Fate/make.of.install   作:ドラギオン

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PC修理に出すのでスマホで執筆になりますね。ですので、不定期になると思います。


アルトの暗躍

 闇に消えた少女は、自身の背後でサーヴァントを召喚しご機嫌で何処かへ立ち去った慎二を見届けることなく、闇夜の中、森を歩いていた。

 闇の中でも映える七色の瞳で、冬木の街を見渡す少女。

 

「おい、怪物。我の庭で何をしている?」

「あら、ふふ」

 

 闇に飲まれるように瞬間移動を繰り返す少女、アルトに10本ほどの宝剣と宝槍が突き刺さる。全身串刺しにされたアルトは、攻撃を仕掛けた存在に首を動かして視線を向ける。彼女の視線の先には、言峰教会の十字架を足場に此方を見下ろすライダージャケットを着た金髪に赤目の青年が居た。

 彼は、背後の空間を歪め、黄金の輝きと共に宝具を待機させていた。

 

「誰の許しを得て、俺の庭を荒らす気だ。形容しがたい怪物が」

「そういえば、この土地には貴方が居たわね。前回のアーチャー、英雄王ギルガメッシュ」

 

 少女は串刺しにされた痛みを感じていないようで、平然と殺気を滾らせ明確な敵意を向ける10年前に受肉した英霊ギルガメッシュに微笑みかける。その美しい笑みは、見る物の心を奪うことだろう。英霊であっても、下位の存在であれば惑わされる程に曇りの無い笑み。

 だが、全ての財を治め、この世を背負う英雄王の目には、邪悪な怪物が人間のまねごとをしているようにしか映らなかった。

 

「その眼、恐怖王のマスターと同種か」

「失礼ね、天上天下全てにおいて頂点だと言う癖に、偽物と本物の区別もつかないの?」

「何? 我に対してその言いぐさ、一度殺すだけは許さんぞ、化生め」

 

 ギルガメッシュがアルカと彼女を同種の生物だと断定する。それに対して心外だと言わんばかりに、身体を起こすアルト。胴体をいくつもの宝具が串刺しにしているのに、彼女は動じない。むしろ傷口から血の代わりに漏れ出した泥がギルガメッシュの射出した宝具を汚し、己の体に引き摺りこむ。

 体積で言えば飲みこめる筈の無い宝具を、アルトは数秒で完食する。

 

「醜いだけで飽き足らず、我の財を喰らうとは、化生も此処に極まったな。貴様のような存在は、俺の庭の土を踏むことすら許さん、無様に散るが良い」

 

 宝具を飲みこまれたギルガメッシュは、アルトの存在を見抜いていた。それは存在してはいけないものだと。別に正義感などで彼女を排除するのではない、彼女はギルガメッシュの縄張りを荒らす外敵なのだ。それは、己で退治しなければいけない類の化け物。通常の英霊では、彼女を倒す事など不可能。人類悪の化身とも言える怪物が、少女の姿をしているだけなのだ。

 そして、受肉した事でこの世界の無駄に増えた人間に失望している英雄王だが、目の前の少女の形をした怪物は、人類の削減では止まらない。それこそ地球上の全ての使命を死滅させる類なのだ。  

 

 だからこそ、英雄王は彼女の痕跡を掴んだ時、柄にもなく自分から駆除しに来た。英雄王の指示通り30本もの宝具がアルトに発射される。黄金の輝きを放ちながら、必滅の魔弾となりアルトに向かって射出される。それらの宝具には、浄化や猛毒、更には再生阻害などの効果があった。先程の奇怪な力を見て、その宝具を選択したのだ。

 

 

「うふふ、容赦ないわね」

 

 次から次に少女の体を貫く宝具達、それぞれが少女の体を抉り、爆破し、毒や浄化で少女の存在を消し去ろうとする。そして、最後の一本がアルトの頭部を貫通する。しかし、地面に縫い付けられたアルトは、頭部に穴があきながらも死なない。

 死徒ですら殺しさるような宝具の連打を受けてもなお、彼女は不気味に笑い続ける。身体の半分を消し飛ばされたと言うのに、アルトは笑みを崩さない。

 

「不死殺しでも死なんか」

「うふふ」

 

 さらに傷口から漏れ出した泥は、浄化作用のある筈の宝具を汚染し尽くし、自分の中に取り込んでいく。その光景のおぞましい事、彼女の体からのびる触手が地に根を張るように、周囲の植物や地面に刺さった宝具を汚染していく。そして、墓に眠る本来は成仏した筈の死者の魂の名残を汚染していく。

 火葬しない外国人向けの墓地だったことが災いしたのか、周囲の死体が棺桶を突き破って、ぞろぞろと現れる。実に見難い光景だとギルガメッシュが宝具の数を増やし、墓場ごと全てを焼き払おうとする。だが、それより先に6本黒鍵が腐敗しながらも蘇った死者の体を貫通、概念礼装である黒鍵により浄化される。 

 

「神の家の前で、死者を蘇らせるとは感心しないな娘」

「あらら、神父さん」

 

 教会を吹き飛ばされてはかなわないと、現れたのは監督役である言峰綺礼。代行者であり、死徒を狩るプロフェッショナルである存在を前に、生半可なリビングデットなど紙にも等しい。ギルガメッシュと言峰綺礼、10年前の聖杯戦争の勝利者である2人が、アルトと向かい合う。

 

 現在ギルガメッシュは、背後の空間を歪め100本近い宝具を射出寸前で待機させていた。

 

「言峰。これは、お前でも手に余るぞ?」

「安心しろギルガメッシュ。手に負えない存在は既に慣れている」

「抜かせ」

 

 言峰も目の前の存在は許容できないらしい。言峰は、破綻者である。人の不幸や自分の不幸を喜び、醜いものを美しいと感じる。この世に地獄が広がろうとも、彼は笑っているだろう。だが、眼の前の少女がもたらすのは、地獄でも天国でもない、全ての終わりだろう。

 アルトと言う存在は、正義の味方はもちろん、悪にすら許容されないのだ。

 

「……うふふ、ここで貴方達を殺しても良いんだけど、貴方たちには、唯一邪魔な存在を倒して貰わないといけないのよ」

「怪物がこの我を利用するだと? 頭を使う怪物など、考えただけで滑稽だな」

 

 周囲を汚染しながら、泥の剣や槍を形成していく。それは取り込んだギルガメッシュの宝具が元となった彼女の礼装である。英霊でもない彼女が、平然とギルガメッシュと対峙する光景は、おぞましいとしか形容できない。

 

「まぁ、この身体の試運転だもの。多少は無理をしなきゃね」

 

 少女が指を弾けば、言峰とギルガメッシュの居る言峰教会が、異界へと変化する。そして、不気味に笑うアルトと言峰陣営の二人が、ぶつかり合ったのだった。

 

 

ーーーーーーーーー

 そして、30分後。異界となった言峰教会付近は、見事に荒れ果てていた。数百数千にも及ぶ宝具のぶつかり合いと、無数の魔術の応戦が起こり、壊滅していた。

 

 

「はぁ。生きているか言峰?」

「どうにかな。まったく、私はこの処理もしなくてはならないのだが」

 

 その戦場に立って居たのは、ギルガメッシュと言峰だった。言峰は法衣の至る個所が破れており、傷を負っていた。そして彼の隣には、右手首から先を何かに食い千切られたようなギルガメッシュが居た。服にも何箇所か傷が付いており、戦闘の激しさを物語っていた。

 

「手痛くやられたな」

「この程度すぐに回復する。それよりも我が解せないのは、奴を逃がしてしまった事だな。慢心せずして王ではないが、これは中々に、次は慢心せん」

 

 ギルガメッシュと言峰の前には、20m程のクレーターが出来ており、その中心でアルトの死体だったものが残っていた。これ以上ない程に串刺しにされ爆破され、それでも復活し続けた彼女だが、最後の攻撃を受ける前に泥人形を置いて、その場から離脱したのだ。

 

ーーーー

 

 泥人形を囮に戦闘を抜けだしたアルト。服はボロボロで全身傷だらけだが、彼女の口元は歪んでいた。それでもダメージは回復できていないのか、片足を引き摺って冬木の街を歩いていた。

 

「痛たた、これは駄目ね。身体が脆弱過ぎて、私の力についてこれない。けれど、身体を取り返そうにも、ブレイカーが居る以上、今は無理ね」

 

 傷だらけの身体で歩きながら、不気味な事を呟くアルト。10分も歩けば傷は完全に塞がっていた。完全に復活した少女が夜道を歩いていると、高校の制服を着た髪の長い女性が声を掛けてくる。

 

「あの、もしかして迷子かな? こんな時間に一人ってことは……」

「ん?」

「あ、あの、怪しい人じゃないですよ。私は、間桐桜って言います。あなた、お父さんお母さんはどうしたんですか?」

 

 夜道を一人でクルクル回りながら闊歩する少女。確かにどう見ても怪しい。迷子か事件に巻き込まれたとしか思えない。その様子を見かねた間桐桜。彼女は兄に禁じられた慕う男性である衛宮士郎の様子が気になり、家を抜けだしたのだった。

 だが、結局邸には訪れる勇気が湧かず、帰っている最中にアルトを見つけたのだ。

 

「あー、うん。パパとママは、もう帰って来ないの」 

「え?」

 

 アルトの七色に輝く魔眼が、新たな獲物を見つけた瞬間だった。

 

 




 えーと、アルトの正体は……何アルトなんだ? 物凄い暗躍してますね。言峰陣営が正義の味方に見える……アルト恐ろしい子。

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