Fate/make.of.install   作:ドラギオン

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明日の投稿場合によってはできない可能性があります。PCの調子が……。


他者封印・鮮血神殿2

 時間は少し戻り、ライダーの結界が発動した直後。屋上でサボっていた遠坂凛と衛宮士郎は、階段をおりて間桐桜の居る教室へ向かった。学校中はまさに地獄が広がっており、生命力を根こそぎ奪われていくため、士郎達以外は皆苦しみながら意識を失っていた。

 桜の教室で彼女の姿を見つけた士郎は彼女の息を確認する。

 

 

「息はある。まだ間に合わない訳じゃない。とにかく慎二を探して結界を解かないと」

「……? 衛宮君!」

 

「―――― 同調、開始(トレース、オン) 」

 

 教室の様子に凛がショックを受ける。だが、突如廊下から湧き出てきた竜牙兵が、彼女目掛けて襲いかかる。凛の声を聞いた士郎が手元にあった掃除用具からモップを取り出し、強化の魔術を掛ける。強化されたモップを持って教室の扉を突き破った士郎。

 そして強化された鋼鉄より硬いモップの先を竜牙兵に叩きつけ、後ろに押しのける。体勢を崩した竜牙兵の頭部を魔術回路を起動した凛がガンド撃ちで撃破する。

 

「なんだコイツらは!?」

「ゴーレム、使い魔の類よ」

 

 一体倒しても次から次に湧きだす竜牙兵。このままでは数に圧倒されてしまう。其処で士郎はある考えを遠坂凛に提示した。

 

「……セイバーを呼ぶ。遠坂は昨日令呪を使ったんだろう? なら、今度は俺の番だ!」

 

 そう、2人で授業をさぼっていた時、凛は昨日のアーチャーの行いをマスターとして詫び、令呪による縛りで協力関係中に士郎に手出しをするなと命じていたのだ。聖杯戦争開幕前に既に使用していたようで、凛の持つ令呪は1画となっていた。

 なら、二画ある士郎が使うのがこの場合彼の中では正しいのだ。 

 

「頼む、来てくれ……セイバー!!」

 

 前後を竜牙兵に囲まれた士郎達。士郎は左手の令呪を使って、彼のサーヴァントである彼女を喚び出す。令呪の行使と共に、空間を越えて騎士鎧姿のセイバー(アルトリア)が召還される。突然の召還だが、セイバー(アルトリア)は瞬時に状況を把握、前方の竜牙兵をバラバラに切り裂いたのち、地面を強く蹴って反転、凛達の背後の竜牙兵も切断する。

 

 

「召還に応じ参上しました。マスター状況は?」

「見ての通りだ。サーヴァントに結界を貼られた。すぐにこれを消去したい」

「……こちらに向かってくるサーヴァントの気配を感じます。そして下の階でサーヴァントの戦闘も」

「うそ、ここに!?」

 

 サーヴァントが向かってくると言うセイバー(アルトリア)。凛は竜牙兵ですら厄介なのに英霊まで増えるのでは、割に合わないと感じる。

 

 

「サーヴァントはこの階に向かうのと結界を張ってるの1階で戦闘? いや、沙条のサーヴァントかもしれない」

 

 士郎が違和感に気が付く。だが現在判明している学校内のマスターは、5人。数でいえば、沙条姉妹が結界のサーヴァントと交戦していると考えるのが妥当だ。そしてもう片方がセイバー(アルトリア)の気配を察して向かってくる。

 

「凛、アーチャーはどうしたのです?」

「それがアイツ呼んでも応えないの、この結界、完全に内と外を遮断している。令呪を使わないと伝わらないわ」

 

 それはすなわちアーチャーを呼ぶことになるのは、最後の手段となる。最後の令呪を此処で使うべきか、凛は悩んでしまった。

 

「来ます!」

「まてセイバー!」

 

 セイバーは廊下の角から向かってくるサーヴァントの気配を感じ、跳びだしたセイバー。沙条愛歌のサーヴァントを見た事のない士郎とセイバー。下手に斬りかかれば、沙条姉妹との敵対となってしまう。

 慌てて呼びとめるが、セイバーは既に止まれない。廊下の陰から飛び出した存在にセイバーは斬り掛ってしまう。

 

『く』

「アン!」

「な」

「ブレイナーさん!」

 

 セイバーが斬ってしまったのは、両腕を水銀の刃に変えたアンだった。右肩から腕を斬り落とされたアンが苦痛に顔を歪める。その瞬間、黒鍵を構えたアルカがセイバーと対峙し、士郎が同級生を傷付けてしまった事にショックを受ける。凛もクラスメイトが斬られた姿を見て驚く。

 

「セイバーってことは、衛宮君ね。そう、私と殺し合いたいんだ」

「ま、まて沙条。これは誤解だ」

 

 セイバーは、サーヴァントを斬った筈だが斬ったのは士郎や凛と同じ制服を着た少女。そして、彼女と一緒に走ってきた金髪に七色の何処か見覚えるのある少女が敵意をむき出しにしていてたじろぐ。

 

 アルカは、綾香から士郎のサーヴァントが10年前のセイバーだと知ってたため、救援に向かった自分達は不意打ちを食らったのだと誤解していた。特にアンを斬られた事で頭に血が上り、魔力が噴き出す。

 

「誤解? 何が誤解? 休戦って言うのも嘘だったのね。いいわ、此処で殺してあげる!」

「ちょっと待った! 愛歌落ち付きさない! セイバーも、彼女達は味方よ」

 

 今すぐにでも士郎を殺しかねない殺気を放つ愛歌。学校の結界そっちのけで殺し合いなどされてはたまらないと、まだ愛歌と話が出来る凛が飛び出す。どう考えても愛歌と士郎との相性は最悪だ。その上、相棒が斬られたとなれば、誰かが止めなければいけない。

 凛が飛び出した事で、セイバーと士郎への攻撃を止める愛歌。だが怒りが収まらないのか、奥歯を噛み締めている。

(やばい、愛歌の地雷を踏んじゃってる)

 

 凛は焦っていた。普段から怒らない愛歌が怒れば、自分でも止められないからだ。

 

 

『アル……愛歌。大丈夫、私は斬られても平気だから』

「す、すごい」

 

 攻撃を止めた愛歌を落ち付かせるため、アンは斬られた腕を水銀へと変えて水銀の操作で腕を繋ぐ。士郎がその光景を見て驚くが、既に知っている凛達は何も言わない。当然愛歌もアンが物理攻撃には強いと知っている筈だが、昨日の今日で余裕がなくなっている。

 

『落ち着いて愛歌。此処にいるのが、衛宮君のサーヴァントなら、下で戦ってるのが綾香達になる』

「……ん。サーヴァントが居るなら凛は大丈夫。綾香の所に」

 

 再び階下に降りようとする愛歌達。セイバーは以前の召還で見た2人の少女達と、今の彼女達が重なり呼びとめてしまう。

 

「ちょっと待ってください! 斬り掛った事は謝罪します。ですが貴方達は……」

「セイバー、今は結界が最優先だ」

「わかりました……士郎、外を見てください」

 

 愛歌達を止めようとするセイバーだったが、今の自分達が彼女の邪魔をすれば話が余計にこじれる。そう判断して士郎は彼女の追及を止める。

 渋々了承したセイバー。しかし彼女は、サーヴァント特有の直感で運動場にサーヴァントが移動したのを感じる。

 

「あれって沙条さんとアーチャーの言ってた2人目のセイバー?」

「あぁ。昨日はあのサーヴァントに助けて貰ったんだ」

 

 凛と士郎は窓を覗いて、慎二と以前学校で襲ってきたサーヴァントが綾香とセイバー(アルトリウス)と対峙する姿を目撃した。当然、愛歌とアンもその姿を目撃し、窓から降りようとしていた。

 

「セイバー、頼む沙条を」

「ですが、士郎と凛の身の安全が」

 

「大丈夫よセイバー。2人ならきついけど、愛歌達が居れば持ちこたえられる。だから、慎二のサーヴァントを」

『私達からもお願いします。お話は事が済んでからと言うことで』

「……私は、やっぱり何にもないわ」

 

 セイバーが警戒して周囲を見れば、再び廊下から竜牙兵が湧いて出ていた。しかし、その一匹にガンドを打ち込む凛と銃よりも有効な黒鍵を投擲する愛歌、更に両腕を水銀に変えて前衛を務めるアン。そこに強化したモップを持ち、竜牙兵とも戦える士郎達が集まっていた。

 彼等の戦力を考えれば、全ての元凶となった慎二のサーヴァントを倒すのが先決。それらを理解したセイバーは、窓を剣で突き破り運動場で戦う、自分と同じ剣を持った英霊の助勢へ向かった。

 

(あの英霊、必ず正体を突き止めなくては)

 

ーーーー

 

 そして、セイバー(アルトリウス)とセイバー(アルトリア)は、2人肩を並べる形でライダーと対峙する事となった。同じ金髪に青い目で兄妹にすら見える2人の英霊。騎士鎧のデザインは男女で違うが、同じ光の屈折で見えない剣を構える彼等を、全くの無関係だと言える人物はいないだろう。

 最優の英霊2人も同時に相手する事になったライダーは、流石に分が悪いと額に汗を浮かべる。

 

(困ったことになりましたね。ここは慎二を連れて逃げるべきなのでしょうが)

 

 鎖付きの短剣を振りまわし、2人のセイバーから距離を取るライダー。今は鎖のリーチで距離を取れているが、一瞬でも気を抜けば2人のセイバーに切り裂かれる。既に勝ち目など無くなっており、逃げるのが正解である。しかし、慎二はと言えば。

 

 

「待ちなさい! 早く結界を解いて!」

「ふざけんな、なんで沙条の妹がこんなに強いんだよ」

 

 薔薇の茨を魔術で発射する綾香から逃げていた。それを肩に受けた慎二は慌てて、綾香と距離を取る。完全にビビっている慎二は、元々魔術が使えないため出来る事は、石を投げる位。それでも戦闘の初心者である綾香には、有効ではあるのだが。

 

「余所見をするのですか!? ヤァ!!」

「く、これは」

 

 意識が慎二に向かった時、セイバー(アルトリア)が強く踏み込んで見えない剣を横に振り払う。ライダーは短剣を投擲しつつ、後ろに飛ぼうとした。しかし、背後に回り込んでいたもう一人のセイバー(アルトリウス)。一切会話もしていないのに、息の合った動きをする2人。

 それは、同じ武器を持つ、ある意味で同じ存在だからこそできたコンビネーションと言える。

 

 背後に回り込んだセイバー(アルトリア)の人達は、ライダーの脇腹を斬り裂き、鮮血で運動場を染め上げる。口から持ちを吐きながら、ライダーはバックステップで距離を取る。すでに致命傷を与えたセイバー(アルトリウス)が一歩引きさがる。

 その動きにセイバー(アルトリア)も追撃を控える。すでに結界の術者であるライダーが瀕死のため、ほころびが生じ始めている。

 

「がほっかは、これは、まずいですね」

「何やってんだライダー! そいつらを倒せよ!」

 

 逃げ回っている慎二が、瀕死の彼女に鞭を打つ真似をする。2人の騎士は彼の身勝手な姿に呆れていた。腹を裂かれ、肩で息をしているライダーに止めを刺そうとセイバー(アルトリア)が介錯に向かう。

 

「もう勝負はついたぞライダー」

「ですね。ですが、慎二だけでも、彼女のために」

 

 決死の覚悟。ライダーは自らの血液で魔法陣を形成する。そして、魔法陣と共に強い光が発生。その光が猛スピードでセイバー達に向かって襲いかかる。

 

「綾香!」

「なんだ」

 

 2人とも直感による回避で閃光を回避するも、2人から逸れた光は、慎二と対峙する綾香に向かって飛ぶ。セイバー(アルトリウス)が魔力放出の急加速で、迫りくる閃光に襲われかけた綾香の体を抱えて、回避する。たまたま距離がセイバー(アルトリア)の方が近かったため、セイバー(アルトリア)よりはるかに速い閃光を回避する事が出来た。

 

「んな、えぇ」

 

 そして、綾香を攻撃した閃光は、腰を抜かしていた慎二の前に現れる。その光の正体は、神代の幻想種である真に美しい天馬だった。天馬に跨っているのはライダーであり、マスターである彼を救うために瀕死の体のまま、天馬に彼を跨らせ、空へと飛びだって行く。

 

「逃げられた!?」

「だが、どうやら結界は完全に消えたようだ」

 

 術者が逃げた事で、恐ろしい結界は完全に消滅していた。それを見た綾香が、ほっと息を吐いて腰が抜ける。それを支えるセイバー(アルトリウス)が「お疲れ様」と綾香に告げる。その様子を見ていたセイバーは、セイバー(アルトリウス)の正体よりも士郎達の状況が気になり、運動場から離れ、校舎に開けた大穴にジャンプする。凛達の居た廊下に着地した彼女は、無事な4人を見つける。

 

「士郎、凛ご無事でしたか」

「あぁ。と言っても殆ど沙条達が……」

「お疲れ様セイバー」

 

 結界が解除された事で、竜牙兵の召喚が終わり、残った個体を凛の宝石魔術とアルカの黒鍵で残党を殲滅した。防御にアンが回ったことで、誰一人負傷することなく結界解除までしのげたのだった。

 

 セイバー(アルトリア)が合流し、ライダーを瀕死にまで追い込むが、決死の覚悟で逃走されたと告げる。凛はライダーを仕留め切れず慎二を逃がした事は痛いと考えるが、消滅手前での宝具使用をしたライダーは長くはない。おそらく日が暮れるまでも現界出来ないと判断した。

 それは隣で話を聞いていたアルカ達も同じ考えで、慎二を逃がす為にライダーは命を捨てたのだと考えた。実に慎二にはもったいない英霊だと考えながら、セイバーと士郎が教室から衰弱した生徒を運んでいる姿を見る。

 

「凛。私達は一度家に帰る。事後処理お願い」

「わかったわ。セカンドオーナーとして役目は果たすわ。悪いんだけど、今夜も休戦を続けて貰っていいかしら?」

 

 凛も今夜は忙しくなる可能性があり、沙条姉妹との対決は避けたかった。それでも、学校の結界が解除された今、衛宮士郎との同盟も無くなり、本格的に戦わなければならない。今の今まで共闘した相手といきなり戦う事は、感情の整理が付かないのだ。

 

 

「ん。いいわ。後、このゴーレムは、キャスターの物だと思う。昨日、私の家もキャスターに襲われて、その残痕魔力と同じなの」

「それ本当? じゃ慎二やアンタ達以外にもキャスターのマスターもいるってこと?」

「ん。私の予想ではそう。じゃばいばい」 

『遠坂さん衛宮君、そしてセイバーさんさようなら』   

「あ、あぁ。今日はすまない」

 

「ちょっと待ってください」

 

 愛歌とアンが、運動場で此方を見上げているセイバー(アルトリウス)と綾香の元に行こうとすれば、セイバー

が止める。

 

「貴方達には聞きたい事が多くあります。ですが、今は一つだけ……私が知っている貴方達は、あの少女達に相違ないのですか?」

 

 セイバー(アルトリア)が聞きたかった事。それは10年前の聖杯戦争で全ての陣営を翻弄し、最後まで勝ち残った存在を。ライダー(征服王)のマスターと一緒にいた少女達、ブレイカーのマスターとアサシンの少女、奇跡を起こした存在。

 それが彼女たちなら、この聖杯戦争、バーサーカーよりも警戒しなければいけない。

 

「ん。私は10年前あなた達と戦ったマスター」 

「やはり、あの後……どうなったのですか?」 

「……教えない」

 

 セイバーの問いに愛歌は答えない。これ以上情報を与える必要はないと廊下の横穴から、運動場に飛び下りる。2人とも脚を強化した事で、着地は綺麗に決まった。そして、上から見下ろすセイバーと七色に煌めく目を合わせたアルカは、既に護られる子供の目ではなく、修羅場をくぐり抜けた戦士の目だった。

 

 運動場に降りた愛歌は、セイバー(アルトリウス)に支えられる綾香の様子が変だと駆け寄る。

 

「綾香、怪我は?」

「怪我は大丈夫なんだけど、全身がだるくて、正直立てない」

 

 愛歌は、魔眼を起動して綾香の身体を解析し始める。もしや何かの呪いで設けたかと危惧したが、愛歌の魔眼には、綾香の魔術回路が悲鳴をあげているのが見えた。

 

「魔術回路が無理な魔力行使で、痛んでる。家に帰って治療すれば治るよ。ブレイカーを念話で呼ぶね」

「わかった。心配掛けてごめんねお姉ちゃん」

「ん。今日はよく頑張った……」

 

 愛歌は、綾香の口の中が切れている事を知り慎二に対して明確な殺意を抱いた。何はあれ、敵対したのだから殺されても文句は言えないのだ。今までは無害な上で魔術を使えないから見逃していたが、今は間桐慎二と言う存在は獲物でしかない。

 

 そして、10分もすればブレイカーの運転する車が到着、学校でひと悶着あった事を告げながら自宅へと帰還した。

 

 

 

ーーーーーー

 

 そしてライダーと慎二は、無理な宝具の使用ですでに消滅しかけていたライダーが、如何にか慎二を安全な場所まで天馬で送り届けていた。

 

「ちくしょう、全部お前のせいだ! て、うわ、こいつ!」 

 

 慎二は逃げる中、監督役の居る言峰教会の近くで卸せと命令した。すでに身体が崩壊しているライダーはもう消えるのみ。ならサーヴァントの居なくなったマスターなど獲物でしかない。それゆえに保護を求めに向かったのだ。

 

 そして、教会の墓地に辿り着いた時、現界を越えたライダーが落馬。本格的な消滅を始めた。だが、慎二は全ての責任を消滅寸前のライダーに押し付け罵った。ライダーの召喚したペガサスは、母をなじる彼をその頭で払いのけ、威嚇する。ペガサス自身もライダーの消滅に伴い、身体が崩壊していく。だが、重症のライダーよりは、現界していられる時間は長い。

 

「さ、くら……すい、ません」 

 

 天馬に護られながら、ライダーのサーヴァントは消滅した。最後に残した言葉の意味は、伝えたかった本人には届きはしない。そしてライダーの消滅を見た慎二が、頭を掻き毟りながら悔しがる。ペガサスは、慎二を無視して、最後まで戦った母の居た場所を眺め、現界を止めようとする。

 そんな時、黒い触手がペガサスの体を貫き、眼にもとまらぬ速さでペガサスの全身を包みこみ、消滅すら許さない。

 

「ひぃい、な、なんだよお前!」

 

 慎二は突然背後から天馬を襲った物体に恐怖し、指をさしながらその人物を恐れる。慎二はその存在の目を見た時、死を感じ逃げる事も出来なかった。ただ、目の前に死が存在した。

 

「うふふ、聖杯戦争やめちゃうの?」

「あ、ああ」

 

 慎二は言葉を紡げない。すぐにでも自分はもうマスターじゃないから殺さないでくれと命乞いも出来ない。ただ、目の前にいる七色に輝く目を持った怪しげな少女が、自分をどう扱うかをただ待つしかなかった。

 少女は、青いフリルの多い服をきて、その表情は狂気に歪みながらも万人の心う奪う魔性の類。特に、その眼が見た物を縛り付け、魂すらも離さない。そんな少女だった。

 

「安心して。あなたにはまだやってほしい事があるの。ほら、特別に喋る権利をあげるわ」

「え? あ。ぼ、僕に何をしろって言うんだ? 僕は魔術回路も無ければ、サーヴァントだっていないんだぞ」

 

 金縛りが解けるように話せるようになった慎二。背後の墓に背中が当たる。自由になった事、目の前の金髪で七色の瞳を持つ少女から離れようとした。

 

「あら、魔術回路がないから? サーヴァントが居ないから? なら簡単よ」

「ぐ、うがああああああああああ、痛い、イタイイタイイタイ!!!」

 

 少女が陽気に振る舞いながら、慎二の心臓に小さな手を置く。そして少女の魔力が流れたと思うと、慎二の胸から全身に燃えるような熱が発生。それらは慎二を苦痛に追いやり、地獄の苦しみを与え続ける。だが、10秒もすれば熱が収まり、慎二は自分の体の異変を感じる。

 破れた制服の胸元には、令呪が刻まれていた。そして、慎二の全身には、今まで感じた事の無い感覚が走る。

 

「僕に、なにをした?」

「魔術回路をあげたの」

 

 平然と言いのける少女。そんな簡単に他者に魔術回路を授けられる訳がないのだ。もし、それが可能な存在は、聖杯くらいだ。だが、確かに今の慎二は、魔術回路が体中に廻っていた。それも遠坂凛にすら匹敵する上等で膨大な回路が彼には植え付けられていた。

 慎二は現実を理解出来なかった。ただ、与えられたものが自分の欲してやまなかった物だとは理解出来た。

 

「うふふ、胸のそれは特製の令呪。後はサーヴァントだっけ?」

「え、あ、はい」

 

 つい敬語になってしまう慎二。だが目の前の少女は、間違いなく自分の前に現れた女神だと思った。怪しい気配を纏いながらも、この自分を助けてくれ、望みを叶えてくれる存在だと。心酔すらしそうになった慎二は、彼女の望みを叶えなければと言う危機感にかられる。

 

「サーヴァントの召喚は、触媒が必要なんだ、です。そうでないと弱いサーヴァントを召喚してしまう場合が」

「そうね。魔術の知識はあるのね貴方。どんなサーヴァントが欲しいの?」

 

 神とも思える少女の問いに、慎二は考えた。少なくともライダーよりは強い本当の英霊を召喚したいと。それを言葉に出すより先に、少女は彼の考えを読んだ。正確には頭に手を置き、慎二の全てを読みこんでいく。

 

「ライダー、真名メドゥーサ。それよりも強い英霊。うふふ、そんなの決まってるわよ。後は召喚だけね」

「え、あの、僕は如何すれば」

「触媒なら其処に転がってるわ」

 

 慎二が何を召喚するのか問えば、彼女はクスクス笑いながら七色に輝く瞳を、背後で転がっている天馬に向ける。それを見た時、慎二も意図を理解して「ハハハ」と笑い始める。 

 

 そして、慎二は、己の血で魔法陣を描き植え付けられた魔術回路を起動した。そして、少女は慎二にある命令を告げた。その命令を聞いた慎二は快く請け負った。

 

「後は、わかるわね?」

「はい。あの、貴方のお名前は?」

「私? そうね、アルトでいいわよ」

 

 そう言いつつ、少女は慎二の召喚を見届けずにその場から闇へと消えた。

 

「わかりました。必ず沙条綾香は殺しますよ。

 閉じよ。閉じよ。閉じよ。閉じよ。閉じよ。繰り返すつどに五度。ただ、満たされる刻を破却する!」

 

 ライダー(メドゥーサ)を失った慎二は、新たな魔術回路を持って、新たなサーヴァントを召喚した。




 以上ですね。ライダーさん脱落です。後スーパー慎二君誕生。最後に出てきたのは、一体……。後、ペガサスで召喚出来る英霊、もうお分かりですよね?

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