Fate/make.of.install   作:ドラギオン

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最終決戦・起

いつも通り戦車をマッケンジー家から少し離れた場所に降ろし、アルカとアンを連れて家に帰るウェイバー。ブレイカーはいつも通り霊体化し、ライダーは少し街をぶらつくと言って別行動を取った。なるべく静かに家に入ろうとした時、何処かからウェイバーを呼ぶ声が聞こえる。

 声の主を探すが見つけられないウェイバー。

 

「おーい、ウェイバー。どこを見てる、こっちだこっち」

「お爺さん、何やってんだよ」

 

 声の主は屋根の上で防寒具に身を包んだマッケンジーさんだった。彼はウェイバーとアルカ達に手招きをする。その様子にウェイバーは、困惑する。そもそも余中にアルカ達を連れ歩いている時点で、違和感しかないのだ。

 

「いいからいいから、ま、お前達も上がっておいで、ちょっと話をしよう」

「話って、何でまた屋根の上で。お爺さん、また今度にしない?」

「まあまあ、そういうな」

 

 マッケンジーさんの誘いにウェイバーは戸惑う。だが上手く断る言葉も見つからず、二階の出窓に向かう。アルカとアンを屋根から落ちないように支えながら、グレン・マッケンジーの隣に立つウェイバー。グレンは狭い屋根の上で子供たちが落ちないようにアルカを膝の上に座らせる。そして2人に毛布を渡す。それはウェイバーの分もあり、彼も受け取って自分で羽織る。

 

「まあ、お座り。アルカちゃんにアンちゃんも寒くないかい?」

「……ん」

『大丈夫です』

 

 アルカとアンは、それぞれがウェイバーとマッケンジーさんの膝に座る形で4人が屋上に収まる。

 

「ほれ、コーヒーにホットミルクも用意してある、あったまるぞ」

「お爺さん、いったいいつからここにいるのさ?」

「ふぅ、ふぅ、美味しい」

『暖かいです』

 

 3人はグレンが足元に用意していたクーラーボックスから出てきたホットミルクと珈琲を受け取って、飲む。暖かい飲み物は冬の寒空を歩いてきた彼等の体と心を解してくれる。アルカ達用に甘くされたホットミルクを飲んでアルカも嬉しい表情をする。ウェイバーは彼の意図がいまだにつかめなかった。

 

「明け方に目が覚めてみたら、まだお前が還っていないもんだから、久々に空でも眺めようと思ってな。お前が小さい頃は何度もこうして一緒に星を眺めたなあ、覚えとるか?」

「うん、まあね」

 

 ウェイバーは、彼の話に合わせる形で相槌を打つ。彼の答えにマッケンジーさんは、微笑みながらもうじき日が昇る空を見上げる。アルカとアンは不思議そうな表情で彼を見る。

 

「……マーサと2人で日本に住む時は、住まいはこの深山の丘に建てて、必ず屋根に出られる天窓を付けようと決めていてな。こうしてお気に入りの屋根の上に座って、孫と一緒に星を眺めるのが昔からの夢だったんじゃ。まさか叶うとは思わなかったが……」

「え」

 

 マッケンジーの言葉を聞いてウェイバーは、やはりそう言う事かと納得した。

 

「本物の孫たちはこの屋根に来てくれたことなんと一度もないよ。わしが星を眺める時はいつも1人きりじゃった、なあ、ウェイバー、お前さん等は、わしらの孫ではないね? どうしてわしもマーサもお前さんのことを孫だと信じ込んでたのか不思議ではあるが……お前さん等、わしらの孫にしてはちょっと日頃から優しすぎたわなあ」

 

 マッケンジーさんに掛けていた暗示を、彼は自力で解いていたのだろう。毎夜毎夜暗示を掛けて外に出ていたが、それですら効果が薄くなっていたのだろうか。でなければ日が昇る前に彼が目覚めている筈もない。そして彼は自分達に違和感を感じていたのだろう。

 

「怒ってないんですか?」

 

 ウェイバーの質問は至極当然だった。自分達はこの人の優しさに付けこんで家に上がり込んだのだ。偽りの家族として彼等を欺きながら、平然と生活していたのだ。今この場で殴られた上、警察を呼ばれても文句も言えない。

 だがマッケンジーさんは膝の上のアルカを撫でながら、慈しむ笑みを浮かべる。

 

「まあ、ここは怒って当然のところなのかもしれんがな、ここ最近マーサの奴が本当に楽しそうによく笑うようになってなあ。以前じゃ考えられんことじゃ。お前さんかたに感謝したいくらいでな。見たところ、お前さんわしらに何か悪さをしようと思ってこの家に住み着いてるでもなさそうだしな。

 むしろどうだろう? できることならもうしばらくこのまま続けてほしいんだが……アルカ、アン、ウェイバー、もう、お前さん等はわしらの孫に違いないんだからな」

 

 彼の言葉を聞いたウェイバーは、自分も涙もろくなったなと瞳から溢れる涙を拭う。この人はどれほど善良で優しい人なのだろうと、心を打たれる。

 

「……必ず、約束します。僕等を孫と呼んで愛してくれた貴方達を裏切らないよう頑張ります」

『はい』

「……おじいさん、おばあさん、好き」

 

 3人の新たな孫達に囲まれたグレンは、物凄く幸せそうな顔を浮かべる。だが、ウェイバーは自分達が戦う聖杯戦争の恐ろしさを知っている。確約したくとも何が起こるかわからないのが聖杯戦争だ。そしてウェイバーは魔術に深く触れない程度に自分達が来た目的、最近の冬木でおこる異変、そして自分達が戦う理由を話した。この人物なら信頼できる上に、これ以上裏切りたくないと言う彼の優しさに報いるために。

 

「すると命懸けなのかね、お前さん方は」

「はい」

 

 些か信じられない話を聞かされたマッケンジーだが、真剣なウェイバーの表情とアルカが掌の上に光を発生させた事で、何十年も生きてきたが不思議なことがまだまだある物だと納得する。

 

「それがお前さん等にとってどれだけ大切な事柄なのかは分からんが、人生長生きした後で振り返って見ればな。命と秤にかけられるほどの事柄なんて結局のところ一つもありはせんもんじゃよ。そして何時でも帰ってきなさい、わしらはお前さん等が無事に帰ってくるのを待っとる」

「わかってるよお爺さん」

「ん」

『帰ってきます』

 

 そうして4人は綺麗な夜明けの光に包まれた。約束という名の決意に、訪れるであろう最終決戦の日が、訪れたのだった。

 

 

ーーーーー

 

 昨晩から柳洞寺にて、アイリスフィールを誘拐した人物を待ち伏せしていた衛宮切嗣。だが待てども目的の人物は訪れず、其処へスーツ姿のセイバーが訪れる。

 

「昨夜から市街をくまなく巡ってアイリスフィールを探しています。が、依然手がかりもなく……申し訳ありません。では何かあった時には、以前のように令呪による召喚を」

 

 何も答えない切嗣にそう言い残し、セイバーは再びアイリスフィールの捜索へと向かった。

 

ーーーーー

 

 薄暗い用水路で武家屋敷に描かれた魔法陣と同じ魔法陣の中心にバーサーカーにより誘拐されたアイリスフィールが居た。

 

「女。聞こえているか、女」

「言峰綺礼 」

「ここはかつてキャスターのマスターが隠れ潜んでいた場所だ。衛宮切嗣は最後まで探し出せなかったようだがな。まもなく聖杯戦争は決着する、恐らくはこの私かライダーのマスターが手に入れる事になるだろうな」

 

 言峰綺礼の言葉にアイリが意識を取り戻す。

 

「私が聖杯を託すのはただ1人、断じてお前などではないわ。代行者、お前の中身はすべて衛宮切嗣に見抜かれてるわ、彼はお前を最悪の敵と見なしている、覚悟することね」

「それは私にとって福音だ。衛宮切嗣はやはり私が考えていた通りの男だったわけだ」

 

 切嗣との敵対を喜び、自分のイメージにあてはめる言峰綺礼の滑稽さを、誰よりも切嗣を知る彼女は斬って捨てる。

 

「片腹痛いわね、誰よりも彼とは程遠い男のくせに」

「なんだと?」

「切嗣にお前が見抜けたとしても、その逆はありえないわ。あの人の心にあるものを、お前は何1つ持ち合わせてはいない」

「なぜ貴様が私について語る」

 

 言峰は、アイリの首を掴み片手で締めあげる。既に生体機能を失いつつある上に、鍛え抜かれた身体を持つ代行者の腕力にアイリが叶う筈もない。

 

「認めよう、確かに私は空虚な人間だ。だが私と奴とはどう違う、永きに渡りなんの益もない戦いにばかりに身を投じ、ただ殺戮ばかりを繰り返してきた男が、あれほどの無軌道が、徒労が、迷い人でなくてなんなのだ!」

 

 このままでは絞め殺してしまうと手を話せば、アイリは大きく噎せ返る。

 

「答えろ、衛宮切嗣は何を望んで聖杯を求める、奴が願望機に託す祈りとはなんだ?」

「いいわ、教えてあげる。衛宮切嗣の悲願は、人類の救済、あらゆる戦乱と流血の根絶、恒久的世界平和よ」

 

 その言葉を聞いた言峰は、珍しく取り乱していた。自分の膝の上に置いた手に力を込め、アイリを睨む。それはアイリ自身ではなく彼女の背後に浮かぶ衛宮切嗣の偶像に対しての怒りだった。

 

「なんだそれは」

「お前に分かるはずもない、それがお前と彼との差、信念の有無よ」

「闘争は人間の本性だ、それを根絶するというのなら、人間を根絶するも同然だ。そもそも理想として成り立っていない、まるで子どもの戯れ言だ」

「だからこそ彼はとうとう奇跡に縋るしかなくなったのよ。あの人は追い求めた理想のために、常に愛する人を切り捨てる決断を迫られてきた。そう、切嗣は理想を追うには優しすぎる人、いずれ失うと分かっていても、愛さずにはいられない」

「分かったよ」

 

 諦めにも似た声を出し、言峰綺礼はアイリの髪を掴みあげ、即座に両手で彼女の細い首を圧し折った。首を折られた彼女の命の灯は消え、地面に横たわったのは既にアイリスフィールではなく。生体機能を失った聖杯の器だった。

 

「よく分かったそれが衛宮切嗣か。ついに得たぞ、戦う意義を。衛宮切嗣……お前の理想を目の前で聖杯諸共、木っ端微塵に打ち砕いてやろう」

 

 己が欲しても手に居られなかった全てを持ちながら、その全てをくだらない理想のために掃いて捨てた男を、言峰は許せなかった。それは完全ある怒りであり、恨みですらあった。 

 

 

ーーーーー

 

 そして時は流れ、再び聖杯戦争開幕の夜へと変わる。そうして街が眠りに着くと、活動を開始するのが魔術師達だ。マッケンジー家では、ウェイバーの部屋で既に着替えを終えたアルカやアン、そしてライダーとブレイカーがいた。

 彼等は目覚めてすぐに準備を始めたウェイバーを見守っていた。

 

「どうしたんだ、皆黙って?」

「なんて言うかな、今夜あたりで決着がつきそうな予感がしてな」

 

 アルカとアンもライダーの言うように、何か予感を感じたのか2人で手を繋いで寄り添っていた。ブレイカーは既に彼の席になった窓枠に腰掛け、空を眺めていた。

 

 何日も聖杯戦争を戦ってきた彼だからこそわかる戦況の空気を感じ取っていたのだろう。

 

「たしかに夜の空気が静か過ぎる感じがする。全員が今夜決着を付ける気なのか?」

「ここからは本当に強い者たちばかりということだ。覚悟しなきゃな」

 

 戦場に生きてきたライダーが言うのだから、誰よりも的を射ているのだろう。残ったセイバー、アーチャー、バーサーカーと自分達は戦わなきゃいけないのだ。そしてライダーはアーチャーとの戦いを望んでいる。恐らくこの聖杯戦争でブレイカーやライダーに並ぶ怪物と。

 

 

「な 今のは?」

「妙な魔力の波動だったな。以前にも似たようなのがあったが」

 

 突然、空に目掛けて魔術師にだけ感じられる信号弾があげられる。それは冬木の教会でキャスター討伐の時に監督役があげた物に類似している。

 

「あのパターンは」

「なんだ、何かの符丁なのか?」

 

 窓の外を眺めると、色違いの信号弾が上がっており、それをブレイカーが目視していた。

 

「色違いで4と7、意味するのは達成と勝利だ。誰かはわからないが、自分は聖杯戦争に勝利したと宣言してるぞ」

「要するに。文句があるならここに来いっと、あれは挑発であろうよ。今夜は決戦の大一番となりそうだな」

「さっそくやる気なんだな。皆、行くぞ。そして勝つ!」

 

 ウェイバーがそう宣言するや、全員は立ちあがる。どんな困難であってもウェイバーは逃げない。自分の進む道は決まったのだから、壁があれば越えるだけ。自分が弱くとも仲間が居る。

 

 

「応ともさ、さあ、目指す戦場が定まったとあれば馳せ参じるぞ」

「……ん」

『はい』

「此処まで来たんだし、勝つしかないだろう」

 

 

 最後の決戦、ライダーはご機嫌に神威の車輪を召喚して、最後の戦場へと向かった。

 

 

ーーーーー

 

 狼煙を上げた言峰とギルガメッシュ。

 

「今宵はまたいつになく猛々しい面構えではないか、綺礼。さて、どうするのだ、俺はここで待ち構えていればいいと?」

「お前の力を間近で解放されたら、儀式そのものを危険に晒しかねん。存分にやりたいというなら、迎撃に出てもらおう。相手はライダーにブレイカーだ」

 

 冬木の市民会館で聖杯召喚の儀式を行うため、その場所を戦場にされてはまずい。特にギルガメッシュのような規格外の英霊と、彼を討ち取りに来るライダーやブレイカーなどがこの場所で戦う事は、望ましくない。

 その意図を察しているギルガメッシュは言峰の指示に応と答える。

 

「よかろう、だが俺の留守にここを襲われた場合は?」

「その時は令呪の助けを借りるが、構わないかね」

「許す、ただし聖杯の安全までは保証せぬぞ、今宵の俺は手加減抜きでいく」

 

 英雄王をこの場に呼び出し、手加減抜きで好き勝手暴れられるのは困る。だがその程度の誤差は容認しなければならない。

 

「最悪の展開だが、そうなれば、それもまた運命だな」

「綺礼よ、どうやら戦う意味については答えを得た様子だが、今でもまだ聖杯に託す祈りはないのか?」

「やはり願いなど思い付かん、強いて言うなら、この戦いに余計な邪魔が入らないでほしいことくらいか」

 

 やはり願いらしい願いはないと言う彼に、ギルガメッシュは肩をすくめる。

 

「やれやれ、やはりお前が心に秘めたものは聖杯の側に汲み取らせるしかあるまいよ」

 

 しょうがない奴だと綺礼の人間性を認めながら、こちらへと向かってくるライダーの魔力を感じ、迎え討ちに行く。だがライダーとブレイカー以外にも、セイバーの存在がある事を思い出し、振り返るギルガメッシュ。

 

「ああ、もし仮に俺が戻るより先にセイバーが現れるようなら、しばらくバーサーカーと戯れさせてやるがいい」

「承知した」

 

 今の間桐雁夜は、何故か教会の一軒を忘れ未だに言峰の事を仲間だと認識していた。そうすることでしか自己を保てなかった可能性があるが、この場合は非常に都合の良い展開だった。言峰はすぐに雁矢に指示を出しバーサーカーとセイバーを戦わせる事に決めた。

 

「セイバーといえば、あれが後生大事に守っていた人形めはどうした。聖杯の器とやらはあれの中にあるのであろう」

「殺したよ、生かしておく必要もなかったのでな」

 

 そう言って戦いのセッティングをした2人は、それぞれの目的と役割を果たしに向かった。

 

 

 




 ついに最後の夜が開幕します。

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