Fate/make.of.install   作:ドラギオン

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柳洞寺・3

柳洞寺の境内で血まみれになりながら呻くキャスター。それを見下ろすアーチャーとセイバー(アルトリウス)。そして衛宮士郎と沙条綾香。

 

「アーチャー、セイバー……何故止めをささないのです?」

「今の私にお前を倒す理由はないからな」

「おいアーチャー!」

 

「では私を殺す気はないと?」

「私の目的はこの男にあったからな。不必要な戦いは避けるのが主義だ。そちらのセイバーはどうか知らないがね」

「どうする綾香? 此処で仕留めておくのも手だが」

「そんな、事言われても。私には無理……」

 

 そういって街の人々を犠牲にするキャスターを見逃そうとするアーチャーに士郎が驚く。そして、街の人々を見殺しにする気かと詰め寄ろうとする。一方で綾香は、英霊とは言え普通の人間にしか見えない女性を殺す決断が出来ない。セイバー自身はこの女性を殺しておいた方が有益だと頭で理解している。だが、騎士としての誇りが既に戦えない女性を斬り伏せる事と、綾香の心を傷付ける事に悩む。

 

「あははは! そこの坊やは無関係の人間を糧とする私の様なサーヴァントが許せない。あなたは無意味な殺戮は好まない。貴方達そっくりね」

「誰がこんな奴と一緒なもんか!」

「同感だ。平和主義者であることは認めるが根本が大きく異なる」

「何が平和主義者だ。俺は忘れてないぞ。お前はバーサーカーと一緒にセイバーを!」

「あの時はまだ共闘関係ではなかった。よもや目に見える全てを助けろという訳ではあるまいな? ならばバーサーカーとて倒す対象にならないよ」

 

「あのアーチャーと衛宮君仲悪いのかな?」

「僕も似た者同士に見えるけどね。ただ、もうキャスターを倒せる空気ではないね」

 

 キャスターが傷の治癒を始め、アーチャーと士郎の在り方を面白いという。その言葉に士郎とアーチャーが口喧嘩を始める。その様子をキャスター、綾香とセイバー(アルトリウス)が眺めていた。

 

「気にいったわ貴方達、その在り方と力は希少よ。私と手を組みなさい。私にはこの戦いを終わらせる用意がある」

「断る。俺はお前みたいな奴とは手を組まない」

 

 士郎は間を置かずに斬り伏せる。士郎にとってキャスターは正義の味方に対する悪である。他者を犠牲にして力を得ている彼女とわかり合える筈がないのだ。だが、真っ当な人間である遠坂凛のサーヴァントであるアーチャーは、何か思考を巡らせている様子。

  

「拒否する。キミの陣営はいささか戦力不足だ。如何に戦力を伸ばそうと、バーサーカー一人に及ばない。まだ組する程の条件ではないな」

「……交渉は決裂と言う事」

「そしてこの場に居合わせたの私の独断でね。マスターの命令ではないから君を討つ理由はない。此処は痛み分けと言う事で手を打たないか?」

 

 アーチャーの勝手な交渉に士郎が突っかかるが、アーチャーはシカトを決めて取り合わない。この状況で士郎がなにを言おうが、何一つ変わる事はない。

 

「意外ね、あなたのマスターは私を追っていたのでしょう?なのにあなたは私を見逃すというの?」

「あぁお前がここで何人殺そうが私には与り知らぬ事だ」

「あら、ひどい男」

 

 アーチャー達との交渉は終わったため、キャスターがセイバーと綾香に向き合う。綾香はキャスターに令呪(命)を取られそうになったことから、恐れてセイバーの背に慌てて隠れる。

 

「あら、嫌われちゃったのかしら」

「そ、そんなの、いきなり襲われればだれだって……」

「それで、何かなキャスター。今は見逃しているが、私は君を許してはいない」

 

 警戒する2人にキャスターは怪しく微笑みながら呟いた。

 

「眼鏡のお譲さん、貴方のその呪いを解除する手段を用意してあげてもよくってよ。もちろんセイバーは貰うのだけれど」

「え」

「……」

 

 キャスターの言う呪い。それは彼女の姉でも解除できない令呪に込められた呪い。それを解除してくれるとキャスターは言う。つまりは綾香は聖杯戦争で戦うことなく聖杯戦争から抜けられる。だが、セイバーはどうなるのだろうか。

 

「呪いって、誰かに呪いを掛けられてるのか沙条?」

「……」

「まさか、呪いのせいで聖杯戦争に参加させられてるのか? まさかキャスター、お前が」

「坊や、女性になんでも尋ねるのはどうかしら。まぁ答えてあげるけど私ではなくってよ」

 

 令呪を奪うと言っていたことから、セイバーのマスター権をキャスターが手に入れれば、セイバーはキャスターに従うしかなくなる。

 

「だめ。私も貴方とは組めない」

「綾香、確かに彼女は信用できない。だが、キャスターのサーヴァントになる魔術師と言う事は」

「でも、いやなの」

 

 綾香が強い拒絶を示したため、セイバーも何も言えない。綾香の拒絶を聞くとキャスターはマントを羽のように展開して空中に飛び上がる。

 

「まぁ考える時間は上げるわ。じっくり考えて答えが出たのなら、いらっしゃい」

 

 そう言い残してキャスターが霊体化する。

 

「待て!キャスター!」

 

 闇夜に消えたキャスターを士郎が呼びとめるが、既にキャスターの魔力も気配も存在しなかった。だが士郎は、隣でキャスターを見逃したアーチャーを睨んでいた。沙条綾香の呪いという言葉も気になるが、何故キャスターを見逃したのかが理解出来なかったからだ。そして、妙にアーチャーの行動が許せないのは相性からだろうか。

 

「アーチャー、なんでキャスターを逃がした」

「此処で斬り伏せた所で、あれは容易く逃げのびただろう。キャスターを倒すのなら、マスターが先なのだ」

「けど、街で起きてる事件はあいつの仕業なんだろ? アイツを止めない限り犠牲者が増え続けるんだぞ」

 

 士郎にはキャスターと戦わなければならない明確な理由が出来てしまった。だがアーチャーは士郎とは正反対の方針を口にしたのだった。

 

「むしろ奴にはこのまま続けてもらいたいぐらいだ。キャスターは生気を吸い上げその力でバーサーカーを倒す。私たちはその後でキャスターを倒せばいい。

 しかし、キャスターも手ぬるい。いっそ命まで奪ってしまえばいいいいものを。町の人間が死に絶えれば少しは戦いやすくなる」

 

 

「ひどい……」

「そうかねセイバーのマスター? 効率的と言って貰いたい物だ。それに君だってキャスターを逃がしたという事実には変わりないのだぞ?」

「それは……」

「戦う覚悟もないのなら、早々に令呪を預けるべきだったな」

 

 綾香の言葉に反応したアーチャーが彼女を責めるような言葉を口にする。それには反論の余地もない綾香。だが綾香を護るセイバーだけは彼女の味方だった。

 

「綾香を責めるのはやめてもらおうアーチャー。それこそ街の人間を犠牲にすると言った君が彼女を責める権利はない。それ以上続けるなら、私が君の口を二度と開けないようにするが?」

「良いサーヴァントを持ったじゃないかお譲さん。主思いで腕も立つようだ」

 

 これ以上口にすれば、正体不明のセイバーとの戦闘になると考え、アーチャーは綾香に対しての言葉を止めた。

 

ーーーー

 

 山門付近の階段では、アサシンの必殺の斬撃を受けたセイバーが階段を転がり落ちていた。

 

「凌いだな。我が秘剣を」

「っ」

「なに、そう大した芸ではない。偶さか燕を斬ろうと思いつき身についただけのものだ。

 線にすぎぬ我が太刀では空を飛ぶ燕は捉えられん。だが、その線も二本三本なら話は違う。しかし、連中は素早くてな。

 事を為したければ、一呼吸のうちに重ねなければならなかった。そのような真似は人の技ではない。……だが生憎と他にやることもなかったのでな。一念鬼神に通じるというやつだ。気がつけばこの通りよ」

 

(違う……一呼吸の内に重ねるだと? あれは全くの同時だった。あの瞬間刀は確かに三本存在した)

 

 アサシンの説明に違和感を感じたセイバーは、聖杯の与えた知識からその技の正体を解明していた。頭に浮かんだ知識が正しくとも、それを実演されるのは酷く納得のいかない現象。

 

(信じがたいが今のは次元屈折現象。何の魔術も使わず、ただ剣技のみで宝具の域に達したサーヴァント)

 

 それはこの世界に五つしかないと言われる魔法の一つ。その一つと同じ現象を目の前の侍は、剣技のみで到達したというのだ。それが如何ほどの軌跡であろうか、目の前の侍は理解していないらしい。

 

 

ーーーーー

 

「いい加減にしろアーチャー!」

 

 士郎は遂に頭に来たため、アーチャー目掛けて拳を振るう。だが所詮人間であり、士郎の拳など止まって見えるアーチャーがそれを掴む。

 

「私たちは協力関係ではなかったのか?」

「ふざけるな! 俺はお前とは違う! 勝つために結果のために周りを犠牲にする事なんて絶対にするものか!」

「それは私も同じだ。だが全ての人間を救うことはできない。キャスターが聖杯を手に入れてしまえば被害はこの町だけに留まるまい。

 ならばこの町の人間には犠牲になってもらうしかあるまい。その結果で被害を抑えられるのならお前の方針と同じだろうさ」

 

 アーチャーの語る理論は、数年前に衛宮士郎を引き取った衛宮切嗣の言葉を思い出させる。

 

{誰かを救うという事は 誰かを救わないという事なんだ}

 

 それは事実だろう。だからこそ、誰をも救える正義の味方に憧れた。誰かの犠牲に誰かの平和があるのではない、皆が平和に過ごせる世界を作れる存在。事実から目を逸らしてでもい求めたい希望こそが正義の味方だ。

 

 

「無関係な人間を巻き込みたくないと言ったな? ならば認めろ。一人も殺さないなどと言う方法では、結局何も救えない」

 

 アーチャーの弁を理解はできても納得など出来ない士郎は、すぐにでもキャスターを見つけ出さねばならないとキャスターの消えた方向に歩いて行く。

 

「キャスターを追うつもりか?せっかく助けてやった命を無駄にする気か?」

「うるさい!頼まれたってお前の手助けなんているもんか!」

「そうか 懐かれなくてなによりだ」

 

 勝手にしろと言いたげな態度で士郎から視線を外したアーチャー。だが衛宮士郎は気が付いていない、アーチャーは殺気を消しただけで、両手に短剣を召喚し、それを彼に振るおうとしている事に。

 

「衛宮君!」

「が」

「戦うの意義のない衛宮士郎はここで死ね。……自分の為でなく誰かの為に戦うなどただの偽善だ」

 

 アーチャーが白と黒の短剣を構えて、油断していた衛宮士郎に斬り掛る。その直前で綾香が叫ぶが、士郎の背中を容赦ない一太刀が襲う。血飛沫を上げ境内の地べたに倒れ込む士郎。斬られた個所から夥しい血が流れ、どうにか生きているが、激痛に苛まれる。

 そんな彼を見下しながらアーチャーが冷徹な目と声で追う。完全に止めを刺すつもりのようだ。

 

「お前が望むものは勝利ではなく平和だろう。そんなものこの世のどこにもありはしないと言うのにな……」

「なんだと?」

「さらばだ 理想を抱いて溺死しろ」

 

 斬られた個所を押さえながら、如何にか立ち上がる士郎。しかし、背後には剣を振り上げたアーチャーが居り、本気で彼を殺す気だというのは綾香にも分かった。衛宮士郎は聖杯戦争において敵、それは理解できている綾香。だが、魔術師よりも一般人に思考の近い彼女には、同じ高校に通う衛宮士郎を見殺しになんてできなかった。

 

「お願いセイバー!」

 

 綾香の心の叫び、誰かが傷付く姿を見たくないという彼女の優しさを良しとした彼女の騎士は、流れるようなステップで衛宮士郎に向かう凶刃を見えない剣で受け止めた。

 

「む、何のつもりだセイバー」

「そちらこそ、どう言うつもりだアーチャー。敵ならいざ知れず、協力関係御者を後ろから斬るなんて。とてもじゃないが見過ごせないな」

 

 鍔競り合いは、膂力で優れるセイバーが押切る。後ろの跳んで距離を取ったアーチャーとセイバーが対峙する。自分に加勢してくれたセイバー(アルトリウス)を痛みに耐えながら「すまない」と言う士郎。綾香も慌てて、斬られて血塗れの士郎に肩を貸す。

 

「大丈夫衛宮君」

「く」

「きゃ」

 

 綾香が肩を貸して二人で柳洞寺から立ち去ろうとすれば、両手の短剣を持ちかえたアーチャーが、2人纏めて斬り掛る。だがセイバーが再び立ちふさがり、両手の短剣を明後日の方向へと飛ばされる。武器を失いセイバー(アルトリウス)の斬り払いをバク宙からの後ろ跳びで回避する。しかし、アーチャーの頬に一筋の切り傷が浮かび上がる。

 

「あくまで邪魔をするつもりかセイバー」

「そう聞こえなかったかなアーチャー。綾香、逃げられるかい?」

「うん」

 

 武器を失った筈のアーチャーが両手に弾き飛ばされた白と黒の短剣を再び取り出す。だが、弾き飛ばした武器は確かに境内に刺さっており、それが4本ある事になる。どう言う事かわからないセイバーだが、宝具の数がどれほどでも、全てを叩き切れば問題ないと、見えない剣を上段に構える。

 その構えを見てアーチャーも右手の短剣を逆手に持ち、走り出す。セイバーも一切の油断なく、目の前のアーチャーを迎え撃つために強く前に踏み込む。

 

「はぁ!」 

「--!」

 

 両手の剣を持ちかえながら、全身のバネを利用して斬り掛るアーチャー。それを全て見切った上で、弾きながらアーチャーのペースに持って行かれないよう踏み込みと引き際のタイミングをずらす。防御と攻めのタイミングをあえて外され非常にやり難いアーチャー。

 何十もの撃ち合いの度に、火花と砕けた短剣の破片が飛び散る。それでも次から次に武器を取り出しながら、どうにかセイバー(アルトリウス)と撃ち合う。しかし、セイバーは無傷で、傷が増えて行くのはアーチャーだけだった。

 

(この男、剣技では彼女よりも優れているのか)

 

 このまま接近戦を続けては分が悪いと、距離をとって黒い弓を召喚する。そして連続で10本の矢が発射される。セイバーは移動することなく、両手で剣を振りながら魔弾となった矢を弾く。全てが外れる事のない正確な矢であり、セイバーは相手の技量に関心すらしていた。

 しかし、これ程の技量を持ちながら何故彼は、こうも無茶な戦いをしているのかわからない。

 

「全て凌ぐか」

「そっちこそ、真面目には戦っているが全力ではないね。残念だが、綾香が既に金髪の少女に少年を渡したそうだ。私は此処で引かせて貰うよ」

 

 アーチャーの矢を全て剣で叩き落したセイバーは、その場で霊体化して階段を下りきって待っていた綾香の元へ向かう。セイバーが引いた事で、アーチャーが膝をついて、息切れする。 

 

「はぁ、はぁ」

 

 正直に言えばアーチャーに余裕など微塵になかった。特に接近戦が危険だと感じ、遠距離に徹したのがその証明だった。セイバー(アルトリウス)自身が攻めきるつもりもないが一番大きかったが、これ以上長引くのはアーチャーとしても望まない所だった。

 むしろ、セイバーが撤退した事で助かったのはアーチャーの方だったかもしれない。呼吸を整えたアーチャーが山門に近寄れば、刀を鞘におさめたアサシンが居た。

 

 

「手酷くやられたようだな」

「そうか、貴様が居たな」

 

 入る時は素通り出来たが、帰りに通してくれる保証はない。この状況でセイバー(アルトリア)すら抑える剣豪との戦闘は、死地に赴く様なものである。

 

「……通るが良い」

「なに?」

「先程の男には、振り切られてしまってな。残ったお主でもと思ったが……すでに手負いの様子だ。私が求めるのは死合でな。今のお主には、斬る価値がない」

「そうか……」

 

 明らかに挑発されているが、見逃して貰えるというなら己の目的のために、利用するまで。

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 アーチャーより先に降りたセイバー(アルトリウス)は、柳洞寺の階下で待っていた綾香と再会する。

 

「セイバー、無事だった?」

「あぁ。あの少年はどうなったんだい?」

「衛宮君は、セイバーそっくりの女の子に連れられて行ったの。傷は深かったけど、致命傷じゃなさそうだったから……たぶん」

「わかった。とりあえず、愛歌達が帰る前に家に帰ろう。一応異変を知らせたから、大慌てで帰ってくる筈だからね」

 

 セイバーは、彼女の姉が今頃切羽詰まっている状況を想像出来た。だから早めに安心させてあげなければ、どう言った行動に出るかわからない。そのため、綾香の体をお姫様抱っこの状態で抱え、冬木の夜道を駆け抜けた。

 




 今回はセイバーVSアーチャーになりましたね。

セイバー「協力関係御者を後ろから斬るなんて。とてもじゃないが見過ごせないな」

これ今考えると、盛大なブーメランだった……。プロトセイバーだとね。

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