゆえにアンをアタッカーにした場合、アルカが手を出す前に全てが終わっているなどざらだったのである。ステータスは低下してもあり余る応用力と技術がアンの強みであり、物理攻撃で殺せない事が彼女の強みである。

 本格的に全身を吹き飛ばされるくらいしなくては、アンの水銀の体はすぐに再生してしまう。死なないアサシンほど恐ろしい英霊もいないだろう。

 

「日が暮れるまで後10時間くらいあるけど、お姉ちゃんはどうするの?」

「……携帯買ってくる。連絡取れないのは不便」

 

 魔術師でありながら、現代科学に理解と興味のあるアルカ。そもそも魔術で銃を生み出し使用するという戦闘方法からして現代魔術師の思考ではない。内包する魔術師殺しの経験から、魔術師に優位であると結論付け、積極的に取り込んでいる。故に現代科学を利用する封印指定の魔術師狩りという、魔術師であってもそれ以外であっても相手にしたくない存在として確固たる地位を築いたのだ。

 

「アメリカに行く際に契約切っちゃったんだっけ」

「そう。だから、もう一回契約してくる。そうすれば連絡を取りやすい。綾香はどうする? 買い換える?」 

「私はこれが気に入ってるから。でも、付いて行こうかな」

「ん。お出かけね」

 

 2人は、揃って新都の方へ行こうとブレイカーとセイバーに相談する。復活したが携帯がなにかわからなかったセイバーは、見せられた文明の利器に改めて時代の流れを感じる。話を聞いて車を出して欲しいと言われたブレイカーは、学校を休んでいるのに出歩いていいのかと聞く。

 その部分を考えていなかった綾香と愛歌(アルカ)が支度をしている手を止める。

 

「言われてみれば」

「……誤算だった。けど、問題ない。変装していくから。当然綾香も」

「え?」

 

 アルカは、変装すると言ってからの行動は早かった。彼女は、自分の髪に手櫛を通しながら、呪文を唱えれば鮮やかな金髪が燃えるよう赤に変色する。そして、次は綾香の番だと彼女のショートカットの髪に手を伸ばし、呪文を唱えれば綾香の髪が水のような青に染まる。

 それは、簡単な幻惑の魔術だが他人にもそれを施せることが、アルカの魔術師としての腕を証明していた。

 

 

 

「これで問題ない」

「変装って言うか変身だよね」

 

 変わった髪の色に合わせて服を選んだ二人は玄関前で姿身を見て、確認していた。その様子を見ていたブレイカーとセイバー。

 

「良く似合っているよ二人とも」

「見目は、抜群なんだがな。中身がどうも」

 

 素直に褒めるセイバーと、何処か挑発的な意見を述べるブレイカー。2人の性格がよく出た賛否に、綾香は照れながらも膨れる。一方、アルカは「ありがとう」と礼を述べながら、靴を履く。素直に褒められて嫌な気はしないが、彼女には見て欲しい相手が居るのだ。

 どうせなら、イギリスに居るウェイバーに見せたかったなと考えながら、玄関で待っている男性陣を急かす。

 

「あまり変装は長く続かないから、急いで」

「わかったわかった。だから押すな」

「愛歌、何故僕は指で刺されながら押されてるんだい?」

「じゃ、行こう」

 

 女性陣二人に押されるまま、ブレイカーとセイバーは、車庫に入っている外車に乗って新都へと向かう。一方アンは、久しぶりの潜伏活動に胸を躍らせながら、学園の屋上で話し合っている凛達を見張っていた。 

 


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