Fate/make.of.install   作:ドラギオン

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深層心理の住人

 綾香と姉妹喧嘩と言うには激しすぎる戦いを演じたアルカは、深い眠りに落ちていた。だが、彼女はこの世界に第二の生を得てからと言う物、夢と言う物を見たことがなかった。

 

 彼女が眠りその精神が深い場所に引きずり込まれる。そして、意識だけとなったアルカの前には、円卓の会議室のような部屋と其処を照らす、天井のステンドグラスだった。周囲には無いも見えず、広大な宇宙のような空間が広がっている。

 その世界に居る間、アルカは成長した今の姿ではなく、幼き頃の姿となっていた。

 

「……」  

「久しぶりに顔を出したな娘」

 

 ボーっと無表情で円卓を眺めていれば、対面の椅子に腰かける人物が語りかける。その人物を無表情な目で捉える子供のアルカ。

 その人物は、法衣を身に胸には十字架を掲げた男。

 

「……言峰綺礼」

「その通りだ。とはいえ、私はまだ生きているのだから、残留思念に過ぎぬがな。それで、何の用で此処に来た?」

「……」

「黙っていてはわからん。発言しろ娘」

 

 深層世界内にいる言峰綺礼。彼は現在も生きているが、聖杯の泥に囚われた際に、アルカによって吸収された記憶と人格なのだ。その存在は、アルカの深層心理の世界でのみ存在する事を許されているのだ。そしてアルカの中には時計塔で幽閉されていた時の同居人達の知識と魔術、第四次聖杯戦争のマスターの人格と記憶が内包されている。

 当然、この世界に存在するのが言峰綺礼だけの筈がない。

 

「僕に用があって来たんだろ」

「……ん。あそこで貴方が邪魔しなかったら、全部上手くいってたの」

 

 言峰とは、反対の位置に座る人物が、声を掛けアルカが無表情ながら目に怒りを込めて睨む。彼女の目の先には、黒いスーツに黒いコートを着た衛宮切嗣が居た。彼は手元にあるコンテンダーを弄りながら、この世界の主であるアルカと対峙する。

 

「僕はね。君に力は貸すが、イリヤを殺そうとするなら賛同しない」

「……黙って。貴方にそんな権利ない」

「なら、再び僕を記憶の渦に戻すが良いさ。僕は、イリヤだけは護る」

「これは滑稽だな。此処に10年もいれば、自ずと理解はできるが、この男が私の宿敵だったと思うと、酷く落胆する」 

「……うるさい」

「おやおや、藪はつつくものではないな」

 

 全てを失ってなお、イリヤを護ると言う死人(衛宮切嗣)に呆れる言峰綺礼。彼等は10年前からこの空間に放り込まれ、アルカに知識と技術を提供する代わりに現世の情報を得ることが出来る契約をしたのだ。

 だが、今回のこれは完全な契約違反。それに対してアルカは相手を焼き尽くさんばかりの憎悪の炎を抱えていた。綾香と喧嘩したのも全て切嗣のせいだと、認識した彼女。

 それくらいの覚悟はあったと、自分を消せばいいと告げる切嗣。

 

「あれ~? もしかして、大家さんじゃなっすか? 珍しいね此処に来るなんてさ」

「……?」

「忘れちゃいました? 雨竜龍之介っすよ。3年前の拷問以来会えなくて寂しかったんですよ。今度はいつやらせてくれんの? てか、今大家さんを作品にしてグベ」

 

 緊迫した空気をぶっ壊したのは、アルカに内包された雨龍龍之介の記憶だった。久しぶりに見たアルカの姿に興奮して、迎え入れながら何処からともなく取り出したナイフを向けようとする狂人。しかし、彼が最後まで言葉を紡ぐ前に、切嗣が弄っていたコンテンダーを発砲。頭がスイカのように抉れて、倒れる。

 

「ひっで~。オジサンいつも思うけど俺に当り強くない?」

「チッ」

 

 頭を吹き飛ばされた龍之介だが、この世界では死と言う概念はなく。龍之介はすぐに起き上る。そうでなければ、この世界にいる第四次聖杯戦争参加者が最後の一人になるまで殺し合わない理由が無いのだ。復活した龍之介は、いつも頭を吹き飛ばしてくる切嗣に文句を言いながらも、飛び散った自分の脳味噌や血を見て、綺麗だと感じていた。

 既に何百回も殺し合ったため、無駄だとわかっていても手を出してしまう切嗣。

 

「神父さんも何か言ってやってよ」

「そうだな。気持ちは分かるぞ……衛宮切嗣」

 

 神父である彼に賛同して貰おうとした龍之介の両肩に黒鍵が突き刺さり、彼を床に縫い付ける。肝心の龍之介は、この空間の住人は自分より手が早いとしみじみ感じる。

 そして、アルカの登場を知ったのか次々に第4次のマスターが姿を現す。

 

「其処までにして置きたまえ。仮にも私達と契約したこの世界の主だ。蔑にしていい筈がない。……そして、どれだけいがみ合おうとも、我々は死ぬ事も出来ず殺す事も出来ないのだから」

「流石、我が師です。仮にも一番早く私を焼き殺したお方の言う言葉は、重みが違う」

「……褒め言葉として受け取っておこう」

 

 元殺された側(遠坂時臣)が無駄な争いは無益で優雅ではないと、告げる。それに対して、彼を殺した張本人である言峰綺礼が挑発する。しかし、無駄だと分かっている事を行う時臣ではない。腹に据えかねる挑発だが、椅子に腰かけたまま優雅に流して見せた。

 

 正直言ってこの世界は、毒素と悪意に満ちていると言える。混ぜてはいけない人材達を、同じ場所に集めたのだから、当然と言えば当然である。

 

「……」

 

 既に4人が来れば、内包されている人格が全て現れるのは必然。不機嫌そうなアルカの傍に現れたケイネス・エルメロイ・アーチボルトと間桐雁矢だった。ケイネスは現在も存命だが、アルカは彼から直接記憶をinstallしたために存在する。間桐雁矢は、聖杯に回収された令呪に宿った残留思念、遠坂時臣、龍之介と同じ理由でこの場所にいるのだ。

 

「衛宮切嗣、君の行動は誰から見ても軽率と言うほかなかったよ」

「それには同感だ。もし、アルカちゃんが死んでいたらどうするつもりだったんだ?」

 

 そしてケイネスと雁矢は、アルカの肩を持って切嗣の行いを非難する。ケイネス自身も、この世界で切嗣と何度も殺し合った関係で、生きている自分の保護対象であり義理の娘であるアルカを危険にさらした事は許せなかった。幸せそうな自分の今を見た彼の中で、魔術を捨てた自分は府抜けて見える。だが、ソラウを守り通し、自分と彼女が歩んだ別の道を見た今では、アルカの魔術知識の記憶の閲覧と彼女の保護が彼の存在意義だった。

 間桐雁矢は、アルカに内包された段階で正気に戻り、自分の行い(葵殺害未遂)を知り絶望、時臣に殺される事で償おうとした。そして彼に殺されようとしたが、死ぬ事も出来ず、ならばこの世界で永遠に償うと比較的従順な姿勢を見せた。自分では助け出せなかった桜の代わりに、アルカだけでも助けようとしたのだ。

 

 この世界で、彼等に出来る事はアルカの許可した情報の閲覧だった。遠坂時臣も凛の事が気になり、その情報を契約の対価にアルカに魔術の知識を与えていた。

 龍之介に関しては、望む事はほとんどなかった。ただ、死んだ後の世界を見れると言う条件に賛同したのみ。言峰綺礼は、同族嫌悪を越え生きている自分の存在を許容できないとして彼女と契約した。それは、言峰綺礼の策謀を綺礼自身が先読みし、アルカが阻止して彼を窮地に追い込む契約だった。

 そして衛宮切嗣の契約は、外の情報と己の行いの結末を知る事だった。

 

「だから、僕を消したければ消せばいい。」

「……ん。なら、貴方はもう」

 

 綾香との喧嘩も、何もかも彼のせいにしてしまえばいいと子供っぽい考えに染まるアルカ。その様を綺礼は面白いと拝んでいた。

もう二度と勝手な行動は許さないと目で語るアルカだったが、彼女の背後から現れた人物がそれを止める。

 

【それで満足なの?】

「……ん」

【嘘。少なくとも貴方は、誰かの消滅を願ったりはしない】

「……愛歌、でも」

【この状況で衛宮さんを消すことは、私は反対。彼の力は、聖杯戦争で必要よ】

 

アルカを嗜めたのは、半透明な体で具現化した本物の沙条愛歌だった。彼女は死んだ時の姿でアルカの側に控えていた。

彼女だけは、この世界でも特別だった。何故ならアルカと愛歌の魂は融合しているからだ。故に愛歌には、アルカの決定を覆し、抗う権限があった。

 

「……でも、でも」

【安心して。私が二度と勝手なことはさせない。だけど、ウェイバーさんの手紙に書いてあった通り、一度整理しましょ】

「……綾香とウェイバーが危ないの。聖杯戦争が続いたら」

 

アルカは失う恐怖に震えていた。そんアルカを愛歌が優しく抱擁して落ち着かせる。

 

【だからこそ、一度落ち着くの。それに綾香は、もう昔の綾香じゃない。あの子にも考えや気持ちがあるの。其処を理解してあげなくては、理解してくれないわ】

「……」

 

二人の少女の話し合いを内包されたマスター達は、声も出さずに見届けていた。言峰のみ、折角面白い展開になるかと思ったのに、余計な邪魔が入ったと落胆した。しかし、口を挟もうとすればケイネス、間桐雁矢に攻撃されただろう。

龍之介は、二人の大家(主)の姿に、新しい作品の構想を練っていたが口には出さない。

 

「……ん。わかった」

【とりあえずイリヤスフィールの殺害は見送ります。けれど相手から来た場合、邪魔はさせません。いいですね?】

「くっ」

【いいですね?】

「勝手にしてくれ」

 

愛歌が強引に圧力をかけて説得する。少しの妥協を混ぜられた事で、断りにくい。そうなった以上、切嗣は従うしかない。此処で断れば、次こそイリヤスフィールが殺される。イリヤのサーヴァントは強力だが、ブレイカーの英霊とアサシンの英霊を従えるアルカは、強敵過ぎる。

 

話は少しだけ纏まった様子だったため、間桐雁矢がアルカに話し掛ける。

 

「もうすぐ起きる時間だ。そろそろ表に帰った方がいい。こっちはオジサンと先生がどうにかしておくから」

【ありがとう】

「……ん。帰る。オジサン、先生さようなら」

「はい、さようなら」

「また機会があれば、息子とソラウの写真を頼むよ」

 

雁矢に勧められるまま、アルカと愛歌は、意識を表層へと向けていく。天井のステンドグラスを越えて行く際、アルカと愛歌の魂は再び混ざりあって、一つとなっていった。

 

そんな彼女達を見送った深層心理の住人達。

「随分と優しいじゃないか間桐雁矢」

「俺は、あの子達の幸せを望んでいるだけだ。もう二度と俺は自分に幸福を求めない。俺にはそんな権利はない」

 

雁矢を嘲笑う綺礼。元々綺礼の仕組んだシナリオのせいとはいえ、雁矢に彼を恨む権利はなかった。元々時臣を殺そうとしていたのだから、遅かれ早かれ結末は同じだった。

自分は命を賭けて、桜を救うはずが命を代償に時臣への憎悪を優先したのだ。だから、雁矢は望まない。

 

「綺礼。其処までにしておきたまえ」

「そうですね師よ。切開のしがいがない以上、無意味ですね」

 

時臣の忠告を芝居がかった態度で受け入れる綺礼。そうして深層心理の住人達は、それぞれの領域へと帰っていった。

 

 

 

 

 




 今回は第四次メンバー集結ですね(ウェイバーは除く)。

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