Fate/make.of.install   作:ドラギオン

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 本日は連投ですので、前の話を呼んでいない人は、前回の話からお願いします。


最終決戦・承

 空を駆ける神威の車輪に乗り、戦場へを向かうライダー達。そして、冬木大橋で一番に待ち受けていたのは黄金の鎧に身を包んだアーチャーだった。腕を組みこちらの姿を見定める様まさに王のそれだった。

 

「ライダー、あれ。アーチャーだ」

「降りるぞ」

 

 一番初めにアーチャーと遭遇するのは、最悪のシナリオだが、避けられない運命だったのだろう。徐々に高度を降ろしていく神威の車輪。橋の中心で待ちかまえるアーチャーから離れた位置に停車。

 

「悪いがあいつの相手は余がすると決めておるのだ。余が一人で行く」

「ご自由に」

 

 ライダーは一人戦車を下りるとマントを靡かせ、王としての威厳を感じさせる背中を見せながらアーチャーの傍へと近づく。そしてアーチャーと向き合った彼は、英雄王に対して予想外の言葉を口にする。

 

「聖杯問答の際、貴様の出した極上の酒、まだ残っておったと記憶しておるが、戦う前にもう一度ふるまってはくれんか?」

「はぁ?」

「……お酒、きらい」

『え』

 

 ライダーの荒唐無稽な提案にライダー陣営が全員げんなりする。此処はカッコ良く決める所ではないのかと、アルカ以外は考えていた。一方、突然のライダーの要求にギルガメッシュは起こることなく、王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)から以前の黄金の酒器を取り出し、彼に振る舞った。

 

 

「ここで酒宴を始める気か?」

「俺の決定を覚えているな征服王、貴様は万全な状態で倒すものと告げておいた、今の貴様はどうだ?」

「安心しろ英雄王。今宵のイスカンダルは友の計らいで完璧な余を越え、完璧以上の余となっておるのだ」

 

 酒を口に含みながら、ライダーは全身から溢れる魔力を示す。それは今まで一番強力な力を誇るライダーの姿だった。

 

「なるほど、確かに充溢するそのオーラ、いつになく壮強だ。どうやらなんの勝算もなく、俺の前に立ったわけでもないらしい」

「……バビロニアの王よ、最後に1つ、宴の締めの問答だ」

「許す、述べるがよい」

 

 ライダーは残り少なくなった酒を見て、最後の質問を投げかけた。

 

「たとえばな、余の王の軍勢を貴様の王の財宝で武装させれば、間違いなく最強な兵団が出来上がる」

「ふん、それで」

「改めて余の盟友とならんか、我ら2人が結べばきっと星星の果てまで征服できるぞ」

 

 ライダーの提案はまさにそうだろう。聴力を強化したブレイカー二人の会話を聞き、王の財宝で武装した王の軍勢を相手する事になったらと、考え生前を思い浮かべてしまう光景にげんなりする。当然アーチャーも彼の提案に、彼の型破りな発想に大笑いする。

 

「ははははは、はは。つくづく愉快な奴よ、道化でもない奴の痴れ言でここまで笑ったのは久方ぶりだ。 

 生憎だがな、我が朋友は後にも先にもただ1人のみ、そして王たる者もまた2人は必要ない」

 

 彼の言う友が誰かはわからないが、こんな傲慢な王と友人になれるのはどれほどの聖者か暴君か。どちらにせよ、彼との和解は不可能だと言う事が知れた。

 

「孤高なる王道か。その揺るがぬ有り様に余は敬服を以て挑むとしよう」

「よい、存分に己を示せよ征服王、お前は俺が審判するにあたう賊だ」

 

 2人は互いに背を向けると杯を空に投げ、それらは地面に落下すると消滅する。そして振り帰ることなくライダーは戦車まで戻ってくる。

 

「お前ら、本当は仲がいいのか?」

 

 まるで友人のように語らう2人を見てウェイバーが感じた事だった。

 

「邪険にできるはずもなかろうよ、余が生涯最後に視線を交わす相手になるかもれんのだ」

「馬鹿言うなよ、お前が殺されるわけないだろう。お前は僕に夢を見せると言ったんだ、なのに道半ばで倒れるなんて許さないぞ。お前は僕に夢を追う事を教えてくれた。僕と共に戦って、僕にだって夢に進む意味を教えてくれたんだ。そんなお前が相手が強いからって、諦めるなんて認めないからな」

「そうだな、その通りだとも」

 

 ウェイバーがライダーを激励する。少しだけ負ける可能性を考慮したライダーの背中をウェイバーが叩き、気合を入れる。無理かもしれないと考えるライダーなど、ライダーらしくないと。自分を励ますウェイバーが彼に突き出した拳にライダーも歯を見せて笑い、自分の拳をぶつける。

 

「存分にやるがいいさライダー。これはお前の戦いなんだろ? チビ達は俺が死守する。背中は気にするな、前だけ見て走れ」

「おうとも。任せたぞ」

 

 ライダーは、アンとアルカを肩に乗せたブレイカーを見て安心して、剣を抜く。そして王の軍勢を解放するために魔力で座に召集をかけた。

 

「集えよ、我が同胞。今宵我らは最強の伝説に勇姿を示す。敵は万夫不当の英雄王、相手にとって不足なし、いざ、益荒男たちよ、原初の英霊に、我らが覇道を示ぞうぞ!!」

 

 イスカンダルの固有結界、王の軍勢(アイオニオン・ヘタイロイ)が展開され、ギルガメッシュに向かい合うように王の軍勢がそろう。戦車に乗るライダーは、愛馬であるブケファラスを後方に控えさせ、神威の車輪の手綱を握る。すると彼等の後方に控えていたウェイバーが駆けよりライダーの戦車に乗り込む。

 

「坊主、貴様も来るのか」

「当たり前だろ。お前にだけ駆けさせたりするもんか、僕はお前のマスターだ。そして、肩を並べて夢を追うと決めた……友達だろ?」

「ぼうz……いや我が盟友ウェイバーよ。ならば我等の力を英雄王に見せつけてやらねばなるまいて! いくぞ!! ALaaaaaaaaaai!!」

「どんな壁があろうと駆け抜けろライダー!!!」

 

 ウェイバーと共に闘うと決めたライダーは、神威の車輪を走らせた。雷を纏い先陣を切るライダーの戦車に、王の軍勢の英霊達も続いて駆け出す。その世界そのものが英雄王目掛けて向かう。雑踏と裁く一体に響く英霊達の勝ち鬨を耳にした英雄王は、ライダーを待ちかまえる。

 

 

「来るがいい、覇軍の主よ。今こそお前は真の王者の姿を知るのだ」

 

 ギルガメッシュは、ライダー達が向かってくる様に動じることなく王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)から、一本の鍵の様な宝具を取り出す。それを握り、空間の鍵を回すように使用すれば、その宝具から赤きラインが空一帯に枝分かれしながら登り、それらが消失すると、彼の手に一振りのいびつな武器が握られる。

 黄金の持ち手から紅い三角柱が3つ繋がった様ないびつな物。それが剣なのか何かさえ、ライダー達はわからなかった。

 

「夢を束ねて覇道を志す、その意気込みは褒めてやる。だが兵者どもよ、弁えていたか? 夢とはやがてことごとく醒めて消えるのが道理だと。

 なればこそ、お前の行く手に俺が立ちはだかるのは必然であったな。征服王……さあ、見果てぬ夢の結末を知るがいい、この俺が手ずから理を示そう」

 

「来るぞ」

 

 英雄王の持つ武器に凄まじいまでの魔力が注がれる。それを背後にいる盟友達に警戒するよう伝える。

「さあ、目覚めろエアよ。お前に相応しき舞台が整った。……いざ、仰げ、天地乖離す開闢の星(エヌマ・エリシュ)を!」

 

 英雄王が高速で回転しながら、夥しい魔力を放つ武器を振り下ろす。その瞬間ライダー達の固有結界中にz衝撃が走る。世界全てが揺れたと思えば、神威の車輪の走っていた地面が、崩れおちる。

 

「坊主掴まれ! ……これは?」

「あの剣は森羅万象すべてを崩壊させる対界宝具なのか」

 

 とっさの判断で神威の車輪を空中に走らせ落下を防ぐ、だが空や大地、固有結界で形成された世界そのものが崩壊を始め、背後を走っていた臣下たちは、暗い空間の狭間に次々落下、現界を保つこと叶わず次々に消えていく。固有結界が最強宝具のライダーに対して、固有結界に対して無敵とも言える対界宝具を持つのが英雄王とはどんな皮肉か。

 ウェイバーが背後にいたアルカ達を振りかえって確認すれば、ブレイカーもこの世界が危険だと判断したのか、世界に拳で横穴を開けて脱出していた。

 

 

 そうして王の軍勢が保てなくなったライダー。彼は顔を伏せたまま、黙りこむ。唯一助かったのは飛行能力を持つライダー達とブケファラス。そして世界崩壊の寸前に世界の壁を破壊して脱出したブレイカー達。世界一つを崩壊させた原初の王は、いまだ健在。

 

「ライダー。まだ終わってない」

「あぁ、遥かなる蹂躙制覇(ヴィア・ エクスプグナティオ)!!」

 

 ライダーは、まだ力を残している。神威の車輪の真名解放を行い、眼前でこちらを見定める英雄王へと駆けだす。今まで以上に魔力の供給が捗るウェイバーのおかげで、ライダーは最高の走行を可能とする。

 

「切り札を潰されても、なお足掻くか。よいぞ征服王」

 

 戦意を決して失わないライダーに対して、ギルガメッシュは背後に展開した王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)からの宝剣宝槍の掃射で迎え撃つ。稲妻を迸らせ、電撃の流星となった神威の車輪とライダーに、王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)の宝具が次々と突き刺さる。ライダーは手に持つ剣でウェイバーや自分への攻撃を弾きながら、走行を止めない。

 だが、次々に掃射される宝具は、戦車を引く雄牛達に突き刺さり、徐々に速度が落ちてしまう。もし速度が止ってしまえば、あるのはハチの巣のみ。

 

「もっと早く、もっと早く駆け抜けろライダー!!!」

 

 同じ戦車に乗りながら、危険を感じたウェイバーがこれまで使わなかった令呪を使用する。令呪の補正を受けた雄牛達は、落ちていた速度を上げて、最高速度を叩きだす。どれだけ宝具を打ち込まれてもとまらない雄牛達の牽く戦車は、既に英雄王との距離を50mまで詰めていた。

 

「ALaaaaaaaaiiii!!!!」

「よくぞここまで来た征服王」

 

 しかし、その瞬間先程の倍以上の宝具を展開した英雄王が、一斉掃射で彼等を狙う。どう考えても回避も出来ない数の攻撃に、ウェイバーが更に令呪を使った。

 

「突破しろライダー!!!」

「はぁああああ!!!」

 

 更に令呪を行使された神威の車輪は、悲鳴を上げる。そしてそれを引く牛たちも現界の上乗せに、決死の覚悟で足を動かした。狙った位置を予想超える速度で通過した神威の車輪に宝具はほとんど刺さらなかった。とはいえ、強引に押し込んだため、戦車や牛には宝具が突き刺さり、ライダーも肩と脇腹に槍が突き刺さっていた。だが、そんな物で止まるライダーではない。

 

「令呪か。ならこれはどうだ」

「ぐうう、坊主!!」

「く、止まるなライダー!」

 

 距離を25mまで詰めた所で、王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)から現れた正体不明の鎖が、神威の車輪を完全に静止させる。最高速度で走る戦車を一切の抵抗も許さずに停止させた強力な鎖、それらは神威の車輪と雄牛に絡みつく事で、脱出不可能としていた。さらに足が止った事で、大量の宝具がライダーとウェイバーを襲う。ライダーは咄嗟に身を呈して庇うが、8本の剣が突き刺さる。そして一本のレイピアがウェイバーの肩を斬り裂き、彼の体を戦車から振り落とした。

 

 肩を斬り裂かれ、道路に投げ出されたウェイバーは血塗れになりながらも、振り返るライダーに令呪を向ける。それは念話でもなく、目で語っていた。

 

(最後の令呪を使う。だから走れと)

 

「こい、ブケファラス!」

 

 その意気込みや、痛みに屈しない彼の心意気を買ったライダーは、二度使われた令呪の補助を受けて満身創痍の体を全開時と同じように動かす。そして、神威の車輪に後続していたブケファラスを呼び、神威の車輪を飛び越えた愛馬にとび乗り、再び駆け出す。

 だが、距離を攻めれば攻める程、王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)の掃射の密度と数は増していく。そして、次から次に来る剣や槍を弾きながら、10mまで迫った時、ライダーの周囲を囲むドーム状に王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)が展開される。

 

「く」 

「終わりだライダー」

 

 どうやっても回避できず、防御できない攻撃。後少しという所で、とライダーが考えた時。全ての宝具が彼に向けて発射される。それらはライダーを中心に爆発し、彼の死体すら残さなかっただろう。

 

「飛べ! ライダー!!!!!」

「何だと」

「iiya!!」

 

 この絶対回避不可能な攻撃を待って居たのはギルガメッシュだけでなかった。相手が油断するタイミングを見計らい、ウェイバーが最後の令呪を行使した。最後の令呪によってその包囲網を抜けジャンプしたライダー。愛馬が足場となり、主をさらなる高みへと飛び上がらせる。そして宝具の射出を掻い潜ったライダーは、自然落下する勢いに乗せて剣を振り下ろした。

 

 すでに宝具を取り出す時間の無いギルガメッシュは、右手に持つ円柱を重ねた対界宝具でライダーのそれを受け止める。その衝撃は重く、英雄王の体を大きく後ろに押しやる。それでも止まらないライダーは、鬼神如く剣を振り続ける。英雄王も負けじと三角柱の武器で応戦する。全身槍や剣に貫かれ、血を流し既に限界など越えているにもかかわらず、ライダーは夢を背負って戦う。

 そして、刺突を狙う英雄王と頭から斬り伏せんとする2人の攻撃。先に動いたのはライダーだった。

 

「がぐ」

「……」

 

 攻撃の早かったのは、ライダーの方だった。しかしライダーの剣はギルガメッシュの身体を斬り裂く前に、先程までの無理が生じ、折れたのだ。折れた刃では、英雄王に届かず英雄王の繰り出した一撃にて心臓を貫かれたライダー。

 すでに限界を越えたライダーはもう動くことすらできず、立ち尽くすのみだった。 

 

「夢より覚めたか、征服王」

「うん、そうさな、此度の遠征もまた、存分に心躍ったの」

「また幾度なりとも挑むがいいぞ、征服王。ときの果てまで、この世界は余さず俺の庭だ。故に俺が保証する、ここは決してそなたを飽きさせることはない」

「そりゃあいいな。そうか、この胸の高鳴りこそがオケアノスの潮騒だったのだ」

 

 ライダーは、これ以上ない位全力を、友の力を借りて駆け抜けた。届かぬまでも、満足だとライダーは限界を止め、消滅する。

 ライダーの消滅に伴い神威の車輪も消え、謎の鎖が消滅する。

 

 ライダーの消滅を目で見て、感じ取ったウェイバーは、友の死に地面を殴りつけた。自身も傷だらけで、ボロボロなのにウェイバーはライダーの夢を叶えさせてあげられなかった事に、悔しがる。

 

『ライダーさん』

「……うぅうう」

「泣くな。ライダーの生き様に、涙は相応しくない」

 

 壮絶なライダーの最期を見届けたアルカ達もそれぞれがショックを受けていた。だがブレイカーだけは彼の死を悲しむ事もなく、すでに神経は別の事に向けられていた。何故なら、アーチャーはいまだに健在で自分達の前に立ちはだかっているのだから。

 ギルガメッシュは、ゆっくりとブレイカー達へ向かってくる。彼は既に令呪を失っているウェイバーに手を出すつもりはないらしい。あるとすれば、2人の英霊を連れているアルカに他ならない。

 

「さて、残ったのは貴様だけだぞ雑種。小娘、令呪で持って英霊を破棄するのなら、見逃してやらんでもないぞ」

「アルカに手を出すな!」

 

 アルカが狙われていると知ったウェイバーは、足を引き摺りながらもアルカ達の前に立ち、英雄王に向き合う。

「貴様はライダーの何だ?」

「友だ」

「なら、友は我によって命を絶たれた。友の敵を討たなくてもいいのか?」

 

 それは完全な挑発だ。ウェイバーが少しでも彼に手を出そうとすれば断罪されるのはウェイバーだ。

 

「悔しいが僕じゃお前には勝てない」

「当然だな」

「僕は友に誓った。僕は僕の夢を追い求めると、だから僕の夢のために今死ぬわけにはいかない。ここで敵討して死ぬ事は、アイツに対する裏切りに他ならない」

「そうか。だが、俺のマスターは全てのマスターを始末するつもりだ。故に小娘を見逃す事は出来んぞ。さぁどうする小僧」

 

 どうあってもアルカがマスターである以上、この怪物との敵対は避けられない。既にアンも仮面を具現化して闘う準備をしている。だが一歩でも動けば迷うことなくギルガメッシュはアンを殺し、ウェイバーも殺すだろう。

 

 

「……ブレイカー」

「なんだマスター」

 

 既にアルカとの間に入ってギルガメッシュと向かい合うブレイカーにアルカが命じた。

 

「倒して、アーチャーを倒して」

「了解した。すまないがアーチャーさん、俺とも遊んで貰おう」

「ほう、小娘。中身の無いお前がどう言った判断の元、俺との敵対を選んだ? 答えろ」

 

 ギルガメッシュは、人間性が欠落し、基本的に効率的な動きしかできないアルカの無謀な行為に興味を持った。そして、アルカはアンとウェイバーの前に立って、紅い目のギルガメッシュの目を七色の目で見つめ返す。

 

「私は、ウェイバーの願いが好きだから。とっても優しいと思うから、聖杯が欲しい」

「アルカ!!」

「己ではなく、その小憎に聖杯を捧げると?」

「……ん」

「そうか、生きづらい世に生まれたな小娘。我が慈悲を与えよう」

 

 アルカの問いにギルガメッシュは、剣を振り上げた。それは介錯に等しかった。彼女のように奇跡の体現を成す存在、その存在を人間が知ればアルカという存在は悪用される。それは人間の欲望と悪性に汚され、その在り方を損なう事に他ならない。彼女の存在はギルガメッシュから見ても、何の因果か奇跡が重なった存在だ。なれば存在が人間に汚され自壊する前に、自分の蔵に保存しておこうと考えた。

 

「悪いが、俺を忘れるな英雄王」

「ふん」

 

 ギルガメッシュの一撃を腕の甲で受け止めたブレイカー。邪魔をされた事でギルガメッシュの紅い目が、ブレイカーを睨むがブレイカーも同じく紅い目で彼を睨みつける。できうる限りアーチャーとの戦闘を控えていた彼が、明確にギルガメッシュを向き合った瞬間だった。

 

「我と戦うつもりか雑種?」

「こちらこそ尋ねよう。俺と戦って勝てるつもりか英雄王?」

「貴様、その無礼な態度、万死に値する」

 

 すでにブレイカーにアーチャーに対する敬意は無かった。自身のマスターが彼との闘争を望み、勝利をつかみ取れと言うのなら、アルカの願いを叶える存在であるブレイカーはアーチャーを破壊するのみ。アーチャーの剣を強引に振り払ったブレイカーと、鉄骨の頂上まで飛んだアーチャー。

 

 すでにアーチャーの背後には王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)が展開され、50を超える宝具が射出する寸前だった。

 

「アン、ウェイバーとマスターを連れて撤退しろ」

「お前一人であいつの相手をするつもりかブレイカー! おい、アン」

『大丈夫です。ブレイカーさんを信じて、行こうアルカ』

「……ん」

 

「誰が去る事を許した。雑種共」 

 

 ウェイバー達がアンに押されて逃げようと背中を見せる。それを逃がす気はないと宝具が射出される総勢50本の宝具がアルカ達に向かう。アンは一早く反応するが、アンでも防げるには一本が限界。しかし、宝具の雨は、横から襲いかかった黒と白の魔力の奔流に飲まれて粉々に砕け散る。その魔力を放出したのは、当然ながらブレイカーであり、左腕の刻印がほどけたことで溢れだす白と黒の魔力を手に纏う。

 

「俺は逃がすと言っている。お前に否定する権利はないぞ最古の王よ」

「一度ならず二度までも……それほどまでに我の断罪を受けたいか、雑種」

「黙れ」

 

 いつもと違う雰囲気を纏い、謎の魔力を放出し続けるブレイカーとアーチャーは向かい合う。既に互いに相手に対する配慮はなく、死を与える事しか頭にない。完全にアーチャーを怒らせたブレイカーは、彼が展開した200を超える宝具の雨を同時に発射される。一発一発は必殺の一撃なのに対して、ブレイカーは左手から溢れだす白と黒の魔力を宝具群に向かって放出。その魔力に触れたアーチャーの宝具が、瞬時に形を崩しバラバラの茶屑になる。

 

「貴様、俺の財を破壊するとは、楽に死ねると思うなよ! 痴れものが!」

「最強の英霊が、俺に勝てる道理はない。むしろ貴様が狩られる側だと言う事しれ時代遅れの王よ」

「散れ」

 

 今度は、360度の包囲での王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)の連続掃射。それも次から次に呼び出された宝具の雨がブレイカーへと襲いかかる。それを強化された動体視力と反射神経で、回避を始める。全てを回避できなくとも、命中する宝具だけを左手からの魔力放出を浴びせ、破壊していく。ギルガメッシュも何度も見たことで、ブレイカーのあの魔力に触れた物はなんであれ破壊されると知っていた。

 

「ならばこれならどうだ、雑種」

 

 宝具の雨に恐れすら抱かない男に対し、ギルガメッシュは破壊不可能の概念を持つ宝具を投擲した。しかし、当然ながら策を凝らされた攻撃は、ブレイカーが回避する。さらに左腕の魔力放出を利用して空を飛びながら、鉄橋のてっぺんに居るアーチャーへと回転しながら自身の魔力を放出する。

 それを上に飛んで回避し、王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)から取り出した空飛ぶ黄金の舟に乗りこむ。

 

「逃げる気か英雄王」

「雑種の分際で、ほざけ」

 

 空に佇む英雄王を見上げながら、ブレイカーは両足に力を込める。さらに左手を地面に向けて、激しく回転しながら空を飛びあがる。黄金の舟に乗りながらギルガメッシュが破壊不可能の宝具を用いて幾つも発射する。しかし、宝具の神秘を上回るブレイカーの魔力によって、幾つも破壊される。それもより濃度の濃い左手で殴られた宝具が全てが砕け散る。 

 

(やはり宝具の使用は、マスターの魔力を持っても長く続かない)

 

ブレイカーは、空を飛ぶアーチャーを追い掛けながら、左手しか解放していない宝具であっても魔力が足りなくなるのを感じる。

 

「地を這う虫は、虫らしく地に堕ちるがいい!」

 

ギルガメッシュは、迫り来るブレイカーに斧を10本投擲する。激しく回転しながら迫る斧を、ブレイカーは、魔力放出でなく両足で蹴って破壊する。蹴られた部分が砕け、右手の手刀で残りの斧も空中で破壊する。

 

そこから小刻みに魔力を放出して、高度を上げたブレイカーは、ついにギルガメッシュに並ぶ。そして、真横に加速したブレイカーの左拳をギルガメッシュは、反射で

乖離剣エアで受け止めた。

最大級の神秘である乖離剣エアは、ブレイカーの魔力を受けても破壊されなかった。だが、衝撃で黄金の船は砕け散り、ギルガメッシュの体は大きく吹き飛ばされた。その吹き飛んだ先は、冬木の市民会館だった。

 

「速攻で勝負をつける」

 

吹き飛んだ英雄王を追って地面を走って追いかけるブレイカー。

 

------__

 

一方、アンに連れられ逃げていたウェイバーとアルカ。しかし、アルカが突然立ち止まって、背後を見る。

 

「どうしたんだ、アルカ?」

「ウェイバー、彼処。魔力の集まりがすごい」

 

アルカは、魔眼で冬木に集まる不穏な魔力を関知する。興味があるとすぐに飛び込んでしまう彼女の手を引くウェイバー。

 

「行っちゃダメだアルカ」

「……それにブレイカーが魔力不足になってる」

「距離を取りすぎたのか……でも」

『アルカ、また、危ないこと、するの?』

 

ブレイカーの所に生きたがったアルカをウェイバーとアンが止める。けれどアルカにとってブレイカーは、ウェイバーより前に会った人、彼女を守り、彼女が学ぶ姿を助けてきた存在。

どうしてもアルカは、ブレイカーを助けたかった。

 

「……おね、がい」

「……自分を大切にできるのか?」

「……ん。危ないこと、しない」

「僕にはこの判断が正しいか判断できない。もし危なくなったら霊体化しろ、そして令呪使うんだ」

 

ウェイバーは苦悩した。アルカがあの英雄王とブレイカーの争いに巻き込まれる可能性をあげる危険性、だがブレイカーがこのままじゃ魔力切れで負ける。

一夜にこれ以上友を失いたくないには、ウェイバーも同じだ彼もライダーを失い、悔しさと悲しさに崩れ落ちそうになる。

もしブレイカーが消えたら、アルカは耐えられるかわからない。

 

『アルカ、念話』

「そうだ。常に念話で僕に教えるんだ。僕が引き返せと言ったら引き返せ。僕とアンも追いかける。アン、いいか?」

『隠密は出来ます。アルカ、カーテンを』

 

アンはアルカの安全性をあげるため、隠密用のカーテン礼装を渡した。ウェイバーのカバンに入ったそれを取り出したアンは、仮面を頭にのせて気配遮断を開始する。それは、ウェイバーにも多少の効果があり、誰にもばれずに冬木の市民会館へ向かう準備ができる。

 

「アルカ、僕らを信じてくれ。必ず助けるから」

「……行ってきます」

 

そう言ってアルカは、ブレイカー達を追い掛けて霊体化する。霊体化した彼女は以前使った流転の星を自分の体に適用し、定められた方向へ飛んでいく。

 





 ZERO編ほとんど書き終ったので、連投させて頂きます。

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