Fate/make.of.install   作:ドラギオン

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本日3話目です。ご注意ください。


最終決戦・転

 

 冬木の建設中の市民会館。その屋上では、ブレイカーとアーチャーーが激しい攻防を繰り広げていた。黄金の輝きと白と黒の光が幾重にも激突して、火花を散らす。だが形勢が不利なのはブレイカーだった。互いに魔力を湯水の如く扱い拮抗する戦力。無限にも等しい宝具を放つアーチャーとそれすらも破壊し尽くすブレイカー。しかし、マスターとの距離をとりすぎたブレイカーの魔力の限界が迫っていた。

 

 そして遂にアーチャーの円柱状の武器から放たれた赤い光の渦と激突。押し負けたブレイカーは市民会館の屋根を突き破って講堂に落下する。

 

「く」

「散々ほざいておきながら、この体たらく。まぁ雑種風情にしてはよく持ち堪えたと褒めてやるべきかも知れんな」

 

 すでに何本か剣が突き刺さった上に、乖離剣エアの開放を正面から受け止めたブレイカーもぼろぼろだった。それを屋根に開いた大穴から降り立ったギルガメッシュが見下ろす。彼の鎧も何箇所かが破損し、頬に傷を負っている。

 落下した講堂の座席にもたれながらも、戦意をなくさないブレイカー。しかし、彼の左手から漏れる魔力は薄くなる一方で限界が来ていることを教えていた。

 

「ん、あれは聖杯か?」

「すでに現界していたか。喜べ雑種、貴様の命が果てる前に、聖杯を拝めたぞ」

「いやいや、俺は聖杯なんて望んでいない。今は貴様のふざけた面を破壊したくて仕方ない」

 

 

 彼らの背後には、中に浮かぶ黄金の杯が現れた。それは中からどす黒い泥を湧き上がらせ、地面に向かって流れ落ちていた。そして、その泥の放出はやがて止み、黄金の杯だけが残る。そしてその泥が流れた先では、先ほどまで死力を捧げて殺し合っていた言峰綺礼と衛宮切嗣がいた。

 そして、同じく地下で嗾けられたバーサーカーと対峙し、バーサーカーの正体を知った彼女は、力なくとも生存本能だけで真名ランスロット、かつての円卓の騎士であり、アーサー王伝説にある裏切りの騎士。彼を打ち倒した。彼も救いたかったというのに、彼を自分の剣で切り殺したせイバーは故国の救済という理想を求めて講堂へと足を引きずって現れた。

 

 ぼろぼろの彼女に気がついたブレイカーとアーチャー。  

 

「セイバーか、バーサーカーは消えたのか」

「遅いぞ、セイバー。昔馴染みの狂犬と戯れるにしても、この我を待たせるとは不心得も甚だしい」

「アーチャー、ブレイカー」

「なんという顔をしている。まるで飢えた痩せ犬のようではないか」

 

 アーチャーは聖杯の前に立ってセイバーを挑発する。ブレイカーとしては、アーチャーに続いてセイバーまで相手にしなければいけないのかと疲れた表情をする。

 

「そこを退け貴様ら。聖杯は私のものだ」

「セイバーよ、妄執に堕ち地に這ってなおお前という女は美しい。剣を捨て我が妻となれ、奇跡を叶える聖杯などと、そんな胡乱なものに執着する理由がどこにある。くだらぬ理想も、誓いとやらもすべて棄てよ。これより先は我のみを求め、我のみの色で染まるがいい。さすれば、万象の王の名の元に、この世の快と悦のすべてを賜わそう」

「貴様はそんな戯れ言のために私の聖杯を奪うのか!?」

「お前の意志など聞いていない、これは我が下した決定だ。さあ、返答を聞こうではないか」

「断る、断じて」

 

 セイバーがアーチャーの求婚を断ったとき、王の財宝から短剣がセイバーの膝に突き刺さる。満身創痍の彼女にアーチャーの宝具を防ぐことはできない。一方的に嬲られるだけの上に、アーチャーは其れすらも良しとしている。

 

「く」

 

「恥じらうあまりに言葉に詰まるか。いいぞ、何度言い違えようとも許す。俺に尽くす喜びを知るにはまず痛みを以て学ぶべきだからな」

「余所見をするなよ英雄王」

 

 自分を無視するアーチャーに向かって、ブレイカーは足元の座席を投擲する。すでに魔力の放出する余裕はなく、仕方なしに投げた椅子はアーチャーの宝具の迎撃に合い、ブレイカーの右肩に剣が突き刺さる。

 

「黙っていろ雑種」

(魔力が足りないか。この際現界なんて度外視に)

 

 ブレイカーが自壊覚悟で宝具を開放しようとすれば、彼の背後から彼の左手を握る存在が現れた。

「マスター! 何でまた、此処に」

 

 触れたもの全てを破壊してきた魔力の迸る腕を取ったのは、霊体化から現界したアルカだった。宝具を使用しない場合は、ただの魔力だったのかアルカの手が破壊されることはなかった。それでも死地に再び飛び込んできたマスターにブレイカーは怒りを向ける。

 

「帰れ。お前はウェイバーのそばに居たいんだろ」

「ブレイカーも一緒。ぜったい、いっしょ」

 

 ブレイカーの自滅など許さないと、アルカは初めて全身の魔力回路を起動した。気が飛びそうになるほどの激痛が彼女に走るが、それでもアルカは耐える。弱音ひとつ吐くことはなく、濃厚な魔力をブレイカーに送る。そして、ブレイカーの左手からあふれ出すように魔力が迸る。それは今までの比ではなく、セイバーに意識を向けていたアーチャーですら振り返らずにはいられなかった。

 

「何、まだ足掻くか雑種」

「マスターが大盤振る舞いしてくれたんでな。此処でお前を破壊しよう。人類最古の伝説は、此処で終わらせる」

 

 アーチャーも本能的に危険を察したのか、乖離剣に魔力を込め、天地乖離す開闢の星(エヌマ・エリシュ)を放とうとする。それでなければブレイカーの宝具に対抗できないと全てを手に入れた王だからこそ、知りえた事実。

 互いに膨らみ続ける破壊力という名の魔力。その光景を見ていたセイバーは、講堂に駆けつけた衛宮切嗣を見つける。

 

(切嗣)

「衛宮切嗣の名の元に、令呪を以て命ず」

 

 セイバーは、彼が令呪を使用する姿を見た。ブレイカーとアーチャーが向かい合っている以上、このチャンスを掴むしか手立てはない。彼が勝利を令呪で願えば、自分たちは聖杯を手にすることができる。

 

 しかし衛宮切嗣は地獄を見たのだ。ブレイカーたちの決戦中、屋上から降ってきた泥を浴びた時、彼は自分の望む恒久和平が破滅しか生まないことを知った。自分が全てを捧げてきた希望ですら、遠い夢だった。幻覚とはいえ、愛娘や妻を殺してしまった衛宮切嗣は、瀕死の状態でも悲劇を望む言峰綺麗の心臓を銃で撃ち抜いた。

 そして世界を救うために、彼がとる行動はひとつだった。

 

 

(私に聖杯を )

 

「セイバーよ、宝具にて聖杯を破壊せよ」

 

 彼には聖杯がすでに破壊の対象でしかない。世界を救う万能の願望器は、世界を汚染する存在でしかない。ならば彼は聖杯を破壊するしかない。セイバーは令呪に縛られたまま、約束された勝利の剣の真名開放を強制される。狙いはもちろん聖杯である

 

「まさか、なんのつもりだ、セイバー」

「馬鹿な、マスター下がってろ」

 

 ブレイカーたちも背後で聖杯を破壊しようとするセイバーの行動には、驚かずに居られない。

 

「なぜだ」

 

 セイバーは、令呪に抗いながら、自分のマスターに問いかける。

 

「第三の令呪を以て重ねて命ずる」

「なぜだ、切嗣、よりにもよってあなたが。なぜ!?」

 

 誰よりも聖杯を望み、そのためには手段を選ばず外道にまで落ちた男。其れがどういったわけで聖杯を破壊するのかわからない。目の前にある聖杯を、自分の望みを託す希望を、マスターは。

 

「セイバー、聖杯を」

「やめろ」

「破壊しろ」

 

 セイバーの悲鳴とともに、光の奔流が聖杯を破壊す尽くすために飲み込んだ。

 





このまま最終話までアップします。

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