Fate/make.of.install   作:ドラギオン

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 最近忙しくて、ペース落ちるかもです。


柳洞寺・2

攫われた綾香を追っていたセイバー(アルトリウス)は、住宅街の屋根を駆け抜けながら柳洞寺に向かっていた。道中足止めに用意されていた竜牙兵達を見えない剣で打ち砕きながら、一歩も足を止める事はなかった。

 

 20匹近い弓を持った竜牙兵の遠距離攻撃も、射手を見ることなく両手で持ちかえながら振るう剣に弾かれ、足止めにすらならない。そして包囲網を容易く突破。すぐさま柳洞寺の長い階段の入口に辿り着く。その速度は、キャスターの想定していた物の2倍以上だった。

 オートで動かしていたキャスターは、その時まだ彼が此処に辿り着いたとは知らない。

 

 すぐに階段を上って綾香の救出にと階段に足を踏み入れた時、自身の前方で英霊同士がぶつかっている魔力を感じる。用心しながら、階段を駆け抜けた先で驚くべき光景を目にする。

 

 山門の近くの階段で2人の英霊が剣技で争っていたのだ。片方は長身の男性で、二本の刀と言う武器を持った侍風な人物。その剣技は冴えわたり、達人の剣術と言える。そしてもう片方は、非常に小柄な金髪の少女だった。だが、騎士の鎧に身に纏い、驚くべき事にセイバー(アルトリウス)と同じ見えない剣を振るう。

 2人は互いに剣を振りながら、火花を散らす。どうやら少女の方が山門を突破したいようだが、侍がそれを阻んでいた。

 少女の振るう剣は早くそして重い一撃だが、侍の持ちいる剣に威力を殺され何度も首を狙われるため、攻めあぐねていた。

 

 

(今は英霊の相手をしている場合じゃない。あの少女は非常に気になるが……綾香を救わなければ)

 

 目の前で戦う2人の英霊を突破する為、あえてセイバー(アルトリウス)は、激戦を繰り広げる二人の間を通過した。

 

「ん?」

「な」

 

 剣と刀の激しい斬り合いに突然飛び込んできたフードを被った存在。本の一秒にも満たない瞬間だが、侍と少女はセイバー(アルトリウス)を目で捉えていた。既に振るわれた剣は止める事は出来ず、あわやセイバーの体が切り刻まれるかと言う瞬間。

 

「すまない!」

 

 突然割り込んだセイバー(アルトリウス)は、風の鞘に隠された剣で少女の見えない剣と侍の神速の一太刀を弾き、彼等の剣を大きく逸らす事で通過する。

 

「ほお、良き剣の使い手だな」

「貴様は何者だ。その剣は」

 

 見事としか言えない強行突破で自身と鎧の少女を突破した顔をフードで隠した騎士に侍は、一騎打ちを邪魔された事よりもその技術に興味が湧いた。そして鎧の少女は、突然割り込んだ男の持つ透明の剣に、強い怒りを持ちながら問いかける。

 だがセイバー(アルトリウス)は、彼等にかまっている時間は無かった。綾香とのラインを辿ってもうすぐ傍に彼女が居るのが分かったが、その周りを二つの英霊が配置している。

 

「すまないが、今は語れない!」

「ま、待ちなさい」

 

 話す時間も惜しいと柳洞寺に飛び込んだセイバー(アルトリウス)を追おうとする少女を侍が刀で止める。

 

「邪魔が入ったが、そなたを通すとは一言も言っていないぞセイバー」

「其処を退けアサシン!」

 

 再び邪魔をされたセイバーと呼ばれた、10年前にも召喚された少女は今回のマスターである少年と突然現れた見えない剣を振るう騎士を追うために、アサシンとの激闘を再開した。

 

 

ーーーーーーー

 

 そして、キャスターから仮にも同盟相手である衛宮士郎の救出と敵マスターである沙条綾香を無数の矢で葬ろうしたアーチャー。彼の攻撃を察知したセイバー(アルトリウス)は、境内に入るなり最大加速で綾香の前に駆け付け、降り注ぐ無数の矢を全て剣で切り落としたのだ。

 

 当然。いきなり現れた正体不明の英霊をアーチャーが警戒しない筈がなかった。そして足止めをしたはずのセイバーが平然とこの場に駆け付け、自身の矢を”見えない剣”で打ち払った。どう考えても油断できない相手に違いなかった。

 

(まずいわね)

 

 しかし、一番状況が切羽詰まっているのはキャスターだった。ただでさえ、直接戦闘のスキルは高くないキャスター。それが至近距離で3騎士のうち2人と睨み合い、相手しなければいけないのだ。アーチャーの戦闘は、遠見の水晶などを用いて見ていたが、こちらのセイバーは未知数。

 一切の抵抗すら許さず、マスターから令呪を奪う算段だったが、赤毛の少年の挑発に乗ってしまい、セイバーの能力を甘く見てしまった。

 

「セイバークラスが2人か。全くもって度し難い状況になった物だ」

「セイバーが二人? あの山門の少女か」

 

 アーチャーとセイバーは、互いに動かないが警戒は一切怠らない。互いに背中に未熟なマスターが居るため、迂闊には動けない。そして隣でキャスターに注意を払い続ける。

 

(こちらのセイバーの性能は、坊やのセイバーより上なようね)

 

「アーチャー、セイバーが2人ってどう言う事だ」

「見てわからんか、たわけ。この聖杯戦争は、既にイレギュラーしかないのだ。エクストラクラスにクラスの被った英霊、それにあの男の剣。バーサーカーが2人出てきてもおかしくはないな」

 

 士郎は、アーチャーの言われて綾香を護る騎士の剣を見て、自分のサーヴァントと同じ見えない武器を持っている事、そしてセイバーの鎧に何処か似た鎧を纏っている。顔はフードで隠れて見難いが、ちらりと見えた顔は何処か見覚えがある。

 そしてアーチャーが零した言葉は、考えたくもない可能性である。ヘラクレスが二体など、どうあっても勝てる気がしない。それどころか、誰一人生き残れはしないだろう。そしてアーチャーの言うイレギュラークラスについては心当たりのない士郎。

 

 

 膠着した状況となり、ようやく事態が呑み込めた綾香は、セイバーの影に隠れながら彼に話す。

 

「セイバーこの場合、衛宮君は敵じゃないと思う」

「そうだね綾香。あの少年からは敵意は感じない。だが、アーチャーは油断ならない……気を抜かないで」

 

 セイバー(アルトリウス)が一番警戒していたのは、アーチャーだ。キャスターに対しては対魔力のあるセイバーが優位だが、遠距離戦を得意とするアーチャーに綾香を狙われてはまともな戦闘は困難。

 

 動けないのならとアーチャーがキャスターに話しかけた。だが両手に黒と白の夫婦剣を装備し、キャスターやセイバーが動いても対応する準備をしながらではあるが。

 

「所でキャスター。君のマスターとアサシンのマスターは手を組んでいるのか?」

「協力し合っているのか?」

「あぁ。境内を護るキャスター、そして門番を務めるアサシン、協力関係なのは明白だろう。まぁ珍しい事ではない、現にお前と凛とて手を結んでいる……どうやらあちらの姉妹も同じ感じだろう」

 

 アーチャーの言葉に士郎が説明を求める。アーチャーもそれに答えながら、既に3つの陣営が手を組んでいる状況を頭に浮かべる。柳洞寺に巣食うアサシンとキャスター陣営、未熟なマスターと凛のセイバーとアーチャー陣営、そして姉妹で協力するセイバー(?)とブレイカー陣営。これらが現在確認できる陣営だ。

   

「うふふ、あははは! 私があの犬と協力ですって? 私の手駒にすぎないアサシンと?」

「手駒だと?」

「そう。そもそもあの犬にマスターは存在しないのですからね」

「何?」

 

 キャスターが怪しく笑う。その言葉の意味を察したアーチャーが真相を突く。

 

「キャスター、貴様ルールを破ったな?」

「魔術師である私がサーヴァントを呼び出して何の不都合があるのです?」

 

 アーチャーの問いにキャスターは自慢げに返答する。サーヴァントによるサーヴァントの召還。それはどれほど聖杯戦争の根底を崩す事態か。宝具によって瞬間的に英霊を召喚する術はある。だが正規の英霊としてサーヴァントを召喚する例はない。そんな事が可能なら、聖杯戦争なんて成立しない。

 とはいえ第五次聖杯戦争は、既に十騎の英霊が参戦している段階で、ルールなどあってないようなものなのだが。

 

 

「サーヴァントがサーヴァントを呼び出したって言うのか!?」

「まっとうなマスターに呼び出されなかったあの門番は本来のアサシンではない。ルールを破り自らの手でアサシンのサーヴァントを喚ぶ、この土地に巣を構え、街の人間から魂を吸収する。自らは戦わず、街中に張り巡らせた目で戦況を把握する。

 セイバーなどの三大騎士クラスには魔術が効きにくい、魔術師のクラスである君が策略に走るのは当然だ」

 

 アーチャーの推察は概ね正しいだろう。それは隣で話を傍聴するセイバー(アルトリウス)と綾香もそう感じた。キャスターはセイバー(アルトリウス)とセイバー(アルトリア)と戦う事を避け、バーサーカーの相手をさせるために令呪の強奪を行う算段だったのだから。

 だが実際策は失敗し、2人の三騎士に囲まれる羽目になっている。

 

「その通りねアーチャー。ですが、聖杯戦争に勝つなんて事は非常に簡単ですもの。私が手を尽くしているのはその後について考えているだけ」

 

 そう言いながら、キャスターは杖を召喚し、構える。その動作にアーチャーとセイバーが戦闘態勢に入る。そして柳洞寺の境内に無数の竜牙兵が召還される。

 

「綾香、僕の後ろから離れないでくれ」

「うん」

「我々を倒すなど容易いか、逃げ惑うだけが取り合えの魔女が」

「おいお前」

  

 明らかに挑発するアーチャーを士郎が止めようとするが、目の前にいるキャスターは挑発が癪に障ったらしく、明確な敵意を向ける。

 

「ええ、ここでなら私にカスリ傷さえ与えられない。私を魔女と呼んだ者には相応の罰を与えます」

「ほう。カスリ傷さえ、と言ったな。では一撃だけ」

 

 突然やる気になったアーチャー。両手に夫婦剣を持ちながら、キャスター目掛けて掛け出す。キャスターも障壁を前面に展開するが接近戦の苦手なキャスターでは近接もこなせるアーチャーの相手は荷が重かった。

 ステップで魔法陣の盾を避け、後ろに回り込んだアーチャーは、左右の剣でキャスターを二度斬りつける。

 

「すごい……」

 

 その動きを見た綾香が口元を押さえながら呟く。

 

「いや、まだだ綾香」

 

 しかし、セイバーはキャスターの魔力が消えていない事を感じ、警告する。そしてアーチャーに斬り伏せられたキャスターの体が蝶の形で分裂、空中に無傷のキャスターがマントを蝶の羽のようにして浮遊していた。

 

「残念ねアーチャー」

「空間転移か固有時制御か…この境内なら魔法の真似事さえ可能ということか。見直したよキャスター」

「私は見下げ果てたわアーチャー。使えると思って試してみけどこれではアサシン以下よ」

「いや、耳が痛いな。次があるのならもう少し気を利かせるが」

「いいえ、さようならアーチャー」

 

 アーチャーは上空で、大規模な攻撃魔銃と複数展開するキャスターと睨み合う。今ので仕留められなかったのは、アーチャーとしても失敗だった。空中に居る相手に近接は不可能。ならアーチャーの特技である弓矢を使うしかないのだが、背後に衛宮士郎が居る時点で撃ち合いになれば、彼が間違いなく死んでしまう。

 それも悪くはないが……と考えつつ、キャスターと対峙する。

 

「本来なら撤退したいのだけど、そうもいかないね。今だけは協力しないかアーチャー」

「……いいだろう。あの魔女は少しばかり手が掛りそうだ」

 

 綾香の周りにいる竜牙兵を風王結界の解放で吹き飛ばし、更に高速の斬撃で次々に破壊したセイバー(アルトリウス)は、キャスターがアーチャーに放った紫の直撃すれば英霊でも死にかねない魔術砲撃を両手で持った剣で受け止める。対魔力Bと鞘に入った聖剣の強度で受け止めたセイバー(アルトリウス)。

 空に浮かぶキャスターを撃ち落とすのは骨が折れる上に、逃げようにも結界と竜牙兵を展開したキャスターの陣地からは楽に逃げられない。なので、遠距離攻撃能力を持つアーチャーとの共闘を持ちかけた。

 

 2人して武器を構えるセイバーとアーチャー。キャスターは忌々しいと思いながら、空中から砲撃を開始する。その砲撃を先程と同じく剣の腹で弾くセイバーと両手の剣で受け止めるアーチャー。2人は、キャスターに士郎と綾香を狙わせないため、左右に分かれてキャスターの気を引く。

 直接マスターを狙おうなどすれば、その瞬間セイバーかアーチャーを見失ってしまう。キャスターは武芸者ではないため、相手を見失えば殺される。それくらいはわかるキャスターは、セイバーとアーチャーに砲撃を向ける。

 

 2人はキャスターの砲撃の雨を掻い潜りながら、所々に配置された竜牙兵を武器で斬り倒す。

 

「女狐め……よほど魔力を貯め込んだな」

「魔力の運用と言う面では、彼女に勝てる英霊は居なさそうだ」

 

 セイバー達は、無尽蔵に発射される魔力砲の数と威力に驚く他なかった。既に50発以上発射されているのに一切の衰えすら無い。だが2人は脚を止める訳にはいかない。脚を下手に止めれば、衛宮士郎と沙条綾香の両者が狙われてしまうのだから。

 とはいえ逃げているだけでは、頭打ちになってしまう。

 

「仕掛けてみる」

 

 セイバー(アルトリウス)は、柳洞寺の瓦屋根の上を駆け抜けながら、風王結界の風圧と魔力放出で空中のキャスターに斬り掛る。当然そんな行動を見逃すはずの無いキャスター。

 アーチャーに向けていた砲撃のほとんどを真っすぐ迫ってくるセイバー迎撃に当てられる。

 

(思ったより激しいな)

 

 空中に飛び上がってしまったセイバー。空中での攻撃は回避不可能かと思われたが、魔力の放出を小刻みにしつつ、風王結界の微調整で空中での砲撃を回避。激しい弾幕を通り抜けながら、キャスターへと迫る。

 

「く」

「はっ!」

 

 弾幕をくぐり抜けたセイバー(アルトリウス)が、空中で浮遊するキャスターに剣を振り下ろす。キャスターはそれを受け止めんと障壁を展開。障壁とセイバーの剣が衝突し、激しい魔力の火花が発生する。だが、高度の高い位置にいるキャスターに迫るために推進力を使いきったセイバーが押し負けて、障壁を傷付けるだけで落下を始める。

 

「惜しかったわねセイバー」

「そのようだね。だが作戦は成功したようだ」

 

 落下を始めたセイバー(アルトリウス)を砲撃しようと杖を振るうキャスター。だがフードに隠れた口元が微笑んでいるセイバー(アルトリウス)。そして、彼の言葉の意味と、背後で感じる強力な魔力に振り向く。

 

「――― I am the bone of my sword(我が骨子はねじれ狂う)……偽・螺旋剣(カラドボルグⅡ)」

 

 キャスターの視線の先で、アーチャーが黒い弓とドリルのような剣を取り出していた。彼はそれを弓に構えると、弓を引いてキャスターを狙う。その込められた魔力は宝具のそれであり、洋弓ではなく和弓の構えで弦を引く。そして、真名解放と同時にそれを放つ。

 

 発射された矢は、凄まじい勢いでキャスターへと迫る。迎撃に砲撃を放ったキャスターだが、砲撃すら削り取って突き進む矢。障壁を展開するも、アーチャーの放った宝具の前では紙にも等しい。

 

 柳洞寺の中でのみ可能な空間転移で直撃を交わしたキャスター。しかし空間ですら削り取るカラドボルグⅡは、空間転移したその空間ごとキャスターにダメージを与える。

 

「きゃーーーーごふ」

 

 空間断裂に巻き込まれてしまったキャスター。彼女はどうにか境内に移動するも、右腕が無くなり、全身傷だらけで虫の域だった。そんなキャスターを見下ろすアーチャーと士郎。セイバー(アルトリウス)は綾香の傍に戻った。綾香は傷付き、虫の息のキャスターの姿に泣きそうになっていた。

 たとえ敵で、痛そうなその姿が彼女には耐えられなかった。

 

 

 

ーーーーーー

 

 一方、山門付近で戦闘するアサシンとセイバー(アルトリア)。2人は境内での激しい戦闘を感じながらも、目の前の敵と対峙していた。

 

「上は上で思惑通りとはいかぬらしい。

 こちらも主の危機だ、手の内を隠す余裕は無くなったが……この期に及んでも宝具を明かさないのだな。主が未熟者であるその点に賭けているということか。良い信頼関係だ。

 これは生半な手では崩せぬな。だがそれでは困る」

「頭上の有利を捨てるのか?何のつもりだ」

 

 アサシンは、セイバーと同じ段まで階段を下りる。その謎の行動にセイバーが警戒する。

 

「無名とは言え、剣に捧げたこの人生だ。死力を尽くせぬのならその信念、力づくでこじ開けようか……秘剣」

 

 独特の構えを取る侍。その瞬間、セイバーの未来予知にも迫る直感が、自らの死を知らせる。

 

「燕返し」

 

 刀が振るわれる瞬間、セイバーは風王結界の放出による推進力と地面を蹴った力で階段を転がる。

 

(遅かった!)

 

 だがセイバー(アルトリア)は、アサシンの振るった剣が、3本同時に襲いかかる。それは連続で振るった訳でもなく、同時に一本の刀を3本扱ったのだ。

3本の日本刀がセイバーの首を狙い、振るわれる。

 




 今回は、セイバー(アルトリウス)の本格参戦ですね。アーチャーとの共闘しましたね。私の小説のセイバー(アルトリウス)は、ビームぶっぱが気安くできない分、設定どおりに剣術に優れた英霊と言う感じです。
 ビームの威力と剣術が上のセイバー(アルトリウス)、ビームの制限が弱く、アヴァロンがあるのがセイバー(アルトリア)って感じですね。

 感想など頂けたら嬉しいです。

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