Fate/make.of.install   作:ドラギオン

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第五次最強VS第四次最強

「一番始めにこれかよ」

「……アインツベルンね」

 

夜の街に繰り出したアルカとブレイカー。冬木の山の方角で爆発を目撃し、その場所へ向かった。そして、偶然にも戦闘を終えたばかりのマスターとサーヴァントに遭遇してしまった。その相手は、銀色の髪に紅い目をした幼い少女と大柄のブレイカーよりもはるかに大きい巨大の英霊。鋼色に染まった肌と鋭い眼光が、目の前にあるもの全てを縛りつけるような重圧を放つ。

 

「あら、あなたもサーヴァントを連れてると言う事は、聖杯戦争の参加者なのね」

「ん。結果的にそうなるわね。そう言う貴方こそ、その英霊を連れていると言う事は、マスターなのね、イリヤスフィール」

「あら、名乗ったことあったのかしら?」

  

 七色の目と紅い目が互いに睨みあい、イリヤは名前を呼ばれた事を驚くしかない。彼女はアルカにあった事もないが、アルカはある理由でイリヤの事を”実の娘”のように知っているのだから。

 

「貴方に直接合った事はないな。けれど、貴方の事はよく知っている。名乗っておくわ、私はアルカ・ベルベット、10年前の勝利者の一人よ」

「……そう、お爺様から聞いた事があるわ。10年前御三家を差し置いて、勝ち残った女ね」

 

 イリヤもアルカの名を聞いた瞬間、戦闘態勢に入る。全身の魔術回路を起動し、彼女のサーヴァントへ魔力を供給し始める。それは彼女の祖父であるアハト翁から、ベルベットと名乗るマスターは、必ず先に殺しておけと命じられたからだ。

 可愛らしい少女の顔から、獲物を見つけた狩人の目になるイリヤ。そして対峙するアルカは、魔眼で彼女の英霊を観察していた。全開も情報戦を駆使した結果優位に立ちまわれた経験は、彼女にとって戦闘の指針を固めていた。ただ、イリヤと戦う事を考えると、憂鬱になる。

 

(子供を相手にするのは、心に来るわね)

(それお前が一番言っちゃいけない台詞だからな、マスター)

 

 10年前を棚に上げた念話を行うアルカにブレイカーが呆れる。だがそんな事お構いなしにイリヤの背後にいた英霊が、彼女の前に歩きだす。どうやら手に持った巨大な岩斧でブレイカーとアルカを叩き潰すつもりのようだ。

 

「何か言い残す事はあるかしら? 抵抗しても良いけど、私のバーサーカーは最強だから、すぐに死んじゃうわ。だから、前回の勝利者に敬意を払って、聞いているんだけど」

「そう。お言葉に甘えようかしら」

 

 明らかに通常の英霊とは一線を脱しているバーサーカーは、ズシンズシンと地面を揺らしながら歩み寄り、アルカの前に立って斧剣を振り上げる。そのまま静止し、イリヤの合図を待つようだ。そしてお嬢様然としたイリヤの態度を可愛らしく感じたアルカは、微笑みながらイリヤを見つめた。

 そして、胸を張りながら宣言する。

 

「最強は私のブレイカーよ」

「そう、それが遺言でいいのね。やっちゃえ、バーサーカー」

「■■■、■■!!」

 

 

 明らかな挑発。それを聞いたイリヤは馬鹿な女と吐き捨てながら、バーサーカーに彼女の殺害を命ずる。イリヤの指示を受けたバーサーカーが、その巨体が振るう斧剣をアルカごと地面に叩きつけた。アスファルトが衝撃でめくれ上がり、地面に亀裂が走る。だが、イリヤは驚いていた。バーサーカーの攻撃が避けられた事ではなく、バーサーカーの攻撃がすりぬけた事に。

 

「霊体化?」

 

 バーサーカーの剣が触れる前に、全身を霊体化させたアルカ。当然バーサーカーの攻撃は、彼女の体をすりぬけ、地面にだけ激突する。そして、攻撃を回避したアルカは、バーサーカーの斧剣の上で実体化。それに反応したバーサーカーが彼女の体を斧剣で上空に投げ飛ばす。上空に投げ出されたアルカは、丁度月の光と重なるように下で此方を見上げるイリヤに泥で構築した黒鍵を投げつける。3本の黒鍵が彼女へと向かうが、イリヤはこの聖杯戦争で勝ち残るために作成されたホムンクルスである。当然マスターの攻撃には備えがある。

 

「無駄よ。最強なのはバーサーカーだけじゃない」

 

 攻撃を感知したイリヤの銀髪が突然形を変え、5羽の鳥型の使い魔へと変貌する。それらはオートで追尾するビットと同じく、自立浮遊砲台の小型の使い魔で、小型ながら魔力の生成すら行っていた。そんな使い魔はアルカの投げた黒鍵を光弾で撃ち落とし、追撃で空中のアルカに光弾を放つ。

 それらの魔術を魔眼で解析したアルカだが、工程が省かれたその魔術を完璧に理解することは難しかった。過程を省いて望んだ結果を具現化できるイリヤスフィールは、まさしく最強のマスターだった。

 

「けれど、攻めが甘いわ」

「く」

 

 空中で突然浮遊し始めたアルカは、更に両手から泥で構成したキャリコ2丁を構え、フルオートで発射される弾丸の連射力は使い魔達の迎撃能力をはるかに上回り、2羽の使い魔が破壊される。このままでは拙いと判断したイリヤが3羽の使い魔を盾状に変形させることで、銃弾を防ぐ。

 護りに徹された事で、キャリコの弾丸では突破出来なくなったアルカは、右手のキャリコを投げ捨て、再び泥で銃を形成する。それは、衛宮切嗣の礼装であるトンプソン・コンテンダーだった。

 

「っ、バーサーカー!」

「■■■■!!」

 

 その銃が妙に危ない気配がしたイリヤは、地上に居たバーサーカーを呼ぶ。呼ばれたバーサーカーは大きく跳躍して、空中で立つアルカに襲いかかる。完全に意思をイリヤに向けていたアルカは、背後から来る狂戦士に目を向けない。

 それは油断ではなく、イリヤが誰よりもバーサーカーを信じるように、アルカにも信じる存在が居るからだ。

 

「やらせないぞ、狂戦士!」

「■■■■!」

 

 バーサーカーの攻撃から、アルカを守ったのはブレイカーだった。アルカに向かって振るわれた斧剣の腹を殴って大きく軌道を逸らし、空中で踵落しをバーサーカーに振るう。バーサーカーは狂化していると思えない技術で、ブレイカーの踵落しを掴み取ると、地面に向けて投げようとする。しかし、足を掴まれたまま、強引に膂力だけでバ-サーカーごと地面に落下させるブレイカー。その際、ブレイカーはバーサーカーの斧剣を持つ手を、もう片方の足で蹴り飛ばし、彼の手から武器を奪う。

 両者共に凄まじい勢いで地面に叩きつけられるが、バーサーカーとブレイカーはすぐに起き上り、地上でぶつかり合う。互いにパワータイプの英霊同士が、防御も無しにお互いに殴り合う。

 

「そんな」

「……ブレイカーと殴り合える英霊なんて初めて見た」

 

 バーサーカーは、2mを越える筋肉の塊から繰り出される怪力は、肉弾戦を得意とするブレイカーへ確実にダメージを与える。彼の拳が命中するたびに強化した筈の肉体が悲鳴を上げ、何度も吐血する。それでも後ろに下がらず殴り合えるのはブレイカーの胆力に他ならない。10年前は肉弾戦最強だった彼も、恐ろしい英霊を呼んだ物だと感想をこぼす。

 そして、バーサーカーの方も、無事では無かった。彼の正体は大英霊ヘラクレス。日本でもその名を知らぬものが居ないほど有名な英霊で、バーサーカーとして召喚されて身に染み付いた戦闘技術は、衰えない。そしてヘラクレスを最強たらしめているのは、その怪力から来る性能のほかに、『十二の試練(ゴッドハンド)』という宝具があった。生前の偉業で得た祝福であり呪いの宝具は、Bランク以下の攻撃を無効化し、蘇生魔術を重ね掛けすることで生命のストックを十一個保有。更に既知のダメージに対して耐性を持たせる効果があり、一度受けた攻撃に対してよりダメージを減少させるという反則染みた性能を持っていた。

 その性能は英霊にとって恐ろしい他ない。イリヤが持つバーサーカーを最強という自信も納得のいく物だった。

 

「バーサーカーの宝具を突破する格闘能力なんて」

「ブレイカーに破壊できない物はないわ」

 

 そう最強の防御力を持つバーサーカーだが、破壊の刻印を起動したブレイカーの拳や蹴りは、最強の存在にダメージを与えていた。腹に突き出した拳はバーサーカーの内臓にダメージを与え、顔面に振るわれたアッパーは彼の顎を捉えてその顎を砕く。ブレイカーも無傷ではなく打撃によるダメージを負うが、バーサーカーもブレイカー相手には等しいダメージを負っていた。

 

 荒れ狂う嵐のように、地響きと血飛沫を上げながら殴り合う二人の英霊。その苛烈な戦いにアルカとイリヤも呆然と戦いを見届けていた。

 

「ははは、はーあははははは」

「■■■■■■、■■■■■■ーーー!!」

 

 徐々にヒートアップしていく2人の戦い。それは次第に衝撃波だけで周囲の木々をなぎ倒し、地面は抉れ、破壊の爪跡を残していく。そして、バーサーカーが両腕を振り上げ頭上で組む。それをブレイカーの頭部へと振り下ろす。当然そんな一撃を受ける訳に行かないブレイカーは両腕をクロスして攻撃を受け止める。

 最大級の一撃を受けたブレイカーの足は地面にクレーターを作る程、沈み込む。だがギリギリと押し返したブレイカーは、バーサーカーの顎目掛けて冗談回し蹴りを繰り出した。綺麗な円を描いた鋭い蹴りは、バーサーカーの顎を捉える。そして、バーサーカーの筋肉に覆われた太い首を物ともせず、首を圧し折った。

 首が折れたバーサーカーは、両膝を地面について脱力する。

 

「ふぅ、つえーな」

 

 バーサーカーを絶命させたブレイカー。宝具も使わず、己の強化と技術だけで打倒しえた英雄となる。だが、死んだはずのバーサーカーの体が再び、動きだす。一度死んだあと、全身にできた傷が少しだけ回復し、折れた首を己の腕で戻したバーサーカーは、完全に息を吹き返し立ち上がった。その姿にブレイカーも厄介な相手が今回の聖杯戦争にも居るなとあきれ果てる。首を折られても復活する英霊など悪夢以外の何ものでもない。

 

「不死持ちか」

「■■■、■」

 

 完全に立ち上がったバーサーカーは再びブレイカーを見下ろし、ブレイカーも拳を構えて撃退する準備はできていた。そして予定調和のように再び二人の英霊はぶつかり合う。それを見ていたイリヤが驚きの言葉を上げる。

 

「バーサーカーを宝具も使わずに殺した……貴方の英霊は何? それに十二の試練(ゴッドハンド)の再生すら阻害されてる」

「疑問に思った事を相手に聞くのは愚かよイリヤ。でも答えてあげるわ、あれは10年前の最強の英霊、そして私は第四次最強のマスター。先輩として貴方に戦争を教えてあげる。起源弾」

 

 空に浮かぶアルカに問いかけたイリヤに、対してアルカは右手にコンテンダーを握り。引き金を引いた。発砲音と共に、泥で生成された衛宮切嗣の起源弾は、イリヤを護っていた自立式の使い魔の盾に命中。その独自の魔力炉と精製した魔力が、起源弾の効果によって出鱈目に切って繋がれる。当然、奇跡のような偶然で構成されたイリヤを護る盾は、木端見時に吹っ飛ぶ。唯一の救いは、イリヤが使い魔達とラインで繋がっていなかった事だ。もし、使い魔をイリヤの魔力で制御していた場合、イリヤスフィールの全身の7割を構成する魔術回路が暴走、彼女の体が吹っ飛んでも不思議ではなかった。

 砕け散った使い魔に唖然とするイリヤだが、既に地面に降り立って居たアルカが手加減する理由はない。

 

「これで決めさせてもらうわ」

「舐めないで」

 

 地面に降り立って距離を詰め始めたアルカに、イリヤは更に10匹の使い魔を召喚する。それらを剣の形に変形させ、最高速度でアルカに発射する。それが一本でも刺されば、アルカの細い体では瞬時に消し飛ぶような一撃。並の魔術防御ですら突破する最強のマスターの使い魔。それらに対してアルカが取った行動は前進だった。

 

「time alter-double accel」

 

 アルカがそう詠唱した時、彼女の時間は通常の人間の二倍となり、その動きも二倍になった。突然倍速で動き始めた。その速度と攻撃に怯まないアルカには、イリヤの放った攻撃への反応を可能とした。身体の軸をずらし頭を低く、それでいながら決して止まらないアルカの高速移動は、10本の投擲された剣を回避、舞うように接近戦の苦手なイリヤの間合いに入り込み、そのこめかみにコンテンダーを向ける。

 

「勝負ありねイリヤスフィール」

「違う! こんなの絶対に認めない、バーサーカー!」

 

 子供ぽく負けを認めないイリヤ。その姿に何処か懐かしいものを感じる。世間を知らず何も知らない少女が放り込まれた聖杯戦争、アルカの中に内包されたある人物の記憶は、イリヤの現状をそのように理解する。戦った事もなく、負けた事もない少女は、どうあったって不測の事態には弱くなるのだ。これは10年間の間に、世界を知ったアルカと10年間外に出なかったイリヤの決定的な違いだった。

 何も知らない少女を殺すことにちゅうちょしてしまったアルカ。その時、遥か彼方から紅い光が飛来する。

 

「ん? 危ない」

「え」

 

 遥か彼方から発射された紅い物体は、矢だった。それらは複雑な軌道を描いてアルカ達に向かって接近する。咄嗟にイリヤを押す事で彼女を車線から離す。だが、その矢は追尾するようにアルカしか狙わなかった。2本の矢はアルカの持って居たコンテンダーとキャリコを貫いて粉砕する。

 

「これは、凛のアーチャーの」

「凛……そう、あの子アーチャーを引き当てたのね」

 

 武器を失い大きく後ろに飛んだアルカは、魔眼に魔力を流して、射手であるアーチャーの居る方角を見る。丁度アルカ達の闘う場所に車線がっとったビルに、紅い外套を纏う英霊を目視する。普通の人間なら、普通の英霊なら見つけられない長距離であっても、アルカには目視できた。だが、アルカの位置からではとても攻撃できない遠距離攻撃で、どんな宝具を持つのかわからないアーチャーを警戒せずにはいられなかった。

 

「イリヤスフィール。どうやらアーチャーが狙っているようだけど、続けるかしら?」

「……いいわ。引いてあげる。でも、覚えていて、私は貴方に負けてない」

「ん、そうね。今度アインツベルンの城に窺うわ。その時決着をつけましょう」

「えぇ。特別に結界は解除してあげる。バーサーカー、帰るわよ」 

「ブレイカーも、お疲れ様」

 

 2人のマスターが遠距離射撃を気にして戦闘を止めたため、狂化していたバーサーカーとブレイカーが拳の殴打をやめる。両者共に傷だらけで打撲だらけだったが、戦闘継続は可能だった。しかし主の命に逆らう訳にも行かず、互いに矛を収めたブレイカーとバーサーカー。バーサーカーが手放した斧剣を拾いに行ってる間、ブレイカーは口からこぼれる血を拭っていた。

 

「邪魔ものってアーチャーか?」

「ん。もう姿が見えないけど、狙撃される状況で戦うのは旨みがないわ」

 

 イリヤがバーサーカーを連れて拠点へと帰ると、アルカとブレイカーも想像以上に消耗したため探索は難しくなった。あれだけ派手に暴れたので向かってくるなら返り討ちにするが、自分から飛び込むメリットは薄い。そう判断したアルカがブレイカーに家に帰ろうと言う。

 

「くっそー、白黒つけたかったな」

「ん。今日は惜しかった。けれど次は殺す。バーサーカーとイリヤスフィールは、綾香にとって危険だから」

「魔力の量もマスターを上回ってるしな。あのバーサーカーも本気じゃなさそうだ」

 

こうして第五次聖杯戦争最強のマスターと第四次最強のマスターの戦闘は幕を閉じた。

 

 




 今回は、アーチャー、セイバー戦を終えた後のイリヤとバーサーカーとの戦いでした。バーサーカーの宝具は、ブレイカーの破壊スキルと強化の相乗作用だと考えて頂きたいです。十二の試練の防御と回復力を阻害し、強化スキルで必然的に攻撃がAランクを越えていると言う感じですかね。

 第五次の最強のマスターがイリヤなら、第四次最強のマスターはアルカって感じで考えてました。魔力量はイリヤの方が上ですが、魔術師相手に戦ってきた年月と、戦闘経験はアルカの方が上ですね。あと、裏技による戦闘方法も勝因ですね。

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