Fate/make.of.install   作:ドラギオン

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愛歌(アルカ)VS綾香

 

アインツベルンの城から帰った沙条姉妹。有利だった戦況は、数々のトラブルから敗走する嵌めになった。

そして、沙条姉妹の間の空気は最悪と言っても他ならなかった。

車から降りた愛歌(アルカ)は、無言のまま綾香に目も合わせない。

 

 

「お姉ちゃん……あの」

「……」

 

綾香を無視する形で家に入っていく愛歌。だが、愛歌を追い掛けて工房に向かったとき、愛歌がようやく綾香と向き合う。

そして、綾香の頬を平手でぶつ。

 

「あ」

「……死にたいなら、私が殺してあげるわ綾香」

 

頬を押さえる綾香に明確な怒りを向ける愛歌。彼女は綾香の胸ぐらを掴むと床に向かって背負い投げた。

突然、姉が繰り出した背負いに対応などできず、床に背中を強打する。

 

「痛、……」

「私の邪魔をして、あろうことか敵マスターを庇うなんて……自殺願望があるんなら、私が殺すわ」

 

明らかに堪忍袋の尾が切れた愛歌に綾香は恐怖する。姉は自分に滅多に怒らない。けれど怒った姉は容赦がないのだ。

 

「邪魔って……私はあの子を殺すなんて聞いてない!」

「ん。言ってないわ。貴方は反対するのわかっていたもの」

「当然じゃない‼ あんな子を死なせたくないから、私は戦うの」

「それが甘いの。殺さなきゃ貴方が殺される」

「だからって……どうしたって認められない」

 

綾香が頑なにイリヤスフィールの殺害を拒否する態度、自分の命を蔑ろにする姿に愛歌は酷く腹が立った。

 

「黙りなさい……貴方の意見は聞かない。綾香は現実を知らないから、そんなことを言えるの」

「知らないって何も教えてくれないのはお姉ちゃんじゃない!!」

「黙りなさい‼ ……貴方に魔術を教えるんじゃなかった。何も知らなければ、こんなことにならなかったかもしれないのに」

「私はお姉ちゃんにだって……そんなことをしてほしくない」

 

姉の頑なに自分を認めてくれず、過保護すぎる程に護ろうとする態度に綾香は腹が立った。愛歌は綾香の為にと戦うが、綾香には理解されない。綾香は姉を想うがゆえに残虐な行為に手を染める姉を理解できない。

それは、愛歌が魔術師の裏の顔を綾香に隠し続けた事が原因とも言える。良き姉を演じようとした結果、ウェイバーのために少なからず手を血に染めた自分を見せられなかったのだ。綾香に嫌われたくないという一心が、彼女に嘘を突く切っ掛けとなった。

 

それはアルカが人を初めて殺めた時、誰よりも悲しみ泣いたウェイバーの涙を忘れられなかったからだ。

 

「だったら、どうしろって言うの? 大人しく貴方が死ぬのを見届けろと?」

「それは……私だって死にたくない。けど、私のために人が死ぬのを黙ってみてるのも嫌」

 

 

一般人の価値観を持って育てられた綾香に、今さら魔術師の常識は理解できない。理屈ではないのだ。

 

「もういい、もういい!! 貴方の精神を封印して工房に閉じ込めておく。全部が終わったら、起こしてあげる」

「……ふざけんな!!」

 

もう話し合いは不可能。綾香に怨まれようが、形振り構わないと頭に血が登った愛歌。そして愛歌が容赦なく伸ばした腕を掴んで、逆にグーで殴り返した綾香。殴られた愛歌が驚くと、眼鏡を自分で投げ捨てた綾香が愛歌と同じ七色の目に変化する。本来綾香が持つ筈のないアルカの魔眼を、どう言ったわけか両目に宿す綾香は啖呵を切る。

 

「何も言わない癖に、理解しろ? 解らないなら、眠らせる? 私はお姉ちゃんの物じゃない‼」

「……」

 

同じ七色に輝く目を持つ姉妹は、互いに感情に身を任せたまま、魔術回路を起動する。

 

工房の外では、セイバーが止めようとしたが結界に阻まれた上に、ブレイカーに止められる。

 

「止めないのかい?」

「今回はどっちも悪いからな、喧嘩なら好きにさせる。何時かこうなると思ってたよ。それに、うちにはアンが要るからな、大怪我はしない」

 

ブレイカーが中を指差せば、結界の中に忍び込んだアンが互いに魔力を溢れさせる姉妹を見届けていた。

 

 

「私とやる気? 魔力は少ないけど綾香に負けることはないわ」

「そっちが先に手を出したんじゃない」

「そう。参考封印指定【流星】……」

 

綾香は手に薔薇の茎を幾つも持つ。それは綾香が習得した黒魔術の一つである。対する愛歌は、残りの魔力量から消費の少ない流転の星を発動する。

愛歌の目で見た工房の鉛筆やチョークなどが魔力を帯びて浮き上がる。それらは綾香に狙いを定めて矛先を向ける。

 

「魔女の黒薔薇!」

「流転の星・穿て!」

 

工房内で沙条姉妹の魔術が衝突しあった。魔力を帯びた筆記用具の弾丸と魔力を帯びた茨が空中で衝突し、其々が砕け散る。

 

「まだまだ‼」

「……」

 

次から次に黒魔術の魔弾を発射する綾香。その勢いは、怒りの現れだった。予想以上の猛攻に愛歌の苛立ちが募る。

 

そして黒鍵を泥で作り出し、綾香の薔薇の投擲を全て弾き、逆に3本の黒鍵を投擲する。流石に黒鍵は、打ち落とせない綾香が、素人臭い動きで回避し、走ったまま二度魔弾を放つ。

 

 その魔弾を回避した愛歌が、黒鍵を投擲し続ける。

 

「綾香が私に勝てる筈ない」

「うるさい! 何時までも姉面して、本当のお姉ちゃんじゃない癖に!! あ」

 

 追い込まれた状況で姉の言い方に堪忍袋の緒が切れた綾香は、言ってはいけない一言を口に出してしまう。自分でも言い過ぎたと口元を覆うが、アルカはその一言で酷く傷つき、表情を無くしていた。 

 

「もう……絶対、許さない」

「クッ」 

「術式追加。対象、黒魔術。参考封印指定【脆月】。崩れる都」

「え、うそ!?」

 

愛歌が魔眼で視認した物体を崩壊させる魔術が、綾香の攻撃手段である薔薇が朽ちて行く。魔力で再び制作するも、愛歌の視線内で生半可な礼装や魔術は腐敗していくのだ。完全に勝負ありとなり、綾香目掛けて黒鍵が投擲される。

 それを横に転がって回避するが、地面に突き刺さる威力を見て姉が殺すつもりだと感じた。

 

「さぁ、お得意の黒魔術は使えなくなったわね。安心しなさい、人の解体が得意な知識を内包しているの。死なない程度に甚振ってあげる」

 

 綾香が攻撃を封じられたせいで、一方的な展開へと変わる。そして、怒りに身を任せて残虐な人格を利用して、相手を甚振り始める愛歌。次々に黒鍵を投げて、机の陰に隠れた綾香を恐怖で追いこんでいく。もう戦いたくない、戦いから逃げたいと綾香が言えば、アルカも止めるつもりだった。

 すでに魔術を封じた事で、綾香に抵抗する手段はないのだ。なら、素直に逃げればいい、そうすれば愛歌は綾香を護るだけでいい。後で自分もやり過ぎたと謝るし、聖杯戦争が終わってから彼女の望みをなんでも叶えたっていい。 

だが負けず嫌いの綾香が一度始めた勝負を投げ出す筈がない。少しでも姉に一矢報いる方法を考える。

 

「舐めないで!」

「っ(体が動かない!?)」

 

 机が砕ける前に飛び出した綾香。その脚を狙って黒鍵を投げようとした時、綾香の七色の瞳で睨まれ、体が硬直する。黒魔術かと思い、魔眼で解析を始める。そして、愛歌が度肝を抜かれる事になった。

 

(封印魔術、時の鎖牢!?)

 

 それは、アルカが得意とする視覚系の魔術であり、彼女の中に内包されていた封印指定の魔術師の知識から、取り出す見た相手の動きを固定する魔術。それは呪術にも近い性質で、通常の対魔力では防げない。

 問題は、アルカの中に内包された魔術を綾香が使用した事だ。当然、その魔術に対する対応策も、アルカの内包する封印指定『無視』の魔術で強引に突破する。身動きが取れるようになった愛歌だが、その隙に綾香が両サイドにある本棚の本に魔力を注ぎ始める。

 それに対し、アルカも周囲の花瓶などを視覚で治め、魔力を注ぎ始める。

 

「標的指定、ベクトル付与。参考封印指定【流星】。流転の星・穿て!」

「標的指定、ベクトル付与。参考封印指定【流星】。流転の星・穿て!」

 

 アルカは、綾香の浸かった自分と同じ魔術に驚愕した。互いに相手を指定した本と花瓶は、空中で衝突しながら魔力による爆発を起こす。他人の魔術を模範するアルカの特技は、どう言う訳か綾香までも習得している。

 

「どう言うこと。何故、あなたが私の内包魔術を」

「わかんない。けど、頭に浮かぶ勝利のパターンを実践しているだけ」

 

 アルカは、内心歯噛みした。今までも綾香の目が、自分と同じ魔眼の色を発する事はあった。だが、それは一時的な物だった。アルカの魔眼を綾香の魔力では使用できないからだ。だが、アルカの魔眼のオリジナルを持つ綾香は、現在魔力量が増大している。

 そうなると、綾香は問題なく魔眼を使用できる事になる。”ある事件”から既にアルカから離れたとはいえ、綾香の持つのは、何年もアルカを支えた魔眼。その繋がりは、決して切れる物ではなく、繋がりを通してアルカの内包する知識に接続されているのだ。

 

「time alter-double accel!」

 

 魔術の応酬では、勝負がつかないと踏み、固有時制御で距離を詰める愛歌。対する綾香は、七色の魔眼で姉の使用した魔術を解析する。フィードバックがあるため、霊体化などで副作用を抑制できない綾香は使えない。

 

「参考封印指定【鏡面】。反射魔術、鏡像の反射」

 

 掌を八極拳の肘撃を繰り出さんとする姉に向ける。大量の魔力を消費したそれは、掌から全ての光を反射する鏡が発生する。その鏡は愛歌も魔眼で性質を読みとった。

 鏡に対して攻撃すれば、本人にフィードバックされる呪殺の魔術。だが、魔術を読みとれる愛歌(アルカ)相手に、カウンターが成立する筈がないのだ。すぐに霊体化しながら、背後に回り込もうとする。

 

「私だって、私だって!」

「綾香!」

 

 背後に回り込んだアルカを読んでいたように、背後目掛けて綾香が掌から炎を滾らせ、彼女へと向ける。もう回避も出来ないアルカは、先に技を繰り出そうと掌底を伸ばす。姉妹喧嘩の域を越え、互いに怒りと意地で繰り出した技だったが。

 

『そこまで』

「キャッ」

「クッ」

 

 明らかに限度を超えた2人の間に、誰よりも早く割り込んだアンが、両者の頭部に裏拳を入れ、2人の体を壁まで飛ばす。全く警戒していないアンの介入に、対処できない2人は殴られた頭部と背中を強打したことで悶絶する。

 

『姉妹喧嘩は、止めない決まり。けど、今のは殺し合い。そんなの私が許さない』

「アン、邪魔しないで! 綾香が悪いんだから」

 

 怒りが収まらないアルカが、アンに噛みつくが非常に優しい笑みを向けたままアンは、アルカの胸倉を掴んで本棚に押し当てる。疑似とはいえアンは英霊。人間のアルカにアンの腕力に抵抗する術はないのだ。

 

『いい加減にしなさい。頭を冷やしなさい、さもなくば全てを失うことになる。綾香もよ』

「私は……」

『綾香! それにアルカ!』

 

 2人を嗜めようとしたアンだが、綾香が泣きながら家を飛び出してしまう。そしてアルカも、涙を拭いながら自室の扉へ走って行ってしまう。部屋に閉じこもったアルカは、誰もいない部屋で誰にも憚らずに号泣する。

 

「綾香は僕が連れ戻すよ」

「悪いが頼む。ここまで拗れると思って無かった。何かあれば無線使え」

「あぁ」

 

 そして、勢いで家を飛び出してしまった綾香。彼女の姿を見た、セイバー(アルトリウス)がブレイカーから車を借りて追いかけた。

 

 沙条姉妹の間に深い溝を作った姉妹喧嘩は、2人の工房を半壊させるほど苛烈で悲惨な物だった。

 

 

 

 




 今回は激しい身内での戦闘でしたね。綾香とアルカの目が魔眼になっているのは理由があります。後々過去話とかで出るかな。

 今回、戦闘の結果、アルカと綾香は引き分けになりましたが。綾香がアルカの魔術を引き出せても総合力でアルカ>綾香になります。今回はアルカが冷静さを失った結果ですね。
 
 型月名物、姉妹は殺し合うもの。

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