翌日。無事にマッケンジー家に戻ったウェイバー達。ウェイバーは眠っている間にケイネスの魔術刻印から知識を得ていた。そしてライダーの過去の記憶を夢としてみた。
仲間と共に駆け抜け、オケアノスにたどり着いた彼。それは彼の話や伝承によって彼の夢見た光景だとわかる。
「ん?」
「目は覚めたか?」
「今何時?」
「お昼前だわな。やはり体力を消耗するのか?」
「増加した魔力に体が馴れなきゃいけないからな……ライダーお前は?」
ウェイバーに訪ねられライダーは、ゲームを中断して体を確かめる。今までにないほど力が溢れるのを感じる。
「魔力に滞りはないな。これなら王の軍勢の発動や戦車の真名解放しても大丈夫だ。だがな貴様」
「……無理をしてるは自覚あるさ。聖杯戦争が終わり次第、休暇がほしいな」
「余暇もまた戦には大事よな」
休みの予定を立て始めるライダー。ウェイバーもダルい体で行きたいところをリスペクトしていく。征服する前に観光される世界各地が決まってしまう。
すると窓枠に腰かけるブレイカーが現界する。
「今日はどうするんだ? 既に3体は脱落。残ってるのはセイバー、アーチャー、バーサーカー。そして俺だ」
「なんでお前自分を」
「最後の一人になるまで戦わなきゃいけないんだろ? 8騎居るから6人脱落の段階で、聖杯が現れる可能性もあるがな」
「そのときは、その時だな」
ブレイカーは最悪の場合、自分を倒せとウェイバー達に告げる。だがそれは今のところ考えるわけにはいかない。彼と言う英霊と過ごした期間から、彼はアルカを裏切らずアルカの仲間も裏切らない。そんな相手を簡単に切り捨てられる筈がない。
「一応、マスターの令呪は有効だ。いざとなれば使うと良い」
「その時は何か手を考える。正直ライダーが受肉出来れば聖杯は必ずしも必要ない」
「ほう余のために聖杯を取るのか貴様」
「僕の目的に聖杯戦争参加が必要だからな、それにお前には勝って貰わないと困る」
「ははは。そりゃ益々負けられんわな。これだけ貴様がお膳立てしてくれた。よし決まったセイバーの奴に殴り込むぞ」
ライダーは狙いをセイバーに定めた。今夜はセイバーとの戦闘になる事が決まる。ブレイカーも依存はなかった。ただ場合のよっては自分が戦うと告げる。騎士王とまで呼ばれる英霊と戦ってみたいとも思っていたようだ。
「尋常に斬り合うとか言われたら、譲るとしよう」
「それでいい。おやマスターがライダーのマスターを呼んでる」
「ウェイバーでいい。僕らは仲間なんだ、名前で呼べ」
いつも律儀にライダーのマスターと呼ぶブレイカーに、ウェイバーは名前で呼べと言う。突拍子もない事を言われ頬を掻きながら、従う。
「わかったよウェイバー。マスターが遊んでほしいってさ」
「遊びって……いや普通か。いいよ、今日は遊びにつれててってやるよ」
「俺に言われても困る。ドアから覗いてるチビッ子達に言ってやりな」
ブレイカーに指を指され、ドアを見ればアルカとアンが除いていた。マッケンジー夫妻では公園などで元気に遊ぶ子供の相手は難しい。故にウェイバーが兄として連れていく事になったのだ。
ウェイバーは最寄りの公園でアルカ達を遊ばせた。ライダーも実体化したまま付き合ってくれる。大人が手伝わなければ遊べない遊具などを怪力で動かしアルカ達以外にも、公園で遊ぶ子供達に大人気だった。
そして主婦の方々にも逞しい男性として持て囃されていた。
「……ウェイバー。あそぼ」
「ふふ、ああいいよ」
ブランコを指差すアルカのお誘いにウェイバーも答える。うまくブランコを漕げない彼女にウェイバーが漕ぎ方を教えながら、背中を押す。
「……おー」
「タイミングよく足で漕ぐんだ」
『アルカ、頑張って』
スケッチブックにも字を書いて応援するアン。ウェイバーは少しだけ笑うアルカを見ながら、卓越した魔術師である彼女もただの子供だと再認識した。彼女を魔術師に変えたのは、誰かわからない。けどアルカは今のような日常を奪われたのだ。
(最低限、僕がアルカに与えてあげられるなら、与えてあげなきゃいけない)
少しずつ上達したアルカは、嬉しげだった。霊体化しながら見守っていたブレイカーも、黙ってそれを見守っていた。そして近所の子が持ち寄ったボール遊びに興味が湧いたアルカはそっちに行ってしまう。柄にもなく身体を動かして疲れたウェイバーはベンチに腰掛ける。
――ー――
思いのほか運動神経の良いアルカは、同い年の子たちとサッカーをして遊んでいた。アンは少し疲れたのかウェイバーの隣に腰掛けて休息していた。
「あ、ボ-ル」
「……とってくる」
一人の男子がボールを明後日の方向に蹴り、それは公園の外に向かって行く。一番近いアルカがそれを取って来ると向かう。サッカーボールは警戒にはねながら道路に転がり、車道に出る間にある人物の手で止められる。
「お譲さん、ボールを追って道路に飛び出しては危ないよ?」
ボールを受け取った人物は、胸に十字架を下げ僧衣を纏う人物。彼は駆け寄ってきたアルカに、優しい声で注意を促しボールを手渡す。だがアルカは彼を無表情のまま見つめ、呆然とする。何故なら彼の手に触れた瞬間、その神父が何者かを読み取ってしまったからだ。
「おや」
「アサシンの、マスター」
アルカは彼の事をそう呼んだ。そして神父はアルカの顔を見て、同じく彼女の存在を理解した。アサシンを介して見たブレイカーのマスターだと理解出来た。彼がアルカを瞬時に見抜けなかったのは、彼女がいつもの青いフリルのついた洋服ではなく、動きやすい洋服と帽子を被っていたからだ。言峰綺礼は、時臣を殺した後自身のシナリオの準備をするため、間桐の家に向かっていた。
そして偶然遭遇した2人は、互いに言葉を発しない。公園の外に向かったアルカを追ってウェイバーがこちらへ向かってくる。
「なにやってんだアルカ。すいません」
(ウェイバー。この人マスター)
「な、あんたマスターなのか」
念話でアルカは読みとった情報をウェイバーに伝える。相手がマスターであり恰好を見る所、聖堂教会からのマスターであるのは明白だった。そしてアンからリークされた情報で、この神父が言峰綺礼という名で、裏で遠坂と繋がっていたなど、全て知っているウェイバー。アルカを背後に移動させ、怪しまれないように子供たちの所に行かせる。
「何の用だよ。遠坂の協力者、代行者かなんだか知らないけど、今ここでやる気か?」
「いいや。私としてもこの場で荒事は御免こうむる。それに私は既にサーヴァントを失っている。今は監督役の代理の身だ」
「代理?」
「そうだ。私の父である言峰璃正は、何者かによって殺害され仕方なく私が後始末をしている」
「それじゃ、令呪の授与は……どうりで呼び出しがないと思った」
ウェイバーは教会からの呼び出しがあり、その時に令呪の授与をされるものと考えていた。だが実際は監督役が殺されていたため、報償すら消えてしまったのだ。元々キャスター陣営の行いが許せなかったため、彼等を倒せた事で満足するしかなかった。
「代理の権限では、令呪の授与は致しかねる。それで君は此処で私を殺すかね? 英霊2体を支配する君だ、私の命は君の機嫌一つで失われるだろう」
「いや、いい」
「そうか。では私はこれから聖杯戦争の後始末がある……精々健闘したまえライダーのマスターよ。監督役の私が言うのもは憚られるが、聖杯には君が一番近い」
言峰綺礼はそう言って公園を後にし、目的の場所へと向かった。ウェイバーは言う男に胡散臭さを感じ、アンの情報からも話を鵜呑みにするのは不味いと判断した。リタイアしたふりをして、アサシンに偵察をさせていたような男だ。言葉のほとんどが嘘でも疑いようがない。
一方言峰も間桐の家に向かって行く途中で、アルカという少女の目を思い出した。自分を見ながらも自分の事には興味がなく、そして空虚な印象を抱く少女の目。あの目は、自分と同じ答えを、自分の何かを求める目だと今更ながら思い出した。あくまでも予想だが、綺礼はあの少女が自分と同じ、それ以上に複雑な探求をするのだと感じた。
そしてライダーのマスターに対して抱いた印象は普通の学生のそれだった。何故彼が生き残りあたかも現在盤石の陣営を築けているのかが分からなかった。そして自分には無い、自分の求めていた何かを持っているように感じた。だが、今はライダー達にかまっている時間はないと間桐邸へと足を進めた。
ウェイバー達もその後、アルカ達を一度家に連れて帰りいつものように夕飯後にマッケンジー夫妻に暗示を掛け、神威の車輪に乗って夜の冬木を探索する。
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同じく昼頃になり武家屋敷の土蔵。特製の魔法陣でどうにか生体機能の保持を保っているアイリと切嗣は、安らかなひと時を過ごす。おそらくこれが妻との最後の会話になるかもしれないと考えながらも、切嗣は良き夫としてアイリに接した。
「また会いに来てくれたのね。夢じゃないのね」
「ああ、そうだよ」
「ありがとう。最後にこれを返さないとね。やはりアヴァロンは、あなたが最後の戦いに挑む時、きっと必要になるわ。
私はね、幸せだよ、恋をして、愛されて夫と娘と9年も、あなたは全てを与えてくれた。私には望むべくもなかったこの世の幸せのすべてを」
もう長くはない妻が漏らした言葉に、切嗣は自分のズボンのすそを力いっぱい握る。そして彼女が再び身体から取り出したアヴァロンを受け取る。
「すまない、君にはもっと外の世界を見せたかった」
「ううん、もういいの。私が取り零した幸せがあるなら、残りは全部イリヤにあげて、あなたの娘に、私たちの大切なイリヤに。いつかイリヤをこの国に連れてきてあげて、あの子に私が見られなかった物を全部見せてあげて、桜の花を、夏の雲を」
それがもうすぐ命が尽きる妻の願い。聖杯戦争に勝った後、彼女が願う未来。自分の未来に望む物はなくとも、最愛の二人の幸せだけを彼女は望む。
「分かった、じゃあ行ってくるよ」
「はい、お気をつけて、あなた」
妻に見送られながら蔵を出た切嗣。彼は扉の前で見張りをしていた舞弥に話しかける。
「セイバーはライダーの潜伏先に向かっているな
「はい、すでに」
切嗣は舞弥を通してセイバーを車に乗せ、ライダーの討伐へと向かわせていた。しかしライダー達は既に公園に出かけており完全に入れ違いとなっていた。
「僕は遠坂時臣を仕留める、セイバーがライダーと事を起こせば、アーチャーもその場に現れる公算が大きい、そこをつく。君は引き続きアイリの警護を頼む」
「分かりました。
あの、切嗣、やっと、戻りましたね。……昔のあなたの顔に」
舞弥は蔵から出てきた切嗣の顔を見てそう言った。彼女の目には、10数年前に魔術師殺しとして活動していた彼が帰って来たように見えた。それを聞いた切嗣は何も言わずに屋敷を後にした。
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それから車で移動しながら遠坂邸を見張れる雑木林に身を潜めた切嗣は、ライフルのスコープ越しに遠坂邸の異変に気が付く。
「結界が張られれてない、どういうことだ?」
切嗣は野生のカラス達が遠坂邸の庭を自在に飛び回っている状況に違和感を感じ、其処への侵入を決める。
ーーーーーー
日が傾き夕暮れになった冬木。舞弥は土蔵の中で銃のマガジンに弾を込めていた。そんな彼女を眺めていたアイリが彼女に対して話しかけた。昨日の夜以来、不思議な繋がりが生まれた2人、アイリは舞弥という女性を知りたくなった。
「ねえ、舞弥さん、あなたはなぜ切嗣のために戦うの?」
「それ以外に何もないからです、私には家族のことも、自分の名前も思い出せない。久宇舞弥という名前は切嗣が最初に作ってくれた偽造パスポートの名義です。
覚えているのはそこがどうしようもなく貧しい国だったということだけ。戦争は決して終わらず軍隊を維持する資金さえないのに、それでも殺し合いを続けるしかない毎日。そのうちに、誰かが思いついたんです。兵隊を組織して訓練するより、子どもを攫ってきて銃を持たせたほうが、安上がりで手っ取り早いとね」
彼女が語る過去は、冬木に来るまでアインツベルンの城しか知らない彼女には衝撃的だった。
「舞弥さん、あなた」
「敵を狙って引き金を引く、私はそういう機能だけを残して後は全て捨てさりました。私は人として中身が死んでいる、ただ外側の器だけがまだ動いて、昔馴染みの機能を維持しています。それが私の命です。
そんな私を拾ったのは切嗣だ。だから切嗣が好きなように使ってくれればいい、それが私がここにいる理由です。むしろ私にはマダム、貴方の熱意こそ意外だった。あなたは生まれ育った城に閉じ込められたまま、外の世界を知らずに生きてきた。そんなあなたが世界を変革しようという切嗣のために、あれほど必死になって戦うだなんて」
同じく舞弥も意外だった。戦争という地獄を知っている彼女ならまだしも、戦争という地獄すら知らない正真正銘の貴族のお譲さまが何故、世界を変えるなどという事に、知らぬ地獄を変えるために命を投げ出せるのか。
「私は、そうね。本当は切嗣の理想がどういうものか、きちんと理解できているたわけではないわ。舞弥さんの言う通り、私は切嗣が変えようとしている世界のことをまるで分かってない。私の理想なんて、何もかも切嗣の受け売りでしかないわ。でも切嗣には内緒、切嗣にはいつだって彼が正しいと言い聞かせてきた。彼の理想には私の命を捧げるだけの価値があるってね。そうやって理解者のふりをしてきたわ」
「ではマダム、あなたにはあなた自身のための願いはないと?」
「願いは? いいえ、確かにある。私は切嗣とセイバーあの2人に聖杯を掴み取ってほしい」
「それは第三魔法の達成というアインツベルンの悲願ですか?」
始まりの御三家であるアインツベルンの求める第三魔法。その成就こそがアインツベルンの悲願であり、目的に他ならない。しかし、アイリはその言葉を否定した。
「いいえ、あたしが求めているのは戦いの終焉よ。……切嗣の願いが叶ってすべての闘争が終焉するならば、ここ冬木で聖杯を求め争う戦いについても例外じゃないはずでしょう。どうか今回の四度目を最後の聖杯戦争にしてほしいの」
それはアインツベルンのホムンクルスとして欠陥ともいえる感情だった。アイリにとってはアインツベルンの悲願などよりも夫の夢が大切だと言ったのだ。
「ご息女のことですか」
「もし私と切嗣が失敗すれば、次はイリヤが。でもそれがアインツベルンのホムンクルスに背負わされた宿命なのよ。だから私は私で最後にしたい。もしそれが叶えば、あの子は最後まで人として生きていくことができる。
……舞弥さん、あなたは切嗣が理想を遂げた後、どうするつもり?」
「生き残るなどと考えてはいません。もし仮に命を繋いだとしても、もう私に生きる意味はない。切嗣によって変革された世界というのはきっとそういう場所でしょう」
戦争の無い世界。殺す事でしか生きられず、戦いしか教えられなかった彼女が生きていける世界ではない。
「ううん、そんな事はない」
「そうでしょうか」
「探さないと、あなたの本当の名前と家族を。それは忘れられてていいことじゃない。はっきりと確かめて刻みつけていかなきゃならないことよ。だから生きて舞弥さん、私も分も」
「善処をします、でもそれは戦いが終わった後の話です。現状では油断を許さない、彼も私も当面は気を抜く事などできません」
目の前の女性は夫のために死ぬ定めにあるというのに、自分の事まで案じてくれるのか。彼女だからこそ切嗣の心を変えられたのだと舞弥は感じる。
「本当にあなたって人は」
アイリが舞弥の返答に、仕方のない人ねと微笑む。その瞬間武家屋敷に張り巡らされた結界を強引に突破し、土蔵の扉を凄まじい力で破壊する存在が現れた。何度も分厚いドアを土蔵全体が揺れる力で外の何者かが殴打する。舞弥はキャリコを構え、携帯で切嗣に連絡をする。
――――
数時間かけて遠坂邸の既存の結界を突破した切嗣は、人の気配のない遠坂邸を闊歩し、遠坂時臣の部屋に辿り着く。そして床に夥しい血痕を見つけ、それを特殊な製法で作られた液を吹きかけ、その痕跡を見抜く。
「死んだのが遠坂時臣、ん。舞弥か」
『切嗣、ブレイカーです』
突然携帯に着信があり、それに出た切嗣は舞弥の声を聞いて驚く。そしてその声を聞き、電話の向こう側で銃声が聞こえる。
『舞弥さん!!』
「アイリ!! 令呪を以て我が傀儡に命ず、セイバー、土蔵に戻れ、今すぐに!」
アイリと舞弥の緊急事態に切嗣は令呪を使用した。
ーーーーー
ライダー達の拠点を見張って彼等の帰りを待って居たセイバー。しかし突然の令呪の行使に反応する。
「切嗣? ここは? 舞弥?」
令呪によって空間移動したセイバーはスーツ姿から騎士鎧姿へと変わり、戦闘態勢のまま土蔵に戻る。そして周囲を見渡し荒れ果てた土蔵と其処で倒れる舞弥を見つけ駆け寄る。彼女の体を起こしながら舞弥の傷を見る。
「セイバー」
「喋ってはいけない」
舞弥の傷はどう考えても軽くない物だった。これ以上体力を使えば彼女の身が危ない。しかし舞弥はセイバーの手を取りアイリの救助を優先するように告げる。
「早く外へ追ってください。ブレイカーが……マダムを」
「だがそれでは」
戦場で多くの死を見てきたセイバーにはわかった。舞弥は長くはないのだと、最後の命を燃やしアイリスフィールの救援を求めていると。
「私は大丈夫、すぐに切嗣が、だから早く」
「舞弥、どうか切嗣が来るまで持ちこたえてください、アイリスフィールは必ずや私が。まさか本当にブレイカーが!?」
セイバーは土蔵を飛び出し、武家屋敷の屋根に上る事で周囲を見渡す。そして遠くにアイリスフィールを抱えている灰色の外套のブレイカーを見つける。かなりの距離があるためセイバーは再びスーツ姿に変化した後、バイクに跨りブレイカーを追跡する。
ーーーーー
セイバーがブレイカーの追跡を開始。それから遠坂邸から車を飛ばして帰ってきた切嗣は、荒れ果てた土蔵と其処で眠るように倒れる舞弥に銃を投げ捨て触れる。自分の頬に触れた手の感触で目覚めた舞弥。
「……ブレイカーが」
「ああ、分かった」
舞弥は自分を見下ろす切嗣の顔に手を伸ばし、彼の頬を撫でる。
「駄目だよ、泣いたら。それは奥さんのためにとっておいて。ここで泣いたら……駄目、あなた弱いから今はまだ壊れちゃだめ」
「僕は」
「今朝やっと昔のままの切嗣になったんだから、こんなことで揺れたらだ、め」
「安心しろ、舞弥、後はセイバーに任せろ、舞弥お前の役目は終わりだ」
切嗣の言葉を聞いた舞弥の手が力を失い、床に墜ちる。そして筋かに息を引き取った舞弥を見届けた切嗣は、彼女の瞼を手で優しく閉じる。
「舞弥……、まいや」
土蔵の中で切嗣の声が響いたのだった。
原作ではライダーでしたが、今回はブレイカーですね。