新都にあるビル。そこのオフィス街の一つで、冬木市のセカンドオーナーである遠坂凛は、待ち伏せていた犬の骨で構成された使い魔を相手取っていた。
3匹の骨の犬が凛に向かって襲いかかるも、冷静に左手の魔術刻印に刻まれたガンド撃ちを起動する。希代の才能に恵まれた凛の指から放たれたガンドは、呪いだけでなく物理的な破壊力を持っていた。
発射されたガンドは、一撃で使い魔を木っ端微塵にする。
だがそんな彼女の上にある通気孔から、3匹の竜牙兵が奇襲を仕掛ける。その手には剣が握られており、今現在、現れた巨大なワニの骨を破壊した隙を付いて奇襲したのだ。
「な」
バババババババ。
凛が不意討ちに反応してガンドを撃とうとするが、先に放たれた呪いを纏った銃弾の雨が竜牙兵を粉々にする。竜牙兵を破壊した人物に振り返った凛は、その人物を見て苦い顔をする。
「ち、帰ってたのね愛歌」
「ん。久し振り凛」
凛を助けたのは、アルカ(愛歌)だった。彼女は両手にキャリコを泥で形成した状態で、10年の付き合いがある凛に話し掛けた。
「何をしに来たのかしら?」
「綾香と夕飯を終えたら、怪しい魔力を捉えたの」
「そう。……私が聞きたい事、分かってるんでしょ?」
「ん。私も聞きたい事がある」
凛とアルカは、互いに警戒しながら会話を続ける。決して仲良くはないが、すぐに殺し会わず会話する程度の付き合いはあるのだ。凛は、右手の令呪をアルカに見せながら尋ねた。
「単刀直入に聞くわ。愛歌、あなた聖杯戦争のマスターなの?」
「ん。そうね、私は10年前から引き続き参戦してる。昨日はアインツベルンのバーサーカーともやり合ったわ」
アルカも普段施している令呪の隠蔽をやめ、既に一画しかない令呪を見せる。それを見た凛は、厄介な奴がマスターになったと思った。そして昨日バーサーカーと戦ったと言うことで、令呪を2画消費したのだろうと考えた。
バーサーカーは英霊2騎でも倒せない相手、いくら魔術師狩りと魔術協会で恐れられ、10年前の生き残りである彼女でも苦戦するのだと勘違いした。実際はバーサーカーとブレイカーは拮抗、イリヤとアルカは戦闘経験の差がアルカを優位に進めた。
「そうリベンジって訳ね」
「私も質問……何故、10年なんて周期で聖杯戦争が開催されたの? それにロード・エルメロイに聖杯戦争開催の情報は入ってこなかった」
それはアルカが聞きたかった事実。本来60年周期の儀式が10年で再開された。それがアルカ達が綾香を避難させられなかった理由。後一週間早く聖杯戦争の情報がウェイバーの元へ入っていれば、事前に動けたと言うのに。
「前回の参加者……あなたじゃない一人が聖杯を中途半端に壊したのが原因らしいわ。そのせいで聖杯に貯まる魔力が貯まったままになったらしいわ。
後、私は情報の隠蔽なんてしてないわ。恐らく前回の最優秀のベルベットの参戦をアンツベルンと間桐が拒んだんでしょ」
「ん。ありがとう凛」
凛の予想は、前回想像以上に成果を残し御三家を卸したロード・エルメロイの参戦は好ましくなかったと。凛事態は、裏工作などしないと知っているアルカは、納得した。おそらく時計搭の保守派も、ウェイバーの功績を増やさないために情報操作した可能性がある。
もしアルカが偶然冬木に帰っていなければ、綾香が死んでいた可能性すらある。
「ちょっと、何処に行くつもり?」
「家に帰る。貴方に聞きたい事は聞いたから」
背中を見せて帰ろうとしたアルカ目掛けて、凛がガンドを打つ。それはアルカの頬を掠めて、壁で爆発する。
「貴方も聖杯戦争に参加するマスターなんでしょ。衛宮君みたいな、もぐりならまだしも。魔術師であるあんたを見逃す気はないわ」
「……。やる気なの?」
攻撃されたアルカは、七色の魔眼で凛を捉える。殺気は漏れていないが、やるなら容赦はしないと向き合う。凛も10年の付き合いで沙条愛歌の実力は知っている。悔しいが愛歌に凛は勝ったことが殆どない。本質的に魔術師の天敵である魔眼を持つ上に、奇妙な魔術を使う愛歌と喧嘩して勝ったことは少ない。
だが負けるつもりは毛頭なかった。
「やる気よ。聖杯戦争ってそういうもんでしょ? まぁサーヴァントを呼ぶ時間ならあげるわ。全力の貴方を倒さなきゃ意味無いもの」
「ん。いいよ」
二人の魔術師は、ガンドとキャリコを構えながら距離をとる。そして自身の英霊を呼び出した。
「アーチャー」
「ブレイカー」
マスターに呼ばれた赤い外套に白髪褐色肌の英霊と灰色の外套に黒髪赤目の英霊が同時に現れる。両者ともに背後にマスターを守りながら、向かい合う。
「凛、彼らは知り合いかね?」
「腐れ縁よ。でも手加減しないで、こいつに手加減んなんかして勝てる筈ないから」
「君がそこまで言う相手か。まぁ元より手加減などするつもりはないさ、悪いが君には此処で死んで貰うぞ」
凛とアーチャーが会話している横で、ブレイカーはアーチャーを観察していた。そして両手から黒と白の短剣を取りだし、やる気の様子のアーチャー。
「いや、もう警察と救急車呼んだんだけど」
「……凛、なんと言うか、戦うのか?」
「空気読みなさいよ愛歌のサーヴァント!」
「ブレイカーはいつもこう」
サイレンの音が聞こえ、戦闘などしている時間がないと伝えたブレイカー。しかし、アーチャーは何処か呆れ、凛は憤慨し、アルカは平常運転だと告げる。
(まとめてぶっ飛ばしてやろうかコイツら)
あんまりな評価に腹立たしくなるブレイカー。だが、やる気はないといえアーチャーは、警戒したまま。下手に動けば全面対決は避けられない。
「……いいわ。今日は引いてあげる」
「……どうもありがとう凛」
「こいつ……」
「凛、これ以上長居は不要だ。戦わぬなら離れるべきだ」
「俺らも別の標的探そう」
ヒートアップしているマスターを宥めるアーチャー。その様子にアルカがこれ以上この場に要ることが、火に油を注ぐとアイコンタクトで通じあった英霊同士。苦労性の英霊同士通じ合う物があったのだろう。率先してブレイカーがアルカを胸の前で抱えると、瞬時に凛達の前から消える。その移動方法を見たアーチャーが驚く。
「凛、今の彼女達を見たか?」
「見てるに決まってるでしょ。覚えておきなさいアーチャー、沙条愛歌は霊体化出来る魔術師なの。あの英霊の正体はわからないけど、手強い筈」
「随分と買って居るのだね、正直予想外だったよ」
「私は自分の実力を見て判断しているだけよ。あいつは、強い。けど愛歌を倒すのは私よ」
凛は、10年間挑んできた強敵であり、腐れ縁のある沙条愛歌の評価は高い。だが彼女の事を嫌いでも憎んではいなかった。魔術師と言う彼女の顔で言えば、沙条綾香は友人とも言える。この聖杯戦争に参加していると聞いて、悪態を吐きながらも一番喜んでいたのは凛だ。同じ土俵で戦えることが、大変うれしかった。
(私の記憶には、沙条愛歌と言う人物は存在しない)
そして、一方のアーチャーは得体のしれないマスターとサーヴァントを酷く警戒していた。先日の夜に、イリヤスフィールと戦っていた彼等を見たアーチャーは、驚いていた。素手で大英雄と殴り合い、凛すら追い込んだイリヤスフィール相手に悠然と立ちまわった彼女達の戦いなれた姿に。そして遠距離から放った自分の矢に反応、七色の目で数キロ離れたアーチャーを捕えた視力。全てが高水準だった。
イリヤスフィールが最強のマスターなら、沙条愛歌は最強の魔術師と言える。
(随分と厄介な主従が紛れ込んだ物だ。とはいえ、勝つのは我々で私の目的はただ一つ)
アーチャーは如何なる障害が立ちはだかろうとも、打倒する覚悟を決めていた。
今回は凛とアーチャーとの遭遇ですね。ブレイカーは空気を読んでいないのではなく、状況を判断しただけですw アーチャーVSブレイカー、何時か書けると良いな。何故か、刀語のバキバキにされた刀(千刀)みたいな光景になりそうな気もしますが。
感想など頂けたら嬉しいです。次回はランサー登場とだけ予告して置きます。