Fate/make.of.install   作:ドラギオン

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支え

 綾香を連れ帰った愛歌達。綾香は案の定熱を出して寝込んでしまう。キャスターの例もあるため、戦力の分散を避けるしかなく、その日の夜は愛歌達も工房での防衛しかできなかった。愛歌とアンが交代で綾香の看病をしていた。

 

 そして、綾香の部屋の扉をノックする音が聞こえる。

 

「だれ?」 

「僕だ。綾香の容体は?」

 

 扉越しにセイバーがマスターである綾香の病状を窺う。綾香が熱を出したのは、二日続けてのセイバー(アルトリウス)の戦闘のせいだとセイバー自身も自覚していた。

 セイバー(アルトリウス)は相当強い英霊である。だが、その強さに応じて魔力の消費も激しいのだ。故に、本来なら綾香の魔力量ではセイバー(アルトリウス)の性能を引き出せない。しかし、胸に浮んだ令呪のせいで竜脈と繋がった彼女は、その魔力量を竜脈から引き出す。だからこそ、平凡だった魔術回路が無理を強いられる事になるのだ。

  

「免疫力が少し低下してる。でも薬草と治癒で明日には完治するわ」

「よかった」

「ただ、聖杯戦争が長引く事は避けないといけない。今は風邪で済んでも、次はどうなるかわからない。明日、バーサーカーを始末しに行くわ」

 

 セイバーはバーサーカーと対峙した事がないため、どんな相手かわからない。だが、ブレイカーと互角の肉弾戦が出来る巨人だと言われ、恐ろしく強大な敵であると認識した。そして、綾香の部屋から出てきた愛歌は、リビングのソファーに腰掛けながら、セイバーと今後の予定を話しあった。

 

「既にライダーは消滅したと考えて、警戒対象はバーサーカーね。衛宮君のセイバーは、以前戦闘した事がある。そしてアナタが居るのだから、負ける事はない」

「あの少年か、それにあのセイバーの事も知っているんだね」

 

 セイバーは、柳洞寺ですれ違い、学校で共闘したセイバーを思い浮かべていた。彼女の正体に心当たりはあるが確証がなかった。

 

「彼女は10年前にもセイバーとして召喚された英霊。騎士王と名乗っていたわ。ただ、彼女は10年前に消滅しているため新たに召喚されたと考えるべき」

「やはり、か。彼女と僕は、同質の存在と言う訳だね」

「ん。彼女は女でありながらアーサーとなった存在、貴方はアーサー王という伝承が具現化した存在。どちらが本物かはわからない、むしろどちらも本物」

 

 もしや自分が偽物ではないのかと悩んでいた。そんな彼の肩に手を置き、首を振るう愛歌。決して彼は偽物ではない、少なからず綾香のために戦うと誓った騎士は、その誓いと思いは偽物ではないのだ。

 

(少なからず、私とは違う)

 

「そう言って貰えて助かるよ。明日も朝は早いのだから、君ももう休むと良い」

「また攻めてくるかもしれない。だからまだ、眠れない」

 

 セイバーが愛歌の身を案じた言葉を掛ければ、愛歌が首を振って拒否する。それは強がりと、何かに怯えるようだった。

 

「無理をしない方がいい、君は少し気を張り過ぎている。そのままじゃ君の方が先に持たなくなる」

「……駄目。私が頑張らなきゃ、綾香が危ない」

 

 どうしても休まないと言う綾香に、セイバーは異常さを感じる。何故この少女は其処まで、自分を犠牲にしようとするのかと。妹を大切に思うのは理解できる、だがこの少女は綾香の死を自分の死よりも恐れている節がある。それは愛を越え既に呪いの域に達している。

 その異常さをセイバーは危険だとも感じる。今でこそ善に傾いているが、少しでも運命が違えば愛歌は、とんでもない怪物になる性質を持っている。それがどんな理由であれ、護る事と戦う事の意味が逆転した時、愛歌は英霊達が破れてきた存在や、悪と呼ばれる存在となるだろう。

 

『アルカ。セイバーさんの言う通り、休みべき』

「アン」

「忘れるなマスター。お前が綾香を案じるように、お前を案じている物も大勢いるんだ」

 

 リビングで会話を聞いたブレイカーとアンがアルカを宥める。彼等の目にもマスターであり家族の彼女は、痛々しいまでに気を張っているのだ。そして説得のためにブレイカーが懐から出した手紙を彼女に投げる。それをパシッと受け止めたアルカは、手紙の差出人の名前を見て驚く。

 

「これって」

「あぁ、お前の愛してやまないウェイバーからだ」

 

 手紙を握りしめたアルカが、少しだけ救われた表情をする。それは張り詰めた緊張感を持った魔術師の顔ではなく、純粋に恋をした乙女の顔だった。

 

「今日はそれを読んで寝ろ。たとえ冬木にいる全戦力が攻めてこようが、お前達の眠りは妨げさせない。信用しろ」

「……ん。お願い。セイバー、アン、ブレイカー……ありがとう」

「どう致しまして」

『おやすみアルカ』

 

 手紙を持ちながら、説得されて部屋に帰ったアルカ。それを見送った3人だが、アンがウェイバーからの手紙と聞いてブレイカーに詰め寄る。

 

『手紙って、どうやって連絡を取ったんです? アルカも何度も連絡を取ろうとして、そのたびに邪魔されていたのに』

 

 それは、アンとアルカしか知らない事実だった。聖杯戦争の開幕を事前に察知できなかったアルカ達は、時計塔のウェイバーに連絡を取ろうとした。しかし、連絡用の魔術礼装は何かに阻まれ、電話ですら通じない。完全に情報統制された事で、アルカが策も無しに聖杯戦争を戦う羽目になっていたのだ。

 もし彼がこの事態を察していれば、すぐにでも策を与えてくれただろう。しかし、音信不通のまま、アルカは自分の神経を削る羽目になっていた。そんな中でブレイカーの手に入れた手紙はどれほど彼女の心の支えになる事だろうか。

 

「昼間は仕事してるからな、金ぴかのお得意様に、送り主に自動で届く手紙を強請った」

『あの人、今回も参戦するんですか? 神父も』

「なんか企んでいると笑いながら言ってたな。10年来の決着も近いと思えよって言われてる。まぁ金ぴかは、アルカには手を出さないそうだ。やるんなら俺とだ」

 

 この冬木で10年間の付き合いのあるブレイカーとギルガメッシュ。彼から宝具(手紙)を強請ってきたというブレイカーにアンは驚きと呆れが同時に来る。アルカもそうだが、ブレイカーも相当命知らずであると。

 

「誰の話をしているんだい?」

「誰でもないよ。とんでもなく面倒で気前のいい男の話だ」

 

 セイバーは頭の上にはてなを浮かべ、これ以上は情報は出てこないと判断した。

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 自室に帰ったアルカは、ウェイバーから届けられた手紙を開いて読んでいた。

 

『アルカ、ブレイカーから話は聞いた。どうやら、時計塔の保守派が、私への情報統制をおこなっていたようだ。

 そして綾香の令呪の事なども知らせられた故、時計塔の資料を全て漁っているが該当する記述はない。本来であれば、私もすぐ駆け付けたいが、保守派の奴らの妨害で、そちらに行くことが出来ない。

 

 だから時間を稼ぐんだ。情報を一から仕入れ、今起こっている事態を洗い直せ。どうもこの聖杯戦争には、第三者の思惑があるとしか思えない。その思惑に踊らされていると、必ず痛い目にあう筈だ。

 

 そしてアルカ、決して無理はするな。本当に限界が来た時、迷うことなく聖杯戦争を投げ出して逃げろ。10年と言う月日で行われると言う事は、我々大人の後始末を次の世代に押し付けただけの形になる、お前達が背負う必要はない。全ての後始末は、10年前の身勝手な大人であった私が付ける。そして、綾香の事も私が安全を保証する。どんな手段を使ってでも、綾香を死なせはしない。 

 

 だから、無理に戦う事はない。皆を護るために、お前を犠牲にする事だけは許さない。それを肝に銘じ、生きることだけを考えろ。

 私も、必ず駆け付けると約束する。お前には、帰る場所がある事を忘れないでくれ。私もお前達を愛しているのだから』

 

 そう記された手紙を読んだアルカは、涙が止まらなくなった。連絡が付かず、何処かで不安に胸が押しつぶされそうになった。ブレイカーやアン達が支えてくれ、勇気をもらった。そして、手紙の主は自分の事を、自分達の事をこんなにも案じてくれていると、胸に響くこの感情。それは愛であり恋であり、情報や記憶に縛られていたアルカの中で、最もいとおしい感情。

 戦う事しかできず、それでも家族のために戦える事に使命を感じていた彼女を、一人の人として見てくれるウェイバーの存在は、彼の心は、確かにアルカの中に希望を与えてくれた。 

                    

「ウェイバー、好き。ありがとうウェイバー」

 

 部屋の電気を消し、手紙を机の棚に大切に仕舞い込み、写真盾の中に入ったウェイバーとの写真を眺めた。

 

「うれしい……でもウェイバーが此方に来てはダメ。貴方は御三家に狙われてる……」

 

 

アルカは、彼の思いを受けて、彼に忠告通り戦う事とに決めた。だけど、ウェイバーを殺すと言ったイリヤだけは、殺さなければいけない。

それは綾香の前で見た目が10才程の少女を殺すことに他ならなかった。




 スマホで入力はしんどいですね。今回はエルメロイⅡ世は、手紙での登場ですね。執拗なまでにイリヤを追いこんでいく系主人公。


 追記 感想いただいた空蝉様。手違いで感想が消えてしまいました。大変申し訳ありません。

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