Fate/make.of.install   作:ドラギオン

40 / 145
聖杯戦争

「僕はセイバー。君を守る、サーヴァントだ」

「サーヴァント? それってさっきの槍の人と同じ?」

「あぁ。彼はおそらく槍兵の英霊として召喚されたサーヴァントだと思う。怪我は、どうだい?」

 

 セイバーと名乗った青年は、綾香の肩を見て傷の心配をする。綾香は自分の肩を見るが、幸いかすり傷であるし、工房にある薬草を使えばすぐに傷も塞がると告げた。それを聞いたセイバーは、「よかった」と再び微笑む。だが、彼は瞬時に表情を変え、綾香の体を抱きしめると後ろに飛ぶ。

 

「え、えぇ?」

「新手だ。君は下がっていてくれ」

 

 セイバーが綾香を抱えて飛んだ後、セイバーの立って居た位置を見れば、20本以上の刃が床に突き刺さっていた。それは持ち手の部分が紅いレイピア状の剣で、十字架を模していた聖堂教会の武器である。主に聖堂教会の代行者が用いる武器だが、綾香はそれの使い手が身近に一人いた。綾香は警戒して自分を護ろうとするセイバーの手をどけて、黒鍵が投擲された天井の穴を見た。

 

「セイバー、大丈夫。あれは私の姉ちゃんだから」

 

 綾香の目には、天井の穴からこちらを見下ろす存在が見えた。月明かりに長い金髪を靡かせ、七色に輝く瞳で綾香を見る姉、沙条愛歌が其処に居た。女の綾香から見ても綺麗な女性である愛歌は、綾香の憧れでもありコンプレックスでもあった。なんでも出来る姉は、自慢でもあるが、平凡な自分には眩しすぎたのだ。

 だが、姉は自分を愛してくれていると知っているため、彼女と姉の関係は良好だった。そして今も侵入者だと思ってセイバーを攻撃したのだと考えた。

 

「お姉ちゃん、やめて。セイバーは私を助けてくれたの!」

「そう。セイバーだったかしら? 座に帰りなさい」

 

 姉は、上からセイバーを見下ろすと、掌から黒い泥を精製し、それを銃の形に変形させる。そして完全に銃へと変質した泥は、姉が引き金を引くと何発もの銃弾が連射される。それら全てに呪いが付与されていると聞いていた綾香は驚く。何故姉は、それらをセイバーに容赦なく使用するのか理解出来ない。

 だが、セイバーは剣を振るう事で呪いの籠った実弾を弾く。そして、見えない武器をが纏う風が、全ての銃弾を逸らす。

 

「止めてお姉ちゃん! おね、ちゃん?」

 

 綾香はたまらず愛歌に攻撃を止めるように頼む。しかし、綾香から見たセイバーを見る姉の目は冷たい、氷のような目をしていた。初めてみた姉の冷たい目に、綾香がうろたえる。

 

「マスターの姉上とはいえ、これ以上の攻撃は、敵対行為とみなす他ない」

「綾香をこんな戦争に巻き込む訳にはいかないの、ブレイカー。セイバーを……殺しなさい」

 

 姉は、銃が無意味だと知るや否や、泥で構成された銃を黒鍵に持ち替え、投擲する。それら全ては綾香に当らない位置での攻撃だが、セイバーは避けるか弾くしかない。そして、姉が突然、誰かに命令した。その瞬間、綾香の前で、何もなかった場所からアルゴが現界する。いつものように運転手の格好ではなく、灰色の外套と全身にラインの入った衣装を纏う彼は、いつもの頼り無さげな印象から一変し、恐怖感を抱く程の覇気を放って居た。

 

「サーヴァント。という事は、君の姉上もマスターなのか」

「その武器……どうなってやがる。とりあえず、こいつを殺せばいいんだな、マスター」

「うそ、なんでアルゴさんまで……」

 

 綾香には理解出来なかった。何故自分の家で姉とアルゴが、自分の命の恩人を殺そうとしているのかわからない。そしてアルゴがセイバーやランサーと同じ、サーヴァントという存在だった事が衝撃で仕方なかった。

 ブレイカーと呼ばれたアルゴが、全身に刻印を浮かび上がらせると、セイバーに向かって蹴りや拳を繰り出し、セイバーと激しい戦闘を繰り広げる。アルゴの動きは卓越していて、セイバーの見えない剣を素手で捌く。しかし、最優のサーヴァントであるセイバーも正体不明の英霊に対応し、2人は拮抗する。

 

「お姉ちゃん、なんで」

「……後で説明する」

「それに、アルゴさんのあの姿は」

 

 だが、アルゴの姿を見た時、記憶がフラッシュバックする。それは公園で遊んだ帰り、知らない青年に誘拐され、気が付けば暗い森で不気味な男に追われ、皆が次々に頭を握りつぶされ、残ったのは自分ともう一人の男の子。自分が掴まってしまい、もう駄目だと思った時、救ってくれた存在。

 そして、子供達の体を突き破って現れた怪物に襲われた記憶……10年前の恐怖が蘇ってきた綾香は、頭を抱えて魔力回路が暴走する。そして胸に刻まれた令呪が光り始める。

 

「綾香!?」

「マスター!」

「まったく、こいつ等姉妹は」

 

 綾香が令呪を押さえて苦しみ始めた事で、戦闘を中断したブレイカーとセイバー。愛歌が綾香に駆け寄るより先にブレイカーが綾香の背後に回り込み、首筋を叩いて気を失わせる。非常に繊細で優れた体術使いであるブレイカーは、綾香の魔力暴走を止めた。意識が刈り取られた事にすら気がつかない一撃で、無事に綾香は暴走を抑える。

 

「君は」

「待て、一先ず休戦だ。殺そうとして悪いが、今はそれどころじゃない」

「綾香、綾香!」

 

 倒れた綾香を見て、セイバーが武器を向けるが、綾香が気絶しただけと知ってブレイカーの提案を飲む。そして剣を消したことで、ブレイカーも刻印の発動を解除する。どうやら話の分かる英霊らしいとブレイカーは彼を見定める。見た限りどこぞの騎士の英霊のようだが、彼の持って居た透明の剣。何度も打ち合った事で、その性質は10年前に英霊の振るっていた宝具を思い出す。今となっては昔の話だが、それでもあの剣の波長を間違える筈がなかった。

 そして気を失った綾香を自分の魔眼で診断するアルカ(愛歌)は、彼女の胸に刻まれた令呪を見て驚く他なかった。

 

「マスターは、どうなったのか聞いても良いかい?」

「……この令呪は、貴方を縛るだけの物じゃない」

「説明しろマスター。俺にも意味がわからない」

 

 綾香を彼女の部屋まで運んで、ベッドに寝かせた後リビングではブレイカーとセイバーが座っていて。入ってきたアルカ(愛歌)は、深刻な顔をしたまま俯く。そして七色に輝く瞳でセイバーを見る。

 

「その説明の前に、セイバーには私達のことを話す必要がある」

「そりゃそうか」

 

 アルカが深刻な顔をしていると、天井裏から黒装束に白い仮面を付けた女性が飛び下りてくる。それに警戒したセイバー、彼は英霊故に感じ取っていた。現れた存在もまた英霊であると、それも暗殺者の英霊であるとまで察知していた。だが、ブレイカーが手で制止し、セイバーを止める。

 突然現れた女性は、白い仮面を外してセイバーの姿に驚くが、アルカから敵じゃないと説明される。

 

『綾香が、英霊を召喚したの?』

「ん、そうよ。彼は綾香の英霊セイバー。そういえば、逃げた英霊の追跡はどう?」

『ごめん。少し出遅れたせいで、逃げられた』 

「わかった。セイバー、紹介するわ。私は沙条愛歌、貴方のマスター、沙条綾香の姉」

 

 邸から離脱した英霊の追跡をしていたアンだが、ランサーに振り切られてしまい、歯痒い思いをしながらも帰還したのだ。そして全員そろったと言う事で、セイバーに紹介を始めた。

 

「そして彼女はアン。アサシンの英霊、の魂を持った存在よ。そして彼が破壊者の英霊、アルゴ」

「……君は英霊を2人も従えているのか?」

「マスターではある。けれど、彼等と貴方は違う」

「それはどう言う事だい?」

 

 セイバーは素直に、二体もの英霊を従えるアルカ(愛歌)に驚かずにはいられない。

 

「私達は、10年前に行われた第四次聖杯戦争の勝利者なの」

「なんだって、つまり君等は、10年前に召喚された英霊という事か」 

「あぁ。今は現世に住みついてるんだよ」

『そうなります』

 

 そう説明を聞き、ブレイカーの妙に戦いなれた容姿にも納得がいく。元々武勇を立て英霊になった人物なら当然なのだが、彼は自分の宝具に一切惑わされず攻め込んてきたのだ。あれは英霊の戦いにも慣れていると言う事だ。

 

「あれ、女性に失礼だと承知で尋ねたいんだが、綾香の姉上は、何歳なんだい?」

「ん? 私は書類では17という事になっている。綾香とは年子でね。学年は一緒だよ」

「ということは、7歳の頃に聖杯戦争に?」

 

セイバーは年齢を逆算して、驚く。そんな年で英霊達と戦い、勝ち残った彼女の才覚と強運、そして今もブレイカーとアサシンと結ばれた絆に。

そして、アルカは10年前の話をした。どのように戦い、どのような結末を迎えたのか。聖杯を求めて現れた彼を激怒させると考えつつも、聖杯の汚染について教えた。

 

「聖杯が……」

「ショックなのはわかるが。事実だ」

 

聖杯が悪意に満たされており、大災害を引き起こした事実を伝えられたセイバー。暫く額を押さえて悩む。

 

「それは、置いておこう。綾香の症状を聞きたい」

「そうだ。どうなってる?」

 

セイバーは、聖杯よりも自分を呼び出した少女の安否を気にした。それを見てアルカ(愛歌)は、良い英霊を呼び寄せたと妹を褒めたくなった。

「綾香の令呪は、綾香の魂と繋がっている」

「っ」

「あの子の令呪が全て消費されたり、セイバー貴方が消滅すれば、綾香は死ぬ」

 

それがアルカの解析した結果だった。アルカは自分の内包する魔術や知識を用いるも、その特殊な令呪は解除できなかった。

綾香は、他のマスターと違い令呪を全て使う事で、マスターを止めることも、セイバーが消滅した後、生き残ることもできない。

 

「本当に呪い染みてるな。マスターでも解除できない時点でな」

「つまり僕は、絶対に消える訳にはいかないんだね?」

「ん。殺そうとした私達が言うのも憚られるけど、貴方を失う訳にはいかない」

 

アルカの出した結論はそれだった。綾香を守るためには、セイバーを守る必要がある。それで居ながら他のマスターや英霊を倒し、聖杯の誕生を阻止もしなければ行けない。

セイバー一人が生き残ってた場合、聖杯が再びこの地を地獄に変えない保証はない。

 

「綾香を冬木から遠ざけたらどうだ?」

『聖杯戦争から遠ざければ、どう?』

 

ブレイカーとアンは同じ案を掲示するが、アルカは首を振る。それは出来ないことだと告げる。

 

「冬木の令脈に綾香は接続されてる。そのせいで魔力が綾香の魔術回路を焼き切るほど増加してる。もし、下手に冬木を離れたら、危険。それは最後の手段にする」

 

既に綾香は龍脈と繋がり、魔力が増大している。しかし、冬木を離れれば、彼女の魔力が暴走する可能性が高い。アルカなら制御できるが、得策ではないし、アルカから離れられなくなってしまう。

 

「じゃどうする」

「ん。戦うわ、綾香を守るために。セイバー、貴方に聖杯はあげる。けれど冬木を侵すなら、私が破壊するわ」

 

だから何もしないで息を潜めていろと言うアルカにセイバーは「それは出来ない」と言う。

 

「何故? 自尊心の問題? それとも信じられない?」

「いいや。君は嘘を言っていない事はわかるよ。プライドの問題でもないさ、綾香が戦うと言ってるからね」

「な」

 

アルカがセイバーの声に振り返ると、ふらつきながらリビングに入ってきた綾香がいた。魔力の暴走で熱が出ているのか、足元がおぼつかない。アンがすぐに肩を貸すきとで、テーブルに腰かける。

 

「おね、ちゃん。殆ど聞いたよ」

「……ごめん」

 

綾香は、聖杯戦争について黙っていた愛歌の手をつかむ。それに顔をあげた愛歌。

 

「色々思い出してきた、聖杯戦争っていうのは、あの災害や怪物を産み出すんでしょ?」

「ん。場合によっては」

「だったら、私はあんなの二度と嫌。だから戦う、私は戦うから」

「危険なのよ? 命が掛かってる」

 

10年前、二つの悲劇に巻き込まれた綾香は、二度と繰り返さないために戦うと言う。綾香に戦う術など教えていなかったアルカは、困る。昔の自分なら悩まなかった。

けれど10年時は、彼女を人間に近づけていた。

 

「私はお姉ちゃんみたいに、なれない。けど、私だって守りたい物のために戦いを選ぶことならできる」

 

綾香が自分にハッキリと反抗する事は、10年間で初めてだった。それにアルカは戸惑い、言葉を失う。アルカに変わってアンが綾香の頭を撫で、決意を問うた。

 

『逃げられないよ? 二度と途中で投げ出せないよ?』

「やる。身近な幸せを守りたいから。お爺ちゃんお婆ちゃん、御兄さん達や姉さん達と過ごした此所が好きだから」

 

綾香の決心は固い。昔から決めたことは曲げないのだ。

 

「こうと言った綾香の意思は、俺でも壊せない」

『わかった。私達が綾香を守る。ねアルカ?』

「……勝手にしなさい」

 

妹に危険な事をして欲しくないアルカは、仕方なしに了承した。そして話が纏まると姉妹の会話を黙って見守っていたセイバーに向き合う。

 

「貴方は、戦うのね?」

「僕は、綾香が戦うのなら戦うさ。彼女の身を護るのは当然だ。聖杯に祈りが無いわけじゃない、けれど民を、犠牲を払った先の奇跡に望むことはない」

「綾香のために戦うと言うの? 今日召喚された貴方が?」

 

アルカはセイバーが妹に心を開いている理由が分からなかった。それは呼び出される時にセイバーが見た綾香の涙や記憶に由来していた。

それは、召喚される前から綾香を知っているような……。

 

「助けたいと思ったから。僕らの物語を見て、彼女は泣いてくれたから。人のために、まして過去の僕らのために泣いてくれる少女を、救いたいと思ったから」

「セイバー、お前。物語の英霊なのか?」

 

最近綾香がずっと読んでいた本を思い出したブレイカー。そしてテラスに散らばるページとタイトルを思い出し、彼の透明な剣で答えが導き出された。

アーサー王伝説の小説に登場し、10年前の同じくアーサー王と同じ剣を持った存在。

 

「君達には教えておく僕は、アルトリウス・ペンドラゴン。またはアーサー王だ」

 

綾香を守りために召喚に応じた存在、それは別の世界のアーサー王だった。アルカやブレイカーの知る騎士王とは違った可能性の体現者。

 

「セイバーは、わたしに協力してくれるの?」

「僕は君を守りに来たんだ。君の命は、必ず護る。僕の剣は君の身命と共に」

「あ、ありがとう」

 

綾香も自分を守るためには召喚されたと言うセイバーに疑問を感じるが、爽やかで曇り一つない目で見つめ返され、頬を赤く染める。

その様子を見ていたアルカが机の下で銃を構え、アンも背中にナイフを隠し持っていた。

 

(同じアーサー王でも、こう違うのかね)

 

ブレイカーは、姉二人が妹に手を出す狼を狩る前に、綾香を部屋に戻し今日は眠るように伝えた。綾香も限界だったのかベッドに入るなり熟睡し、見守っていたアンがすぐに戻ってきた。

 

「とりあえず、セイバーは今日は家の見張りをしててくれ。アンも綾香の見張りだ」

『了解』

「えーと、ブレイカーだね。承ろう。君達はどうするんだい?」

 

ブレイカーと愛歌は、アンとセイバー、白兵戦と不意討ちを得意とする二人を残し玄関に向かう。セイバーは、今から家を出る二人を見送りながら何処へ行くか尋ねる。

それに答えたのは、何処からか取り出した黒いコートを着る愛歌。

 

「偵察。偵察と解析は私の役目だから」

「家の事はアンに聞いてくれ」

 

ブレイカーとアルカの二人は、10年ぶりの聖杯戦争、第五次聖杯戦争に本格的に参加した。まだサーヴァントが今回も8騎いるとは知らずに……。





 えーと、ZEROの後、アルカは色々特殊な芸当が可能となってます。まぁこれまでのアルカとやってる事を知っている人なら、わかっちゃうかもですが。後セイバーですが、彼はアルトリアと違い、アーサー王伝説の小説から召喚された別次元のセイバーです。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。