Fate/make.of.install   作:ドラギオン

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 改めて沙条家の補足をしておくと、アンだけは戸籍が違いますが、沙条家では長女的な立ち位置です。アルカ(愛歌)が次女で、綾香が三女になります。


アルカ&ブレイカーVSランサー

「後5分ほどで家に着く。どうした黙りこんで」

「……あのアーチャー、嫌い」

「そうなのか? 何が嫌いなんだ?」

「……わからない。けど、あのサーヴァントの何かが嫌い。

 ブレイカー、何かが付けて来てる」

 

 アーチャー達から離れる名目で霊体化した2人。近くに止めていたブレイカーの愛車に乗車し、家に向かって国道を走っていた時だ。車窓から夜の冬木を眺めていたアルカがある物を目で捉える。ブレイカーもサイドミラーで後方を確認すれば、この車を追いかける青い人影が映る。青い人影は手に紅い槍を持っていることから、沙条家に襲撃したランサーであると車内で2人は話し合う。

 

「完全に俺らを狙ってるな」

「ランサーは殺す。綾香を殺そうとした相手だから……許さない」

 

 七色の目に絶対零度の殺意が宿る。運転席に座りながら運転するブレイカーの背筋にも冷たいものが走る。厄介なスイッチを押したランサーの不運さと、それに振り回される自分の未来にげんなりする。

 

「で、どうする。家で迎え撃つのか?」

「近くの川辺で戦う。一つだけ作戦を考えた」

 

 後部座席に座るアルカが、運転席のブレイカーに耳打ちする。それを聞いたブレイカーが嫌そうな表情をしながら頷く。根本的にブレイカーが死なない設定で作戦を立てる彼女は、無理難題を次々にブレイカーに背負わせるのだ。

 

「本気で言ってるのか?」 

「ん。本気」

「あ、っはい」

 

 10年間も一緒にいればアルカがどんな性格かは分かる。どうあっても自分は逃れられない運命だと言う事も。仕方なしに車を川辺の駐車場に止め、車から降りる二人。2人が車から降りるのを待っていたかのように、ランサーが鉄塔の上から降りる。アルカが戦闘の場所に選んだのは、川の運動場にある野球場だった。

 

「で、お話は終わったかよ。9騎目のサーヴァントとマスターさんよ。たくこの聖杯戦争はどうなってんだろうな」

「お陰さまでな。殺し合いに来たって解釈で良いのかアンタ」

 

 飄々とした人物だったランサーは。肩に槍を持ったまま2人が出てくるのを待って居たらしい。だが、相手と会話をするブレイカーと違い、アルカは容赦なしに黒鍵を投げつけた。開幕を切るのがマスターだと思っていなかったランサーは、真っすぐに飛んでくる黒鍵を槍の柄で全て弾くが、それはブラフだと理解していた。黒鍵を投げた後すぐに両腕にキャリコを構えたアルカは容赦なく呪いの弾丸を連射する。

 機械のギミックを用いた銃弾は、凄まじい反動を伴いながらもランサーをハチの巣にせんと飛来する。それらをランサ―特融の俊敏性で見切りながら、槍を激しく回転させ、全て弾き一歩で距離を詰めたランサーが突きを放つ。到底人間の反応速度では対応できず、刺された後には刺された時が付く前に絶命する一撃。

 

「ひゅー、今のを躱すたぁ良い目持ってるな譲ちゃん」

「お前は許さない」

「あれ、俺達は初対面の筈だろ?」

 

 ランサーの突きを、急に倍速で動いたアルカがバク宙で回避。そして、両手のキャリコの弾幕を張りながら、距離をとる。固有時制御の発動がワンテンポ遅れて居れば、アルカの頭部は原型を失っていただろう。それでも一撃を回避したアルカをランサーは素直に賞賛していた。英霊の一撃を回避し、あまつさえ戦意を失わないのだ。

 

「綾香を傷付けたあなたを許さない」

「綾香? だれだそりゃ」

 

 片手のキャリコを黒鍵へと変えたアルカは、銃身をランサーに向けながら七色の魔眼を使用する。全てを見透かされている様な違和感がランサーに走るが、何より気になって仕方ないのがマスターが戦っているのを見学しているサーヴァントだ。先程から静観している男が不可解で仕方ない。

 とはいえ、骨のある上に良い女であるマスターの相手は、素直に楽しいと感じていた。

 

「私の妹よ。私の留守に妹を殺そうとするなんて、いい度胸ね英霊」

「うーん、あぁ。あの眼鏡のお譲ちゃんか」

 

 ランサーは最近口封じに向かい、2騎目のセイバーを召還した少女を思い出す。その少女と目の前の少女が姉妹だと言われても、髪の色から目の色まで何から何まで違うのだ。ランサー以外でも二人を結びつけることはできないだろう。だが、アルカが何故自分に怒りを向けているかは理解出来たランサー。

 まだまだ、戦う気のマスター相手に槍を構え、その紅い矛先を向ける。紅い猟犬のような目は、アルカを完全に獲物として捉えていた。彼女の抵抗を全て凌いだ上で、止めを刺そうと考えていた。当然途中で英霊が邪魔をする筈だと目論み、意識を両方へ向ける。

 

「で、お姉ちゃんが妹の仇を討ちに来たってのは分かるが、其処のアンちゃんはつかわねぇのかい?」

「貴方は私が殺すから。死になさい猟犬」

 

 そう言って銃を構えたアルカのキャリコを、アルカが反応出来ない速度で振るった槍が切断する。銃身を真っ二つにされた銃を見て、すぐにもう片方の手に持って居た黒鍵を振るうアルカ。だが、生粋の英霊であるランサーに生半可な接近戦は自殺である。

 

「っ」

「今、狗つったか? 誰かから俺の正体を聞いたのかよ?」

「私の目は、相手の宝具であろうと性質を見抜けるの。そんな槍を持つ英霊は、一人くらいしか知らない」

「そうかよ。いいね、お譲ちゃんは結構楽しめそうだ」

「そう」

「じゃ、今度はこっちから行くぜ」

 

 今度は自分からだと槍の岩突きで頭部を狙い、次から次に取り出す黒鍵でガードするアルカ。明らかに遊ばれていると理解しつつ、黒鍵での近接戦闘へと持ちこむ。それからアルカが黒鍵を投げては、槍で切り落とされ、連続で振るわれる突きを黒鍵の刃で弾く。卓越した黒鍵の使い手のように自由自在に戦うアルカにランサーは更に評価を上げて行く。二十歳にもなっていない女が、どう言った訳か魔術と近接戦闘の両方を、英霊に振るえるまで昇華しているのだ。

 全力ではないと言え、先程から狙い澄ましたように繰り出される剣技は見事だと言える。

 

(強くて良い女ってのはやっぱ、悪かねぇな)

 

 しかし本腰を入れたランサーは、アルカの武器全てを叩き落し、突きを2回はなった後、足元を狙った大振り薙ぎ払いを繰り出す。突きを固有時制御と魔術による強化でどうにか回避するも、足元の攻撃をかわすために飛んだ所を必殺の突きで狙われるアルカ。

 空中では回避できないため、ランサーはこれで締めだとブレイカーを見る。

 

(さぁお前の出番は作ってやったぜ)

 

 手加減しているとはいえ、アルカは良く戦っている方である。英霊相手に接近戦を挑んで、1分近く戦えているのだ。彼女は十分に戦った、そろそろお前も遊びに来いよと視線をブレイカーへ向ける。だが、視線を受けたブレイカーは腕を組みながらも右手の指で何かを指さす。

 

「参考封印指定『流星』、流転の星・穿て」

「ぬお」

 

 槍で突かれる筈だったアルカは、自信を以前使った事のある流転の星として、空中で方向転換して槍を回避する。そして、先程からランサーに弾かれた弾丸や黒鍵に魔力を通し、彼女が指定した相手に追尾し続ける流転の星として射出した。それぞれが魔力光を発しながら隕石として、ランサーへと360度から突き進む。ランサーの対魔力を考慮して、籠める魔力を多くしたことで発生が遅れたが、ランサーの反応からこれらすべては彼に通用すると判断した。

 

 360度から襲い来る流星群は、ランサーの速度を持ってしても回避不可能。相手が油断するなら、その油断を最大活用するのがアルカの戦術である。そして避ける事も出来ないランサーは、流星群の衝突で起こった魔力の爆発に巻き込まれる。

 

「はぁ、はぁ」

 

 激しい爆撃を受けるランサーの周囲は、爆発でクレーターが出来ていた。これだけの爆発に巻き込まれて、ランサーが無傷な筈はない。土煙が舞う中、次の手段を考案していたアルカは、驚く羽目になった。

 

 

「今のは一本取られたぜお譲ちゃん。面白い魔術を使うじゃねぇか」

「結界のルーン」

 

 ランサーは無傷だった。対魔力を考慮しての大火力版だったのだが、ランサーはルーンの魔術を使用していた。彼は流星が直撃する前に自身の周りに結界を施し、その攻撃を防いだのだ。そのルーンもアルカの魔眼でも理解が難しかった。現代のルーン魔術のどれにも当てはまらないその文字の正体をアルカは解析できなかった。

 だが、ランサーは凄く楽しそうに犬歯を見せて笑う。

 

「次は何見せてくれんだ。お譲ちゃんが強いのは認めるしかねぇな。実際今のはやられてたかもしれねぇしな」

 

 

「はぁ、はぁ」

「……やっぱ無理だろマスター。 悪いがランサー、今度は俺が相手する」

「そうか、ちょっとばかし惜しいが、お前も楽しませてくれんだろうな」

 

 明らかに魔力を使い過ぎているアルカを見かねたブレイカーが割って入る。むしろ、魔力切れ以外では出てこないつもりだったのかとランサーは考えるが、アルカの実力を見れば、完全に無謀とも言い難い。むしろ、マスター対決になった場合、全ての英霊は気が気でないだろう。そして、今度は自分が戦うと宣言した男の放つ気は、明らかに戦いなれた猛者のそれだった。

 最高の獲物が来たと、今までで一番鋭く槍を構える。その体勢から振るわれる槍は全てが一撃必殺であり、その使い手は百戦錬磨の英霊。その組み合わせだけで敵はいなかった。

 

「武器を出す時間位ならやるぜ兄さんよ」

「いらない気遣いだな。むしろ、俺には手を抜くなよ」

「!?」

「ははは」

 

 武器を持っていないサーヴァントに気を利かせたつもりだったランサー。だが、全身に淡い輝きの刻印を浮かび上がらせたソイツは、地面を強く蹴ってランサーの間合いに一瞬で侵入した。最速の英霊であるランサーと同格の速度で接近したそいつは、驚いているランサー目掛けて回し蹴りを繰り出す。

 しかし不意打ちでやられるランサーではなく、槍の柄で攻撃を受け止め……その重さに驚愕する。

 

「てめぇ」

「そっちは槍を使ってるんだ。勝手に俺が武器使いだと勘違いしてる相手に素手で戦うとは宣言しないだろ」 

 

 ブレイカーの蹴りを槍で受け止めたランサーは、同じ背丈の存在からは考えられない威力の蹴りを受けたと、軋む腕と槍、そして後ろに飛ばざるを得なかった。ただの蹴りを受けた筈の腕が痺れている中、ゆっくりと素手と蹴りの間合いを確保するために接近してくるブレイカーを睨む。

 

「おもしれぇ、素手で戦う英霊か。確かに盲点だった、ぜ!」

「はえぇな」

 

 今度はお返しにと、ブレイカーの呼吸に合わせた俊足の突きを放った。突然距離を詰められたブレイカーは、大きくのけ反ることで、顔への突きを回避する。だが、突きを戻す際に下に振り下ろされ、ブレイカーは横に飛ぶことで避ける。だが、避けられる事を恐れず、完全に戻しきった槍の中心を掴んだ間合いを変化させての薙ぎ払い、そして繋げられるように突きが織り交ぜられる。

 だが、ブレイカーはそれらの槍を手刀と蹴りを織り交ぜた手数で捌いて行く。何度も必殺の攻撃を手刀で弾きながら、カウンターの回し蹴りを放つ。10年前に戦ったランサーとの経験が、此処で活かされていた。それから二人は互いに距離を変化させず延々と撃ち合い続けていた。ランサーは一体どれほどの攻撃手段があるのかと言う程、多彩な槍の技を見せる。ブレイカはそれら一つ一つに対処しながら、フェイントを織り交ぜて行く。

 

(全く見えない)

 

 アルカは、自分の英霊とランサーの音速を超えた激闘を目視出来なかった。固有時制御の段階を上げれば姿くらいは映るかもしれないが、残像を残像が相手している様な紅い光と淡い光のぶつかり合いは、人間の域を超えていた。バーサーカーの時は互いにパワー勝負だったが、ランサーの場合は速度の戦いへと変わっていた。

 

 

「ふ、は、でぁ!」

「はぁ!」

 

 ブレイカーとランサーの全筋力を用いた突きと回し蹴りがぶつかり、ランサーの槍が大きく逸れる。其処で更に踏み込んだブレイカー。一撃で相手の胴体を貫通する威力の聖拳突きを繰り出す。ランサーも大きく逸らされた槍を腰から前方にまわすことで瞬時に突きへと技を変化させる。顔面へ突きだされた矛先を首の筋を痛める程逸らすことで避けたブレイカー。だが聖拳突きは、解除されたためにムーンサルトキックでランサーの顎を狙う。

 ランサーも持ち前の動体視力と俊敏性で、後ろにステップを踏む。それが功を奏して頬が蹴りの風圧で切れただけで済んだ。

 

「ち」

「首痛めた」

 

 ランサーは大きく後ろに飛んで、再び仕切り直す。互いに距離が出来たことで、ブレイカーは首を押さえ、ランサーは頬を伝う血を見て眼をギラギラさせる。互いに相手が強いと認め、ランサーとブレイカーは笑う。バーサーカーもそうだが、今回の聖杯戦争は実に兵揃いだとブレイカーは愉しんでいた。

 

「ふん。お前何処の英霊だ。素手って段階で疑り半分だったんだが、ここまで素手が恐ろしいと思った相手はお前を置いて他に居ねぇよ」

「こっちもだ。別のランサーとやり合った事があるが、アンタは実に荒々しい槍を振るうな。正直自分が槍と戦ってる気がしないよ」

「ほう。でそいつと比べて、俺は劣るのかい?」

「ふざけんな。どっちが強いとかは、槍使いでない俺にはわからんがな。個人的にはアンタの槍捌きの方が愉しめる」

 

 ランサーは別のランサーと聞き興味が湧いた。目の前の強敵と戦ったランサーと自分どちらが上か尋ねれば、相手は嬉しい事を言ってくれる。互いにこの場で殺すと決めているのに、2人は互いの武勇を讃えていた。

 

「ブレイカー、勝って」

「あぁ。こいつほどの英霊だ。此処で倒さなければ、綾香の命が危ない。こいよ、クランの猟犬」

「よく言った、おっぱじめるかブレイカーよぉ」

 

 ブレイカーは、構えるのではなく自然体を取りながら、深呼吸を繰り返す。それに対してランサーは、手に持つ槍に紅い膨大な魔力を迸らせる。それは宝具の開放に他ならない。ランサーは宝具の開放を決め、その構えを取っていた。アルカの目でなくても槍から溢れる魔力を目視できる。

 

「言っておくが、俺の正体を知ってるなら、これも知ってるんだよな?」

「まぁな。だが、マスターが勝てと言うんでな。こいつには俺を信じろと約束させた、ブレイカーとは言え、約束だけは破るつもりはねぇよ」

「いいね。此処で殺すには惜しいが、その心臓、貰い受ける!」

 

 槍を構えたランサーが数歩で距離を詰め、魔力の迸る赤い槍を突き出した。

 

「刺し穿つ死棘の槍(ゲイ・ボルク) !!!」

 

 ランサーの突きだした槍は、紅い閃光を放ちながら、ブレイカーの心臓へと突き進む。彼の宝具は真名解放すると槍の持つ因果逆転の呪いにより心臓に槍が命中したという結果をつくってから槍を放つという原因を作る、要するに回避不可能な心臓への攻撃を放つのが彼の宝具である。それは、いかなる手段を用いても回避できず、回避できるのは呪いを打ち消す程の幸運を持った存在のみ。

 ブレイカーには、幸運に頼る考えはなかった。元来勝負弱い彼は、このような危険な賭けを避けるのだ。槍が放たれた時、既に心臓に命中する未来は定められた。だが、ブレイカーは深呼吸を繰り返し、極限の集中状態へと自分を突入させる。

 

 そして、変えられない運命に従って必中の槍が、ブレイカーの心臓に刺さり……止まる。

 

「なんだと!?」

「ごふ、ふふふ」

 

 ランサーは、自分の宝具を確かに受けたブレイカーの行動に驚く。確かにランサーの槍は、強化されていたブレイカーの筋肉や骨を貫き、目的の心臓へと到達した。だがゲイボルクの矛先が心臓に5mm程刺さった所でブレイカーは槍を掴んだのだ。今までそんな事をする相手はいなかったとランサーは驚愕する。

 ブレイカーの取った作戦は一つだった、正しくはアルカの策であるが、魔眼で槍の効力を見抜いた故に取れた作戦だった。心臓に刺さる効果は変えられない、ならば心臓に刺さってから止めれば良いと。本来は心臓に刺さる過程から避けたがるはずなのに、アルカの作戦は逆発想だった。

 心臓を貫かれても継続して戦闘を行う作戦を考案したのだった。心臓に当るなら当ってから致命傷になる前に止めれば良いと言う発想だった。どう考えても正気の沙汰じゃない作戦だが、ブレイカーの持つスキルがそれを可能にした。概念耐性によるゲイボルクの概念の緩和、そして無我の境地による極限の集中状態、強化スキルによる怪力。それらの要素が重なった結果、ゲイボルグに心臓を突き刺された上で軽症で納めることが出来た。

 

 

「ブレイカーてめぇ、これを待ってやがったのか」

「おうよ」

 

 ランサーは、勢い良く突きだされた必殺の一撃を心臓で受け止めたブレイカーのがっちりつかんだ槍が外れない事に危機を感じる。膂力でバーサーカーに匹敵する彼に槍を掴まれれば、そう簡単には外す事は出来ない。5mm程しか喰い込めていないゲイボルクは押す事も引く事も出来なかった。そして、強引に腕力でささったゲイボルクを抜いたブレイカーは、槍を手放し後ろに飛ぶランサーの退却を許さず、彼の鳩尾に穿つような下からの拳を突きだす。

 その一撃は威力を殺そうと跳んだしたランサーにクリーンヒット。ランサーの内臓は悲鳴を上げ、彼の口から大量の吐血と共に、大きく空へ打ち上げた。だが、仕留め切れていなかったためランサーは、かなり離れた位置に落下すると、殴られた場所を押さえながら、片膝をついて起き上る。

 だが、呼吸器をやられたらしき激しく咽ながら、こちらを睨む。そして、一撃を繰り出す為に手放した彼のゲイボルクは、意思を持ったようにランサーの手に戻り、それを杖に立ち上がる。

 

「かはっがほ、か」

「俺は心臓、お前は肺か」

 

 話す事の出来ないランサーに変わり、胸から溢れる血で体力を奪われるブレイカー。数ミリの傷でも心臓の様な全てが筋肉の臓器は、致命傷に変わりない。その傷付いた心臓で一撃を繰り出したブレイカーも危険な状態だった。

 両者共に満身創痍と言った状態だったが、アルカがブレイカーの治癒を始める。治癒が完了すれば戦力の差は歴然だった。戦闘続行のスキルを持つランサーなら、まだ戦闘が可能だが勝率で言えば2割を切るだろう。

 

「ブレイカー」

「……まずいな、人が集まって来てる」

 

 回復次第ランサーを倒そうとしたブレイカーだが、流石に戦いの規模が激しすぎたのか、近所の高層アパートからいくつもの光がともる。このままでは一般人に戦いを見られてしまう。それは望ましい状況ではないとブレイカーはランサーをどうしても始末したいアルカに告げる。

 一方、ランサーもマスターと念話しているのか苦い顔をして、視線を逸らす。

 

「あんたのマスターも帰って来いって言ってるのか?」 

「ぐく」

「いいよ。行け」

「ブレイカー!」

 

 ランサーを見逃すと言ったブレイカーにアルカが激怒する。どうあっても許せないと感情を露わにするアルカを黙らせた。感情的になっているアルカを嗜めたブレイカーは、悔しそうに霊体化するランサーを見送った。ランサーは視線で借りは必ず返すとアイコンタクトしていた。

 

「何故見逃したの」

「これ以上は他の英霊も呼び寄せちまう可能性がある。それにセカンドオーナーに見逃して貰ったのに、魔術による騒ぎなんてな、この状態でアーチャーの相手はしたくない」

「……かえろ」

「あぁ。……悪かったな。お前の気持ちはわかってるよ、けど俺はお前も護りたいんだ」

 

 感情に流されるアルカを押しとどめたブレイカーは、痛む心臓を押さえながらも車を運転して沙条家へと帰った。ランサーとの決着はつかなかったが、それでも彼の宝具を無効化したのは大きい。そう彼も易々と攻めては来れないと説得した。

 当然家に帰れば、眠った綾香以外のアンとセイバーに傷について尋ねられる。そしてランサーと死闘を演じた事を語り、落ち込んでいるアルカをアンに任せ、彼は自室で眠りについた。

 

 




 今回はランサーの兄貴との戦闘でした。やったねランサー、槍が心臓にヒットしたよ!(殺したとは言っていない)。でも、もうお前の槍は当たらんのだ?とは言われない筈。やったね兄貴。

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