Fate/make.of.install   作:ドラギオン

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学園の魔術師達

 ランサーとの戦闘を終えた朝。ブレイカーは、胸の傷が完治しておらず、仕事を休んで休養を取っていた。アルカも魔力の使いすぎで疲労していたが、学校に行くと言った以上休めず、綾香やアンと一緒に登校することになった。

 今日は天気もよく、ブレイカーも休みたいと言ったため徒歩での登校になった。

 

「僕も霊体化して君達を守るよ」

 

 ブレイカーが傷の治癒に専念すると言ったので、セイバーが綾香の護衛についた。

流石に登校日なので部外者を連れる訳に行かないので霊体化が義務付けられた。

 装備としてブレイカーが使う英霊の気配を限りなく薄くするネックレスを借りたことで、彼が現界しなければ隠蔽は完璧だった。

 

「お姉ちゃん達と登校は久々だね」

「ん。ごめんね綾香……一緒に通えなくて」

『最近は特に酷かったよね。私達も学校行きたかったんだけど』

 

 アンとアルカは、申し訳なさそうにする。綾香は久々に見た二人の制服姿にやっぱり美人は何を着ても似合うなと感想を述べる。

 

(大丈夫、綾香も可愛いと僕は思うよ)

(お世辞はいいよ……わかってるから)

 

 どうにも姉達にコンプレックスがある綾香が心配なセイバー。だけど卑屈に捉える彼女を落ち込ませる結果になった。

 

ーーーー無事学校に到着した4人。綾香とアンは同じクラスなので教室に向かい、姉妹で同じクラスに割り振られない愛歌は、衛宮士郎たちと同じクラスの自分の席に座り、授業が始まるまでの間就寝した。昨日の魔力の使用と戦闘は、彼女の体にも堪えたのだ。

 

 そして教室に入ってきた同級生達は、クラスでもひと際目立つ天然の金髪を持つ愛歌の姿を見て驚く。

 

「あ、沙条さん今日は登校しているのだ」

「2週間ぶりか?」

「相変わらず気持ちよさそうに寝ているな。拙者も眠くなってきたで候」

「そうね、今日は温かいし、ふぁ、私も眠たくなって来ちゃった」

「藤村先生来るまで時間あるし、寝ようかな」

 

 と眠る彼女の姿に、自分達も酷く眠たくなってきたクラスメイト達。生徒会の柳洞と彼と会話していた衛宮士郎が教室に入った時、クラスメイトの半数が居眠りしていた。 沙条愛歌は、眠っているだけで周囲に影響を与える眠り姫の仇名を持って居た。眠る顔に癒される、なんだか眠くなるオーラを発している、これは眠れというお告げであると皆が口を揃えて眠るのだ。当然最後の言葉を口にした奴は、別の意味でお眠りになったのだが。

 

「なんだこれは。ガス漏れか!?」

「いや、たぶん違うぞ一成。ほら、沙条姉が来てる」

「またか、授業中ではないとは言え弛んでいる!」

「まぁまぁ。藤ねぇが来たらキチンと起きるんだから、許してやれって」

 

 皆で仲良く机に突っ伏すクラスメイトに柳洞一成は、怒りを露わにするが授業妨害することはなく、真面目に授業を受ける愛歌を知っているが故に強く言えない。一度文句を言った時「休み時間に休んじゃいけないの?」と反論され、遠坂凛とは別の意味で苦手なのだ。

 仕方ないと額を押さえながら座席に着く、やれやれと言った感じで衛宮士郎も座席についた。

 

 

「やっほー、みんなーおはよー! ってえぇ!?」

「ん、おはようございます」 

 

 授業時間になり、藤村先生が教室に入ると、クラスの全員(柳洞一成や衛宮士郎も含む)が机に突っ伏し眠っていた。そして唯一顔を起こした沙条愛歌が彼女に挨拶をする。

 

「あ、おはよう沙条さん。でこれは、いつも通りなの?」

「ん。皆眠たかったみたいですね」

 

 沙条愛歌は、自分のせいで皆が心地よく眠っている事に2年学校に通った今も気が付いていない。藤村大河もキチンと起きた彼女を叱る事も出来ず、あははと苦笑いするだけだった。

 その後、大河が今日は最近の冬木の現状から職員会議があると言い残し、自習だと言い渡された。

 そして、眠る皆を見ながらちゃんと起きなきゃだめよー、と告げて教室を後にした。

 

「く、不覚だ。よもや俺まで眠ってしまうとは」

「あの教室の雰囲気で眠くならない奴はいないって」

 

 それから二時間目になったが、次の授業も自習となった。愛歌は久々の学校なのに授業がないのは何か退屈だと思いながら、教科書を適当に開いていた。それぞれ目覚めたクラスメイト達も、時間を潰すことに専念する。アルカもクラスメイトから病気の心配をされたが、命に関る病気じゃないと言って、話題を変えて談笑する。

 そして昼休みに入り、アルカ(愛歌)はお弁当を持参してアンと綾香の居る教室へと向かった。

 

「綾香、アン、一緒にお弁当食べよ」

「いいよ」

『寝癖ついてるよ。また居眠りしたの愛歌?』

 

 3人はお弁当を持って中庭へと出かけた。その後ろ姿を凛が怒った目で見ていたが、アルカは特に気にしていなかった。そして三人でお弁当を食べ終えた時、遠坂凛が中庭に現れる。

 

「遠坂さん、どうかしたの?」

「綾香さんとアンジェラさんは、いいのよ。ただ、愛歌さんとお話がしたくって」

 

 凛は、一般人と誤認している綾香には普通に接しながらも、愛歌を睨む。睨まれた愛歌は、楽しい昼食を邪魔された事で不機嫌を顔に出していた。凛の誘いに乗って立ち上がった愛歌は、凛の誘った屋上へと脚を向けた。

 

ーーーーー

 

「それで何?」

「あんたね、いや衛宮君も含んでアンタ達……聖杯戦争を舐めてるの? サーヴァントも連れずに学校にのこのこ来るなんて」

 

 凛は、今朝聖杯戦争の恐ろしさを教えた衛宮士郎が平然と登校したことにも憤ったが、愛歌も同じく平然と登校した姿には呆れを通り越して脱力した。目の前で不機嫌な顔をする女は、聖杯戦争にやる気がないのではないかと疑った。

 

「別に必要ない。聖杯戦争は基本夜、サーヴァントだって意思があるんだから、自由にさせてあげるべき」

「実にサーヴァントに優しいマスターのようだな凛」

 

 既にブレイカーは家族として認識する彼女は、ブレイカーのプライベートを尊重する。その言葉を聞いたアーチャーが肩を震わせながら凛の背後の現界する。

 

「それは私が酷使してると言いたいのかしら?」

「そう聞こえたか? 自分の行いを見直せるマスターでよかったよ私は」

「うる”さ”い”」

 

 般若の様な顔で怒る凛に、アーチャーは肩を竦めてすぐに霊体化する。何のために現界したんだと凛が内心突っ込むが、目の前の愛歌が帰りたそうな目をしているのでお仕置きは帰ってからにする。

 

「もし私がアーチャーを貴方にけしかけたらどうするつもりだったのかしら?」

「ん。最悪令呪を使うけれど……」

 

---キンコーンカンコーン

 

 アルカが、別に自分は無防備ではないと凛に言おうとした。何故ならアルカはアサシンの疑似英霊であるアンを連れ、綾香はセイバーを控えさせているのだ。正直いえば過剰戦力状態である。そう伝えようとした時、予礼が鳴る。さすがに3時間連続での自習はないため、凛は今日はこれまでかと諦める。

 

「授業だから行くわ。けど、日が暮れてから会った時は、覚悟なさい」

「ん。どうも」

 

 教室に戻った凛の姿を見送ったアルカ。自分も教室に戻らないといけないため、会談へ向かう。その時、アルカの傍でセイバーが現界する。突然現れた彼に何故此処にいるのか尋ねるアルカ。

 

「綾香が君の事を護って欲しいと言ってね。アンさんが綾香についていてくれると言っていたから念のためにね」

「ブレイカーが居ない今。貴方に戦って貰う事になるけど、大丈夫セイバー?」

「問題はないよ。僕ら英霊はもともとそう言う存在だ。安心してほしい」

 

 セイバーがそう言うと「約束」と言ってアルカは、教室に戻った。そして葛木先生の社会科の授業を受け、本日の下校時間が早まったとの報告を受けた。そして夕方の下校時間となるが綾香が園芸部の用事をどうしても済ませておきたいと願ったため、アンと作業しに行った綾香を見送り、愛歌は教室で眠りについていた。

 

 

ーーーー

 

 夕暮れの学校で衛宮士郎は、生徒会室で昼食を取っていた際、彼が所属していた弓道部の部長である美綴綾子が行方不明であり、彼女と最期にあっていたのが友人の間桐慎二だと聞いて。凄く嫌な予感がしていた。慎二の妹は、間桐桜といい、ある時から自分の家に家事の手伝いに来てくれるありがたい少女だった。その兄である慎二は、少し性格に問題があるも、悪い奴ではないというのが士郎の評価だった。

 だが、聖杯戦争なんて儀式が行われている今、不安で仕方ない。何か手掛かりはないかと弓道部の部室を見るが、何一つ見当たらない。ただ、じっとしていられない士郎は、職員室にいる先生に美綴の事を聞きに階段を上ろうとした時。

 

 

「あれ? 遠坂」

「あきれた。サーヴァントを連れずに学校に来るなんて正気?」

 

 階段から士郎を見下ろす遠坂凛が居た。両手を組んで不機嫌が顔に出ているまま、士郎に話しかける。

 

「仕方ないだろ。セイバーは霊体化できないんだから。連れて来れない」

「それなら学校なんて休みなさい。マスターがサーヴァント抜きでノコノコ歩いているなんて殺して下さいって言っている様なものよ」

 

 凛は、昼休みに愛歌に告げた言葉を衛宮士郎にも向ける。愛歌の方は、実力を持った上で自分の持論を持っての行動だった。舐められている気はするが、あの女は凛のことを信頼しているのだ。だから不意打ちはしない。正面から叩き潰すと凛は決めているのだから。

 

「衛宮くん。自分がどれくらいおバカかわかってる?」

「な、馬鹿って、マスターは人目のある所じゃ戦わないんだろ? なら学校なんて問題外じゃないか」

「ふ~ん、じゃ聞くけど、ここは人目のある所かしら?」

 

 人目の多い所かと聞かれた士郎は周囲を見渡す。だが、下校時間を早められた学校は、既にほどんとの生徒が下校しており、人の気配がなかった。其処でようやく自分が言われている事を理解した。

 

「ようやくわかったようね。本当にアンタ達は、朝はあきれたのを通り越して頭に来たわ。特に貴方はあれだけ教えてあげたのに、どうして自分からやられに来るのかって」

「魔術刻印……」

 

 自分の左腕の袖をまくりあげ、既に起動させている魔術刻印を士郎に見せつける。

 

 

「そう、これが私の家に伝わる魔術の結晶よ。ここに刻まれた魔術なら私は魔力を通すだけで発動させることができる」

 

 魔術刻印は切嗣のものを一度だけ見たことのある士郎。魔術刻印は、その一族が研究して来た魔術の結晶であり、身体に刻まれる魔術書と同義だった。

 

「アーチャーは帰らせたわ。あなたぐらいここに刻まれたガンド撃ちで十分だもの」

「ガンド? 北欧の地味な呪いだろ?」

「そうね地味~な呪いよ」

 

 士郎の知っているガンドの知識は指を向けた先にいる相手に呪いを飛ばすという物。即死などではなく、体調を崩させたりなど、そう言った呪いである。指を相手に刺す事は失礼にあたるというが、ガンドが由来であるとも言われる。地味と言われならば味わってみるかと指先を士郎へ向ける。

 

「待て遠坂、お前正気か、此処学校だぞ。下手に騒げば誰がやってくるかわかったもんじゃ」

「その時はその時よ。私ね目の前のチャンスは逃さない主義なの。衛宮君には悪いけどここで仕留めさせてもらうわ。それに、今日みたいにフラフラされてたら私の神経が持ちそうにないし」

「だから待てって大体俺は遠坂と戦う気なんて」

「あなたにはなくても私にはあるの! 良いから覚悟なさい! 士郎!」

 

 これは聖杯戦争。決して遊びではないのだ。なのに覚悟もできず、身を護る事もしない愚かものに慈悲をくれてやる義理はないのだ。そうして凛は物理的ダメージのあるガンドを放つ。指先から放たれた赤黒い弾丸は、反射神経から廊下に飛んだ士郎の足場を打ち砕き、避けた士郎にその威力から生命の危機を感じさせる。

 

 

「これがガンド!? 俺の知ってるのと違う。殺す気か!」

「だから、そうだって言ったでしょ! 動くな」

 

 階段を下りてきた凛は、距離を取るため廊下を走る士郎目掛けて5発のガンドを発射する。発射されたガンドを避けようとするが、一発が肩を掠める。それは呪いなどではなく、銃弾よりも強力な凶器だった。

 

「そんなの当ったら、死んじゃうじゃないか!?」

「痛いのが嫌なら止まりなさい! そしたらすぐ楽にしてあげるから、当たり所が悪いと死ぬわよ!」

 

 殺す気しか感じない弾丸を撃って置きながら、とんでもない事を口走る凛。逃げる士郎を走って追いかけながらガンドを乱射する。士郎が真横の階段に飛び下りた事で外れたガンドは、学校の壁を抉り小規模の爆発を起こす。その威力は喰らえば、一撃であの世に行きかねない魔力の大砲に等しい。どうにか階段の半分を飛ばして着地した士郎は背後に舞う土煙を見て恐怖する。

 

「殺意意外感じない音だぞ!」

「うるさい! ならちょこまか逃げるな。標的が動き回るから熱が入るんじゃない!」

 

 士郎を追いかけるため、凛は両足を魔力で強化。階段の壁を蹴る事でショートカットし、姿を捉えた士郎にガンドを発射する。発射されたガンドは、士郎の右脇腹を掠り、衝撃で転倒する。直線に逃げては危険だと感じた士郎は、起き上ってすぐ真横にあった自分のクラスの教室に掛け込み、教室のドアをロックする。

 其処へ追いついてきた凛は、扉がロックされ入れない事に激怒する。そして、袋のねずみになったのは士郎だと思い知らせるため、魔術を行使する。

 

「Das Schliesen.Vogelkafig,Echo!」

「あいつ結界を……って沙条!」

 

 士郎は、周囲の空間が何かに覆われるのを感じ窓を突き破ろうとするが、特殊な魔力の力場に阻まれる。何処か逃げられる場所はないかと探した時、教室の隅で眠っていたクラスメイトの沙条愛歌が居た。また眠っていたのかと言うツッコミよりも先に、教室の外で凛が魔力を使用している事が気になる。

 凛は中に民間人の沙条が居る事を知らず、頭に血が上って攻撃魔術の使用を開始していた。

 

「Fixierung,EileSalve!」

「沙条、ごめん」

「んあ?」

「同調、開始(トレースオン)!」

 

 士郎は、熟睡する沙条愛歌の体を抱え、突然抱えあげられた事に驚く愛歌の机をひっくり返し、2人でその陰に隠れる。そして成功率の低い強化の魔術を行使し、机の耐久度を上げる。それは見事に成功し、机の耐久度は飛躍的に上昇する。

 

 そして沙条愛歌を抱えて机を盾にした時、廊下側の壁に紅い魔法陣が発生、無数のガンドが教室中に乱射される。それは点ではなく面での攻撃。強化された机が魔弾を受け止めるも、徐々に罅が入り、このままでは自分だけでなく巻き込まれた沙条も死んでしまう。

 そんな事衛宮士郎と言う人間は許せなかった。何か手はないかと強化の魔力を行使しながら、策を探す。だが、士郎が策を考えている間に魔弾の雨がやむ。

 

 

「魔力切れか?」

 

 数十秒間何百発もの魔弾を発射したのだから、当然といえば当然かもしれない。すぐに手元の転がった机の脚を掴み、それを強化する。成功率の高くない強化が二回連続で成功した事は、この場合においては非常に幸運だった。

 

「衛宮君邪魔」

「ちょっと待て沙条」

 

 まだ安全とは言えない状況で、士郎の腕に抱かれていた愛歌は、彼の胸を殴って退けと言う。目覚めてから数秒間の期間に状況を察したアルカ(愛歌)。昔から嫌いな衛宮士郎に護られる状況が腹立たしかったのか、彼を押しのけ立ち上がる。教室は見事に荒れ果てており、残った魔力の痕跡から遠坂凛が暴れていると推察した。

 危険な状況で立ちあがり眠そうな目を擦りながら、周囲に張られた結界を解読する。士郎は危ないから下がっていてくれと民間人扱いするが、実質魔術師としての腕はアルカが圧倒している。

 

 慌てて愛歌を伏せさせようとする士郎だが、廊下の方向から窓を突き破って青い宝石が投げ込まれる。それは士郎の目の前強い光を発する。本能的にそれが爆発するたぐいだと察した士郎。愛歌の腕を掴んで、教室の外に逃げようとした士郎を彼女は「触らないで」と腕を解き、空中に浮かぶ爆発寸前の宝石を掴み取る。

 愛歌の手に握られた宝石はとたんに威力を失う。

 

「沙条お前」

「これやっぱり凛のね。仕掛けて来たんならやり返してもいいのね」

「お前何言ってるんだ」

「大人の話よ、衛宮君。参考魔術・宝石魔術、intensive einascherung(我が敵の火葬は苛烈なるべし)」

 

 アルカは魔眼を起動し、己に内包されたとある人物の記憶と魔術を引き出す。そして手に持った宝石に籠った魔力を炎に変換して廊下の外にいるである凛へと投げ返す。

 

 

ーーーーー

 

 凛は、教室に立てこもった衛宮士郎を閉じ込めガンドの掃射で止めを刺そうとした。だが、何らかの手段で防御を講じたのだと手応えの無さを感じる。ならあぶり出すまでと内部に宝石魔術を込めた宝石を投げ込んだのだが、何時まで経っても発動しない。

 

 何故だと思い、中の様子を探れば衛宮士郎が「沙条、それをどうするつもりだ」と焦った声が聞こえる。沙条と聞き嫌な予感がした凛は彼が立てこもった教室の表札を見る。其処には2年C組と書かれていた。そのクラスは、遠坂凛の天敵とも言える沙条愛歌が在籍するクラス。

 そして中から聞こえた声が、彼女の生存本能を刺激。自分でもわけのわからぬまま横に飛ぶ。さすれば教室の壁が強大な炎によって突き破られ、廊下が火に包まれる。それは、自然の火ではなく、魔術による炎。

 

「やばい、こんなタイミングでうっかりしてた」

「おはよう凛。まだ日は暮れてないけど、此処でやるのね?」

「虎の尾を踏んじゃったか」

 

 炎で突き破られた壁から現れたのは、右手にキャリコを握った沙条愛歌だった。炎に照らされながら、金髪を揺らす正真正銘の魔術師。七色の瞳は魔術師にとって天敵とも言える能力を持ち、何故かあらゆる魔術に精通する怪物。凛は自分の仕出かした事なのだから、反撃した愛歌に怒りを向けるつもりはなかった。

 だが自分に銃を構える愛歌に凛もガンドを構える。

 

 

「ちょっと待てって遠坂に沙条、何がどうなってるんだ」

「はぁ。ハッキリ言っておくわ。沙条愛歌は魔術師でマスターよ。それを私達は巻き込んだのよ」

「沙条が魔術師でマスター!?」

「衛宮君煩い。その口閉じられないなら、風穴開けるわ」

 

 

 凛に銃口を向けていたアルカは、状況が呑み込めていない士郎に左手に新たに作り出したキャリコを向ける。高校生、それもか細い愛歌の手に相応しくない武功な銃機を次々作りだす姿に士郎は混乱しつつ、強化したパイプを向ける。

 遠坂凛も衛宮士郎よりも沙条愛歌をどうにかしなければいけないと神経を集中する。

 

「凛。衛宮君は殺してもいいの?」

「な、だから待てって、俺は二人とも争うつもりなんて無いんだったら!」

「……く」

 

 両手に銃を構えて、衛宮士郎の手に令呪がある事を把握、そして昼休みの会話からも衛宮士郎がマスターとして参戦していると判断。この場で殺しておくのが吉と判断する。アルカも凛と同じ無関係な人間を巻き込んで平気と言う情操教育はされていない。むしろ、魔術に人を巻き込まないのが信条とも言える。

 だが、衛宮士郎は魔術師で、マスターなのだ。この場で始末しない理由はない。彼は綾香を積極的に殺しに来るとは思えないが、正義の味方などと言う幻想を求める彼は、必要なら綾香を殺すのだ。

 

「衛宮君、最期の忠告よ。令呪を破棄しなさい。最悪腕の神経を剥がすことになるけど、捨てなければ愛歌は確実に貴方を殺すわ。それなら」

 

 凛は、三つ巴になった状況で、衛宮士郎の令呪を捨てろという。それはマスター権の破棄で、マスターでない彼なら凛も愛歌も狙う理由がなくなる。それは凛が衛宮士郎と沙条愛歌から護る最善の策だった。目の前の女は、やると言ったら引き金を躊躇なく引くのだ。

 

「だめだ それは俺にセイバーを裏切れって言ってるのと変わらない」

(この馬鹿)

「ん。じゃさようなら、正義の味方さん」

「衛宮君!」

 

「キャーー!」

 

 最後に与えられたチャンスを棒に振った大馬鹿。アルカは、躊躇なく引き金を引く指に力を込める。だが、銃弾が発射される前に、ある人物の悲鳴が聞こえた事で3人の動きが止る。

 

「遠坂、沙条、いまの」

「悲鳴、よね? それに、今のは綾香さん」

「凛! 今は見逃して!」

 

 綾香の悲鳴を聞いたアルカは、両手の銃を投げ捨て、一階への階段に誰よりも早く駆け抜ける。その後を凛と士郎も追いかける。切羽詰まった表情で愛歌が向かうのは当然だ。悲鳴の主は、彼女の妹である綾香の物だったのだ。

 

悲鳴の発生源にたどり着いた愛歌は、無事な姿の綾香にほっと安心する。だが、綾香の前には倒れた女生徒が居りアルカの目で見た所、生命力が枯渇していた。

英霊による魂食いをされたと判断し、学校内で英霊が生徒を襲っていると理解した。

 

「お姉ちゃん」

「無事ね綾香。アンは?」

「雑木林の方、私に襲い掛かってきた女の人と」

 

どうやら綾香とアンは、女生徒を襲っていた英霊と遭遇。目撃者として襲われるも、アンが戦闘に突入、英霊を雑木林に追い込んだと。

 

「沙条、無事なのか? この子は……息はしてる」

「大丈夫衛宮君?」

「あぁ気を失っているだけみたいだ」

 

遅れて駆け付けた遠坂凛は、倒れた女生徒を見て何も解っていない衛宮士郎に怒鳴る。

 

「そんなわけないでしょ!中身が空っぽだってわからない!?」

「からっぽって……」

「魔力、もっと極端に言えば生命力ね……放っておいたら死ぬわ」

 

死ぬと聞いた衛宮士郎は、なら救急車と考えるも、生命力の補填など医療では出来ない。凛はすぐに女生徒の治療を開始するため、倒れた少女に寄り添う綾香と士郎を退かせる。

 

「このくらいなら手持ちの石でなんとか」

「ん……あれは、ブレイナーか」

 

女生徒の治療を開始した凛。それを何もできず眺める士郎だが、雑木林で金属の衝突する音が聞こえ、目を凝らせば同級生の女生徒が何かに襲われていた。

 

「遠坂。その子を任せた」

「綾香も此処に居て」

 

衛宮士郎とアルカは、英霊と戦うアンの救援に向かった。二人して走り出した姿に凛と綾香はそれぞれ追いかけそうになるが、女生徒を放置できない。

 

「遠坂さん、お姉ちゃん達なら大丈夫」

「そうね。というか貴方も聖杯戦争は知ってたのね」

「うん」

「とにかくこの子を助けて、あの馬鹿を助けにいくわ」

 

-------

 

「貴方は何者ですか」

『答える義理はない』

 

雑木林の中では、両手に釘のような形状で鎖の付いた短剣2本を振るい、ナイフを持つアンと切り合う女性。170を越えた長身で、長い髪と眼帯をし、グラマーな体型をボディコンに包んだ彼女は紛れもない英霊だった。

 

「不思議です」

『重い』

 

月霊髄液という礼装に憑依したアサシンであるアン。当然ながら正規の英霊よりはスペックで劣る。元々暗殺者であり正面戦闘を得意としない事が歯車をかけて弱体化させている。

目の前の女性の攻撃には、速度で劣ることはないが威力に押される。一撃受ける度に重く、身軽に足技も絡めてくる相手にアンも手間取る。

 

『舐めないで』

「いい動きをしますね」

 

アンも負けじと、ナイフを投擲して牽制。ナイフを叩き落とした英霊に距離を積め、右足を水銀の刃へと変えて蹴る(斬る)。それを見えていない筈の英霊は、柔らかな体を大きく曲げて、回避。逆に回し蹴りを繰り出されたアンは両腕をクロスしてガードする。

しかし衝撃を殺しきれず、背後の木に激突する。そして受け止めた両腕が水銀へと変化し形を保てなくなる。

 

「はぁ」

「新手ですか」

 

ピンチになったアンを助けに来たのは、強化した机の足を振り回す衛宮士郎。急に襲われたライダーは、士郎の攻撃を回避し、後ろに飛ぶ。だが、それを見越した

かの様に、アルカが投擲した黒鍵が飛来する。

 

「これは」

「ブレイナー、無事か? その手は!?」

「アン、ご苦労様」

『ごめんなさいアルカ。魔力をお願い』

 

士郎は、両腕が液状化した留学生の少女に驚く。恐らくサーヴァントの仕業だと考え心配する。だが、目の前で沙条愛歌とアンがキスした光景に驚く。何故戦闘中に二人の女生徒が接吻しているのかわからない。そういう関係なのかと勘違いするが、英霊に教われている状況ですることでは無いとわかる。

 

「な、え、お前ら」

「ぷは、大丈夫?」

『ごめんね。今すぐアイツを倒すから』

 

 武器を構えたまま、顔を赤くする士郎。凄く当然のことのように振る舞い、口付けを止めたアルカとアン。キスを終え立ち上がった二人。アルカは黒鍵を構えるが、彼女の前に出たアンは、両腕を水銀の刃へと変える。

 

「手が」

『衛宮君、説明している時間はありません』

「まさか、何速い」

 

 体液の交換で魔力供給を受けたアンは、先程までと違い素早く勢いの載った斬撃を繰り出していく。英霊の女性も両手の短剣でそれらを防ぐが、何処からか取り出したドクロの仮面を着けたアンの動きは熟練の暗殺者のそれだった。

 重くはないが、鋭く油断できない攻撃を連続して繰り出される。速さと鋭さに特化した暗殺者の刃は、英霊の注意力を奪っていく。さらに注意力をアンに向ければ、アルカが黒鍵を投擲するのだ。

 

「厄介ですね」

 

 そしてさらに、衛宮士郎も手に持った武器で何度も斬りかかってくる。同時に3人の相手は、弱りつつある英霊の女性には難しかった。何より戦いなれた水銀の少女と黒鍵の少女のチームワーク、そして独自のリズムで攻め混む士郎は、戦いにくい他なかった。

 さらに水銀の少女は、体を切り裂いても全身が水銀のため、ダメージにならない。

 

「ブレイナーさん、あんた。どうなってるんだその体」

『企業秘密です』

 

前衛をするアンと士郎は、どうにか協力しつつ戦う。当然切り裂かれても平気なアンに驚くも、アンは優しい笑みを向けて答えない。

 

「衛宮君、愛歌、無事?」

 

さらに追い打ちのように、治療を終えた凛がガンドを撃ち、同じく追い付いた綾香も薔薇の蕀を利用した攻撃用の黒魔術を発射する。

 

前衛2人に援護が3人という状況になった英霊の女性は、部が悪すぎると雑木林の木の影に隠れ、霊体化する。

彼女の隠れた木は、投げられた黒鍵と水銀のナイフ、ガンドと黒魔術の蕀が突き刺さっていた。

 

『英霊は消えたわ』

 

英霊の気配が消えたことをアンが告げ、ようやく戦闘が終わる。

 

「さっきの奴、サーヴァントね?」

「あぁ、おそらく」

 

凛と士郎は、逃げた英霊について話す。そして綾香は自分を守って戦ったアンに抱き付く。

 

「ごめんねアン姉さん」

『妹を守るのは、姉の勤めだから』

「ん。無事でよかった……アンもありがとう」

『どういたしまして』

 

隣で抱擁する三姉妹を見た凛と士郎は、うやむやになった状況でどうすればいいのか悩んだ。

 

「衛宮君、マスターの姿は見た?」

「いいや。見てない……そんな顔するな。正体は掴めなかったけど学校に俺たち以外のマスターがいたってことじゃないか」

「そうね。愛歌には別の英霊がいるし、沙条さんには令呪がない以上、他にマスターが居るわ」

 

愛歌は、正面から自分達を打ち倒すタイプ。元々候補には入っていなかった。それが先程の英霊との戦闘で証明された。

 

「遠坂、あの子は」

「大丈夫よ。沙条さんにも手伝ってもらったから、大事には至らないわ」

「そうか、よかった」

 

士郎はそう言いながら、凜から距離を取って彼女を見つめる。

 

「な、何よジーっと見て。言っとくけど私じゃないからね!」

「わかってる。遠坂があんな真似する筈ない。……俺が言ってるのはさっきの続きだよ。やるのか?」

 

士郎は、先程襲ってきた凜に続きをするのかと尋ねる。それを聞いていた愛歌も姉と妹の無事を喜ぶことを中断して、やるなら受けて立つと凜に黒鍵を構える。

 

「はぁ……やらない。今日はここまでにする」

「いいのか」

「えぇ。学校に手当たり次第に生徒を襲うサーヴァントがいるんだもの。貴方と争ってる時間はないわ」

 

士郎は凜の言葉を聞いて机の足をおろす。既に強化は終わっていて只の鉄の棒で勝てる気はしなかった。

 

「愛歌には、謝っとく。あんたを巻き込んだのは事故だったの。本来は正々堂々勝負したいんだけど」

「お姉ちゃん、遠坂さん謝ってるよ」

『どうするのアル……愛歌』

 

完全に非を認めた上で、謝罪した凜。アルカも黒鍵の刃を消し、黒鍵の持ち手を分解した。

 

「ん。わかった」

 

とりあえず放課後の戦闘は、終幕した。そして、学校内で魂食いをさせるマスターの存在と英霊が確認されたことで凛が士郎と沙条姉妹に提案した。

 

「とりあえず、休戦しない?」

 

それが遠坂凜の提案だった。

 

 

 

 

ーーーーーーー

 

 その後、遠坂邸へ招かれた衛宮士郎。

 

「なぁ遠坂、沙条達は本当に良かったのか?」

「一応休戦には応じたくれたんだし、愛歌は嘘つかないから平気よ。それよりも、衛宮君、愛歌に何かしたの? 衛宮士郎との同盟はお断りするって、アイツが他人に此処まで拒絶するの初めて見たわ」

 

 凛の休戦に対して快く受け入れた衛宮士郎と違い、沙条姉妹は休戦だけに応じ、衛宮士郎の陣営との協力は愛歌が拒否した。そのあまりな言い方に士郎も自分が何かしたのか尋ねるが、愛歌は取り合わず、妹とアンを連れて帰宅して行った。

 

「わからないんだ。昔、一度だけ話した事があったけど、それ以来、どうも嫌われてるって言うか」

「敵対しないって言ってくれただけ幸いと捉えましょう。それよりも問題は、学校にある結界とサーヴァントね」

 

 応接間のソファーに座った士郎と凛は、学園に現れたサーヴァントと結界について話を始める。

 

「私達と愛歌意外で、学校にいるもう一人のマスターは先程のような事を前から繰り返しているのよ」

「何でそんな事するんだ」

「聖杯戦争に勝つためでしょ。生徒みんなを生贄にして自分のサーヴァントを強くしようって魂胆よ」

「正気かそいつ?」

 

 士郎の感想はもっともである。全校生徒全員が死亡などすれば、神秘の秘匿など不可能。むしろ聖杯戦争自体が続行不能になる可能性がある。相手はそんな当たり前のことすら理解していないのだ。

 

 

「どうだか、けど学校には既に結界が張られてる。一度発動すればあの敷地に居る人間は皆衰弱死するでしょうね」

「だから、休戦か」

「そう先にあっちを片付けておきたいの。だからそれまで休戦して、敵を倒すまで二人でさっきのマスターを探さない? 本当は愛歌も手伝って欲しかったんだけど、一応敵マスターだもの、無理強いは出来ないわ」

「だな。遠坂が力を貸してくれるなら頼もしい」

 

 学校でも言われた停戦協定。それは同じ学校の生徒と戦いたくない士郎にとっては僥倖だった。

 

「別に私は、貴方に力を貸す訳じゃないわ。休戦協定を結んだだけよ? けど、あなたが私を裏切らない限り私は衛宮くんを助けるから」

 

 あくまで停戦協定だからねと念を押しつつも、士郎の嬉しそうな顔に困る凛。自分で言うのも何だが、自分を殺そうとした相手を何故此処まで信頼できるのだろうか。

 

「なんだ ならずっと一緒じゃないか。よろしくな、遠坂」

「ふん、短い間だろうけどせいぜい役に立ってよね」

 

 そして、学園の結界に対抗するため、衛宮士郎と遠坂凛との間で停戦協定が成立した。

 




 長めになりましたね。ライダーさんが原作より不憫な目にあっている……。凛のうっかりで、怒れるアルカ登場寸前でしたね。

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