Fate/make.of.install   作:ドラギオン

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ライダーの襲撃

 綾香の決心が付き、家に帰ろうかと車のエンジンを入れた瞬間。セイバーは直感で異変を感じ取り、綾香を抱えて車から飛び出す。シートベルトを締めていなかった事でスムーズに脱出できたセイバーと綾香。

 驚く綾香だったが、セイバーに降ろされたとき車のフロントガラスを貫く鎌のような武器が目に入る。

 

「あれは」

「サーヴァントだ。問おう、貴殿は私達の敵で相違ないな?」

 

 フロントガラスを貫いたそれは、綾香の座っていた助手席を貫通しており、綾香を狙った一撃だとハッキリわかる。

 

「ワタシは完全に気配を消していた筈だが、良い勘をしてるな」

「気配遮断か? いや、それにしてはおかしい。今のは完全に姿も何もかも消えていた」

 

 セイバーが騎士鎧に着替え、透明の剣を構える。それに対して車のボンネットに乗った英霊は、フロントガラスから鎌を抜きとり、なんと空に浮かび上がる。

 

「飛んだ?」

 

 まるで重力なんて感じないように、軽々と空に浮きあがり自分達を見下ろす存在。彼は、綾香とセイバー(アルトリウス)を見下ろしながら、空中でブンブンと鎌を振るう。

 

「奇襲には失敗してしまった。どうする慎二」

「慎二? それって」

 

「ハハハハ、そうだよ。この僕さ」

 

 謎のサーヴァントが聞き覚えのある名前を口にした為、一人しか思い当たらない綾香。彼女の疑問に答えるように防風林の方角から高笑いして現れた間桐慎二が居た。だが、綾香とセイバーは、姿を見て驚く。髪の色は、白髪になり全身に紅い魔力回路が浮き出ていたのだ。

 その瞬間、目を凝らした綾香が本能的に魔眼で解析する。 

 

「本当に間桐君?」

「そうさ、ちょっと容姿が変化したけど、僕は僕さ」

「貴方のそれ何?」

 

 綾香の魔眼には、慎二の全身を蝕むように広がり続ける魔術回路が見えた。それは意思を持ったように彼の体を喰い荒らしている。だが、間桐の魔術とは違う性質なのが、身体に馴染み始めた魔眼で解析できた。

 

「これ? これはアルト様が僕に与えてくれた、魔術回路さ。お前らみたいな半端な魔術回路じゃない、正真正銘天才のためのね」

「アルト様?」

「おっと、これは内緒だった。まぁ此処で死ぬんだしちょっとくらいは良いかな。まぁ、僕は晴れて本物の魔術師となったのさ」

 

 自分の魔術回路を見せびらかす慎二。その魔術回路の質と量は、綾香とは比べ物にならないものだった。綾香は姉から間桐慎二が魔術回路を持って居ない事を知っている。なのに、彼は魔術回路を持って、自分に見せつける。彼の言うアルト様と言う存在が、要因なのは疑いようもない事実。

 しかし、そんな奇跡や魔法じみた事が出来る存在が、思い浮かばない。だがキャスターの英霊の存在を思い出すが、彼女程の存在が間桐慎二と接触する理由が浮ばない。戦力増強なのか、わからないが間桐慎二はサーヴァントを携え、自分を狙っている。

 

「間桐君、私に何の用? 復讐にでも来たの?」

「そうだね。お前に味合わされた屈辱は確かに晴らしたいね。でも、お前を殺せってアルト様が命じてくれたんだ。あの人に言われたんじゃ恨みなんかより、光栄にすら感じる」

「間桐君が其処まで心酔するなんて、その人ってキャスターのサーヴァント?」

 

 今の慎二なら楽に情報を引き出せると考えた綾香。情報こそが何事にも勝る武器となるという、姉のスタイルを真似て聞き手に回る。

 

「キャスター? いや、あんな魔女とは違う正真正銘の女神さ。僕は彼女のおかげで奇跡を信じたよ」

「慎二。情報を引き出されてるんだよ。雄弁なのは良いが、口が軽いのはどうだろう」

 

 ペラペラと話し始める慎二を嗜めるサーヴァント。彼の横やりに綾香は、甘くなかったと歯噛みする。そして、空中でセイバーに対して一切油断せず、武器を構える。セイバーも相手の出方を窺いながら、何時でも斬り伏せる準備はできていた。

 

「そうだねライダー。確かにそうだ。お喋りはここまでにして、始めようか」

「あぁ」

 

 マスターの傍に近寄った以前ライダーと呼ばれた女性とは違う2人目のサーヴァント。セイバーが2人いるなら、ライダーが2人目が登場してもおかしくはない。しかし、完全な気配遮断を行った存在がライダーと言う事実がセイバーには不可解だった。 

 そして、慎二の隣に降り立ったライダーが、マントで慎二と自分を包みこむと、その姿が見えなくなる。 

 

「!?」

「気配から姿まで消えた。綾香、僕の背中から離れないでくれ」

 

 姿と気配が消滅しても、相手は確かに自分達の近くにいる。一切の気が抜けない状況で、セイバーは全神経を集中する。すぐ傍にある砂浜に行くと言う手もあるが、相手が飛行可能な時点で足跡で追跡は不可能。

 相手の力量もわからぬ上で、アサシンの様な戦術を駆使される事は、非常に戦い難い。何より綾香狙いで責められた場合、セイバーには防戦しか不可能なのだから。

 

「ハッ!」

「え」

 

 神経を極限まで尖らせたセイバーは、綾香の頭上から振り下ろされた鎌を、剣で弾く。武器と武器の間で火花が発生し、一瞬だけライダーの姿が目に入る。追撃を仕掛けようと脚に力を込めたセイバーだったが、ライダーは逆さまの状態から、上空へと上昇し、距離を取る。逆さまの状態でセイバーと睨み合うライダー。

 

「アサシンのような戦いをするようだな貴様は」

「元々、正面から相手を倒した英霊ではないのでね。自分の能力を活かす事を卑怯とは言わないだろ?」

 

 そう言って姿をマントで消すライダー。気配が読めなくなった途端、今度は連撃で綾香を狙うライダー。そのたびに攻撃の瞬間だけ姿を現すライダーの鎌に反応するセイバー。何度も何度も綾香の周囲でセイバーとライダーの剣戟が起こる。何度も斬り合うたびに、綾香は人智を越えた英霊同士の争いに驚く。

 セイバーと言う護衛を掻い潜って次から次に360度全高度で攻めてくるライダーと、コンマ一秒しか姿を現さないライダーの刃を正確に捌いて行くセイバーの動体視力。口を挟む隙間もない程の激しい戦いが、行われていた。

 

「このままでは、防戦一方だ」

「あの雑木林に逃げ込めない? あそこなら空は跳べない筈」

 

 綾香が、指をさした先には雑木林があり、確かに飛行は難しそうなほど木が生い茂っている。だが、伸ばした綾香の指を斬り裂かんと鎌が振るわれ、セイバーが剣で受け止める。そして、鍔競り合いになってしまったライダーを、魔力放出で弾き飛ばす。鎌が大きく逸れるが、其処につけいらせる気はないと空中に逃げるライダー。

 少しだけ出来た隙に、セイバーは綾香を脇に抱えて、雑木林に飛び込む。

 

「尻尾巻いて逃げるのかい沙条」

 

 雑木林に逃げ込んだ途端、そこらじゅうで間桐慎二の声が反響する。どうやら、慎二は姿を消した後、雑木林に身を潜めていたらしい。魔術の行使が可能となった事で簡易な結界ならすぐに貼れるらしい。

 

「罠に嵌められたかもしれない」

「そんな」

 

 雑木林に入り込んだ瞬間、結界の魔力を感知したセイバー。その結界自体は、セイバーは無効にできるが相手の位置を探ることが難しい。空からの攻撃が無くなったとはいえ、森は死角も多い。だが消える相手と言うだけで十分に驚異的であるが、空に逃げられない分、迎撃の機会もあると言うこと。 

 

「それで隠れてるつもりか? なら、教えてやるよ。僕等の前で隠れるなんて無意味なんだって」

「慎二、内緒にした方が勝率は高い」

 

 自分の力に酔っている慎二は正直言って口が軽い。だが、その言葉を聞く限り、あながち間違ってはいないらしい。セイバーが綾香を抱えてその場を離れる。そのコンマ一秒後、恐ろしい魔力の籠った光が、彼女達の居た場所を木々ごと抉り取る。

 あまりに一瞬過ぎて綾香には捉えられなかったが、セイバーはしっかり捉えていた。彼等の居た場所を破壊し尽くしたのは、黄金の手綱を付けられた天馬だと。

 

「セイバー今の何?」

「この前学校で見た、ライダーの呼びだした天馬だと思う」

 

 結界に阻まれ、通常よりも広く感じる森の中を綾香を抱えたまま走る。だがセイバーの足をしても、雑木林から抜け出す事が出来ない。そして、何度も何度も、天馬に跨ったライダーが奇襲を仕掛けてくるため、方向感覚すら狂って行く。

 これだけおい茂った森の中で、正確にセイバーたちを狙って空中から攻めてくるライダー。森の眼隠しは通用せず、木々の盾は天馬によって破壊される。だが、セイバーに抱えられている綾香は、彼を信頼して思考を巡らせる。其処である答えに辿り着いた。

 

 

「セイバー。あのライダーの正体ってペルセウスじゃない?」

「ペルセウス。なるほど、空を掛けるサンダルに透明のマント、そして天馬……確かにその可能性が高い」

 

 綾香が、記憶にある英霊を掘り起こした結果、浮かび上がったライダーの英霊像。その会話を何処かで聞いていたのか、慎二が笑いながら答える。

 

「よくわかったね沙条。お前の鈍い頭でも、少しは物事を理解してるみたいじゃん」

「でも、どうしようセイバー……」

 

 慎二が正解だと伝えるが、事態は余計に複雑になる。彼の持つ宝具の弱点や明確な攻略法も存在せず、あるのは彼が英雄達を葬ってきたメドゥーサという怪物を倒した英雄だという情報のみ。

 これでは、いずれ天馬の一撃によって綾香とセイバーは死んでしまう。セイバー自身も己の宝具が解放できるか、まだ判断が付かなかった。そして綾香を徹底的に狙う以上、彼女の傍から離れられない。移動速度ではライダーに天秤が傾くからだ。

 

(八方塞か。一か八か、賭けに出るか)

 

 どうにかしてこの森だけでも脱出しなければならず、少し強引な手を使うかと思案した時、森に張られた結界を紅い閃光が貫いた。その閃光は、空にまで張られた結界を突き破り、逃げるセイバーと綾香の眼前の木に突き刺さる。 

 

「ッ」

「あなた」

 

 その気に刺さったのは、真っ赤な曇り一つない槍。その槍を拾いに現れた存在は、青いタイツのような鎧を着た猟犬のような目をした英霊。ランサ―だった。

 

「よぉ、2人目のセイバーとお譲ちゃん、久しぶりだな」

 

 




 今回はスーパー慎二君とライダーの攻勢ですね。ライダーは、天馬を触媒に召喚された成功した慎二ですね。

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