無事に空港にたどり着いたらウェイバーとアルカは、荷物を運びながらバスで冬木の町に繰り出した。
(ここが聖杯戦争の舞台か。思ったより大きい場所だな
冬木の新都に到着したウェイバーは、バスから降りて冬木にたどり着く。これから命懸けの戦いが起こると思うと、恐怖が沸き起こってくる。正直、飛行機で安心して眠ることができたのは、アルカのお陰である。
「アルカ、おーい。何やってるんだよアイツ」
ウェイバーが今後の宿、ひいては活動拠点を探しにいこうとすれば、アルカが地図を書いた看板に手を伸ばす。
「install」
アルカの掌から延びた魔術回路は、看板を包み込むとすぐに彼女の肉体に戻っていく。
「こんな所で魔術使うな‼ 誰かに見られたらどうすんだよ。もしかしたらすでに喚ばれたサーヴァントやマスターが彷徨いてるかもしれないんだぞ」
急に見たことのない魔術を使うアルカを慌てて抱え込み、その場から離れるウェイバー。一方彼に抱えられる事が多いアルカは、腕のなかで読み込んだ地図を思い出していた。
人間や英霊と違い、無機質の物体なら瞬時に読み込めることが発覚した。
「ここまで来れば大丈夫だろ……つかれた~。拠点見つける前から前途多難だよ畜生」
そんなウェイバーなど知らないとばかりに、周囲を歩く人々を見つめるアルカ。今二人がいる場所は、冬木の大きな橋の近くでお昼過ぎで人が多い。
「聞けったら、まったく。いいかアルカ、僕らが拠点にするのは日本人の家じゃない。僕らが溶け込める外国人の家だ。それを探さなきゃならないんだから、遊んでる時間は」
そうアルカに言い聞かせようとするウェイバー。何故外国人宅かといえば、彼にはホテルで止まり続ける資金もなければ、英語しか話せず日本人とコミュニケーションが取れないためだ。
必然的に冬木の街で拠点にできる場所は少なくなる。自分の事ながら、衝動的に動きすぎたと反省する。
「おや、お嬢ちゃん。うちに何かご用かい?」
「……ウェイバー、ん」
「うわ、わわわ、アルカ」
今度は、ウェイバーの話を聞いていたアルカ。彼女は外国人を探すという目的を10秒でクリアーした。というよりもウェイバーと歩いてたどり着いたら場所がちょうどオーストラリアから移住した老夫婦の家だった。
玄関前を掃除する白髪と白い髭を生やした優しげなお爺さんを見つけ、その姿を見つめていた。その視線に気がついた老人がアルカに話しかけた。
最初は日本語で話したが首をかしげるため、英語で話してくれた老人。アルカは、ウェイバーの指示にぴったりだと判断した。
慌ててアルカを抱き上げたウェイバーとそれを驚いた目で見る老人。
「お兄ちゃんと一緒だったのかい。ん? 私の顔に何かついているかい?」
アルカの勝手な行動は、後で叱るとしてこの偶然は手放すべきではないとウェイバーは、暗示をかけていく。
「久しぶりだねお爺さん。僕らだよ孫のウェイバーとアルカだよ。冬休みだから遊びに来たんだ」
今浮かんだ台詞を暗示にのせて語るウェイバー。その言葉を聞いた老人は、少しだけボーッとした後に嬉しそうな笑みを浮かべた。
「おぉ、ウェイバーにアルカだったか。大きくなったな」
すっかり暗示にかかった老人に、ここでは寒いからと家にあげられる。
「ささ、上がった上がった。今珈琲でも入れてこよう。アルカはホットミルクでいいかい?」
久しぶりに海外から遊びに来た孫兄妹に喜ぶ老人が、二人に飲み物を進める。ホットミルクが何かわからないアルカは「……」と固まってしまう。
「アルカ、甘いの好きなんだよ。砂糖多目にいれてあげてお爺さん」
「そうかそうか、待っとりなさい。マーサの奴ももうすぐ帰ってくるからな、きっと喜ぶな」
二人はテーブルに腰掛けて、優しい雰囲気で人の良さそうなお爺さんと会話する。なるべく矛盾がないように会話しながら暗示を重ねていく。アルカに関しては、恥ずかしがりやで照れてるということにしておいた。
「さぁお飲み」
「ありがとうお爺さん。ほら、アルカもお礼言いな」
「……ありがと」
ウェイバーは、少し冷えていた体を暖める珈琲に満足だった。一方、アルカは熱い飲み物を一気に飲もうとして火傷した。
「ごほ、ごほ」
「こりゃいかん、熱かったか」
「お爺さん何か拭くもの!!」
すぐに吐き出したため、大火傷はしなかったが机は牛乳で汚れお爺さんから受け取った布巾で掃除するはめになった。
熱い飲み物初体験のアルカは、口のなかがヒリヒリする感覚を覚えながらウェイバーに怒られた。
「熱い飲み物はちゃんと冷まさないと駄目なんだぞ」
本当に何も知らない少女なんだと、少しの間の旅で知っていはずなのに、どこか気が抜けていたと自分も悪いなと感じる。残ったホットミルクをスプーンで混ぜながら冷まし、それをアルカに渡す。
「もう飲んでいいぞ」
顔の半分はあるカップを両手で抱え、ぐぷぐぷと飲むアルカ。味は気に入ったのか、先程の恐怖も忘れて勢いよく飲んでいく。
「良いお兄ちゃんになったな、ウェイバー」
「べ、べつに。と、当然の事教えてるだけさ」
仲睦まじい兄妹を見て、この家の主であるマッケンジーは微笑む。最近は息子夫婦と連絡もあまり取れないため、妻のマーサも何処か寂しげだった。そこに遊びに来てくれた孫達。少し背は低いが良い兄のウェイバーと物静かながら可愛らしい年頃のアルカ。きっとマーサ喜ぶに違いないと彼は笑っていた。
その後、用事から帰ってきたマッケンジー夫人が見知らぬ兄妹が訪ねている事に驚くがウェイバーの暗示ですぐに二人が孫だと信じきった。それからというもの
孫に構いたいお祖母ちゃんの性なのか、ウェイバーやアルカの世話をやいてくれた。ウェイバーは、年齢的にも、赤の他人の立場からも恥ずかしいので照れていた。
一方アルカは、夫人が大変可愛がりいたせりつくせりだった。そして、夕飯にご馳走を作ると言って買い出しに行こうとした夫人は、アルカの服がウェイバーのお下がりだと知る。
「アルカちゃん、お婆ちゃんとお洋服買いに行きましょうね」
と買い出しに連れていかれる嵌めになった。ウェイバーは、アルカ一人にして良いものか悩んだが、アルカがマスター達に狙われることはないだろうと許可した。
なにより、嬉しそうな夫人を止めることは、彼にはできなかった。
その後、水色のフリフリでお上品な洋服を着たアルカと買い物袋を多く抱えた夫人がタクシーで帰ってきた。
夕飯には、宣言通り夫人が腕によりをかけたご馳走が出されウェイバーも日本の料理のレベルに衝撃を受けた。夫人の膝に座りお箸の練習をするアルカは、日本料理が痛く気に入った様子で当社比2割増しで良い顔をしていた。
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