Fate/make.of.install   作:ドラギオン

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アインツベルン城

次の日、沙条姉妹は学校を休んだ。昨日の慎二が起こした事件のせいで、何名かが入院する事態になった。

警察や消防の操作の結果、冬木で多発するガス漏れという扱いになり、翌日の学校は休む人間も多かった。

 

昨日は疲れただろうとサーヴァント達の気遣いで、お昼前まで寝坊した姉妹。二人とも目覚ましを見て、大慌てでリビングに入ったときは、寝癖と慌てた表情で3名のサーヴァントに笑われて拗ねていた。

 

「いい加減、機嫌を直しては貰えないかな? 綾香に愛歌」

「……ふん、皆して笑うことないと思う」

「……ゆるさない」

 

二人して拗ねてしまった姉妹。セイバーが二人を宥めようとするが、頑固と言えば頑固な二人は、取り合わない。

ブレイカーは、仕事に出るとタクシーに乗って出掛けた。

 

『もう……セイバーさん放っておいていいですよ。後一時間もすれば、機嫌治りますから』

「う、うん」

 

拗ねながら昼食を食べた二人は、姉妹喧嘩に慣れている長女アンの言葉通り、滅多に見れない昼ドラを見ていたら機嫌が治っていた。なぜドロドロの愛憎劇、それも姉妹が一人の男を挟んだ何年にも及ぶ戦いで機嫌が直るか分からなかった。

 

「不思議だね。そして、何故か罪悪感が沸くのは何故だろう」

『あの二人結構ドラマ好きですからね。生前の行いとか?』

「いや、そんなことはなかった筈なんだけど。むしろ妻を取られたのは僕だし、あ、落ち込む」

 

 無駄に落ち込み始めたセイバー。アンもアーサー王の伝承を知っているが故に、僅かに困っていた。なんと声をかけるべきなのかわからなかったアンは、彼を放置するに至った。何故なら彼の過去は、昼ドラよりもドロドロしているのだから。

 そして、机で向き合う愛歌と綾香は、真剣な目で語り合う。

 

「今日は日が暮れる間に、冬木の郊外に向かうわ」

「バーサーカーを倒すんだよね?」

「……ん」

「殺すの?」

 

 英霊であって人間だった以上、綾香にはやはり抵抗があった。柳洞寺のキャスターの姿を見る限り、どう見ても人間と見分けがつかなかったからだ。

 

「そう、殺すの。たとえ、綾香が拒否しても私は手段を変えるつもりはない」

「……それでも、聞いてくれるんだねお姉ちゃん」

「私は、綾香のためなら聖杯戦争の参加者全員を皆殺しにだってする。けど、それは避けたいの」

 

 改めて突きつけられる魔術師の生き方、自分のような中途半端ではなく、魔術に身を任せた姉の考え。この身震いは何なのだろう。この姉に恐怖しているのか、それとも姉の力が自分にむけられると怖いのかわからない。自分の手を握り締めながら、姉の七色の目と向かい合う。

 

「最悪、残った陣営全てと争う事になるけど、だからこそ先手必勝」

「どうにもならないの?」

 

 愛歌は、綾香の質問に沈黙という回答をした。これ以上は話したくないと愛歌は、自室に篭ってしまった。何故なら、アルカが狙うのはバーサーカーではなく、そのマスターなのだから。

 

 放置された綾香は、どうすればいいのか分からない。そんな綾香を見かねたアンが、コーヒーの入ったカップを差し出す。

 

「お姉ちゃんは……強いな」

『愛歌は、いつも必死だからね。それが心配なんだけどね』

「アンお姉ちゃんも、殺すことに抵抗はないの?」

 

 突然の質問で、アンは考えた。なんと答えるのが正解なのだろうと。

 

『私はアサシンの英霊なのは知ってるよね?』

「この前聞いた」

『そうね、私自身が人を殺したことはないの。けれど、他の人格は与えられた指名を着実にこなしていたわ。そこに罪悪感はなく、そうしなければいけないからしていた。でも、こうして平穏を知ってしまうと、私たちの行いは間違いだったんじゃないかと感じる』

「え」

『時代が違えば、場所も違う。人其々なの、だから無理に魔術師にならなくていいと私は思う。人を殺したくない。それは貴方の甘さでもあって、尊重すべき長所だと私は思うよ』

 

 アンは、愛歌の否定も肯定もしなかった。アサシンである彼女の持つ記憶と経験から、命とはとても軽いものだと認識している。だが10年の時を過ごし、アルカに救われた時、彼女の中で命に対する価値観には革命が起こったのだから。命の問題など、英霊にも人間にも答えなど出せない。それこそ、黄金のアーチャーのような存在でない限りは。

 

「そっか」

『けど、自分の命を大切にしないのは、間違いだよ』

「うん」

 

 アンとの会話で少しは、気が晴れたのか出発の時間まで工房で準備をすると走っていく。残った空のカップを回収し、台所の炊事場で洗い物をするアン。姉妹たちの会話を聞いていたセイバーは、危ういバランスだと感じた。

 

ーーーーーーー

 

「それで、準備はいいのか?」  

「ん」

「あ、うん」

『良いですよ』

「護衛は任せてくれ」

 

 仕事から帰ってきたブレイカーの合図に、綾香たちは答える。今回のアインツベルン城攻略は、車二台での作戦となる。先鋒にブレイカーと愛歌のペア。後方に連絡役もかねてアンと綾香とセイバーとなった。そして、ブレイカーの運転する外車の後に続いて、セイバーの運転する外車が発進する。

 

 助手席で不安そうに座る綾香の肩に、セイバーが手を置く。

 

「大丈夫、僕が必ず君を守り抜く」 

「あ、ありがとう」 

 

 爽やかな笑みで平然と言ってのけるセイバー。己の力に自信があり、騎士として破るわけには行かない誓いを立てる。男性に耐性のない綾香は、頬を真っ赤に染めて視線をそらす。そして、後部座席に座っていたアンは、綾香にばれないように、セイバーの首元にナイフをむける。その動作は、殺気すらなくごく自然の反射によるものだった。

 

『安全運転でお願いしますね。寄り道なんて、許しませんよ?』

「あ、あぁ。任せてくれ(直感が働かないなんて)」

 

 ダラダラと冷や汗を掻きながらも、セイバーは運転に集中した。そしてアンもナイフを仕舞い、腰掛る。だが、警戒の目は一切絶やすことなかった。

 

(アルカ、標的は油断も隙もないよ) 

(目を光らせておいて、事が終わったら始末する)

(お前ら、アンをそっちに置いたのはそういう魂胆か)

(野獣は、去勢しないといけないんです。綾香は男性に慣れてないんです、油断したらペロリと)

(ん。油断ならない)

(なんか悲しくなってきた。今だけライン切らない?)

 

 アンとアルカとブレイカーは、念話でそんな会話を続けていた。アンとアルカは、セイバーの戦力と人格を信頼したが、綾香を狙う狼だと認識している。実際ブレイカーから見ても、綾香に好意を持っているのは明白なため、止めることも出来ない。セイバーの気持ちも分かるが、綾香に対しては親心もあるゆえ複雑なのだ。

 

 

 そんな馬鹿な会話をしながら、冬木の郊外までたどり着く。速度を落として綾香の魔力の様子を見たが、アインツベルンの城までなら、平気らしいことがわかった。

 そして、5分後に来るように告げたブレイカーと愛歌(アルカ)が一足早くアインツベルンの森に侵入した。

 

 

ーーーー

 

 

「お嬢様、森に侵入者のようです」

「わかっているわ。今、結界を強引に破られたもの」

「イリヤ、どうする?」

 

 自室で優雅に紅茶をたしなむ銀髪と赤目の少女は、森の結界に侵入者が訪れたと知らせに来たアインツベルンのメイドでありホムンクルスのセラとリズが訪れる。だがすでに結界へ侵入した存在を感知していたイリヤは、片手で遠見の水晶を使用する。そこに写っていたのは、アインツベルンの結界を物ともせず、全速力で駆け抜けるベルベットの女とバーサーカーを対術で殺した英霊。

 罠を掻い潜り、一歩も止まることなく城へと向かってくる女。 

 

「すぐに来ると思っていたのに、待ちくたびれたわ。セラ、リズ……客人を迎えるわ。それにバーサーカー、今度こそあいつを殺しなさい」

「畏まりました」

「りょうかい」

「■■■■!」

 

 すでに侵入者は、森の中盤までたどり着いている。罠も効果がないのでは、迎え撃つしかないとセラも理解した。そしてイリヤの背後に現界したバーサーカーも、理性がないとは思えないほど、水晶に写るブレイカーに敵意を燃やしていた。

 そして一番、アルカに敵意を向けるのは、恥を掻かされたイリヤなのだ。元々アハト翁から忠告を受けていたが、最強のマスターである自分をマスターだけで追い込んだ女は許せなかった。

 

「あの女だけは、殺すわ」

 

 すでにアルカを殺す準備は出来ている。だからこそ、ここ数日間アインツベルンの城に留まったのだから。

 

 

 

ーーーー

 

「歓迎ムード、じゃないな」

「ん。当然」

 

 そして、アインツベルン城まで自力で辿り着いたアルカとブレイカー。前に訪れたのは、10年前だが何も変わっていなかった。

 そして、現在彼らの前には、斧剣を構えたバーサーカー、巨大なハルバードを構えたホムンクルス、そして魔術式の描かれた手袋をするホムンクルス。そして最初から鳥型の使い魔を20匹近く侍らせたイリヤスフィールがいた。相手が完全に戦闘態勢で待ち構えている状況は、ブレイカーも面倒に感じた。

 

「いらっしゃいロードエルメロイの刺客さん」

「お招きに預かるわイリヤスフィール。後私は、アルカ」

「そう、アルカ。もうすぐ死ぬ人の名前なんてどうでも良いのだけど、特別に覚えておいてあげる。貴方は大切なお客様だもの、アインツベルンの全身全霊を持って御持て成しするわ」

「ん。楽しみ」

 

 ひどく毒素の多い会話である。嫌味を言うイリヤと嫌味を真に受けるアルカ。どう考えても相性が悪すぎる。イリヤがキレて先頭を始めていないのが不思議なほどである。

 

「バーサーカーは俺担当だが、相手は3人。いや使い魔をあわせて23だぞ?」

「流石に以前と同じようにはやらせてくれないみたい。だから、『月霊髄液』を使うのよ」

 

 イリヤたちと戦力差を考慮した結果、アルカは黒いコートの内側に備え付けられた水銀の入った試験管を10本ほど頭上に投げた。

 

「Fervor,mei Sanguis(沸き立て、我が血潮)」

 

 アルカの詠唱に答えるように、水銀の入った試験管が破裂する。そして10個の人サイズな水銀の球体が、意思を持ったように動き始める。液体その物が生きているように動くそれに、イリヤたちも警戒する。皮肉にもこの礼装は、アインツベルンの城を破壊した過去を持つ代物。この場所で使う事こそ相応しい。

 

「多いな」

「義父(ケイネス)さんに、以前お願いしていたレシピから作ったの。私一人じゃ英霊は相手に出来ないから、代わりにね」

 

 その数の多さは、事情を知らないブレイカーも驚かせた。魔術師としての後見人である前回の聖杯戦争の生き残り、初代ロードエルメロイから授かったレシピを元にアルカが改造した特性の月霊髄液である。

 

「さぁイリヤスフィール。はじめる?」

 

 周囲を水銀の礼装で制圧しそうなアルカ。彼女は、開幕の宣言はイリヤに譲ると挑発する。それに対してイリヤは、厄介だと感じつつも、負ける気は毛頭なかった。

 

「えぇ。やっちゃえバーサーカー!」

「お願いブレイカー」

 

 マスターの指示に従い、バーサーカーとブレイカーが、全身から魔力をほとばしらせ対決する。

 

「■■」

「死ぬなよマスター!」

 

 振り下ろされた斧剣を横に回避したブレイカーが、バーサーカーの顔面を狙って拳を突き出すも、それを片手で受け止められ、逆に地面に叩き付けられる。内臓が悲鳴を上げ、骨がきしむ。だが、足を狙って蹴りを放てば、巨体からは考えられない素早さで回避する。バーサーカーが下がったことで、ブリッジから起き上がったブレイカーが距離を詰めるため前に飛び出す。

 前に飛び出したブレイカーを叩き潰さんと斧剣が振り落ろされ、地面が我めくれ上がった地割れがブレイカーを襲う。

 

「オラ!」

 

 迫りくる地割れの瓦礫を両腕を高速で動かした連続パンチが、打ち砕いて行く。一発の重さで負けている今、数こそが勝負の決め手だった。しかし、瓦礫全てを拳で破壊した時、目の前にいる筈のバーサーカーの巨体が無かった。

 

「上か」

「■■■■■!!」

 

 地割れは、目くらましであり真上からの全体重とバネを利用した叩き落しだった。既に足を止めたブレイカーに回避は不可能。彼に出来たのは、全身に強化を掛け続けた膂力で白刃取りする事だった。斧剣の刃の無い部分を両腕で受け止めた時、ブレイカーを中心にクレーターが出来、全身の筋繊維が千切れそうになる。そもそも、バーサーカーの一撃を腕力で受け止めようと言うのが間違いだった。

 両腕の骨は折れ、足の骨が砕ける。それでもなお、治癒能力の強化と筋力の強化でバーサーカーの攻撃を凌ぎきった。

 

「■■! ■■!!」

「今度はこっちからだ!」

 

 一撃を止められたバーサーカーがやみくもに、それで居ながら高速で斧剣を振りまわす。それらを開始したブレイカーはバーサーカーの背後に回り込み、腰を腕で締めあげながら、ジャーマンスープレックスを御見舞した。実戦でそれを使用する、さらに人間離れした巨体のバーサーカーにプロレス技を決めるには、怪物じみた膂力と技術が必要。

 そして、既に破壊の刻印が発動したブレイカーの攻撃は、Aランク相当の破壊力を有する。さらに受け身を取り難いように捻りを織り交ぜた事で、地面へと衝突したバーサーカーの首がへし折れる。そして、力を失ったバーサーカーから瞬時に離れたブレイカー。

 

「どうせ、生き返るんだろ。文字通り骨折り損だな」

「……■! ■■■■ーーー!!」

 

 ブレイカーの推察通り、首がへし折れてもすぐに起き上り始めた英霊。とはいえ、完全な再生はブレイカーの破壊スキルで妨害されているのか、首の角度が若干ずれていた。ブレイカーも骨が何箇所か折れており、無茶な動きで余計にダメージを負ってしまっている。どうやってもバーサーカー相手に無傷で戦う手段がない。

 宝具を使う手段もあるが、魔力供給主であるマスターが、サーヴァントより魔力を使うタイプなのだから、迂闊に使えない。

 

「後12回も殺さなきゃいけないのか。まぁ、人体を破壊する手段なんて、100以上の手段がある。それはお前も例外じゃないよなバーサーカー」

 

 

ーーーーーー

 

 

「自律防御を容易く突破される、か」 

「貴方、イリヤ傷つける。排除、する」

 

 10個の水銀の球体が、アルカの魔力を用いてイリヤの使い魔を斬撃で攪乱する。鳥型の使い魔が自由自在に飛び回り、360度あらゆる角度からの魔力弾を放つ。その魔力弾を自立防御で水銀が完全に防ぐ。防御に5個の月霊髄液が割かれ、残る5個の月霊髄液が10年前のアンが死亡した時に見せた、暴走状態(鎌を二本持った怪物)の姿で自由自在に使い魔を迎撃する。

 だが、ハルバードを持ったホムンクルスの膂力と重量は、自立防御を突破し、アルカに有効打を与えてくる。防御を突破されるのでは、引き籠って戦う事も出来ない。

 

「そして、少しでも隙を見せれば、time alter-double accel」

「ち、リズ。もう一度!」

「はーい」

 

 戦闘型のホムンクルスが、月霊髄液の防御を突破、たまらずぬげ出せばその隙をもう一体のホムンクルスが操作する針金で編まれた剣が狙い撃ちしてくる。アルカは、それを”衛宮切嗣”の固有時制御で回避しながら、黒鍵を投擲する。狙いは、3名同時にだが鳥型の使い魔の魔力弾がそれらを弾く。

 単純にチームワークで攻められ、アルカ自身も攻めにくいと感じていた。既に5匹の月霊髄液(offense)が使い魔達を何羽も落しているが、そのたびにアインツベルンの城から使い魔が飛んでくる。

 

(ホムンクルスを作らせたらアインツベルンは最強。恐らく城の工房で自動で作成されている)

 

 アインツベルンの城自体が鳥型ホムンクルス製造プラントになっているのだ。そして、それらの操作を籠手を付けたホムンクルスが補助、イリヤが操作を担当してるらしい。イリヤの魔術は、アルカでも完全に読み取ることが出来ない。過程が無く、現象自体が発生しているため解析しても、そう言う魔術だとしか理解出来ないのだ。

 

「魔術師狩りさん、アインツベルンのおもてなしは気に入っていただけたかしら?」

「ん。正直びっくりしてる」

 

 防御力でハルバードのホムンクルスを止められないアルカ。両手にキャリコを持って弾丸をばらまくが、鳥型の使い魔が盾へと変形し、攻撃を凌ぐ。そして、凌がれている間に他の使い魔が向かってくる。月霊髄液の攻撃で破壊する数を、生産される数が上回っている。

 圧倒的な物量作戦で押してくるアインツベルンに、アルカは少し苦戦していた。アルカの礼装10に対し、相手は40近い数の使い魔が居る。さらにアインツベルンの城の迎撃魔術のようなものが、援護射撃のようにアルカを襲うため、月霊髄液を攻撃に回しきることが出来ない。攻撃と防御の両立が出来ない事が弱点だった。

 

 せめてハルバードのホムンクルスだけでも倒せれば結果は違う。だが、360度からの攻撃と全員が死角に回るように配置される事で、見えない位置での魔術行使を許してしまう。アルカに弱点があるとすれば、人間の視野しか持って居ない事である。たとえ、相手の魔術を全て見切れる目を持って居ても、背後からの攻撃は見ることが出来ないのだ。

 

 魔力弾の雨に晒され、追い込まれているのはアルカだった。 

 

(ここは)

 

 自分の周囲を自律防御の膜で覆いかくし、その瞬間をねらって霊体化する。そして、ハルバードで突っ込んで来た時、自律防御を攻撃に切り替えハルバードのホムンクルスを殺そうとした。

 

「今です!」

「あ」

 

 身体を霊体化させた瞬間、籠手を付けたホムンクルスが地面に手を置き、アインツベルン城の結界を作動させる。それは、針金を用いた対霊体用の捕縛結界だった。完全に無防備の状態で、針金に全身を拘束されてしまったアルカ。

 

「ふふ、私の前で霊体化出来る姿を見せるからよ。それを待ってたの」

(動けない)

 

 ギリギリとアルカの肢体を締め上げて行く針金の網。全身に喰い込んで、生半可な力では脱出できない。そして、10個の月霊髄液は、50近い鳥型使い魔の魔術砲弾を浴びて、再生が追いついていない。

 

「命乞いならしてもいいわよ」

「お譲さま」

「いいじゃない、こいつはこうして捕まえたんだし、後はバーサーカーがサーヴァントを殺して終わり」

「イリヤ、勝った」

 

 イリヤスフィールが勝利を確信した時、アルカはとても優しい目で微笑んでいた事を彼女達は気が付いていないのだ。

 

「魔術師同士の戦いは、貴方が上手。だから、衛宮切嗣の魔術師殺しの戦い方に切り替えさせてもらうわ」

「切嗣? 貴方何を言って」

「ガ、イリヤ」

「リーゼリット!」

 

 完全に油断した時、ハルバードを持ったホムンクルスの腹部に水銀の刃が突き刺さる。耐久力が高い戦闘用とはいえ、背後から音も無く忍び寄ったアンの一撃は防げない。腹部を貫通した刃のせいで口から血を吐きだす。だが、一撃ではくたばらない彼女は、背後にいるアンに蹴りを放つ。

 しかし、蹴りを回避した仮面を装着済みのアンは、瞬時に両腕を刃に変えてハルバードを持ったホムンクルスを切り裂く。

 

「がふ」

「リーゼリット、きゃ!」

 

リーゼリットが殺られたなら、先にアルカを殺そうとした籠手のホムンクルスだったが、眼の前には拘束から解放されたアルカ。

セラは自由の身となった彼女に震脚の力を加えた掌底を喰らい、内臓が幾つか破壊され、壁まで吹き飛ばされる。

 

「セラ! なんで、なんで拘束を」

「上を見なさい」

「む、虫!? まさか間桐の」

「ん。翅刃虫。とはいえ、これは聖杯の泥で作った模造品」

 

 セラが倒れ、拘束を逃れたアルカが不可解だったイリヤだが、アインツベルン城から延びていた針金の結界を、鋭い牙を持った翅刃虫の大群が食い千切っていたのだ。

 

『遅れてごめんアルカ』

「ん。ありがとう……そのホムンクルスをお願い」

『了解』

 

「私は、一人だって負けないんだから‼」

イリヤは劣性に追い込まれたことで、激怒しながら魔術を行使する。恐らく使い魔を更に製造する気なのだろうが、アルカはそれを許さない。

指を弾いて、上空で待機させていた翅刃虫(偽)の群れに所持させていた手榴弾を投下させた。

その小規模空爆は、アルカの魔眼で最も魔力が濃いと判断したアインツベルン城の工房をピンポイントで爆撃した。

 

城が揺れ、ガラスは衝撃波で砕け散る。そして、アルカが狙った通り、アルカ対策で用意された簡易ホムンクルス製造プラントは、瓦礫と炎に包まれた。

数が増えなくなった使い魔を、10機のオフェンスに設定された月霊髄液が、オートで破壊していく。次々にイリヤを守る使い魔が散って行く。

 

「こ、こんなの魔術師の戦いじゃない」

「ん。魔術師の戦いじゃない。これは貴方のお父さんの知識を利用して考えた作戦。魔術師殺し、衛宮切嗣の力ね」

「貴方は何なの」

 

イリヤはアルカが恐ろしかった。何故この女が衛宮切嗣を語るのか、そしてアハト翁から聞いた切嗣の悪名と行いが、彼女の行動と被る。工房を爆撃し、手段を選ばず魔術師らしからぬ方法で魔術師を狩る姿。

 

「私は、10年前のマスター達の記憶と技術を取り込んだマスター。貴方のお父さんの記憶と人格は私の中に内包されてるの。私は、衛宮切嗣であり、アルカ・ベルベットである存在」

 

10年前、聖杯の泥を取り込んだ際に、彼女は聖杯に回収された使用済み令呪に残った魂の欠片をインストールした。それは、死んだマスター達の記憶であり、人格を孕んでいた。

衛宮切嗣と言峰綺礼は、生存していたが泥に飲み込まれた際に彼らの情報も取り込んでしまったのだ。

 

目の前の女が切嗣でもあると言われ、納得なんて出来ないイリヤ。

 

「認めない。私は最強のマスターなんだから! バーサーうぐ」

「後は貴方だけ、さようならイリヤスフィール」

 

掌から泥で精製したコンテンダーを構え、バーサーカーを令呪で呼ぼうとしたあイリヤの口を手で押さえ、こめかみに銃口を向ける。

 

(いや、助けて)

 

 

そして、無慈悲にも引き金が引かれた。

 




 2人が見て居たドラマ……思い当たる節が多すぎる。そして、アルカVSイリヤの二回戦でしたね。

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