Fate/make.of.install   作:ドラギオン

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本日最終です。


最終決戦・結

 

 セイバーの放ったエクスカリバーの光が、聖杯を飲み込み自分で聖杯を破壊したセイバーが涙と後悔の元で消滅する。その一撃を受けたギルガメッシュは、吹っ飛び、マスターを庇ったブレイカーが左手の魔力放出で其れを相殺する。

 聖杯は完全に破壊された。そして、破壊された講堂の瓦礫に埋もれるアーチャー、そしてアルカを守ったブレイカー。聖杯が破壊されたことで全てが終わったかと思ったとき、其れは降り注いだ。

 

「なんだあれは」

「マスター、すぐに霊体化しろ」

 

 アーチャーとブレイカー、そして衛宮切嗣は、空に広がる赤く黒い、おぞましい何かを見た。それは空から一気に市民会館へと降り注いだ。そしてアーチャー、ブレイカー、アルカを飲み込む。

 

 

「あ、あれは。バカなそんなバカな!?」

 

 衛宮切嗣は、聖杯から降り注いだ泥が市民会館から、外へと漏れ出し炎と呪いを振りまいていく地獄を見た。周囲が火災に包まれ、聖杯の泥が無関係な人々を呪い殺し、広がっていく。其れは一人ではとめることもかなわず、次々に被害が重なっていく。その地獄の原因である衛宮切嗣は、我を忘れて、無我夢中に犠牲者の救援に向かった。泥がいまだに降り注ぎ、被害が広がる中で一人でも生き残りを救うために、自分の身を省みず、泣き喚きながら生存者を探した。いくつものしかばねを見て、絶望しながら。

 

 

ーーーーー

 

「ここは? ブレイカー、ウェイバー、アン?」

 

 泥に飲み込まれたアルカは、目を覚ませば暗い空間に居た。念話で皆に話しかけてもつながらない。それどころか自分は服も着ないで、液体の入った容器に入れられているときがついた。そこは、アルカの始まりでもある橋の底だった。周囲を見渡せば、同じようなカプセルにアルカが保管されていた。

 

「いや、だして」

 

 アルカは、容器の中で容器をたたきながら、出たいと願う。だが容器はびくともせず、アルカの中に絶望が沸き起こる。すると、容器を眺めるようにアルカが目の前に現れる。

 

「だれ」

「あなたは私。私はあなた。あなたは今このとき、聖杯に最も近いマスターになったわ」

「聖杯?」

「そう。衛宮切嗣は、聖杯の権利を破棄、唯一生き残ったあなたが聖杯の所有者となったの。けれど、残念なことに貴方には願いなんてないのね」

「ある。ウェイバーに聖杯を」

 

 目の前で自分の姿をして話す存在。彼女は感情豊かに笑いながら、アルカの入った容器を指でなぞりながら、アルカに対話する。そして彼女の願いを否定する。

 

「それは、願いじゃないわ。私は万能の願望器。そんな私にも願いを持たない存在の願いはかなえられない。私がノーという意味がわかる?」

「私にはあるもん」

「ないわ。貴方は全てが偽者で構成された空っぽの存在。貴方が自我として意識しているものも、それは虚像でしかない。はっきりと教えてあげる。……貴方は人間なんかじゃない。人間のふりをしただけの存在。貴方の感じるものや思いは全て偽者」

「そんなことない!」

 

 アルカは怒りながら、容器をたたく。その姿を面白そうに笑いながら、偽者は告げる。

 

「空っぽの貴方の器は、聖杯である私にとって有用なの。だから私は貴方の体を寄り代としてこの世に現界する。貴方は、人になりたいのでしょ? そういう機能を持って生まれたのだから。ならその本能は叶えてあげられる」

「……私は人間だもん」

「いいえ。貴方は人間じゃない。貴方の生まれた……年前から、貴方は人ではなくなった。あら、うふふ。貴方に心はなくても、貴方の体に宿る怨念は、すばらしいわ」

 

 カプセルの外のアルカは、アルカの体を見てそう語る。そしてクスクス笑いながら、カプセルに触れる。すると彼女の触れた場所からカプセルの液が黒く染まり、アルカの体に呪いが注ぎ込まれる。

 

「いや、なにこれ、殺す? 憎い? 死ねばいい?」

「それは、貴方が失った過去に貴方が抱いた感情。全てに絶望し、この世全てを呪った少女、セレアルト・マナリストン・ティターニアの呪いよ」

「私は、ああああああああああ、いやあああああああああ」

 

 体に染み込んでくる悪感情。それらはアルカの心と魂を汚染していく。カプセルの外のアルカは、うれしそうにカプセルを突きながら、彼女が生前抱いた感情に汚染されるのを見ていた。

 

「自分の過去を思い出しなさい貴方こそ、この私、この世全ての悪(アンリマユ)の器として相応しい」

「私は、アルカ、セレアルトじゃない」

「ふぅん。耐えるのね。けれど、この私の呪いを受け止められるかしら,

うふふ」

 

 カプセルの中で汚染に耐えているアルカを外のアルカ、正しくはセレアルトを模した少女は、全人類の悪性である聖杯の泥をアルカに浴びせた。その泥に飲まれたアルカは、苦しむ間のなく瞬時に闇に飲まれる。

 

ーーーーーー殺す、殺す、殺す。

 

 人間の悪感情に支配されつつあったアルカは、目を閉じ両手を胸の前で握りながら眠ろうとした。だが、そのとき、右手にある指輪から声が聞こえた。

 

(あ、、、か)

 

ーーーーこれは誰、何。

 

(ある、か)

 

ーーーーー誰が呼ぶの?

 

 

(アルカ!!!)

 

 

ーーーーーあぁ、あの人だ。

 

(返事をしろアルカ!!)

 

ーーーーウェイバー、もう一度会いたい。けど声が出ない。

 

(頼む、アルカ!)

 

ーーーー暖かい。これは、ウェイバーの祈り?

 

 暗闇に呑まれながら、指輪を握り締めた彼女はウェイバーとのかすかなつながりを感じる。そして指輪から流れ込んだ眩い光が、聖杯の泥に汚染されたアルカに暖かさを与える。其れは悪意の中で唯一彼女の事を、彼女の安全を思った祈りだった。

 

「install overlord」

 

 その光は、あるかの目に光を宿し両手の令呪に赤き光をともす。3つの祈りを感じ取ったアルカは、その暖かさに胸を打たれながら、全身の魔力回路を起動し、彼女の本質である内包の魔術によって人間の悪性を、自分に取り込み始める。全てを解析し自分の内部に保存する、それは汚染しようとしたこの世全ての悪の思惑からはずれ、彼女の一部へと変換される恐怖。

 

「馬鹿な、私を、あなたは、やめろ!」

 

 アルカの無限ともいえる容量を前に、完全に飲み込まれることを恐れた聖杯の泥は、彼女への汚染をやめる。そしてこの世全ての悪に開放されたアルカは、右手の令呪を起動した。

 

「助けて! ブレイカー!!!!!!」

 

 魂からの叫びだった。そして令呪の起動とともに、この世全ての悪が作った世界は、突然発生した白と黒の魔力の奔流に破壊され尽くし、聖杯の泥ですらも現れたブレイカーの左手と新たに右手から放出される破壊の魔力に消し飛ばされる。

 

「よく呼んだ。帰るぞマスター」

 

 令呪で呼び出されたブレイカーは、アルカを聖杯の呪いから救い出すと、天から降り注ぐ泥めがけて魔力を放出した。そして、地上に降り注ぐはずの泥は、ブレイカーの魔力によって破壊され、その注ぎ口までもが完全に消滅する。

 

 ブレイカーもアルカも互いに泥にまみれながら、無事に生還した。ブレイカーはアルカを両腕で抱えながら、少しづつ距離を取っていく。アルカも体力と魔力の消耗が激しい。なによりあれだけ夥しい数の呪いを逆に呑み込もうとしたのだ。

 そして、アルカを抱えたブレイカーにも変化が起こっていた。彼もアルカと同じく聖杯の泥を浴びた、それはエーテル体の英霊にとっては脅威であり、どんな英霊でも瞬く間に汚染されてしまう。だが純粋な呪いそのにも動じなかったブレイカー。

 

(この世全ての悪ね、俺の行いに比べたら……)

 

 ブレイカーは、この世全ての悪の呪いよりも、居なくなったマスターを泥の中で探していた。常に呪いが自分の中に入り込み、それを飲む事になろうとも彼はアルカを探し、同じく自分で呪いを振り払ったアルカに転移させられ彼女を救った。そして泥から脱出した彼は受肉していた。泥を浴び過ぎたのが原因だろうと、確かな肉体の感覚を感じながら、周囲の火災現場を見渡す。 

 

 

「しぶとい奴が居るな」

 

ーーーーーー

 

 同じく、聖杯の泥の中心地。市民会館が崩れ落ち瓦礫だけが残った場所で言峰綺礼は目覚めた。

 

「ここは?」

「世話の焼ける男だ。瓦礫の下からお前を掘り当てるのは難儀であったぞ」

「ギルガメッシュ、何があった」

 

 綺礼が目を覚ますと、周囲は炎に焼かれた大災害の後だった。そして、彼の傍に全裸で座りながら、偉そうに見下ろすギルガメッシュが居た。いつもの金色の鎧は、何処に行ったのだと考えたくなったが、周囲の光景の方が重大だった。

 

「さあな、あの泥が我を吐き戻したのだ。どうやら再びこの時代に君臨し、地上を収めようという天意らしい」

「受肉を果たしたというのか?」

「ふん、業腹だがな。あのようなものを願望機などと期待して奪い合っていたとは、此度の茶番、つくづく最後まで度し難い顛末であったな」

 

 英雄王は、あの泥に呑み込まれるも逆に飲み干し受肉したのだ。英雄王の魂は聖杯の呪いでは汚すことなど出来ず、彼を飲みこむ事は出来なかったのだ。綺礼は彼の話を聞きながら、自分の衛宮切嗣に撃たれた左胸を押さえる。

 

「私は撃たれた、鼓動がない。私に何か治療を施したのか、ギルガメッシュ」

「さぁてどうだかな、見たところ死んでいる様子だが。お前は我と契約で繋がっていた。我があの泥で受肉した拍子にお前はお前でなんらかの不条理に囚われたのかもしれん」

 

 綺礼は自分の心臓が鼓動を刻まない事を知り、ギルガメッシュが蘇生したのかと尋ねる。しかし、彼の返答は綺礼の質問に対する正確な答えでは無かった。

 

「あれから命を授かったというのか?」

「すべてのサーヴァントが消滅し、聖杯を勝ち取ったのは我々だ。綺礼、その結末を刮目して見るがいい。

 聖杯が真に勝者の願望を汲み取るのであるのならば……言峰綺礼、この景色こそが、お前の求めほしていたものだ」

 

 英雄王は、周囲に広がるおぞましい地獄を彼の望みだと告げる。そして周囲を改めて見つめ、焼け焦げた家や焼けた人間、死と苦しみが広がる世界に言峰は笑う他なかった。

 

「ふふふ、はははははは。 なんだ、なんなんだ、私は!? なんという邪悪、なんという鬼畜。これが私の望み? こんな破滅が、嘆きが、私の愉悦だと? こんな歪みが汚物が、よりにもよって言峰璃正の種から生まれたと? ふふふ、ありえん、ありえんだろう。なんだそれは、我が父は犬でも孕ませたというのか」

 

 この広がる地獄に綺礼は腹を抱えて笑う。全てがもうどうでもいいように笑う彼に英雄王が尋ねた。

 

「満たされたか、綺礼よ?」

「いいや、まだだな。

 これでは足りん……確かに問い続けるだけだった人生に、私はようやく回答を得た。ところがな、問題が解かれる過程を省略して、ただいきなり回答を投げ渡され、これでいったい何をどう納得しろというのだ」

 

 綺礼は、地面に落ちていた赤い布をギルガメッシュに投げ渡す。それを片手で受け取ったギルガメッシュは、布を身に纏う。

 

「こんな怪異な回答を導き出した方程式はどこかに必ず明快な理としてあるはずだ。……いや、あらねばならない。問わねばならん、探さねばならん。この命を費やし、私はそれを理解しなければ」

「どこまでも飽きさせぬ奴、それでいい、神すら問い殺す貴様の求道、このギルガメッシュが見届けてやる」

 

(アンリマユ、いつかまた至り、そして次こそは見届けよう、あれの誕生をその存在証明を)

 

 ギルガメッシュは言峰綺礼の在り方を愉しみ、それを見届けようと宣言する。そして綺礼も再び答えの方程式を得るために、この世全ての悪の誕生を新たに望んだ。その場を立ち去りながら、ふと人の気配を感じ振り返れば、炎の中を歩く衛宮切嗣の姿。

 

(衛宮切嗣、受けて立つぞ)

 

 やはり自分を阻むのは貴様かと構える綺礼だが、衛宮切嗣は、綺礼に気付く事もなく、生気もないまま瓦礫を漁り、生存者を捜していた。すでに魔術師殺しの覇気はなく、ただの抜けがらが其処に居た。

 

「どうしたのだ、綺礼」

「いや」

 

 無様な姿を見て切嗣への執念が消えた彼は、興味を失って去ろうとした。だが、英雄王と綺礼の前には、ブレイカーと彼に抱かれたアルカが立って居た。

 

「ほう、雑種。あの泥に耐えたのか」

「御蔭さまでな。そういうアンタも受肉した口か?」

「あぁ。よもやあれに耐えられるのが、我以外に居たとはな。……名を名乗れブレイカー。この話我がを認めてやろう」

「真名を訪ねるのかアンタは。こちらの質問の返答次第で教えてやる」

「許す。述べよ」

 

 英雄王とブレイカーは、互いに殺気を放ちながらも会話を続ける。そして綺礼も自分の胸にたまった泥とアルカの中に内包された泥に共感を感じていた。

 

「さっきの続きをするか? 聖杯はもうない、だが勝負を付けるのも吝かではない」

「……いや、よい。今宵の宴は、これで終いだ。こうして共に受肉し勝ち残った貴様を、消耗した状態で倒しても詰まらん。さぁ名乗るが良い」

 

 彼が展開していた王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)を閉じ、戦闘する気はないと示す。互いに、これ以上の戦闘に意味はなく、最悪どちらも死んでしまう。それは両者共に望まないため、ブレイカーも殺気を抑えた。そして、彼等から離れるように背中を見せながら、ブレイカ―は彼に真名を告げた。

 

「我が名は、アンゴルモア。別の世を終わらせたクソ野郎だ」

「ふ、ふあっははは。そうか、そう言う事か。いやいや、お前の名を笑っているのではないぞ、恐怖の大王よ。ふははは。なるほどな、確かに貴様は我の倒すべき敵のようだ。我の見届けるべき人間をお前は終わらせるのだから、当然のことよな」

「まぁ、また縁があったら会おう。では失礼する」

 

 人類最古の英雄王ギルガメッシュは、予言によって人類を滅亡させると言う恐怖王アンゴルモアの存在を知り、笑いながら彼等が立ち去る姿を見届けた。そして、ひとしきり笑った英雄王は、言峰と共に夜の冬木へと消えた。

 

 

ーーーーーーー

 そして、未だに被災した冬木の街で生存者を捜し彷徨っていた切嗣。其処で彼は、一人の生き残った赤毛の少年を発見する。少年は、災害の中を彷徨い、多くの死を越えて辿り着いた場所で生き倒れた。そんな彼の手を掴んだのが絶望の淵に陥っていた衛宮切嗣だった。

 

(その顔を覚えている、目に涙を溜めて生きている人間を見つけ出せたと、心の底から喜んでいる男の姿。それがあまりにも嬉しそうだったから、まるで救われたのは俺ではなく、男の方ではないかと思ったほど)

 

「生きてる、生きてる、生きてる」

 

(そうして死の直前にいる自分が羨ましく思えるほど、男は何かに感謝するように、ありがとうと言った。見つけられてよかったと、1人でも助けられて救われたと)

 

 その少年は、それからの未来を知らないだろう。だが彼もまた多いなる運命の渦に巻き込まれた一人の存在だと言う事を知る物は、誰もいなかった。

 

 

ーーーーーー

 

 そして、念話でこちらに向かっていると言うウェイバー達と合流するべく歩いていたブレイカー達。アルカは、変わり果てた周囲の状況を見渡していた。彼女の魔眼でも生存者は、見つけられなかった。だが、しばらく歩いていると、2人の子供が前から現れた。

 

「なんだ」

「あ、ひとだ。お願いです……助けてください」

「お、おい」

 

 ブレイカーたちの前に現れたのは、青い目と金に近い髪をした何処かアルカと似た雰囲気の少女と、黒髪に青い目をした何処か見覚えのある少女だった。そして、黒髪の少女をおんぶして此方まで歩いてきた少女は、ブレイカー達を見ると安心したのか力尽きる。倒れた少女にアルカが駆け寄る。

 背負われていた少女は軽度の火傷だが、背負っていた恐らく姉の方は、全身に火傷を負い、泥に直接触れたため呪いに犯されていた。

 

「おねがい、妹を……たすけて」

「おいマスター、こっちは子供を助けてる余裕は」

「……あなたは助けられない、それでも、いい?」

「おね、が、い」

 

 アルカは呪いに犯された少女の手を取りながら、言った。それに答えた少女は、安らかな顔をして息を引き取る。その時、少女と繋いだ手から何か温かな力が流れるのを感じたアルカ。

 

「ブレイカー、お願い」

「……わかった」

 

 アルカは、ブレイカーに黒髪の気絶した少女を背負わせる。彼も渋々ながら少女を肩に担いだ。だがその担ぎ心地が、妙に覚えがあるため、激しいデジャブに襲われる。しかし、考えても思い浮かばないため、ブレイカーは妹を託して亡くなった少女から離れないアルカを連れて行こうとする。

 だが、アルカは自分にすべてを託した少女の心に触れたくなった。聖杯に偽物と断じられた自分と彼女との違いはなんのか、それが知りたくなったアルカは彼女の遺体を読み込み始める。

 

「その子がどうかしたのか?」

「install」

 

 アルカの手から魔術回路が少女の全身に廻り、アルカは彼女の全てを理解しようとする。そして、無くなった少女はあるかい魂の在り方や、記憶まで全てを読み取らせてしまう。そして超高速でアルカは少女の人生を学んだ。どのように産まれどのように生きてきたのか。普通にテレビの中の魔法などに夢を抱き、幸せな家族に囲まれて暮らした彼女の人生を。

 

「ん」

「随分読みこんだみたいだな。そろそろ行こう。火が回ってくる」

「ん……私があなたの代わりに、絶対守るから」

 

 アルカは、読み取った少女の両手を胸で組ませ、その場を後にした。一人の人間を完全に読み取った彼女は、その人生に共感し、一段と人間性を構成していた。そして、自分とは違う少女の心を羨ましく感じ、少女の護った、妹を守ると誓った。

 誓いを残したアルカは、ブレイカーに抱えられた少女の頭を撫でながら、ウェイバー達へと合流した。

 

 

 そして、少女の亡骸は、アルカ達がその場から消えた後、炎と地面から湧きだした泥に飲まれ何処へともなく消失した。

 

 

ーーーーーーー

 

 そして、無事にウェイバー達と合流したアルカは、彼女の無事を喜んだアンとウェイバーに抱きしめられる。その胸が暖かくなる感情が、初めて愛だと知った。そして、アルカは災害現場で助けた少女の事を話す、それによってウェイバーは、一度マッケンジーさんに話さないといけないと言う。

 少女の傷は、アルカが途中魔術で治癒したが意識が戻らない少女を勝手に連れてきてしまったのだ。ブレイカーは、人を拾う癖をウェイバーから伝染したと判断した。

 

 そして、家に帰るとマッケンジーさんに災害現場から助け出した少女がいると説明した。すると少し事情を知っているグレンがマーサを説得してみると言った。冬木の大災害は、すでに隠蔽など不可能な規模で世間に広まり、冬木という地方都市で起こった未曽有の大災害として処理された。

 そして事態が収集するまでの間、継続してマッケンジー家でお世話になったウェイバー達。そして2日間眠り続けていた少女が目を覚ますまで、アルカとアンは少女の看病を続けていた。

 

「ん、ここは? どこ」

「おややっと目が覚めたかい。お譲ちゃん、わしは怪しいもんじゃないよ。何があったか覚えているかい?」

 

 布団に寝かされた後、目を覚ました少女は、青い瞳で子供部屋を見渡し、何があったかを思い出す。それは家が突然燃え上がり、両親が崩れた家に潰される光景。そして崩れた家は瞬く間に燃え上がり、姉に手を引かれて逃げまどった記憶。それらを思い出し泣き始めた少女。マッケンジー夫妻も警察に行方不明者と届け出たものの、アルカはもともと姉の記憶を読んでいたことから、彼女の両親の生存は絶望的だと断言した。

 そして、名前もわからない少女の保護に、迅速に動けない警察は、二次災害の被害を防ぐので精一杯だった。

「おねえちゃん、おねえちゃんはどこ?」

「お姉さんはね……」

「あ、お姉ちゃん!」

 

 グレンが何と伝えていいか迷った時、アルカを見た少女はアルカに向かって抱きついた。アルカはきょとんとしながらも「おねえちゃん、おねえちゃん」と自分に姉の虚像を移した少女を抱きしめた。家族を全て失ったなど幼い少女の神経では耐えられず、似た顔をしたアルカを姉と誤認しているのだとマッケンジー夫妻や黙って見守っていたウェイバーも感じた。

 

「おかあさんが、おとうさんが」

「……もう、大丈夫。私が居るから、綾香」

「うん、うん」

 

 それが災害地でアルカが託された少女の名だった。彼女の姉の記憶を取りこんだアルカは、彼女の姉の変わりとして努める事に決めたのだった。どうしても綾香の涙が見たくないと言う、彼女の姉の意思に影響されたのか、アルカにもわからなかった。

 だが、アルカ達の聖杯戦争は、多大な被害と多くの犠牲者を出し、一人の少女を救った事で終幕を迎えた。

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 それから時は流れる。

 

 冬木の大災害は結局のところ原因は不明のまま、市民会館後に自然公園が築かれた。そして生き残った言峰綺礼は、正式に教会の監督役として、災害で孤児となった子供たちの保護、そして父親を失った遠坂凛に遠坂家の家督を譲渡した。それにより幼い遠坂凛は、正式に冬木のセカンドオーナーとなった。

 

 そしてバーサーカーのマスター、間桐雁矢は、限界を越えた刻印虫の副作用により、市民会館から間桐邸へと戻るも、助けたかった少女に絶望を上乗せしてしまう結果を残し、死去。それからも少女は地獄で生きる事となった。

 

 

 そして衛宮切嗣は、何度もアインツベルンを訪れたが、2度と娘のイリヤに会うことは叶わなかった。だが、冬木の大災害で助けた少年士郎を養子として引き取った。その少年は衛宮士郎となり、彼と共に武家屋敷で生活をしていた。

 そして綺麗な月夜に、聖杯の呪いによって身体を蝕まれ、生気を失った切嗣を、士郎が起こす。

 

「おい、おい、爺さん。寝るならちゃんと布団に行けよ。爺さん」

「ああ、いや、大丈夫だよ。

 

 あのね士郎、子どもの頃僕は正義の味方に憧れてたんだ」

 

「なんだよそれ、憧れてたって諦めたのかよ」

「うん、残念ながらね、ヒーローは期間限定で、大人になると名乗るのが難しくなるんだ。そんなこと、もっと早くに気づけばよかった」

 

 全てを犠牲にして、ようやく思い知った事実は、とても苦く、とても苦しい物だった。

 

「そっか、それじゃしょうがないな」

「そうだね、本当にしょうがない。ああ本当にいい月だ」

 

 そうもう終わってしまった話。そう遠くを見つめる切嗣を隣に座る士郎は見つめる。彼の目にも切嗣の命が付きかけているのはわかった。

 

「うん、しょうがないから俺が代わりになってやるよ。爺さんは大人だから、もう無理だけど、俺なら大丈夫だろ、任せろって、爺さんの夢は俺が叶えてやるよ」

 

「……そうか、ああ、安心した」

 

 そう言い残し、衛宮切嗣は眠るように息を引き取った。衛宮士郎という少年の人生に、一つの道を用意して彼は死去した。

 

 

 

ーーーーーー

 そしてウェイバー・ベルベットは、聖杯戦争の後、生存していたケイネスと共に倫敦へと渡った。聖杯戦争に負けても彼の願いは変わらず、そしてアルカの安全を守るために時計塔という魑魅魍魎の巣に乗り込んだ。没落寸前のアーチボルト家を彼は、ケイネスと立て直した。ケイネスの教室を受け継ぎ、どんな生徒であっても決して見捨てず、彼の隠された才能である他者のプロデュースが開花された結果。彼の弟子たちは次々に大成し、彼の元には多くの弟子が集まるようになった。

 ケイネス達、アートボルト家の協力もあったとはいえ、彼は新時代の魔術師達を次々に輩出するロード・エルメロイⅡ世を正式に拝命した。そして、彼は封印指定の魔術師達の待遇の改善を求めるため、あらゆる改革を進める。当然敵対する既存の保守派との衝突もあるが、彼等には一切あげ足を取らせる事はなかった。そして武力で持って彼の排除を望む過激派は、聖杯戦争以降から現れたアーチボルト家専属の魔術師狩りによって権力と武力の両方で、力を持つに至った。あらゆる手段と誰かの力を借りることで、ロード・エルメロイⅡ世は夢を追い求めていた。己に夢に全力で駆け抜ける姿を見せてくれた友人の姿を見た彼には、諦めると言う言葉は無かった。

 

 そしてケイネスだが、彼はウェイバーが独り立ちするや否や家督をアーチボルト家で唯一、自分達について来てくれたライネス・エルメロイ・アーチゾルテに譲渡し、正式に結婚したソラウと共に隠居した。魔術師としては生きられない彼は、ウェイバー達から命を賭して彼女を守ろうとしたケイネスの話を聞いたソラウと、一から関係をやり直し、お互いに話し合い、気持ちを御通じ合わせ隠居後にイギリスののどかな街で結婚し、その後、街の教師として働いていた。そして、結婚から三年後、待望の第一子を授かった。

 

 残るアルカやアン、そして拾われた少女、綾香。彼女達を倫敦へ連れて行くことを危惧したウェイバーは、マッケンジー夫妻に頭を下げ、彼女達の事をお願いしたいと頼み込んだ。それを家族が増えるのは嬉しい事だと、マッケンジー夫妻は受け入れた。

 ロンドンへ渡ったウェイバーから子供達を託された夫妻は、最大級の愛を彼女達に与え育て上げた。

 

 少女達三人は、五年間の間マッケンジー夫妻の家で生活。戸惑っていた綾香も次第に笑えるようになり、実の祖父母のように彼等に甘え、彼等を愛した。基本的に英霊のアンだが、アルカ達の成長に合わせて魂の形が成長し、普通の子供と大差なく身体が育っていった。アンの戸籍は存在しないため、ウェイバーがロンドンにてアンの戸籍を入手。ついでにと受肉したブレイカーの戸籍も入手していた。

 そして残ったアルカだが、彼女はある人物の戸籍を貰う事で、日本では別の名前を得ることなった。

 

ーーーーーーーーーー

 

 聖杯戦争から10年後。マッケンジー家に女子中学生3人は狭い上に、自立という名目で、ウェイバーが冬木で一軒家を購入した。西洋作りで綺麗なローズガーデンとテラスのある家を購入したのだ。

 

そこは冬木の霊脈が通った上等な立地で、遠坂家が手放すことになった場所を買い取ったのだ。マッケンジー家から距離はあまり離れていないが、魔術師の彼女達には工房が必要だった。

アルカは当然だが、彼女の妹になった綾香も魔術師の才能があったのだ。そしてウェイバーに会いにロンドンへ渡り魔術の手解きを受けていた。

 

5年前から住み始めた我が家の自室で目覚めた綾香。暗い部屋で本を読む癖があった彼女は、眼鏡を着用した。そしてパジャマから着替え終えると、リビングへ向かう。

リビングでは黒髪に赤い目、日焼けした肌の男性がコーヒー片手に新聞を読んでいた。

「おはよう、アルゴ」「おはよう綾香。昨日は遅くまで電気がついてたが、読書か?」

「そう。面白い本だったから」

 

綾香は、自分の分のコーヒーを入れると、用意されていたサンドウィッチを食べる。

 

「お姉ちゃん達は、今日帰ってくるんだよね?」

「今日の夜に帰ってくるらしい。俺は仕事に出るけど、大丈夫か?」

「行ってらっしゃい」

 

アルゴと呼ばれたのは、冬木に住み着いた英霊、ブレイカーだった。彼は受肉し戸籍を得た後、騎乗スキルを活かして、免許を取得。タクシーの運転手として働いていた。彼は一般のお客だけでなく、わけありの御客にも御用達となっていた。

 

制帽をかぶり家を出た彼を見送り、綾香は朝食を平らげる。そしてテラスで育てている野草に水を与えると、制服に着替えて、アルカに与えられた携帯に着信を確認する。

 

「はいもしもし。沙条綾香です」

 

掛けてきた相手が不明のため、綾香は誰か訪ねると電話の向こうから優しげな女性の声がする。

 

『もしもし、アンです』

「アン姉さん、わざわざ電話してくれたの?」

『えぇ。今回は長かったから、今夜の便で帰りますね』

「わかった。お姉ちゃんは?」

 

電話の相手は、災害後にできた新たな姉、アサシンの疑似英霊であるアンだった。彼女は電話の先でもう一人の人物に代わった。

 

『もしもし、愛歌です。今日は遅くなるかもしれないから明日、皆でディナーでもと思うんだけど、どうかしら?』

「楽しみにしてる。お姉ちゃん達もお仕事なんだし、無理しないでね」

『ん、了解。じゃ学校頑張ってね。明日からは私達も行くから』

 

そう言って、彼女の姉。沙条愛歌は電話を切った。10年前より、魔術師としてはアルカ・ベルベットとして名乗り、一般人として沙条愛歌と名乗るアルカ。綾香は既に、アルカが愛歌ではないと知っているが、それでもアルカは愛歌であろうとした。

そのため名前を使い分けるに至ったのだ。

 

電話を切った綾香は学生鞄を持って、学校へと向かった。

 

---______

 

一方、ある事件でスノーフィールドという土地に派遣されたアルカとアン、そしてウェイバーはその事態を収集をつけていた。

そして国際電話で妹への報告を終えたのは、身長が160近くまで伸び、スタイルは女性らしく、長い金髪は太陽の光に輝き、七色の瞳を持った女性。

そして彼女に付き添うのは、同じくらいの身長で均整の取れたしなやかなラインをした紫の髪の、褐色肌の女性。

 

「後始末して帰ろうかアン」

『わかったアルカ』

 

「お前達、話すのは良いが、飛行機に間に合わなくなってもいいのか? 私は保証しないぞ?」

「ん、了解。すぐにやるわ。アン手伝って」

『わかった』

 

それは成長したアルカとアンだった。アルカは黒いコートを身に纏い、アンは動きやすい同じく黒の装束を纏っていた。

彼らの背後には、数人で大掛かりな魔術を行使しているウェイバーがいた。そしてアルカは、片手に衛宮切嗣の持っていたキャリコが握られ、アンはアサシンのナイフを握っていた。

 

彼女たちの背後には、積み上げられた死体の山。それらは全てが、人間ではなくグールだった。スノーフィールドが魔術師によって地獄とかしたことで、派遣されたのが10年の間に力を得た、魔術師狩りのアルカ・ベルベットと相棒アンジェラ・ベルベットだった。

 

彼女達はウェイバーを陥れる目的の無理難題を、彼と共に解決し、魔術師狩りとまで恐れられていた。

 

二人は死徒の殲滅を為し遂げ、その魂を解放しに向かった。冬木の妹との再開を待ち遠しく思いながらも、ウェイバーに力を貸し後始末に専念した。

 

 

---________

 

その日、冬木の私立穂群原学園に通っていた綾香。園芸部に属す彼女は、夕方まで作業をして下校した。学校でクラスメイトと話す中、同じクラスのミスパーフェクト、遠坂凛から執拗ににらまれている気がして気が気ではなかった。

 

そして夕方に一人になったとき、教室で待っていた遠坂凛が敵意を持って話し掛けてきた。

 

「沙条さん、参加者じゃないの?」

「参加者?」

「しらを切るつもり?」

 

元々遠坂凛とは、霊脈の豊富な土地を買い上げたとして、何度もやっかみを受けていた。そして彼女の本性を知る綾香は、一度それを指摘してしまい、姉に助けてもらうまで怒らせたことがある。

 

「……なら、愛歌が、もう最悪」

「何かわからないけど、私は帰るよ」

「えぇ。引き留めてごめんなさい。愛歌が帰ってくるのは明日よね?」

「そうだよ。じゃまた明日遠坂さん」

 

そう言って下校した綾香は、無事に家までたどり着くも家の鍵がないことに気がつく。そして家の鍵は園芸部の部室にあると思いだし、慌てて夜の冬木を歩いて学校に戻る。アルゴは、後2時間程帰ってこないため、取りに帰るしかない。

お婆ちゃんやお爺ちゃんの家に行くと言う手もあるが、姉達がいつ帰るか解らない以上、家は開けておきたい。

 

そうして学校に戻ったとき、綾香は驚いた。

 

「なにこれ」

 

学校に綾香が戻ったとき、運動場が戦争でもあったように荒れ果てていた。そして空気中に漂う魔力を感じ、寒気がする。

 

「関わっちゃだめだ」

 

綾香は、すぐに家に帰ろうと園芸部の部室から、家の鍵を見つけて、家へと走って帰る。平均的な運動神経の彼女は家まで何度か休息しながらも家に向かっていた。だが、彼女は運命の渦から逃げられない。

 

「なにあれ」

 

家に向かう途中、同級生の衛宮士郎の家の前を通る。普段は通らないが、急いでいたためショートカットするための道。

そこで綾香は、凄まじい魔力のぶつかりを感じ取った。学校で感じた魔力と別の魔力が衝突している。

 

「離れなきゃ」

 

綾香は、慌てて家に向かうが丁度武家屋敷から飛び出した青い服の男性に姿を見られる。彼は衛宮邸から逃げるように屋根を越えていったが、塀の影に隠れた綾香を赤い目で捉えていた。

 

その瞬間自分は獲物になったと感じて、恐怖から駆け出した。そして無我夢中で家にたどり着いた彼女は、家の扉に張られた結界を起動して、ソファーの上に塞ぎ混む。

 

後少ししたらアルゴが帰ってくる。そうすれば、もう大丈夫と自分を落ち着かせる。

 

「お姉ちゃん……痛」

 

毛布にくるまって姉や保護者の帰りを待つ綾香の胸元に焼けるような熱を感じる。そして服を捲り挙げて、確認するとさっきまで無かったものが胸元に浮かび上がっていた。

 

「これって、お姉ちゃんの手にある」

 

それは3画の令呪だった。今再び運命(fate)は大きく動き出す。

 




これにてZERO編は終了です。読んでいただきありがとうございました。ステイナイトも予定しておりますが、先に文章の訂正などをしたいと思います。

これよりは、一日一話ペースでの投稿は無理そうです。それでもよろしければ、ステイナイトもよろしくお願いします。


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