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「貴様は、あの時のランサー」
「うそ、ライダーだけじゃなかったの?」
セイバーは、剣を構えて槍を手に持ったランサーを警戒する。当然ライダーの奇襲も警戒するが、二人同時は、かなり厳しいものがある。
「てめぇとは、まともに戦ってなかったからな。ここいらで……と思ったんだがな。随分つまんねぇ野郎に襲われてる姿を見てな。手助けじてやろうと思った訳だ」
ランサーは、ライダーの戦法が気に入らず、そんな手段で戦い概があるセイバーが脱落は、つまらないと考えたらしい。
アサシンならまだしも、英雄である筈のライダーが、こそこそマスター狙いなど腹正しいと介入したのだ。
「信じられると思うか? 貴様は以前、綾香の命を狙っていた」
「マスターの指示だったんでな。今は、マスターも俺の自由にしていいと気前の良いこと抜かしやがる。どんな裏があるか知らねぇが、なら今くらい楽しまなきゃな」
ブンブンと槍を振るうランサー。その手が止まった時、綾香の背後の木に隠れ、首を狙う鎌と赤い槍が激突する。
鎌は当然、慎二のサーヴァントであるライダーのもの。それを防ぎ、綾香を守ったのはランサーだった。
「ランサー……か。ワタシの邪魔をする気か?」
「そうだって、言ってんだろうがぁ」
槍と鎌、互いに剣より優れたリーチを持つ武器は、使用者の二人の技量もあり、周囲の木々を薙ぎ倒しながら、火花を散らす。
既に戦闘スイッチの入ったランサーが、猟犬のごとし獰猛さで槍を振るう。対するライダーは、打ち合う撃ちに、面倒に感じたのかマントを使用して消える。彼の姿が消えた後、腹いせに木を斬り倒したランサー。
「ケッ」
姿を完全に隠したライダー。接近戦特化のサーヴァントが集まった以上、接近戦は不利だと踏んでの行動。だが、その戦法が気に入らないのかランサーがイライラし始める。
「協力してくれると言うなら、此処は手を組もう綾香」
「え?」
「防戦一方なのは間違いない。君が彼を許せないのは理解できるし、僕も許しはしない。だが、今は手を借りるべきだと思う」
殺されかかった相手に助けを求める。それはなんとも恐ろしく、気の進まない行為である。しかし防戦一方ではいずれ捉えられてしまう。なら、縋るしかないのだ。
「どうするよお嬢ちゃん?」
「……凄く嫌だけど、凄く納得できないけど、お願いします」
綾香が素直に助けを求めたため、ランサーはニッと笑いながら、槍を地面に突き刺す。
「鈍そうで、案外物分かりがいい嬢ちゃんだな。というか、眼鏡ないと結構可愛いなおい」
「嘘? あれ、そうかさっき落したんだ」
「ランサー、綾香に手を出すなら、前言撤回させてもらう」
綾香の素顔を覗き込むランサーが、顎に手を当てて褒め始める。それが気に喰わないセイバーが立ちはだかり、此処で斬ってしまおうかと思案する。丁度槍も持って居ないのだから。さすがにバッサリ切られるのは御免だと、ランサーが両手をあげて降参する。
そして、すぐにしゃがみ込んで脚元に落ちていた手頃な石10個ほどにルーンを刻んでいく。
「手はださねぇよ安心しろ。お前もそうだが、譲ちゃんの姉ちゃんが怖ぇからな。まぁ、俺の若い頃だったらどうだかしらねねぇがな。もうちょっと育ったら狙ってもかもな。姉ちゃんくらいにな」
「何処見てるのよ!」
ランサーがルーンを刻みつつ、綾香のある部分を見ながら告げる。その視線に気が付いた綾香が、胸を押さえながら距離を取る。実に失礼なサーヴァントだと憤慨する。
(そりゃ、お姉ちゃんよりは小さいけど、小さいけど)
「聞き捨てならないなランサー」
「セイバー」
やっぱりセイバーは、高潔な英雄なんだと高感度が上がった綾香。しかし、セイバーの二の句が全てを台無しにした。
「綾香は決して小さくない。見た事はないが、感触で分かる」
「何言ってんの!? というか、状況わかってる!?」
綾香の擁護ではなく、綾香の胸について語り始める騎士王。酷く真面目な顔で語る彼に、綾香は姉達の男は狼だと言う熱弁を思い出した。そして、状況はライダーに一方的に襲われていると言うのに、味方が居ない綾香。
「まぁそっちの話は後にしようや」
「後もしないでよ!」
「そうだね。全て終わってからじっくり話そう」
「じっくり? ていうか、貴方達仲良くない?」
ランサーが石にルーンを刻み終えた途端、それらが石を持ったように地面を走って、それぞれが何かを探しに行く。綾香の目は今は普通の青眼となっており、魔術を読みとることが出来ない。
「今お前らは、狩人に狙われる鹿と同じだ。それはな、お前らが狩られる側だからだ」
「何が言いたいの?」
「本当の狩りっていうのを教えてやろうじゃねぇか。狩人のつもりが実は自分達が得物だったと思い知らせるためにな」
そういうランサーは、先程移動した石から何かを感じ取ったのか、闘志を募らせて行く。
「見つけたぜ。あの坊主とサーヴァントだ。奴ら俺が放ったデコイにひっ掛ってるらしい」
ランサーは石に描いたルーンで結界の主とライダーを捜索していたらしい。彼のアイディアは、捜索機能を持たせた石に相手を攪乱する囮の機能を加えたのだ。結界の外から見て居る限り、おい茂った森を正確に攻撃するライダー達を見て、ランサーは相手の位置を探知して攻めていると確信した。それゆえに魔力を制限したセイバーを狙って襲撃を繰り返している。
ならば、複数の囮を用意してそれに引っ掛かったなら、その時点で釣られるのはライダー達なのだ。ハンターのつもりで余裕を保っていたが、立場が逆転したのだ。森には複数体の囮があり、ライダーと慎二は本物の判別が出来ない様子。その時点で狩人はランサーになる。
「いくぜ」
「悪くない作戦だ。綾香、いくよ」
ルーン魔術を使えるランサーの有用性に綾香は驚きと共に、一時とは言え一緒に戦えるを幸福だと実感した。先陣を斬って駆け抜けるランサーの速度は速く、セイバーも追従するのが精いっぱいだった。
「ところでよ、相手の正体はわかってるのか?」
「ライダーの正体はペルセウスよ」
綾香がランサーの問いに答えれば、彼は「ライダーも2人目かよ、こりゃ俺のクラスも増えたりしてな」と冗談交じりに今回の聖杯戦争の異常さを嘆く。正直否定できない綾香とセイバー。既に二度起こっているのだから、三度目がないとは言い切れない。
「ただ、それを聞いて納得がいったぜ。つまるところ、あの女のライダーは、メドゥーサか。そしてそれが破れたから、メドゥーサを殺した英霊を召喚したのか」
走りながら、会話するランサーと綾香。セイバーに抱かれながらではあるが、この高速移動に順応しつつあるのが綾香の凄さでもある。そして、先頭を走るランサーが方向転換を始める。どうやら、別の囮に慎二たちが食い付いたらしい。
そして、少し進んだ先に、いら立った様子の慎二と鎌と謎の盾を持ったライダー(ペルセウス)が居た。そして、仕掛けると飛び出したランサーが柔軟な筋肉とバネを駆使して朱の槍を突き出す。
「うわぁああ!?」
「やはり」
「良い反応だ。だが、もっと上げてくぞ!」
「厄介なサーヴァントだ。ナニ!?」
「私達に仕掛けておいて、忘れる余裕があるのか英雄ペルセウス」
真横から猛スピードで駆け抜けるライダーの槍だったが、ペルセウスが青銅の盾で攻撃を防ぎ、カウンターに鎌を振るう。ランサーは、槍を引きながらその攻撃を弾き、真横に大振りする。ペルセウスは、青銅の盾で受け止めるが、遅れて斬り掛って来たセイバー。魔力放出の勢いの乗った斬撃は、咄嗟にペルセウスの持つ鎌ハルペーでガードされるも、彼の体を背後の木まで吹き飛ばす。
「ライダー! ヒィ!?」
ライダーが劣勢に立たされ、焦る慎二にランサーが槍の矛先を向ける。その殺気に怯えた慎二が、腰を抜かして後ろに下がる。セイバーのマスターとはえらい違いだなと、彼の臆病さと調子の良さに溜息が出そうなランサー。ペルセウスと対峙するセイバーと、慎二は何もできないとセイバーに加勢するランサー。
「ふふふ、それで勝ったつもりかランサーにセイバー」
「吠えるじゃねぇか、何か今から見せてくれるのかよ」
セイバーとランサーの両方を相手にしながらも、盾と鎌で器用に捌くライダー。基本的に宝具寄りの性能になるライダーにしては良い技量だとランサーとセイバーは考える。しかし、彼の狙いが別にある気がしてならない。
「そうだよ。何勝った気になってんのお前ら?」
「あん?」
何やら得意げに調子を取り戻した慎二。だが、彼が調子を取り戻すと言う事は、それなりの理由があると言うこと。そして、慎二の言葉を証明するように、ペルセウスが何処からともなく何かが入った革袋を取り出す。
「まさか」
「そう言うことか」
その革袋が少し開かれ、中身が目に入った瞬間、その中身を想像してしまったセイバーとランサーは、中で此方を見ている魔眼の効力に当てられて、全身が石のように重くなる。その袋に入っているのは、ペルセウスが英雄と呼ばれる所以、以前のライダーであるメドゥーサの首だ。
その眼は、見た物を石化させるものであり、対魔力Bのセイバーとルーンで対魔力をあげていたランサーですら、石化しないまでも重圧を感じる程の魔眼。それは英霊として呼ばれた彼女と違い、怪物としての彼女の魔眼。
「さぁ、ライダー。後は始末するだけだ」
「わかっているよ。慎二は逃げておいてくれ。騎英の手綱(ベルレフォーン)を使う」
「あぁ。本当にお前は当りだよライダー」
「だが、マスターの少女はどうする? 」
「尻尾巻いて逃げたんだろうさ。後からゆっくり追い詰めればいい、結界からは逃げられない」
慎二に透明化のマントを渡したライダーは、透明化して安全な場所までマスターを退避させる。
何処からともなく、天馬と黄金の手綱を召喚するライダー。それに跨がり、空へと飛び上がり距離を取る。狙うは動きが緩急になっている英霊達。真名解放を伴えば、強大な魔力の塊として攻防一体の対軍宝具であるそれは、直撃を受けて生きていられる英霊は少ない。
十分に距離を取り、後は相手を仕留めるだけになる。
「動けるかい?」
「あぁ。だが、厄介だな」
如何にか動ける2人は、こちらに狙いを定めたライダーを迎え撃とうとする。
「あの攻撃を10秒だけ押しとどめる事は出来ないか?」
「あの馬鹿みたいに速い宝具をか? 止めたら勝算があるのかよ」
上空から降下しつつ、魔力を迸らせる天馬。それは真名解放の前段階であり、気が付いた瞬間には2人は消滅しているだろう。故に与えられた時間は数秒。なら、出来る事はするしかない。
「いいぜ、面白そうだ」
「今こそ、我が聖剣の輝きを、見せんとする!」
ライダーに対してクラウチングスタートの構えを取るランサー。手に持つ槍に紅い魔力が迸り、宝具の開放を始める。一方横では、風の鞘を解放したセイバーの剣が現れる。しかし、風の鞘直中には、さらに鞘がしてあり、謎が深まるばかりだった。そして、魔力の滾る槍と周囲の光を集める鞘付きの剣を構える2人。
降下準備を始めたライダーもランサーとセイバーが何かを行う姿が見える。しかし、既に止めることは不可能。
「何であろうと、ワタシの敵ではない。行くぞ騎英の手綱(ベルレフォーン)!!!」
ライダーが手綱と鞭を用いて、天馬と人馬一体の宝具を解放する。天馬を膨大な魔力が覆い尽くし、急加速した攻防一体の破壊兵器が時速500キロで2人を襲う。
「突き穿つ死翔の槍(ゲイ、ボルク)!!!!」
そのタイミングを計ったように、ランサーが迫りくる天馬目掛けて助走を付けながら、全筋肉と魔力を込めた槍の投擲。
投げられた槍は、無数のやじりを撒き散らすことで炸裂弾のように一撃で一軍を吹っ飛ばす威力を誇る。それらは全てマッハを越える速度で天馬と激突する。
空で紅い閃光と白銀の閃光が衝突した。
今回は兄貴が協力してくれましたね。あのUBWで石が動くのなんか可愛いと思いました。
追記:セイバーはムッツリ男子。